第98話 「訓練の終わりに」
凄まじい戦闘終了後のルッコラは、疲労著しく立つことも危うい様子だ。
汗を垂れ流し、どこかふらついている。
俺は労わりを込めて回復魔法を発動させる。
淡い発光とともに魔法陣が出現する。
一瞬このネコミミ少女は警戒からのけぞるが、回復魔法だと理解すると大人しくなる。
「回復させるぞ。『Sanatio』」
「……………礼を言う」
「当然のことをしたまでさ。だって二人は……特別な関係だもんね♡」
何故かルッコラは身震いする。
回復魔法のおかげで、血色もよくなったのだが……
まだ戦いで神経が昂っているようだ。
武者震いってやつだな。骨のある少女だ。
彼女は軽蔑の眼差しで、俺を見下すようにして言葉を吐き捨てる。
模擬戦に勝利して俺の護衛として認められた訳だが、まだ何か不満でもあるのだろうか?
「雑魚オス。そんな女みたいな見た目通り、貧弱なガキ。これが殺し合いでなくてよかったと思え。お前みたいな弱いオスに魅力など感じない。お前に惚れる可能性など今後一切ないから、無駄な行動はやめろ。本当に不快」
「…………不快?今、不快って聞こえたような……?いや空耳か。鍛錬で疲れているんだな多分。言われてないに決まってるよ。だってルッコラたんは俺のこと大好きだもんね♡ご主人様愉快って言ったんだね♡嬉しい♡俺も一緒にいると楽しいよ♡」
聞こえるはずのない音が聞こえ、俺は耳の調子を確かめる。
何も詰まってないけど……自覚のないストレスが溜まっていたようだ。
ルッコラたんは真一文字に口を絞め、首を横に何度も振りながら足を数歩俺から退ける。
その面差しは感情的に歪み、拒絶感が垣間見えた。
なんだろう…………?ひょっとしてツンデレかこれ?
ったくしかたねぇな!!!
素直になれない年頃の少女を甘んじて受容するのも、男の甲斐性ってやつか!
俺はルッコラたんのすべてを受け入れてあげるよ♡
だからルッコラたんも……俺のすべてを……飲み込んでねぇ……♡
それが愛だよ♡
純真無垢なネコミミ褐色ロリ奴隷メイドを、俺の色で染め上げてやるからねぇ……♡
「…………これで私は戦士として認められた。戦働きで治療の恩義は返す。それとその回復魔法の腕は評価するが、お前に対する好感など全くない。気色の悪い勘違いをするな人間」
「そんなぁ~仲良くしたいのになぁ~~~それだけしてくれれば、ルッコラたんには満足なのになぁ~~~」
「…………っ」
少しずつ俺がにじり寄りながら甘い声で囁くと、このネコミミ褐色肌ロリ奴隷メイドは後ずさりする。
嫌ってる素振りなんてしなくていいんだよ♡
ルッコラたんのことは全部、ぜーんぶわかってるからね♡
この少女は少し俯いて唇を噛む。
若干の逡巡の末、俺に力強い決然とした目で見据える。
「お前に何をされようと、私は折れない……!体は思い通りにされたとしても、心までは奪われない。獣人の誇りは、人間なんかに絶対に穢させない」
「そんなことしないよぉ~~~信じて信じてぇ~~~ほら!この曇り無き目を見てよ!!!」
俺はできるだけ高圧的にならないように可愛くポーズをとって、ルッコラたんに害意がないことをアピールする。
父上とサルビアには特攻で、他のみんなにも効く。
どうだ!!!渾身のあざとい魅惑の仕草!!!!!
俺は期待を込めてルッコラたんへと視線を向けた。
「……………チッ」
え?舌打ちだけ?
ってそんなわけないか!
聞き間違いだな!
たぶん投げキッスしたんだろ!
俺も大好きだよ♡ちゅ♡
「ん~~~~~♡ちゅ♡♡♡♡♡」
両手で可愛く俺もお返し投げキッスをすると、ルッコラたんは無の表情で斜に構えて顔を背けた。
照れちゃってぇ♡もぉかわいぃ~~~♡
ルッコラは業務に戻ると告げると、足早に屋敷へと戻っていった。
それを見送ると、地面に胡坐をかいたダーヴィト。そして俺の脱ぎ捨てた服などを持ったサルビアが話しているのが見える。
「おい!!!アルタイル様とよくやっておるか!?早く孫を見せい!!!もう抱かれたのか!?」
「………………………」
絶氷の視線で物言わぬ圧力を放つサルビア。
それに臆せずダーヴィトは、勇猛果敢に追撃を仕掛ける。
こいつ…………恐怖という感情が存在しないのか………?
センシティブな話題振りとか、戸惑いの心が邪魔するだろうがよ?
「お前ももういい年だ!!!お前の友人の娘、えーと何だったかな…………だが、全員もう子を産んでいるぞ!!!もう嫁に行ける年でもないのだ!!!」
「………………」
「ったく無視するでないわ!女心はわからんなぁ……」
この武官長は、典型的なナチュラルセクハラをする。
サルビアは冷たい目をしながら、この親父に黙殺という対応をとった。
世の娘たちはこのようにして、無神経な男たちをあしらっているのだろうか。
こんな目をサルビアに向けられたら俺はもう生きていけないので、他人への心配りを忘れないことを固く誓った。
「坊ちゃま。お父様のようになってはいけません。デリカシーをもって、女性への配慮を欠かさないようにしないとなりませんからね」
「はーーーい♡でもでも俺!サルビアと結婚するの―――♡♡♡」
「まぁ。エーデルワイス様がいらっしゃるのにいけない子ですね。そのお言葉だけで嬉しゅうございます」
「ガハハハハ!!!男児たるもの、女子を幾人も侍らせてなんぼですわい!」
呵々大笑するダーヴィトに呆れているサルビア。
しかしその口は僅かに綻んでいる。
俺もうれしいよ♡
その土偶みたいな安産型のケツで、笑いの絶えない幸せな家庭を築こうね♡
そんな他愛もないことを話していると、訓練道具を片付けにいったステラが戻ってくる。
俺の魔法で回復させてやったのもあるが、もうピンシャンしているようだ。
「…………あれ?ようやく起きたんだアル様!ダメだねぇ。鍛え方が足りないよ」
「うるさい!!!お前の基準で俺を推し量るな!!!」
「よわよわアル様はステラが守ってあげる!!!いっぱい悪い奴を倒して、勇者になるの!!!感謝するように!!!!!」
「護衛になるお前に頼るときってそれ、マジでやばい時だから。使うべきでない最終防衛ラインだから」
この頭の弱い少女は俺に向かって胸を張りながら、渾身のどや顔。
しかし俺が言った言葉が理解できなかったのか、大きく首をかしげている。
マジこいつ…………
並みいる騎士をさし置いてまだガキのこいつが、この国の重要人物である俺ことアルタイル・アルコルの護衛の第一候補となるのだ。
明らかに頭抜けた実力は推して知るべしだが、このオツムの出来は…………
「………………???心配しないでいいんだよ!!!お姉ちゃんは強いんだからね!!!ステラちゃんにまっっっかせてー――――!!!!!!!!!!」
「そんな時は来ないでほしいよ………………」
まったく似合わないマッスルポーズをするステラ。
ツインテールがご機嫌にぴょこぴょこ揺れ動いている。
やる気は漲っているようだが、それだけにどことなく不安感が押し寄せる。
それに向けて深いため息を一つ。
俺は天を仰ぎ、哀愁を纏って返答したのだった――――――――――
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