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第121話 運の尽き(※お知らせあり)

長い間お待たせしてしまい大変申し訳ありません……!

あとがき部分にお知らせがありますのでお目通しいただけますと幸いです!!


追いかけはじめた時には小指の爪ほどに小さくなっていた盗人の後ろ姿は、依然私達の視界に同じ大きさで映っていた。


いや、むしろ先ほどよりも大きくなっているかもしれない。


純人よりも数段身体能力の優れた獣人相手にそのような芸当が出来ているのは、魔法による強化もあるが、日頃の鍛練のお陰かもしれない。

悪天候での活動を想定した鍛練。おやつのケーキ。

体幹を鍛えるための自主練。おやつのプリン。

魔法で補助をしつつ行った基礎訓練。おやつのクッキー。


これは厳しい訓練と弛まぬ努力の成果──きっとそうに違いない。そうだと……信じたい。

合間に挟まれているおやつとか知らないし。


慣れぬ砂浜に何度か足を取られるが、それは相手も同じのようで、幸いなことに大して距離は広がらなかった。

しかし、いつまでもこの状況が続くわけではない。

現に盗賊はと言えば走りにくい砂地を抜けて舗装された道──正確には街中へと至ろうとしている。

これはまずい。とてもまずい。

単純に整備された道では逃げ切られてしまうと言う危険性もあるが、それだけではなく一般人が巻き込まれる可能性が出てくる。

加えて路地裏などに逃げ込まれてしまえばこちらが圧倒的に不利になるのは言うまでも無い。

あちらには確実にこちらに比べて地の利がある。

せめて、路地裏に逃げ込まれる前に距離を縮めなくては……!

そんな焦燥感に駆られ、私はなんとか速度をあげる。


砂浜を抜け、市街地を抜け、きょとんとした市民の皆さんの視線を浴びながら市街地を抜ける。

そうして相手が路地裏に差し掛かる頃には、あと十歩程度のところまで迫っていた。




「……それっ! 返して下さい!」




息絶え絶えに私はそう叫ぶ。

すると、振り返った男ははっとした表情を浮かべた。


──あ、なんか嫌な予感がする。


そしてこういうときの予感は大抵当たる。

男はポケットをまさぐると、手のひら大の物体を取り出し、こちらに勢いよく投げた。




「──ッ、セレナ!」




グレン様が、咄嗟に私の体を抱え後ろへ飛び退く。

男の手から放たれた物体は、ちょうど先ほどまで私達の居た場所へ落ち、そして白い煙を辺りへ撒き散らした。


あっという間に煙が視界を遮る──が、問題はそれだけではない。

煙を受けた目が、肌が、そして何より鼻がピリピリと痛みを訴えだしたのだ。


そっか、獣人は五感が発達してるから嗅覚で追ってこられないように……!


路地裏にしては風通りの良い立地が功を奏して煙は存外早く晴れていく。

しかし遺されたのは、薄暗い影の落とされたT字路のみ。


やられた──と言うより、何で煙幕なんて持ってるの……!? 随分と用意周到な盗人じゃないか。




「グレン様、大丈夫ですか!?」



「っ……なんとか、大丈夫です」




はっと見上げた先のグレン様は苦悶の表情を浮かべながらも笑顔を浮かべていた。やっぱり獣人に刺激物は堪えるらしい。

それにしても逆境に笑う美形というのも中々──とそうじゃないそうじゃない。


私はこほん、と一つ切り替えのために咳払いをする。




「私は左、グレン様は右に分かれて追いかけましょう」




幸いなことにT字路だ。二手に分かれれば、まだなんとか追いつけるかもしれない。




「……それが最適ですが、危ないのでは?」



「大丈夫です。最近は魔法の制御も格段に上手くなってきたので、生け捕りにします! 黒焦げにしてたかつての私とは違うのです!」



「いえ、犯人の命を案じているわけではなく……」




出力は申し分はないが制御に問題がある──それが私、セレナである。

きっとお兄様にその辺りの才能を吸われてしまったんだろう。知らないけど。




「分かりました、貴方を信じます。けれど、無理はしないように」



そう言いながらグレン様がそっと私の手を握る。

私も1つ頷き、その大きな手を握り返した。




「はい! 異国で殺人とか笑い話になりませんからね!」



「通じてないんですね、これ……」




細い小道には雑多に木箱やら樽やらが並び、上空には家から家へ渡された縄に洗濯物がかけられている。

そのせいで路地はより一層薄暗かったが、恐らく洗濯物を取り払えばそれなりに明るいのだろう。


足止めを喰らってしまったため、犯人に追いつけるかどうかは運次第だ。

その上、こちらに逃げていると言う確信もない。


──だから私が犯人を見つけたのも、運が良かったとしか言い様がなかった。




「……あ、いたっ!」




ぴょんっと男の肩が跳ねる。

そして同時に男の進行方向、ちょうど大通りへと通じる曲がり角に人影が現れた。




「──ん? ああ、よっと」




聞き慣れないアルトボイスと共に、男が体勢を崩す。

曲がり角から現れた人物が足を伸ばし、転ばせたのだと理解するのは一拍置いてからの事だった。


よし、良く分からないけれど追いつけそう!

今日はとても運が良い……!


そう思ったのも束の間、私の運はここで尽きる。

転んだ男が荷物を手放し、中身諸共宙に浮かび上がる。

……あとはもうお察しである。




「い、いやぁぁぁぁあ!」




バックの中身は散乱し、細かな荷物達は地面に叩き付けられたのであった。

慌てて拾い集めるもの、その荷物の多くは外へと飛び出しており手間取ってしまう。


最悪、最悪、最悪! 壊れてないと良いけれど……!


最後の数個に手をかけとき、ふっと視界に影が落ちた。

見上げると、すぐ側には大きな山羊の角を持つ獣人の男が立っていた。

私が見つめ返すと、瞳に浮かんだ好奇の色は押し隠される。

全体的には爽やかな好青年だが、その眼差しはどこか冷ややかだった。


そう──ちょうど誰かに、もっと言うとこの国では五本指に入る程度には身分の高い、更に言えばつい先ほどまで一緒にいた姫君に良く似た顔立ちの男だった。






本日2月9日より本作『逆行悪役令嬢はただ今求婚中~近くに居た騎士に求婚しただけのはずが、溺愛ルートに入りました!?~』の2巻が発売されます!!

なお、2巻は電子のみでの配信となりますのでご注意下さい。

眠介先生の成長したセレナや隊長服のグレンなどを初めとした美麗なイラストが盛りだくさんですので、是非お手にとって頂けると嬉しいです。

(続刊の発売を記念して1巻が少しお安くなっているサイトもありますので、もしよければ1巻の方も是非……!)


また2月13日より、本作のコミカライズが配信されることが決定いたしました!!

伏猫ぴんく先生の描かれる可愛い(だけじゃない)セレナと、格好いいグレンをご堪能下さい!!


挿絵(By みてみん)



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