第91話 「はしゃぐ子供たち」
アンクレット。
アゲナの商店で選んだ、金細工の小さな宝石がちりばめられたものである。
大分脆く見えるが、こう見えて魔道具なのだ。
頑丈であり、足首を保護してくれるという。
ちなみにこれを彼女に選んだ理由は、ガキの頃にノジシャのおみ足に怪我をさせてしまったことからきている。
アゲナの店で見つけた時に、これはノジシャにとピンと来たのだ。
本人には絶対言わないが。
流石にそのぐらいの空気は読めるぞ。ステラじゃあるまいし。
「ありがとうアルタイル。頑張って選んでくれたのね。嬉しい。ずっと大事にするわ」
「……………本当?」
「えぇ!嘘なんてつかないわ。いい子ね」
「………はわぁ♡」
花が咲いたように笑うノジシャ。
さしずめ俺はその蜜に誘引される、蝶といったところか。
やれやれ。美しいもの同士が惹かれ合ってしまうのは世の定めということだぜ。やれやれ。
「――――――――ノジシャお姉ちゃん~~~♡ちゅきちゅきちゅきちゅきぃ~~~♡」
「わっっっ!?……甘えん坊が抜けないわね全く」
「だって要らないって言われるの怖かったんだも~~~ん!!!」
「そんなこと言わないわよ。アルタイルのことが大好きなんだから」
「ホントぉ?」
「本当よ」
「…………ぁ♡♡♡もぉ嬉しくにゃりしゅぎりゅ~~~♡ぎゅぎゅぎゅ~~~♡♡♡」
不安と恐怖心から解放されると、どっと安心感とが押し寄せノジシャに縋り付くように抱き着く。
彼女は俺の頭を撫でて、柔和な笑みを浮かべた。
好き好き大好きって気持ちが止まらなくて、苦しいよ♡
君といないと抑えられない♪
だってだって好きなんだもん♡
「…………もう…………みんなに赤ちゃんだと思われるわよ?後で話は聞いてあげるから…………ね?ほらみんな見てるから……」
「いいも~~~ん♡赤ちゃんになっちゃう~~~♡………………へ?」
ノジシャの言葉にぴしりと体が固まる。
思い出した。
今ここは玄関口。
衆人環視の下である。使用人も出迎えのために勢ぞろいしている。
俺はおずおずと頭を上げて周りを見回すと、みんなの視線が俺に収束していることに気が付く。
アルデバランだけだ。キョトンとしているのは。
背筋が凍る。
心を引き締めて、一つ咳払い。
場を改める。
「んん゛っ!!!!!…………さて、ガキどもにもプレゼントがある。全員分買ってきたからな」
「本当ですか!?わーーーーーい!!!!!」
アルデバランは無邪気に目を輝かす
はちきれんばかりの笑顔が眩しい。
っっっぶねぇーーー!!!!!おっけおっけ!よーーーしよしよしよしセーーーーーフ。
みっともない男だと思われるところだったぜ。らっきー☆
今ちょうど、父上が女性陣に大きな声をかけて談笑に興じたところだし、使用人たちも顔を伏せている。
ふぅ…………危ないところだったな。
俺の周りには子供たちだけがいる。
ガキにくらい見られてもいいか。俺は器がデカいんだ。
そこに空気を読まないステラがずかずかとやってきて、傲慢にも土産の催促をしてくる。
こいつマジで……
他の家なら主人の会話にいきなり首突っ込んだら、クビじゃすまないぞ?
この家のガキどもは年齢の割に器が広いし、ステラと実の兄弟の様に育ったからなんとなく許されている。
それでもたかが一メイドの分際を弁えないで振る舞うとか、奉仕者としての節度を忘れるべきではないからな?
