第97話 「ルッコラの実力」
砂塵を巻き上げ、先手を打つのはステラだ。
気合の入った大声が訓練場中に伝わる。
風圧で荒れ狂う粉塵を吹き飛ばして、彼女は弾丸のように吶喊する。
幾度となくこの動作を行い、ルッコラへと猛攻を加える。
「どぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
「――――――――――!!!」
ゴォォォォォォォォォォォォォッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!
ズガガガガガガガガガガガッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!
怒涛のラッシュを避けたルッコラは、不意を打って肘打ちや膝蹴りをする。
間合いを悟らせないほどの高速攻撃だ。
天性のセンスから歩幅を自在に変化させ、攻撃のタイミングを測らせない。
あそこまでの至近距離に突如潜り込まれたら、剣の間合いには入らないだろう。
格闘戦となると、体同士が密着する程の間隔だ。
剣を振ったところで、有効打は決まらない。
獣人特有の柔軟で強靭な筋肉と恵まれた反射神経から、体の各部位の連動が凄まじく速い。
素早い移動速度から放たれる攻撃と、効率的な防御行動は終始戦いの流れを掴んで離さない。
ステラも人外染みた身体能力とバトルセンスであるのだが、ルッコラに絶対的に及ばない部分がある。
だがルッコラもステラの馬鹿力には警戒しているようで、クリーンヒットは打てていない。
アルコル家武官長ダーヴィトは驚異的な戦技をみて、高い評価をする。
ルッコラの戦闘力は、彼にとっても思いがけないものであったらしい。
「たいした芸ですな」
レベルの高い攻防に一瞬たりとも目を離せず、首肯をもって同意する。
思わず感嘆の息は漏れた。
そのスピードを殺すために足元を狙われたルッコラは、空中で一回転し態勢を整える。
体重移動が巧い。その勢いで次の攻撃を強める。
向かってくる剣の根元を手甲で打ち付けながら、精緻を極めた足捌きから流れるような動作で近接戦闘に持ち込む。
その目論見とは裏腹に、ステラは強引に一閃。
薙ぎ払うように無理やり剣を横に斬る。
体重が軽いルッコラは、ステラの暴虐的な力で勢いよく押し流される。
力を相殺するために手甲が剣をはじく硬質的な音が鳴り、両者は反発から弾き出されて距離が生まれる。
ズバッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!
ドォォォォォォンッッッッッ!!!!!!!!!!
「さっさと当たりなさーーーい!!!」
「――――――!!!」
だがルッコラは先ほどの衝撃が体にもろに伝わったのか怯む。
そこに激しくステラの攻勢が加えられ、ついに脇腹を剣の腹で殴打される。
だがしかし、それと同時に横に宙返りしながら飛び衝撃を殺す。
ステラはそれを果敢に追撃し、目にも止まらぬ刺突を無数に放つ。
頭、首、胸、腹、関節。
あらゆる急所を幾度となく繰り替えし狙い、仕留めにかかっている。
刃を潰したとはいえ鋭利な切先が身に迫れば、生理現象から体が強張ってもおかしくない。
そうなると致命的な隙を生み、戦いの駆け引きの中で好機であると突かれて、たちまち絡めとられてしまうだろう。
猛者は刹那の逡巡すら見逃さない。
だがルッコラの大きな琥珀色の目はめまぐるしくその向きを変え、すべての攻撃を反応して躱している。
猫のような早足でステップを踏み、最適な動きを取ろうとする。
よってステラの攻撃は空を切り、地面へと振り下ろされると爆裂した土砂が舞う。
重機が雑に土を掘り起こすように、地面が掘削されて抉り取られた無残な姿をあちこちに晒す。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッッッッッッ!!!!!!!!!!
バキバキバキバキバキバキバキバキッッッッッッッッ!!!!!!!!!!
