第96話 「火花散る女たち」
一時間後、俺は地に沈んでいた。
全戦全敗。
まるで相手にならない。
気配察知スキルによってダーヴィトの攻撃を事前に察知したところで、体が追い付かない。
根本的に身体能力が足らない。
ある程度狭いフィールドで魔法なしで戦えばこうなる。
わかりきっていたことだ。
近距離戦闘スキル尽く雑魚だし、反射神経も雑魚。
勝てる道理が見当たらない。これは鍛錬だけど。
距離によっては全戦全勝確実なのに……
魔法さえ使えればよぉ……!
ステラはもう復活して、修行を続けている。
驚嘆すべき生命力だ。
俺とは生まれついてのもので差がついている。
一方、撃沈した俺はサルビアの膝枕の上でぐったりしている。
もう動けない。剣握れない。
彼女は水に湿らせようとタオルを桶の中に納め、いつも通りの静かな口調で甲斐甲斐しく俺の世話をする。
頑張るといつもより優しくしてくれる。
これがないと苦しいだけの修行なんぞ、やってらんねーよ。
「坊ちゃま。お体を拭きますよ。その前に水分補給を」
「…………ゴク…………ゴク…………さんきゅ……」
「ルッコラ。使ったタオルは戻してきなさい。場所は前に教えた洗濯場へ」
「…………」
「……返事くらいなさい」
サルビアの底冷えのする声が、頭上で鳴り響く。
慄いた俺は喉を鳴らして水を飲んでいた口を止める。
サルビアの目元は、膝枕されている俺からは角度的に見えない。
だがその視線は、タオルをもって傍に立っているルッコラに向けられている。
しばらくルッコラは無言でいたが、ようやくその口を開いた。
しかし…………
「私は戦士。このような雑務をすることなどありえない」
「お黙りなさい。まだ理解できていないのかもしれないけれど、お前は今奴隷なのよ。分際を弁えなさい」
「……………」
ルッコラの琥珀色の目に視線を向けると、その瞳孔が開いている。
またサルビアが怒る時の冷え切った語調から、その怒気が推察できる。
一種即発の空気が流れる。
俺はとても割って入ることなどできない。
横を見れば、ステラが今まで見たことないくらい青ざめた顔で絶句している。
だめだ。使い物にならない。
ダーヴィトは何事もないかのように立派な髭を撫でながら、こちらを見ている。
そうだ。忙しさからか一緒にいるところをほぼ見たことがないが、こいつはサルビアの父親。
ダメメイドには何も期待してないが、ダーヴィトお前娘のことなんだから何とかしろや!?
いつも頼りにしているこの武官長に俺は必死で目配せすると、この男は気づいたのかウィンクしてきた。
ダーヴィト…………!信じてたぞ…………!
「ふむ……………?それなら使えるかどうか戦ってみると確かめるとしましょうや。弱いならメイドとして働く。強いならアルタイル坊ちゃんの護衛の真似事をする。ルッコラといったかのぉ?それでいいな」
「かまわない。誰が相手だろうと私は勝利する。優れた戦士であることを証明する」
「言うたな。それじゃステラ。この娘と戦え」
「…………………えっっっっっ!?わたしぃっっっっっ!?!?!?」
ようやく再起動したステラは、調子っぱずれな間の抜けた声を上げる。
ダーヴィトは呆れ果てた様子でぼやきながら、再度指名する。
「お前に決まっとるじゃろ。小娘同士でやれ」
「えぇ……………まぁいいけど!頑張っちゃうぞぉ~~~!!!」
「装備を用意させる。各々希望の武具を告げよ―――――――」
少し時がたち武装を調達してくると、各自選定する。
ルッコラは装備を点検して身に着けると、感触を確かめている。
鉄製の手甲・脛当身を固めたその姿は、確かな風格があった。
獣人のバトルスタイルは知らない。
だが、なれば?小説のセオリーからして近接戦闘がおそらく主体だろう。
先の戦いと武具が変わらないステラは暇を持て余しているのか、何気なく振るった素振りで風を切ると大気が吹き荒れる。
物理で風魔法かよ。どうなってやがる?
それを見たルッコラの目は細まり、背筋を伸ばして臨戦態勢を整えた。
太刀筋だけでその戦闘力を読み取り、警戒度を上げたのだろう。
そりゃそうだ。
あんなの当たったら、刃引きしてあっても死にかねない。
「かかってきなさーー―――い!!!!!生意気な子にはお仕置きしてやらないとね!!!」
「……………」
ステラも感じ取るものがあるようで、真剣に武器を構えた。
立ち合いの際の独特の緊張感が立ち込める。
ダーヴィトが二人の少女の間に立ち、小さく咳払いをする。
空気が張り詰め、しんと静まり返る。
二人の少女は地面を踏みしめ前傾姿勢をとり、いつでも飛び出せる状態となる。
「―――――――それでは………………はじめっっっっっ!!!!!!!!!!」
空間によく通るダーヴィトの合図とともに、二人は駆けだす。
訓練場の中央部において、両者は激突した――――――――――
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