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第12話 城壁

誤字報告等ありがとうございます……!

確認しているつもりではあるのですが、どうにも見落としの多いようでとても助かります。

不幸なことに、雷魔法を専攻する宮廷魔法使いは現在別件で出払っており、極端に少ない状況なのだと言う。


前回では学院を卒業する寸前で命を落とした私だったが、現在は12歳の幼子。

本来は保護対象になるのだが、何せ緊急事態であるし、優秀と評判のセベク・アーシェンハイドの妹だということで、戦闘に参加する許可が下された。




「よしセレナ、復唱しろ? 勝手にうろつかない、近くの大人の指示に従う、危険になったらすぐ逃げる!」



「勝手にうろつかない、近くの大人の指示に従う、危険になったらすぐ逃げる!」



「あと出来るだけグレンの傍にいることも追加しとけ」



「はい、お兄様!」




全くお兄様は心配性ねぇ、などと生暖かい視線を送ると嫌そうな顔をされた。

別に、そんな顔しなくてもいいじゃないですか……。




「──グレン、絶対セレナはこの言いつけを守れないから……それだけ心に留めておいて貰えると助かる」




まっ、お兄様!? 嘘を吐かないで下さい!!

反抗の意を込めてキッと睨み上げてみたが、お兄様はこちらを見ようともしない。



ブライアント様はこの一連のやりとりを黙って静かに見つめていたが、やがて可笑しくてたまらないよという様子で笑い始めた。




「大丈夫ですよ、セベク。命に替えても妹君を──セレナ嬢を守ります」




だから! Sランクドラゴンの雷程度じゃ死にませんから!




「ドラゴンが王城に近づいてきているぞ!」



「よし、じゃあ行ってこい!」




王城の城壁に登ると、王都を一望することが出来た。その上空に黒いごま粒のような何かが存在している。

見張りの皆さん曰く、あれがサンダードラゴンなんだそう。




「……まだ、遠いですね」



「確かにここから見ると遠く見えます──が、サンダードラゴンの飛行時のスピードは魔物内屈指と言いますから間もなく王城に辿り着いてしまうでしょうね」




傍らに立つブライアント様の知識に感嘆する。へぇ、そうなんだ。私はお肉が美味しいことくらいしか……。




城壁には数名の魔導師達が待機していた。


先ほど伝えられた作戦は、まず城壁から魔法攻撃を行い、王城を抜けた先の森林まで誘導する。そして、森林で待機している騎士団の皆さんに仕留めて貰う──という単純明快な物だった。


誘導役には攻撃を受けても怪我を負うことのない雷系魔法使いと、雷属性に優勢を示す地系魔法使いの数名が選出され、こうして城壁で待機している。


まあ最悪、腕の1本2本もげたとしても王城には光系魔法使いが常駐しているから治して貰えるしあまり心配はしていない。




「……震えていらっしゃる?」



「……いいえ」




ブライアント様の問いかけを、私は一度否定した。

……まさか美味しいお肉によだれが止まらず、何とか抑えているなんて言えるわけがないよね!


恥ずかしすぎてもう一度私は否定し直す。




「いいえ、これは──武者震いですわ」




……ということにしておこう!

でも、一応念のため、怖くないということは伝えておこう。




「大丈夫ですわ。私が、ブライアント様をお守りいたします」



「それは──頼もしい」




ブライアント様は初めて出会ったあの日のように、くっくっと喉を震わせて獰猛な笑みを浮かべた。




「ええ、幸せにするとお約束いたしましたもの」




対抗するように、私も笑顔を浮かべる。

出来てる……のか、これ? ちゃんと笑えているかしら?



