第93話 「サイコエルフに売られた贄」
俺はチューベローズと二人でお爺様の執務室に呼び出されていた。
父上たちはというと、ブロンザルト子爵寮へと援軍だ。
ノジシャの実家。つまり俺の叔父からの救援要請が届き、すぐさま出兵することとなった。
こんなタイミングで俺は単独でお爺様に対することとなる。
今回はヤンもいない。
エルフの奴隷がいるということで、情報収集の必要から外へ調査に出ている。
つまり俺は孤軍奮闘を強いられている。
援軍を期待するべくもないと悲嘆にくれながら、俺の隣に視線を向ける。
チューベローズは傲岸不遜にも足を組んでどっかりと椅子に座り、退屈そうにしている。
誰のおかげで今も生きていられると思ってやがる?この耳が長いだけのカスは?
「――――――――というわけで、このチューベローズが私の奴隷となりました。以上です」
「……………」
説明の間ずっとお爺様は無言でチューベローズを、そして俺を睥睨する。
俺は目を合わせた途端、目を伏せる。
心なしか通常の数倍ものプレッシャーを感じる。
絶対怒ってるよ。
圧がすごいもん。
絶え間ない恐怖が俺を苛み、立つことすら必死である。
これまでにないくらい心を引き締めて、この迫力がある老人へと向き続ける。
そしてお爺様は重々しくその口を開いた。
俺の喉は生唾をゴクリと嚥下する。
「事情はなんにせよ。そのエルフ殿と話をする」
「は。ご随意に」
とりあえずは第一関門突破だ。
あとはこいつとの話に集中してもらい、俺は退出できれば一番だが。
だがこのレイシストエルフはまともに会話できるのか……?
横にいるチューベローズは、真新しい仕立てのいい服を着ている。
だがそれはあまりにも服というには、頼りない造形に過ぎた。
ほとんど紐みたいな作りで下乳部分が露出し、背中とへそと脇が丸見えだ。
惜しげもなく晒される、パイずり穴に目が吸い込まれてしまう。
中身は糞なのに、見た目だけは極上だから俺は思わずじっくり見惚れてしまう。
それに気づいたのかこの人間虐待エルフは俺に見せつけるように、足を大きく広げて組み替える。
こいつまさか………………履いて………………!?
俺が目を見開いてそれを見ていると、エルフは満足そうに口角を歪めてせせら笑う。
俺を捕食してやろうとばかりの残忍な笑みだ。
今までの言動からして、間違いなく残虐な悪意があると思う。
そうしているとお爺様がエルフ語でチューベローズに話しかけた。
めちゃくちゃ流暢だ。
父上の言葉は疑ってはいなかったが、驚きが勝る。
衝撃から俺は絶句して、それを聞くがままにして立つ。
お爺様は普段とは全く違う態度で、チューベローズに話しかけていた。
『これはこれはエルフ殿。このような田舎でお目にかかるなど、光栄の至りですぞ。できる限りの歓待を致します故、どうぞご自分の家と思ってお寛ぎくだされ』
『フン。死にかけの老いぼれ。礼を尽くすなら言葉を交わしてやってもいい』
『おお。なんという温情でしょう。ご厚情痛み入ります』
好々爺然として、人好きのする笑みを浮かべてこのクソエルフと話すお爺様に俺は呆然とする。
いつ見ても信じられない。
貴人を前に外交をするときに、ごく稀に見せるこの仮面が俺は理解を拒む。
誰……?まるで孫に優しそうなお爺ちゃんだよね?
こんな無礼を受けてなお泰然自若としているなんて、感情の制御が凄まじいな。
『しかしエルフ殿はどのような経緯で王国へ?』
『貴様が知る必要はない。だが霊的に劣った貴様らであろうと、この私は慈悲深くも悪いようにはせん。あることを飲んでもらうがな』
『ふむ……拝聴いたしましょうか』
お爺様は落ち着き払ってチューベローズの要求を聞く。
こいつと意思疎通が成り立つなんて、驚天動地のことだ。
お爺様ならこのカスを御しきれるのかも。
俺はこいつの対応をお爺様に一任できることを期待し、推移を見守る。
しかし何を要求するつもりだよこのカスは……
どうせ碌なものじゃないんだろう?
『この便所生物ちゃんを私の肉便器にさせろ。それが条件だ』
『…………』
チューベローズは俺に指をさすと訳の分からないことを言って、俺の思考が理解を拒む。
お爺様は俺を冷酷な目つきで一瞬見つめるが、すぐに視線を戻してすぐさまその詳細を聞く。
『肉便器とは?』
『物わかりの悪い低能が。この最優等種族エルフ様の性処理係に任命してやろうと言うことだ♡心配するな。体は傷つけない。体は、なぁ…………♡』
キモ耳長はニチャア…………と笑うと、禍々しい言動で意味深な発言をした。
気色の悪さが極まり、小動物のように身震いしながら怯えて体が自然と縮こまる。
お爺様はなんといって断るのだろうか?
本当に頼りにしている。流石に俺の高い価値から譲歩するにしてもひどいことにはならないと思うが……
返答次第では此奴の機嫌を損ねることになるが、この交渉の行く末は果たして……
『このような盆暗でよければ、お好きにどうぞ貪ってくだされ。使い物にさえなれば、何をなさっていただいても構いませぬ。その代わりといっては何ですが、このアルタイルを外敵から守護してくだされば幸甚です。アルタイルがこのアルコル家で利益を追求できるように尽力願いたく』
『そうか♡毛無し猿の考えそうなことだが、その中では殊勝なクソ人間だ。いいだろう。貴様らを根絶やしにするのは最後にしてやる。本来摂理に反することなのだから、ありがたく思うのだぞ』
『まこと、望外の喜びにございます』
え?なんだって?