「ちょこまか動き回って!!!いい加減に止まりなさー――い!!!!!」
「笑わせる……!」
火魔法でも炸裂したかと錯覚するような剣圧が、俺の後ろへと吹き抜けていく。
なんだありゃぁ…………剣や手甲で出していい音じゃないでしょ…………
地面が吹き飛んでるよ……
こいつら回復術師の俺がいるからって…………殺人技撃ち合いすぎだろ……
いつもアルコル家の兵士たちの鍛錬を治療がてらに見ているが、ますますその厳しさを増している。
最早あれは人間がやっていい修行じゃない。
でも再生魔法があるから何の心配もないと、ゲラゲラ笑いながら延々と殺しあっている。
俺はそれをドン引きしながら見守り、死にかけるやつがいればそれを治すという日々が続いている。
何度見ても慣れない。
いや即座に治療を対応できるようになったあたり、アルコル脳に俺も浸食されているのだろう。
「あの獣人…………いい勘をしている」
「ずいぶん強いが……そうなのか?」
「えぇ。アルコル家の騎士、それも部隊長レベルと同等以上はあるでしょう。いい買い物をしましたな」
ダーヴィトはそう太鼓判を押す。
ルッコラは相当な手練のようだ。
彼がそう言うのなら間違いはない。
てか部隊長レベルってマジかよ。
一連の光景から、大体の実力は俺でも察せたが。
アルコル家の騎士なんかはもう戦闘民族だ。
マジ頭中世。
それ以上ということは選りすぐりのバトルエリートである。
最近はアルデバランもそれに加わり猛烈に戦い続けた結果、あの齢にして兵士たちに遜色ない戦闘力を得たようだ。
教育にひたすら悪くない?
兵士たちも遠慮しないで、もうガチで半殺しに行っているし。
幼いころから人体破壊に慣れた結果、あの力を得たのだと我らが武官長は妄言を吐いている。
体育会系どころか蛮族過ぎて俺にはもうついていけない。
気合い足り過ぎてて暑苦しい。
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!
ズガガガガガガガガガガガッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!
「やぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
「――――――――――ハァッッッ!」
彼女らの挙動は激しさを増し、完全に戦闘にのめりこんでいる。
二人の目には凛とした強い力があり、戦意をますます滾らせている。
魔法を使っていないとは、にわかに信じられない。
まるで生物兵器だぁ……
「――――――そこまで!!!勝者ルッコラ!!!」
「えぇぇぇぇぇーーーーーっっっ!?!?!?あと少しで勝てたのにぃー――――!?!?!?」
「………ハァ………フゥ…………クッ…………」
審判を務めるダーヴィトの張り上げた一声で、拍子抜けするほど呆気ない幕切れとなった。
収拾がつかなくなることを恐れたからだろうか。
傷だらけのステラは納得いかないようで、ぶすくれながら不平を漏らしている。
対してルッコラは見る限りではダメージはそれほどないようだが、呼吸が荒くかなり疲弊している。
あれだけ超速で動き回ってたからな。
最後の方は目に見えて速度が衰えていた。
素人目に見ても、無茶な軌道があったのが散見されたしな。
ステラの力で一撃もらえば、それすなわち死だろう。
だからこそあれだけの運動をしていたのだ。
てかステラなんで疲れてなさそうなんだよ?
スタミナ化け物だろ。
ダーヴィトと戦ってたばかりじゃん?
ポテンシャル底なしかよ。
「未熟の身にしてはいい判断だった!!!なかなかどうして筋がいい!!!将来が楽しみじゃい!!!がはははははは!!!!!」
すこぶる上機嫌でこの筋肉爺は。二人の少女の戦いぶりを評した。
勝敗はどうあれ、双方護衛として申し分ない実力だ。
もしあのまま戦い続ければ、どちらが勝ったかは神のみぞ知る。
彼の喜びようも伺えるというもの。
俺はステラと初めて訓練した時のことに思いを馳せ、才能の差にげんなりとしながら彼女たちの治療へと足を進めていった。
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