「はぁ……本当にお姉ちゃん離れできないダメダメ赤ちゃんだねぇ。ほら?次はステラお姉ちゃんに甘えるの?ふふん♪仕方ないなぁ!!!!!」
「はぁ?ガキが。舐めてるとお土産はお預けにするぞ?勘違いも甚だしいんだよマヌケ。そもそもお前お留守番ちゃんとできたのか?この前みたいに花瓶割ったんじゃないのか?お土産以前にお仕置きを受けたくないなら、さっさと無様な不始末を白状した方が身のためだぞボケが」
「ば……………バカにしやがって――――――!!!!!!!!!!」
ステラは俺に猿のように跳びかかり、馬乗りになる。
突然の凶行に、俺は意表を突かれて倒れこむ。
こいつの奇行に比べれば大概のことは驚くに値しないが、今のこの乱行は群を抜いている。
マジでこいつ主人の目の前で嫡子に襲撃かますとか、頭が湧いているんじゃないのか?
衝撃的すぎる。腹立つわぁ……
己の物わかりの悪すぎる能無しぶりを受け容れて改心して?
「正気かバカガキがぁぁぁぁぁ恥を知れぇぇぇぇぇぇ」
「生き恥そのものが言うんじゃないよ!!!!!今日という今日こそは、その禄でもない性根ごとねじ伏せて真人間にしてやるから覚悟するんだね!!!!!!」
こいつは俺の頬を両手で引き延ばし、抵抗する俺はステラの胸を押して突飛ばそうとするが、全く動かない。こいつ巌か?
俺は諦めと共に手の平の柔らかい感触を、気絶するまで楽しむかと考えていたその時――――――――
「――――――――おやめなさい」
たった一言で俺たちの動きは静止する。
背筋を冷たいものがはい上り、直ちに二人揃って直立する。
サルビアが目を見開いてステラの襟首をつかみ、目元を近づけてきて俺たちを覗き込む。
俺たちは激しく頭を縦に振り、無言で従う。
彼女は優雅に一礼して、すぐに持ち場へと引き下がる。
ステラは青ざめて歯を鳴らしている。
ざまぁみやがれと内心思うが、表面にはおくびにも出さない。
そんなことをすれば、後程厳しい折檻が来ることは目に見えている。
賢明な俺は何事もなかったかのように、プレゼントの贈呈を続ける。
プレゼントを手に取ってアルデバランへと向くと、遊び道具を目の前にした子犬の様に目をキラキラさせて待ち望んでいた。
近くにいるノジシャを見ると、白けた目を俺とステラに向けていた。
カレンデュラも曖昧な笑みで俺の斜め下を見つめている。
俺は居た堪れなくなり一瞬で目を逸らし、気を取り直してアルデバランへと声をかける。
「アルデバラン。お前にはこれだ」
「これは…………!僕が欲しがっていた最高級砥石だーーーーー!!!!!!!!!!うわぁーーーーー!!!嬉しいーーーーー!!!ありがとうございますっっっ!!!兄様っっっっっ!!!!!」
「ははは。いい子にしていたご褒美だ。大事に使え」
「はいっっっ!!!!!やったーーーーー!!!!!早速剣を研いできます!!!!!いっくぞーーーーー!!!!!」
「こら!アルデバラン!お兄様に失礼…………あぁもう……」
カレンデュラの制止も聞かずに、アルデバランは豪速で風の如く走り去っていった。
俺は虚を突かれ、それを成すが儘にしてしまった。
だが喜んでもらえたようだ。
まぁいいか。
カレンデュラは頬に手を添え、ため息をつく。
アルデバランに代わり俺に謝罪をする。
しっかりしているな。
「申し訳ございません。お兄様。アルデバランには後でよく言って聞かせますので……」
「なに、かまわないさ。あそこまで喜んでもらえて、冥利に尽きるというもの」
「お兄様はお優しいです!!!流石です!!!」
「ハーーーッハッハッハ!!!!!そうでもある!!!!!お前にもプレゼントがあるぞ!!!」
「嬉しいです!!!」
カレンデュラは満面の笑みで感謝を告げてきた。
期待が高まっていることが容易に見て取れ、今か今かと己へのプレゼントを待ち構えている。
こいつもませているガキだが、まだまだ子供だな。
可愛いところもあるやつだ。
俺はもったいつけて、ゆっくりと口上を述べる。
そして彼女へとあるものを差し出した。
「カレンデュラ。お前には――――――――」
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