01:選ばれた理由とルール説明
「……さむっ」
俺は寒さを感じて目を閉じながら毛布を掛けなおそうとしたが、何もかけていないことに気が付いた。しかもベッドにいるはずなのに寝ている場所がベッドにしては硬くて枕も硬い。
どこか変だと思って俺は目を開けた。
「……空だな」
おかしい、俺は別に外で寝たつもりはなかったが、どういうわけか青空が俺の目の前に出ている。もしかしたら俺が寝ぼけて外で出て寝たのか、はたまた大震災が起きて俺の家の屋根が吹き飛んだ可能性が拭えないが、まぁあり得ないだろう。
「どこだよ、ここ……」
俺が体を起こして見渡すと、広大な野原があった。野原だけじゃなくて、山や湖や森など、どこの海外の田舎だと思うくらいの場所だった。
「なに? 異世界転移? 寝間着で? せめて制服にしてほしかったな」
どうでもいいことだが、こういう場所で寝間着でいるのは誰も居なくても変な恥ずかしさはある。ていうか、え? 本当にどこなのここ。本当に異世界に来ちゃった?
顔とかは分からないけど、体型な感じは寝る前の俺の状態だから異世界転生ではないと思うが、それにしても説明くらいはほしかった。
そう思いながらふと俺の頭部があった場所を見ると、俺が枕にしていたものは分厚い本だった。
「こういうことをするのなら、せめて俺のベッドも一緒に持ってきてくれたらよかったのに……、俺はベッドが変わると寝れないタイプなんだから」
そう愚痴りながらも分厚い本を手に取って表紙を見る。
「『異世界交流ゲーム』……ほう?」
名前から考えるに、異文化交流の異世界版だと思うが、それをゲームにするということは楽しい遊びなのか。
とりあえずこの本を見る以外に選択肢はないからこの本を開いてみる。最初のページには何も書かれていない白紙で、次のページから文字列が並んでおり俺はそれを読む。
『初めまして、高森幸人さん。私はあなたの世界に存在する、神と呼ばれるものです。気軽にアテナちゃんって呼んでくださいね! きゃはぁっ!』
「何だこのなんちゃって神さまは……」
文字列できゃはぁっ! とか書いている神さまが世の中にいるんだなぁ。読み進めよう。
『あなたの世界以外にも、他に世界が複数存在しています。分かりやすく言えば、あなたの世界でラノベで出てくる異世界と言った世界です。それが通常ならば干渉できない次元に存在しています。その他の世界にも神さまがいて、神々はお互いの世界に干渉することを許されていません』
あー、何だか長くなりそうな気がするなぁ。とりあえず次のページに進むか。
「なん……だと……?」
次のページをめくった俺の目には、とても信じられない文字列が並んでいた。
『五行で次のページに進んだ幸人くん、私は神だから分かっていましたよ』
本当に神さまだったのか。あまり信じていなかった。ていうか前のページは何って書いてあるんだ?
『気になって戻ってきた幸人くんへ。五行を延々と並べているだけなので時間の無駄ですよ』
「……ほんとだ、神さまだ」
本当に延々と繰り返されているだけだ。これはもう神さまだと信じるしかない。とりあえずどうやっても相手には分かっているようだから諦めて適当に読もう。長そうだったら飛ばす。
『長くなれば飛ばしそうな雰囲気があるので、ここは手短にお話します』
おぉ、分かってくれている。これは読みごたえがなさそうだ。
『幸人くんがいるそこは、どの神々も存在していない新たな次元に生まれた世界です。色々と省きますが、その次元をめぐって、神々は自身が管理している世界から代表者を一名選出して、どの神がそこに相応しいのかを決めるゲームを行うことになりました』
へぇ、面白そうだな。でも俺が代表者というのは中々このゲームに勝ちに行く気がないようだな、このアテナさまは。
『今、幸人くんが気になっているのは、どうして幸人くんが選ばれたのか、ですよね? それはこのゲームの前提にも関わっていることなので、ここでお話します』
これでランダムとか言い出したら俺はゲームから降りるつもりだが、まぁそうではないことを祈ろう。
『この異世界交流ゲームでは、代表者の実力をなるべく平等にするために、神の力を使っていいことになりました。これは幸人くんの世界のように魔法がない世界と、魔法がある世界とではゲームにならないという理由です』
変なことを言っているな。ゲームで不平等なことは当たり前なのに。まぁ人間と神の考え方の違いなのかもしれないが。後でごねられるから、という理由なら分からんでもない。
『他の神々は、さぞ自身が管理する世界で能力が高い者たちを代表者にすることでしょう。ですが、私は優秀とは真逆の存在である幸人くんを選び出しました』
「おぉ……神に言われると腹も立たないな……」
俺と同じ立場の人間に『お前は出来損ないだな!』とか言われたら出木杉を名乗って殴りかかるくらいには腹が立つが、神さまが言って来たら何とも思わない。
『私はこのゲームが決まる前から、あなたが生まれてから、ずっとあなたのことを見ていました。あなたは生まれた時から走ることができない足で、さらには右目が先天盲なことも知っています。それにそれだけではなく、そんなあなたを支えてくれたご両親やお姉さんは数人の強盗に押し入られ、お父さんは殺され、お母さんとお姉さんはレイプされ、その後にあなたの目の前で殺されましたことも知っています』
