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第119話 スペシャルガイド

長らく体調を崩しており、更新もご報告も出来ず、大変申し訳ございませんでした……!

本日より更新再開となります。

からりと晴れた空の下、その獣人王国の王都には、獣人の他にも純人──様々な国の商人で溢れかえっていた。

乾いた大地に敷物を敷き、簡易的な屋根を作った露店が多く並ぶ大通りを、現地スペシャルガイドことエヴリン姫の後に続いて歩く。




「この時期になると国内外から多くの商品が集まるのだ。祭りが近いから、今が売り時なんだ。魔木のお守りや杖、北方民族の衣装や反物、稀に花嫁衣装なんてのもあるぞ」



「花嫁衣装も……!? 獣人王国では花嫁衣装は自分達で製作すると聞いていたのですが……」




獣人王国に限らずヴィレーリアや近隣諸国でもその傾向はある。勿論負担が大きいので、全部作るのではなく刺繍だけ、あるいは小物だけ、など徐々に変わってきてはいる。

私の疑問にエヴリン姫はにっこりと微笑んだ。




「勿論自分達のは自分で作るぞ。ここで売られている花嫁衣装はお土産目的だから、そのまま着回す者は少ないな。良い作りだから、既製品を自分でアレンジし直す場合もあるそうだが、その辺りはヴィレーリアも同じだと聞いている」




ふむ、異なる文化があるならば、似たような文化もあると言うことか。

私の納得した表情を見留めると、エヴリン姫は仕切り直すようにぶんっと右手の三角旗を振る。

そして四方八方から響く客寄せの声に負けぬ張りのある声で、再びエヴリン姫は語り始めた。




「そなたらに勧めたいのは衣類だけじゃないぞ!食品なら二角猪の干し肉やサンドイッチ、それにライカの実の飴が人気だ。肉類はもう少し向こうに行かないとないが……」




調子を上げたエヴリン姫は、目にも留まらぬ速さで紹介した品物を私の両手に積み上げていく。勿論全て会計済みだ。

なんて恐ろしい速さなの……現地スペシャルガイドの名は伊達じゃなかった。


グレン様はエヴリン姫の説明の邪魔をしないようにそっと、しかしこの上なく優しい手つきで積み上げられていく荷物を持って下さる。

なお、お兄様はエヴリン姫の説明を聞くことなく、1人勝手に露店を覗いて楽しんでいる模様。

なんて酷い兄なの……現地スペシャルガイドにお仕置きされれば良いのに。




そんな中、ふと、エヴリン姫が1着のドレスを手に取る。

シルエットは丈の長いガウンのようで、襟はなく、二段フリルのあしらわれた長袖で、襟前開き、直線裁ちの形状が特徴的だ。下には白いワンピースが重ねられている。

パニエを入れることはなく、ストンとした直線的なスカートと、服の縁を飾る大ぶりの刺繍が可愛いらしい。




「ああ、これはヴィレーリアとの国境付近の地域の民族衣装だな」



「国境付近……というとグレン様の?」




私の疑問に、グレン様は肯定を示すように頷く。




「そうですね、でも今はあまり見ません。

今はヴィレーリア式の服やドレスの方が主流ですので。これは祭りや祝い事の時に女性達が着るくらいで……」



「へぇ……!」




良いなぁ、獣人王国の民族衣装!

デザインもさることながら、あの重たいパニエを履かなくて良いと言うのもポイントが高い。

うーん、欲しい。とても欲しい。

獣人王国を訪れた記念に1着くらい買って帰っても良いと思う。派手にお金を使って経済を回すのも大事な貴族の役割……たぶん……だし、買っても良いんじゃない?

そんな甘言を脳内の悪魔が囁く。

ちなみに理性を司る天使の出番はない。私が抹消した。


欲望に突き動かされるままに鞄に手を伸ばす。

そして財布をつかみ取った瞬間、リスを模したお面を頭に付け、かなり浮かれた姿になったお兄様の声が後ろから響いた。




「──ちなみにそれ、花嫁衣装だぞ。慣例に則るなら、自分で一針一針縫うべきなんじゃないか?」



「寝る間も惜しんで自分で作らせていただきます!」



***



露店の並ぶ大通りを抜けると、やがて住宅街に入っていく。住宅街と言いつつも大通りに面するこの辺りには、ちらほらと店が建ち並んでいる。


日干し煉瓦で造られた家々の合間に広がる路地は子供達の遊び場になっているようで、楽しげな声が風に乗って響いてくる。

リスのお面に加えて、串に刺さったライカの飴や土産物を手に携えたお兄様の姿は、もはや完全に浮かれきった人であった。

楽しそうで何よりです、お兄様。お祭り、楽しいよね。私もお祭り大好きです。だから、グレン様にそっと目を逸らされたからってそんなに落ち込まないで。グレン様もちょっと揶揄っただけだと思うから……たぶん。



ちょっとしおらしくなったお兄様を横目に歩いていると、エヴリン姫はすっと指を伸ばし前方を指し示した。

彼女の示す先は下り坂となっており、坂を下りきると天高く聳える尖塔と、その塔を取り囲むように広がる大きな湖の姿があった。




「あの湖に流れ出る水は、奥の山に潜む水龍の巣から湧いているんだそうだ。今はなみなみと水が溜まっているが、不思議なことに新月の日が近づくにつれて水が引いて、陸地があらわれるんだ。そうすると、あの塔の方へ渡れるようになる。塔は登れるようになっていて、最上階からは王都を一望することができる。人気のデートスポットなんだ」




む、むう、さっきから恋愛関連の話題が多いような……?

グレン様と一緒に旅が出来て嬉しい! 旅行楽しい! ……と浮かれていることは間違いないがそこまでハメは外してないはずだ。たぶん。恐らく。きっと。……段々自信が無くなってきた。

私の複雑な心境を汲み取ってか、エヴリン姫は「獣人王国は、愛と人情の国だからな!」と快活に笑った。




「ふっふっふっ……どうだ? ヴィレーリアにも劣らぬ美しい都だろう、ここは」



「はい、とても!」




民は明るく、市は活気づき、物流は良く、治安も目立って悪いというわけではない。

何年も前に袂を分かったとは言え、ブライアント領に似通った雰囲気が都全体に広がっている。そして何より、エヴリン姫がこの国を深く愛しているというのが良く伝わってくる。




「……さて、まだまだつき合って貰うぞ!

なぁに、父上の晩餐会には間に合うようにしてやるからな」


いつもお読みいただきありがとうございます!

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どうぞよろしくお願いします……!

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