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120話 湖畔

環境体調共に不良だったため長らくお休みを頂き、ありがとうございました。大変お待たせしてしまい申し訳ございませでした。ゆっくりマイペースな再会となってしまいますがまたお付き合いいただけますと幸いです。

エヴリン姫を先頭に城下を巡った私達が、塔の聳える湖へと到着したのは昼も回った頃のことだった。



緩やかな石畳の道を抜け、湖に近づくにつれ、水音が克明に聞こえてくる。

湖とは言え澱むこと無く流れているお陰か、白い砂浜には美しい波紋が残されていた。

人影はあるもののまばらで、賑やかな城下とは打って変わり、静かで穏やかな空気が辺り一帯に漂っている。




「本当に、高いですね……」




思わずほおっと感嘆の息を零す。

高く昇った太陽の光のせいか、それともあまりにも塔が高いせいか、下から頂点をはっきりと仰ぎ見ることは叶わない。

獣人王国の有する技術力の高さがひしひしと肌で感じることが出来た。




「本当は塔の中も案内できたら良かったのだがな……生憎、今晩は満月なんだ。元々は橋を架けるという案もあったそうだが、ロマンが無いと言うことで却下されたそうだ」




ロマンか……うーん、ロマンが無いならしょうが無いな……。



常に利用する建造物というならともかく、ここは観光名所だ。景観の保護というのも大切だろう。

それに人生は長いのだ、次に見に来たときのお楽しみにすれば良い。



見上げすぎて痛くなった首を擦りながらすっと周囲に視線を遣る。

その瞬間、ちょうど森──正確には湖に流れ着く川の上流の方面から現れた少年達の姿が目に入った。


蔦を編んで作ったのであろう小さな籠を片手に3人ほどの少年がこちらを見つめている。

1つの籠からは魚の尾がはみ出ていた。

少年達は物珍しそうに私を眺めた後、エヴリン姫を見てぱっと笑みを浮かべた。




「でんかだ! おーい、ひめでんかー!」




ぶんぶんと小さな手を目いっぱい振りながら少年達が駆け寄ってくる。

その姿はさながら飼い主を見つけた仔犬のようだが、彼らの耳に生えるのは兎の耳だった。




「おお! ニコ、ライ、それにリューク!」




エヴリン姫もまた数歩駆け出し、屈みながら両手を広げ少年達を迎え入れ──るのに失敗して砂浜に倒れた。……倒れた!?




「え、エヴリン姫!?」




近くを見回っていた獣人王国兵らしき2人組の男もまた、ぎょっと目を丸くする。

そして一拍置いた後、私と獣人王国兵は砂浜に大の字に倒れたエヴリン姫の元へと集まった。




「こら、お前達! 姫殿下になんて事を……!」




獣人王国兵のうち、顎髭を生やした壮年の男が優しく少年の頭に拳を振り下ろす。

いてぇ! と叫び少年は頭を押えた。

手加減されているからだろう、その瞳に涙が滲むことはない。



獣人王国兵は少年をエヴリン姫から引き離そうとするが、今度はそれをエヴリン姫が制止した。




「ふっ、良い良い。童は元気なのが1番だ。これも民が健やかであり、同時に我々王族が愛されている証だろう?」




そこのお兄様、「姫もまだ子供でしょうに」って呟いたの私は聞き逃しませんでしたからね。言いませんけど。


せめての抗議の意として、肘でお兄様の鳩尾を打つ。

お兄様のやれやれといったような、ある種の涼やかな表情が苦悶の色に変わったが自業自得である。不敬罪だと言われなかっただけマシと思えば良い。



エヴリン姫にひっついて離れなかった少年達は各々ゆっくりと起き上がる。

髪についた砂をそっと払い落とし、髪を少し梳いて整えてやると少年はニっと笑って「ありがとう!」と元気に礼を言った。




「どうだ、ニコ? 今日も魚は捕れたか?」



「うん、いっぱい捕れたよ! この時期の魚はどいつもこいつも逃げ足が速いんだけど、今日は上手く捕まえられたんだ!」




ニコと呼ばれた少年はそう言うと、他の2人に目配せをする。

残りの2人──恐らくライとリュークという名の少年達も、嬉しそうな笑みを浮かべて頷く。




「そうか、それはよかっ──」



「──どろぼうッ!」




エヴリン姫が笑いながら少年達に相槌を打ったのとほぼ同時にそれは起こった。


穏やかな昼下がりの湖畔に、絹を裂くような女性の悲鳴が響く。

反射的に声のした方向へ視線を向けると、腕を伸ばす犬耳の獣人の女性と、何かを抱えながら走り去る黒服の男の姿があった。




「む……!」



「なんだなんだ、今日は色々あるな!」




お兄様の呆れたような声を聞きつつ、エヴリン姫は晴れやかな笑みを浮かべていたのを一変させ、逃げる男を睨み付ける。

一呼吸置いて駆け出そうとしたエヴリン姫を、お兄様が制止した。




「何をする!今追いかけなくては逃げられてしまうぞ!これも王族の役目なのだ!」



「御身をお守りするのも我々の役目と存じます。セレナとグレンを向かわせますから、どうかエヴリン殿下はここでお待ちください」




あ、また勝手に決めて──そう思わなくもないがそれが最適な役職配分だろう。

適材適所というやつだ。私はお兄様の視線に1つ頷き、グレン様を見上げてもう一度頷くとエヴリン姫の手を取って口を開く。




「わ、私、追いかけてきます!」



「それでは私も」


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