──ドラゴンが目前に迫ってくる。





***





「──来ましたわね、に……サンダードラゴン」




危うく肉と言いかけたのをキリッとした表情のまま上手いこと回避する。

今回は仕留めるわけではなく誘導なので、致命傷を与えたり、無駄な攻撃をして激昂をさせなければ問題ない。



サンダードラゴンは雷を追いかけて大陸中を巡る渡り鳥ならぬ渡り竜で、今回王都にやってきたのも今朝方王都近郊で雷雲が発生していたからだろうと推測されている。

だからその特性を生かして、雷魔法で誘導しようという話になっていたのだけれど──




「くそっ! そっちじゃねぇよ、ドラゴン!」



「おいおい、これ以上軌道が逸れると王都にも影響が出るぞ!」




魔導師達が必死にドラゴンを誘導しようとするが、当のドラゴンは中々言うことを聞かず明後日の方向へ飛び去ろうとする。



うーん、これは中々困ったぞ。

そもそも雷魔法って軌道が逸れがちだから誘導が上手くいかないし、ドラゴンが言うことを聞かない。


加えてドラゴンが想定していたよりも上空を飛行しているため、操作が難しいのだ。




「(……どこか高い建物は)」




もう少し距離が縮まれば、格段に操作が楽になるのだが……。



ぐるりと辺りを見渡すが、やはりこの城壁が限界のようだ。あるとしたら、城の屋根くらい? でも足場が悪すぎるし、どうやって移動すればいいのか……。




思考を巡らせていると、不意にドラゴンが長い首でこちらを振り返り閃光を放った。




あ、やばい! 私は大丈夫だけど、ブライアント様が丸焦げになる……!


せめて避雷針になるように腕を伸ばしたのも束の間、私の体はふわっと軽く宙に浮き閃光を避けた。




「わっ……!」



「──失礼、危険かと思いまして」




私の体はすっぽりブライアント様の腕の中に収まっていた。いわゆる、お姫様抱っこというやつである。


うう……私がお守りすると意気込んだのにこのザマですよ。これはどこかで挽回するしかない。




ブライアント様は閃光を避けた後、余裕の様子で着地した。




驚異の滞空時間だった……! ジャンプ力が半端じゃない。流石は獣人、運動能力がずば抜けている──




「……あっ!」




そうか、その手があったか。

私はブライアント様の袖をつんっと引っ張る。




「ブライアント様、お願いです。ここよりももう少しサンダードラゴンに近づきたいのですが──」




最後まで言い切る前に、意を汲み取ったブライアント様は1つ頷くと助走を付けて飛び上がり──危なげもなく王城の屋根へと飛び移った。




「もっと高いところの方がよろしいですか?」



「いえ、十分過ぎるほどですわ! ありがとうございます」




屋根の中でも周りより少し高くなっている所を見つめながら問いかけるブライアント様に首を振りつつお礼の言葉を述べる。


そっと屋根に降ろして貰うと不意に視界に影が落ちる──空を見上げると、ぐるりぐるりと伸びやかな動きで王城上空を旋回するドラゴンの姿があった。

よしよし、想定通り!



魔法の準備を始めると、掌の中で稲妻が踊る。

小規模な魔法であれば詠唱を短縮したり、無詠唱でも良いのだが、規模の拡大や正確性を求めるならば詠唱が必要となってくる。もっともっと精度を求めるとなると杖などの補助道具が必要だが、生憎今の私は持っていない。



──今回は絶対失敗出来ないので、私は中級雷魔法の詠唱を口遊んだ。




「──お前は雷神の吐息 迷える旅人の道標 お前は私の金色の矢 彼方まで切り裂く閃光の矢 《中級雷魔法:雷鳴の光矢》」




掌の稲妻が一瞬縮小する。その隙を狙って弓を引くように稲妻を引き延ばす。

荒れ狂う様な稲妻の矢を放つと、目にもとまらぬ速さで輝く金色の矢が空を切り裂くように飛んでいった。


光の矢はドラゴンの羽を掠めたかと思うとその脇を通り抜けて目的の地──王城裏の森へと駆けていく。


サンダードラゴンは一度その場で身を翻すと、その軌跡を追うように羽ばたいていった。




「……やったか!?」




城壁の魔導師達から歓喜の声が上がった。ふう……これで一安心だと思いたい。




「ブライアント様、森へ向かいましょう」




危険だとは重々理解しているが、向こうの様子も気になる。

やらないよりはやった方がマシ! ってどこかの偉い賢人も言っていたし、とりあえず向かってみよう。



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