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第99話 「アルコル家の団欒」


 王国魔道院長オーフェルヴェーク侯爵の『狂気の魔道具』強奪事件から、幾らか歳月が流れ、王国国境地帯は小康状態の戦況となっていた。

 この頃わずかにだが王国にも余裕が生まれ始め、諸侯たちは魔物たちを国境地帯まで押し返し始めていた。


 これもひとえに救国の英雄アルタイル・アルコル並びに、王国最高の軍略家との誉れ高きアルフェッカ・アルコル侯爵の活躍のおかげだろう。

 特にアルフェッカは国境地帯の軍管区において連戦連勝の偉業を誇り、不敗の威名をほしいままにしていた。




 破竹の勢いともいえる戦果に国境地帯の王国臣民すべてが歓喜に沸き、彼ら英雄に光明を見出していた。

 昨今の暗いニュースは鳴りを潜め、王国や教会は魔将を屠った新たな英雄の登場を喧伝し、士気を煽っている。






 ブロンザルト領への援軍から帰投した、巷で噂のアルコル家当主アルフェッカ。

 彼はいい加減にうんざりといった様子で、屋敷に入るなり愚痴る。

 普段弱った姿を子供たちに見せまいと、落ち着きを保っていたこの男でも、昨今の戦争情勢には辟易しているのだろう。


 父の言に少し不安の色を見せた、出迎えのために控えていた子供たちの表情にも気づいていない。

 それほどに精神的に疲弊しているのかもしれない。

 ここ最近はずっとアルコル領から出払い殺しあっているのだから、仕事量が身にこたえていてもおかしくはない。




「待たせたねお前たち。ようやく一段落ってとこだ。何だかオークが多かったなぁ……………おかげで虱潰しにてんてこ舞いだったよ。ただいま」



「……お役目ご苦労にございます父上!…………これからは一緒にいられる時間は長くなりますか?」



 父が帰ってきたことを喜ぶ、アルコル家次男アルデバラン。

 この少年は哀願するような声でアルフェッカに、家族共にする時間がないか尋ねた。


 まだ親に甘えたい年頃なのだろう。

 彼の父は普段家に居ないのだから、なおさらだ。




 しかしアルコル家の家長であるアルフェッカは父親の顔で。面目なさそうにそれを否定した。

 願いを吞めない事情があるからだ。






「そうしたいところなんだが。陛下に泣きつかれてしまってね…………また戦に出なければならない」



「そう……ですか…………わかりました……」



 分別をわきまえているのだろう。

 父の仕事に理解を示し、一瞬俯くが文句ひとつ言わずそれを肯定した。

 しかしアルデバランの面持ちは、露骨な落胆が見える。


 アルフェッカはそれを見て悲しげな顔をするが、言葉が出ないようだ。

 遊び盛りの息子にかまってやれないもどかしさ。

 父としての責務を果たせないことへの、自責。

 家族の悲しみに応えてやれない、情けなさ。


 そのすべてが彼の胸中を掻き乱し、不甲斐ない自分が何を言えるのかと行動に迷いが生じているのだろう。




 そこにアルフェッカの弟かつアルデバランの叔父であるアルビレオが口添えする。

 話を逸らすためでもあったが、その言は正しいに尽きる。

 彼の甥、アルデバランの兄であるアルコル家嫡男は、とてつもない重責を背負っているのだから。






「アルデバラン。アルタイルを支えてあげなさい。君にしかできないことだ」



「……はい!叔父上!僕は兄様をお助けしてみせます!!!そうなれるように、後で稽古をつけてください!!!」



「都合をつけよう。成長が楽しみだ」



 アルデバランの願いに、眼鏡を押し上げて肯定する叔父。

 彼は甥の成長を嬉しく思ったのか、アルタイルのサポートを命じた後の言葉は弾んでいた。


 この少年はいずれ、アルコル家当主を支える弟となる。

 自分とアルデバランの境遇を重ね合わせているのかもしれない。




 アルフェッカは自らの弟に視線にて感謝を告げた。

 それに対してアルビレオは、微笑をもって返答とする。


 言葉などなくとも通じ合うものがあるのだろう。

 長い年月を経て醸成された、兄弟の確かな信頼関係が伺える。






「カレンデュラ。久方ぶりに会えたことを嬉しく思う。あまり構えなくてすまない……」


「いいえ。お父様の元気なお姿を見れるだけで、カレンデュラは幸せです。また無事なお顔を見せてくださいね」


「…………ああ。約束する。必ずお前に会いに帰る。その時は時間を作るさ」


「嬉しいです!…………お父様」


 娘であるカレンデュラへとアルフェッカは声をかけ、膝をついて彼女を柔らかく抱く。

 カレンデュラは父の首に腕を回すと、固く巻き付けた。


 しばらく、そのままの体勢でいる。