俺は難聴系になった覚えはないんだが?
今、変な打算的発言が聞こえたような気がするんだけど。
あれあれ?俺は頭がおかしくなったのかな?
いやそんなはずはない。こいつらの頭がおかしいんだ。そうに違いない。
……………え?なんでずっと黙ったままなの?
交渉にけりがついたみたいな感じ出さないで?
ここにきてようやく俺は理解した。してしまった。
俺は、売られた。
「じ…………!ジジイ―――――!?!?!?孫を売るなーーーーー!!!!?!!!!!!」
「早速好きにさせてもらおうか♡残念だったね劣等生物ちゃん♡家族にも売られちゃったね♡」
「え??????????」
むんずと俺の襟首をつかみ、最低エルフがニチャアとした顔で俺の体を撫でまわしながら小脇に抱えた。
俺は助けを求めるようにクソジジイを見るが、すでに興味を失ったように座椅子に腰かけて執務に戻っていた。
意味不明すぎて、俺は顔に疑問符しか浮かんでいない。
なんだこの展開?
信じられない。ひどく気分が悪くなり眩暈がする。
とんでもない悪夢。
許されぬ大罪。
『はい子バカブタちゃん出荷~♡屠殺ギリギリまで追いつめてあげるね♡実践は初めてだから、我慢できなくなって手が滑ったらごめんね♡』
『ふざけるなぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?誰かこの異常者の暴挙を止めろぉぉぉぉぉ!!!!!俺は英雄様だぞぉぉぉぉぉx!!!!!』
ひょいと軽く俺を持ち上げて、お爺様の執務室から退室するチューベローズ。
だがここはお爺様の執務室につながる廊下。
誰も近づこうとしない場所であり、悲痛な叫びは虚しく響き渡る。
抗えぬ力の差に俺はまともな抵抗すら叶わない。
なんなんだこいつ!?細身なのに力強すぎだろふざけんなよ!?!?!?
至上の造形美である唇は嗜虐心を誇示しようとするかのように、薄桃色の半月状に歪んで艶めく。
そこにはどす黒い低俗な欲望が見え隠れしている。
このままではまずいことになる。直感的にそう思うや否や行動する。
生々しい死の予感から全力で叫び、抵抗を図る。
『いうこと聞かないならお仕置きはちょーーーーーっと厳しくしちゃおっかな♡どうなっちゃうか楽しみだね♡もう人権バイバイかな♡』
「放しやがれぇぇぇぇぇこの世界の救世主様を解放しろぉぉぉぉぉ惨たらしい死の間際に後悔することになるぞぉぉぉぉぉ」
キチガイエルフの耳元に向かって絶叫すると、信じられないことにこいつは興奮と共に俺の首を甘噛みしてきた。
思わぬ不意打ちに、俺の喉からヒュッと息が引き攣った音がした。
一向に喉仏など出てくる気配のない細い首筋を、旨そうにチロチロと嘗め回してくる。
悍ましさから俺は涙が溢れてきて、自分の意志とは無関係に水滴が頬を幾筋も伝う。
エルフはそれに気づくと豪速で音を立てて、俺の体の水分を吸いつくす勢いで口元に運んでいる。
逃れられる望みは絶え、味方のいない俺は絶望に染まり脱力してしまう。
計り知れないキモさに俺は卒倒しそうになる。
不愉快極まりない。品性をかなぐり捨てた女だ。
エルフってもしかしてみんなこんなのなの???絶滅させない??????
『ンジュルジュルジュルジュル!!!!!!!!!!ピーピー私好みに泣き喚きやがって♡殺してやるからなゴラ♡デスアクメキメて死ね♡』
「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?やだやだやだやだやだやだーーーーーーーーーー!?!?!?!?!?誰か助けて助けて助けて!!!!!!!!!!」
『助けは来ないよおバカちゃん♡ちっちゃなお顔のちっさい脳じゃわからないね♡もう取り返しがつかないんだよ♡悲鳴にのたうち回って死ね♡』
死に物狂いでじたばたと暴れまわる俺の首を、サイコパスはギリギリと締めた。
俺の意識は失われていく。
成すすべなく力なく、口の端から失神するときに出る唾液が流れ出る。
邪悪な存在すぎる。間違いなく世界の汚染源の主力を張っているだろう。
『ほ~らキュッ♡しゅっぱ~~~つ♡よかったね矮小生命体ちゃん♡被虐の喜びを知ってしまったら終わりの合図だよ♡本来の姿に覚醒だ♡』
「…………ぁ………カハッ………ぅ……ぁ……」
チューベローズの極悪人染みた哄笑が遠ざかっていく。
だがこれは地獄への始まりに過ぎないのだろう。
どうしてこんなにひどいことができるんだ。
同じ世界に暮らす俺達は、手を取り合って生きていけるはずなのに。
差別なんていけない。
復讐の連鎖を産むだけなんだ。
今こそ憎しみと怨念、偏見を捨て、霊的に生まれ変わるときが来たのだ。
それを伝える前に俺の意識は闇に沈んでしまった。
おお、神よ。罪深き者の魂をお救い、いやお裁きください。
こんなクソエルフがこれからずっと共にいることになる。
呪いの装備みたいなの、手に入れちゃった――――――――
己の無力という罪を嘆きながら、自我は防衛機制から失われていったのだった――――――――
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