この神さま、人が触れたほしくないところをずかずかと触れて来るなぁ。特に気にしていないが。
『運よく、と言えばいいのでしょうか、あなたは生き残り、親戚をたらい回しにされた結果、あなたはお金を九割ほど奪われて事件が起きた家に一人で暮らすことになったことも知っています。それでも学校に登校したあなたが、クラスメイトからバカにされ、告白されたと思えば嘘告白だったということも知っています。勉強も平均的で運動もできない、そして大事な物がすべて奪われたあなたは、今生きていることが常人の精神では考えられないことだと思います』
そういうものなのか。俺としてはただ普通の人が体験できないことを体験できて、まだ死んでいないから生きているだけに過ぎない。どこか壊れていることは自覚しているが。
『ハッキリと申し上げれば、あなたの幸運値は常人が十だとすれば、マイナス500になります。つまりは不幸ということです』
「何だかさっきから読まなくてもいいようなことばかり書かれているなぁ……」
俺の現実を突きつけられているだけのこの文章に一体何の意味があるのだろうか、と思いながら、次の一文で飛ばすかどうかを決めることにした。
『ですが、あなたのこのマイナスがすべてあなたの、いいえ、このゲームの参加者であるあなたの強みになります。このゲームは参加者が平等になるまで神が力を使っていいことになっているということは前述しましたが、マイナスがあればあるほど、神の力を存分に発揮できることになります』
なるほど、俺が選ばれた理由はランダムじゃなかったのか。それにしても今までの不幸が力になるとか、どんな皮肉だよ。
『それでは、あなたの選ばれた理由をお話したので、次はこの異世界交流ゲームのルール説明をしたいと思います』
ようやくここで本題に入るのか。異世界転移ならぬ、異世界交流ゲームとか、盛り上がらないわけがない。
ページは変わり、次のページから『異世界交流ゲームのルール』とタイトルに書かれている。
『その一、ゲームが始まれば神は例外を除き介入することができない。介入すればただちに失格として、管理する世界を消滅させる』
『その二、参加者は死亡するまで絶対的にこの世界から元の世界、または他の世界に向かうことを禁止とする』
『その三、代表者にゲームに参加する意思がない場合、代表者と代表者の世界は消滅する』
『その四、参加者は参加者および食材となる生物以外を攻撃、または侵略を行ってはならない。ただし攻撃を受けた場合はその限りではない』
『その五、参加者には平等に領土が与えられる』
『その六、代表者の命は、代表者の世界の同じ種族の数だけあり、世界の同種族がいなくなった時点で代表者は死亡となる』
『その七、参加者による別の参加者への殺害、略奪などのすべての行いを神の名の元に許可する』
『その八、参加者には自身の世界の神を崇拝するための神殿を作る権利がある』
『その九、参加者が死亡するたびに、死亡した直接的な原因に絶対的な耐性がつく』
『その十、この期間に参加者が出ている世界で異世界転生、または異世界転移がなされた場合、移動する存在を消滅させ、移動させた存在も消滅させる』
『その十一、この世界を直接壊すもの、もしくはゲームを続行不可にさせるものが現れた場合のみ、原因を解決するためだけに神の力の行使を許可する』
『その十二、勝者が複数いた場合、この世界は均等に分けられる』
『その十三、勝者が一人である場合、必ず神から何でも願いを叶えられる』
『その十四、神の目を盗んで違反する者がいた場合、密告すれば願いを一つ叶えられる。ただしそれが虚偽の場合は同種族の数を半減させる』
『その十五、自身が信仰する神とは別の神に対して、一日に一度だけ取引することができるが、それを神が応じるとは限らない』
『その十六、一ヶ月に一度限り、ランダムに選ばれた神は特殊ゲームを開催できる。他の神々の承諾があれば、他のルールを特殊ゲームの期間中に一時的に除外できる』
『その十七、このゲームは勝者が出ない限り、永遠に続く』
ふーむ、なるほど。これはかなり参加者の意志など関係ないと言っているようなゲームルールだな。本当に俺たちは神が管理する世界の代表者で、そこに意志など関係ないわけか。
やらなければ死ぬ、そういうことか。まぁところどころ抜け道があるルールになっているな。というかこれの勝利条件はなんだ?
俺はそう思いながら次のページをめくる。
『この異世界交流ゲームの勝利条件は、残っている参加者全員で勝利宣言をすることです。一人が残っているのなら一人で、逆に開始時点で全員が勝利宣言を行えばこのゲームは終了となります』
全員が勝利宣言、これは確実に起こらないことだな。だって俺が勝利宣言をするつもりがないんだから。
それにその十三で願いを叶えたいと思う参加者はいると思う。俺は何も知らされずにここに連れ来られたから分からないが、もしかしたらそういう願いを持っている参加者がいて、神がそいつを選んだ、ということも大いにあり得る。
そして俺は読み進める。
最後まで見てくださってありがとうございます。誤字脱字あればご指摘お願いします。
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