第90話 「家族が喜ぶプレゼント」
「ただいま帰りました!」
「戻ったよ!みんないい子にしていたかい?」
「父上!兄様!お帰りなさい!!!」
「お帰りなさいませ!お役目ご苦労にございます!」
「おう!久しぶりだな。帰ったぞ」
王都から帰宅すると、待ちきれないという風に俺たちを出迎えるアルデバランとカレンデュラ。
弟と妹は綻んだ顔で、俺たちの無事を労わる。
俺が片手をあげて答えると、安心したように朗らかに笑う子供たち。
帰ってきたことを実感する。
「うん!二人ともいい子で留守番していたかな?」
「はい!もちろんです!」
「お父様!私はお勉強頑張っていました!えっと――――」
父上は久しく会っていなかった弟たちを両手で抱きしめ、二人の積もる話を聞いている。
これくらいの子供には、俺たちのいない時間は非常に長い時間のように思えただろう。
「アルタイルさん。ご苦労様です」
「長旅でお疲れのことと思います。ゆっくりとお休みになってくださいね」
「王都では気が休まらなかったでしょう。早く帰ってきてくれて、嬉しく思いますわ」
「ありがとうございます。お婆様。御義母上。叔母上」
親身に俺の無事を喜ぶ、女家族3人だ。
ありがたいことに、エルメントラウト叔母上も俺を出迎えて労をねぎらってくれる。
最近はギーゼラ御義母上も妙に親身だ。
以前までは目に見えて距離があった彼女と、関係性を縮めることができた。
悪いことではないと思うが……
しかしアルデバランに対しては、俺よりも明らかに冷淡だ。
彼女の良心を信じたいのだが、これは……
「実はお三方に王都で土産物を見繕ってまいりました。後でメイドに運ばせます。気に入って頂ければ何よりです」
「まぁ。ありがとうございます。初孫からの、お土産なんて素敵だわ」
「素敵なことですわ!女性への心遣いができていて、もう既に素晴らしい紳士ですわね」
「えぇ本当に。嬉しいですわアルタイルさん。大事にいたします。私からも何かお礼を差し上げたいわ……」
「喜んでいただけたようで、これ以上のことはありません。御義母上、お気になさらず。そのお言葉だけで十分です」
甘ったるい声で俺に礼を告げる御義母上は、本心から嬉しく思っているようで俺に顔を近づけて返礼を打診してくる。
俺はドギマギしているが、衆目の中であるので心を固く保ち応対する。
「まぁ!そんなこと言わずに……なんでもお願いしてくださっていいのよ……?……そう……なんでも…………」
「いえ。御義母上には日頃、大変お世話になっております故。これはそれのほんのお返しだと思って頂ければ」
「あら……?そうですか。本当にできた息子を持ちましたわ……あなたの真心が伝わってきます……」
御義母上はゆっくりと俺に語り掛ける。
艶やかな吐息交じりのセクシーな色香に、ぐらつくものがあるが耐え忍ぶ。
「お土産いいなぁ!よかったですね!お婆様!御義母上!叔母上!」
「中身はなんでしょうね?とても楽しみですね」
「甥っ子からお土産だなんて、なんて嬉しいことでしょうか!」
「…………えぇ。まことに……」
アルデバランの一声で、俺と御義母上は我に返る。
一方で御義母上は扇子で口元を覆い隠し、俺への対応とは打って変わってけんもほろろにあしらう。
よそよそしい態度に気が付かないのか、アルデバランはお婆様たちと話し込もうとする。
何とも健気でいじましいことだろうか。
アルデバランは母の顔を全く知らない。
哀れな子だ。
知らぬ母の面影を求めようと、ギーゼラ御義母上と距離を詰めようと頑張っているのか?
それとも単に良い関係性を気づこうとしているのか?
どちらにしたところで、涙を禁じ得ない。
アルデバランの内心は俺には知ることはできないし、そんなことは聞けないだろう。
父上もこれについては何も言うことはなく、息子の成すがままにさせている。
それもそうだ。
お前の義理の母親はお前を愛していないなどと、どの口で吐けるだろうか。
俺はそれを止めようと、努めて明るい口調で注目を集める。
ある理由から後程それぞれに渡そうと思っていたが、計画変更だ。
たとえ俺が恥をかくことになっても、可愛い弟の寂しそうな姿は見たくない。
ちらりと父上を見ると、弟たちをあやしながら俺を見ていた。
それを俺は気づかないふりで、手を強く二回鳴らした。
「さて!!!お前たち聞いてくれ!マックス!俺が用意したあれを持ってきてくれ!!!」
「了解っす!只今!」
マックスが急いで荷物を漁りに行く。
プレゼントが来るまで、何とか時間稼ぎだ。
ハードなミッションだが、俺は今まであらゆるハードルを乗り越えてきた。
大丈夫。やれるはず。
「なんでしょうねぇアルデバランさん?」
「わかりませんが楽しみです!!!ね!御義母う……」
「――――――――アルデバラン!!!お前がきっと喜ぶものだ!!!ちょーーーっと待っていてくれよな!!!!!」
「……………?はい!兄様!!!」
お婆様の言葉に快活に返事をしたアルデバランには、何が起きるのかと今か今かと待ちきれない様子である。
あっぶねぇ!?!?!?御義母上に話ふられるとこだったよ!?!?!?
油断も隙もありゃしねぇ!!!
つーかお婆様は、他所他所しい御義母上に全く何も言わないのな?
まぁ女同士の関係性はよくわからないし、距離感大事なのはわかるけどさぁ
この人もどことなく内心を悟らせず、行動がわからない。
年長者として家族の間を取り持ってほしいものだが、性格的にも期待できないだろうな。
割り切れないものもあるが、仕方ないか……
ずっとおとなしくしているノジシャが気になり視線を向けると、それを黙って見ていた。
よくよく観察すると、その眉は少し垂れさがっている。
気づかわしげに俺とアルデバラン、そしてギーゼラ御義母上を交互に目線を送っていた。
おそらく彼女はアルコル家の微妙な関係性を、滞在中に悟ったのだろう。
いらない気を揉ませたようだ。
身内の恥をさらすようで気が咎める。
御義母上も最低限でいいから、愛想を出していただければいいものを。
栓無き事か。
俺はそう考えると、意を決して彼女に声をかけた。
「えっと…………ノジシャ……?」
「……どうしたの?ゆっくり話せばいいのよ?」
俺から戸惑いがちに出された自分への言葉に、意外そうに声が若干裏返っているノジシャ。
このタイミングで自分に言葉がかけられるとは思わなかったのだろう。
真っ先にノジシャに声かけたのは、決してガキどもから無邪気な言葉の刃で切り裂かれるのが怖かったからではない。
ノジシャなら俺が間違ったとしても、優しく諭してしてくれるからだ。
「…………あの…………お土産買ってきたんだけど」
「お土産?私に?」
「うん………頑張って選んだんだけど……喜んでくれたらって………えっとこれなんだけど…………」
おずおずとマックスから受け取った小包を、ノジシャに差し出す。
それを目を丸くしてみていたノジシャは、一拍置いてそれを手に取る。
ハラハラする。
早く何か言ってくれ。
こういう時間は早く過ぎ去ってほしい。
「空けてもいい?」
「うん。嫌なら捨ててくれていいから……」
そう言ったが既に紐解かれ、彼女はその内容を垣間見る。
どうなるか――――――――
「――――――――まぁ!」
弾んだ声でそれを見つめるノジシャ。
その手にあったものは――――――――
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