 二人は家族の無事を、そうやって体温で確かめたかったのだ。


 少しの間をおいてアルフェッカは娘の頭を撫でて立ち上がる。

 その足で、ほかの親族にも声をかけにいった。






「エルメントラウト。すまないがしばらくの間、子供たちの面倒を見てくれないか?」



「アルビレオお兄様。私たちは兄妹です。遠慮なさらないで」



 気を利かせたのか、アルビレオはブロンザルト領へと嫁いだ妹に頼みごとをする。

 エルメントラウトは笑顔で快諾し、実の兄を気遣う言葉を投げかけた。

 とは言っても彼女はこの屋敷に来てから、進んで子供たちの世話をしてはいたのだが。


 ブロンザルト領から疎開していても、夫や領地が気がかりで悶々とした日々を送っていた彼女。

 少しでも子守で気が紛れればとの心遣いも、アルビレオの思惑には多分に含まれているのだろう。

 実に麗しい兄妹愛を見せてくれる。






「ノジシャも留守をよく任されてくれたね。礼を言うよ。アルタイルたちの面倒を実に見てくれた」


「アルビレオ叔父様。そのようなことはありません。皆、いい子で帰りを待っておりましたわ。アルタイルも最近は勉強に集中していますし、手がかかりません」


「それも君のおかげさ。よく子供たちの勉強を見てくれていると聞く。本当にいい子だ。頼りになるよ」


「恐れ入りますわ」


 その隣に控えていたノジシャは見事なカーテシーをすると、アルビレオは感心しながら彼女を褒めちぎる。

 この小さな淑女の言行には、この家の誰もが信頼を寄せている。


 あまりにも聡明な彼女ですらアルタイルの陰に隠れているが、とてつもない才媛として社交界に鳴り響いている。

 何よりアルコル家と縁をつなごうと、国境地帯の諸侯は手ぐすね引いて彼女との縁談をまとめようと近づいているのだ。


 この少女にとっては不服の話ではあろうが、アルタイルの従姉である彼女には非常に高い価値がある。

 よってアルコルの家中の者たちも、彼女の扱いは決めあぐねるものがあるのだ。




 カレンデュラの社交界デビューが遅れているのもこのためだ。

 彼女の優れた能力なら、すでに確信をもって周囲に披露できるのだが、情勢がそれを許さない。


 魔物たちに警戒しなければならないこと。

 そしてアルコル家に取り入ろうとする魑魅魍魎の輩たちに対するには、幼い彼女には荷が重いと判断されたからだ。


 同様の理由でアルデバランも、貴族階級の集いには顔を出すことは足止めをさせられてしまっている。

 そのように王国国境地帯の貴族子女たちは、みな戦争の割を食らっているのだ。




「すまないね。最近は子供たちの面倒を見る暇もなくてね……どうか、これからもよろしく頼む」


「承知いたしました。家中の雑事に関してはお任せください。アルビレオ叔父様もご健勝をお祈りしております」


「ありがとう。信頼しているよ」


 流麗かつ完璧な所作で、叔父との歓談を終わらせたノジシャ。

 背を向ける叔父の姿を見送ると、彼女はカレンデュラと己の母に近づいて行く。


 穏やかな表情でカレンデュラに声をかけると、カレンデュラは花が咲いたように笑う。

 アルコル家においてノジシャは、すこぶる良い関係性を築いているようだ。

 これも彼女の人徳がなせることである。






「カレンデュラ。今日は何をして遊びましょうか?」


「そうですねぇ……叔母様!お花を見に行きましょう!ノジシャお姉さんと一緒に植えたお花が、もう芽を出しているかもしれません!!!」


「ええ。カレンデュラさんの育てたお花ももうすぐ咲くころね」


 カレンデュラも叔母であるエルメントラウトには懐いているようで、手を引いて庭先へと引っ張っていく。

 それを微笑ましそうにブロンザルトの親子は見つめ、無邪気に笑う少女に導かれていった。






 一方、叔父に近況を報告していたアルデバランはある疑問を呈した。

 彼らの話にも度々上っていたある人物が、この状況にて欠けていたからである。


 この場にいない兄の事。

 アルコル家嫡男として、当主の出迎えという務めを果たすべき人間がここにいないことだ。






「ところで、兄様は今何をしているのですか?」




「ああ。アルタイルは――――――――――」









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― 新着の感想 ―
[良い点] おぉ。アル様とパパさんの活躍で、王国に余裕が生まれてきたんですね! ですがさすがのパパさんもお疲れのようで、愛する子供達と遊ぶ時間を取れないのも疲れの取れない原因でしょうね。 子供たち…
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