第115話 獣人王国の姫君
いつもご愛読いただきありがとうございます。
このたびセレナとグレンの物語が1冊の本になりました。
(書影やお話に関してはページに記載してあります!)
双葉社様より絶賛発売中です!!
どうぞよろしくお願い致します…!!
またこちらは私のわがままとなってしまうのですが、購入報告や感想を頂けますと大変励みになりますので、どうぞよろしくお願いします……!!
思わず身を固くするものの、すんでのところで顔を顰めようとする自身を抑える。
良く抑えられたと自分を賞賛したい。なんて偉いの、私。
これで端から見れば突然声をかけられて驚いた、あるいは“王女”に声をかけられて身を固くする令嬢にしか見えないだろう。
そんな私の様子を見て、彼女は子供っぽく顔を顰める。
「……む。今の私はもふもふをこよなく愛するただの娘だ。故にそう畏まる必要もない。楽にすると良いぞ、ヴィレーリアの客人よ」
エヴリン・マーコール、獣人王国王家の末の王女。
彼女は5人居る王の子供達の中で最も民衆に愛される才媛であり、同時に最も王座から遠いと囁かれる姫君だった。
彼女の功績と言えば、北部の小競り合いをその才覚を生かして収め、新型の農具を考案し農業に貢献し、性格は少々変わり者だが情に厚く平等──と正真正銘のカリスマ。
なんて素晴らしい人なの……うちの王太子とは大違い!
民衆の株がうなぎ登りになるのも頷ける。
そんな彼女が“最も王座から遠い”と言われる理由は、現国王、即ち実の父に酷く疎まれているためであった。
「(獣人王国の王の真意は分からないけれど、今も逆行前も有名な話なんだよね……)」
例えば彼女が“望まれぬ子”だったとしたら、もしくは王と彼女の母が不仲だったとしたら、王が彼女を嫌うのも理解出来る。
しかし少なくとも彼女は、愛する妻との間に生まれた紛う事なき実子であり、多少性格に難はあっても疎まれるような人柄ではない。
エヴリン姫も思春期なので、彼女の方から嫌っているというのであれば納得できるものの、どうにもそうではないらしい。
加えて幼少期は今と違い、とても仲の良い親子だったのだと聞く。
獣人王国の王位は国王の指名した人物へと引き継がれる。男性のみ、女性のみと言った制約もなければ生まれた順番も関係しない、実力主義の世界だ。
王に認められた──悪い言い方をすれば、王に気に入られた子供が次代の王となる。
功績だけを見れば間違いなく彼女には統率者の素質がある。しかし、実力はあれど彼女には“王の寵愛”がなかった。
かの王だって「民衆から人気があるから嫌い!」なんて器の小さい人ではないはずなのに……不思議な話だ。
まあ今考えても、私にはどうしようもない話なのだけれど。
「(今の私が第一に考えるべき事は、どうやってこの状況を切り抜けるかと言うこと……!)」
過度の接触にはリスクがある。
友好を深めることが出来るならば良いが、逆に対立してしまっては今後に支障をきたすかもしれない。それだけは避けたい。
接触するのは構わないけど、できる限り最小限で!
そのためには当たり障りのない受け答えをして、極力存在感を消すことが必須だ。空気に溶け込む、と言うか。
そういったことが私に求められている……はずなのだけれど……。
「ふふ、救出後も遠路はるばるここまでやって来ると言うことは……つまりそう言うことだな?」
「ん……?」
「良い、良い! みなまで言わずとも私には分かる! そなたが同士──私と同じ“もふもふ大好き人間”だということなど、このエヴリン・マーコールにはお見通しだ!」
どうしよう、すごく……すごーくぐいぐい来る!
今までに無い距離の詰め方だわ……!
「さあ、今日は無礼講だ。存分に愛を語ると良いぞ」
「え、ええっと、日向ぼっこで微睡んでいるお姿が非常に愛らしいと申しますか……それにきちんと手入れされている毛並みが美しくて……」
「ああ、そうだな。分かるぞ分かるぞ。ふにゃっと気の抜けたような表情が良い。それに、この鳥類と猫科の2種類のもふもふを楽しめるところが最高だ。何より幼体の時のみ味わえる、ずんぐりむっくりとしたフォルムがたまらぬ。神々の愛した獣と呼ばれるのも頷ける素晴らしさだ」
もっと語れと言わんばかりの視線に耐えきれず、私はぽつぽつとグリフォンの事を褒め称え始める。
1を語れば10で返ってくる。
しかも1しか語らない私に不愉快そうな表情をみせることもなく、相づちを打ちながら酷く満足げにしている。
「ふふふ、素晴らしい。素晴らしいではないか。ヴィレーリアの客人よ、改めて名と歳を聞こう」
そ、そうだ、私まだ名乗って無かったんだっけ……!?
向こうは当然私の名前なんて知っているだろうが、失礼であることには変わりない。
「ヴィレーリア王国アーシェンハイド侯爵家が娘、セレナ・アーシェンハイドと申します。どうぞセレナとお呼びくださいませ」
「なるほど、その名を覚えておこう。私の名は知っているだろうが……相手に名乗らせたのだ、私も名乗るのが道理というもの。私はエヴリン・マーコール、この国の第三王女だ。と言っても先ほども言ったように、今の私はこの放牧場をふらりと訪ねた娘に過ぎない。身構えてくれるなよ?」
いやいやいや、王家直轄の放牧場、しかも貴重なグリフォンの住む場所にふらっと来られる人なんて高貴な人だけですから……!
そんなツッコミが喉もとまで迫り上がってきたが何とか耐える。加えて、今度は完璧な笑顔を保持してみせた。
恐らく、エヴリン姫はそんな細かなことは気にしてないのだろうけれど、念には念をだ。
「……さて、セレナよ。そなたはどうやってグリフォンとの仲を深めたのだ?」
「王都にある孤児院の裏手に生えていたマタタビをお渡しして、でしょうか」
途端、エヴリン姫の表情がぱっと明るくなった。
感情に突き動かされたように私の手をぱっと握ると、そのままぶんぶんと手を上下に動かす。
「なるほど、マタタビか……! ここでも定期的におやつとして与えているが、ヴィレーリアの品種はグリフォンの好みに合っているのやもしれぬな。私も獣人王国産のワインより、ヴィレーリアのワインの方が好きだ」
「あの、もしご迷惑でないようでしたら、ヴィレーリアのマタタビとワインをお送りいたしましょうか?」
「良いのか!? ああ、嬉しい。そなたのとっておきを是非送ってくれ。返礼品は期待すると良いぞ? ……ああ、ふふふ、あはは! 気に入った、気に入ったぞセレナ・アーシェンハイド。父上に接触するよう命じられてここまでやって来たが、想像以上の収穫だった! ……これならば私も心置きなく、そなたと話が出来そうだ」
んんん、どういうことでしょうか?
何だか不穏なセリフが聞こえたような……?
私が首を傾げているのも目に留めず、エヴリン姫は高らかに宣言した。
「ふっふっふっ、光栄に思うが良いぞヴィレーリアの客人よ。その素晴らしき才知と謙虚な態度、我は気に入った。故にそなたを我が離宮に招待しよう! 来たる明日、そなたとそなたの同行者と共に茶会と洒落込もうではないか!」
「離宮へ招待……それにお茶会……」
「ああ、後ほど宿に招待状を送ろう。私は約束を守る王女だからな」
それは即ち──
「(それじゃあ過度な接触だわ……!!)」
この度、本作『逆行悪役令嬢はただ今求婚中~近くに居た騎士に求婚しただけのはずが、溺愛ルートに入りました!?~』が双葉社様より発売させていただくことになりました……!!
眠介先生の描いてくださった可憐で美しいイラストによって世界観がより広がったお話を、ぜひ一度手に取っていただけましたら幸いです。
巻末には作中よりも少し前のグレン視点のお話や、電子書籍にはレスカーティア伯爵家での舞踏会前のお話、またゲーマーズ様でご購入頂いた際の特典としてブライアント辺境伯邸のメイド・マオ視点のグレンとセレナのお話のブックレットなど、ここでしか読めない様々な書き下ろしエピソードが加筆されています……!!
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