第87話 「ディースターヴェーク商会」
フリチラリアが店内に入ってある人物を見つけると、快活に挨拶をする。
その人物は手荷物を降ろすと振り返り、柔和に微笑んで言葉を返した。
彼自身のパーソナルカラーに寄せたのであろう、えんじ色を基調としたバーテンダーのようなベストに蝶タイ、黒シャツ。
シックに身だしなみを整えた、鮮やかな赤紫髪の美男子がその姿を現した。
はぁ~~~もうウザい。
イケメンへの抵抗感と劣等感と拒絶心が高まってきた。
フリチラリアとのほのぼの空気が一瞬で霧散した。
BGMは完全にほわほわしたラブソングから、昼ドラの殺伐シーンのモノへと転調したな。
「いらっしゃい。買い物かな?」
「はい!今日はこの方が王都ならではのお土産を選びに来ました!」
「そうかい…………ディースターヴェーク商会へようこそいらっしゃいませ。お客様、ご用件を伺っても?」
「土産を選びに来た。色々見たい。何を買いたいとかはまだ決めていないんだけどな」
アゲナという優男は俺に目を滑らせると、手慣れた口ぶりで来客応対する。
様になっている凛とした仕草で、笑みを添えて少し頭を下げた。
イケメンは絵になるな。死んでくれ。
「そうでしたか。差し支えなければご提案などを致しますが、いかがなさいますか?」
「頼みたい」
「承知いたしました。それではいくつかお尋ねしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「いいぞ。ちなみに家族に送る品だ」
「ありがとうございます。お客様のご家族の詳しい体格や年齢、趣向、性格などをわかる限りでお話しくだされば幸いです」
「体形は……ざっくりならわかるけど。ちょっとわからないな」
サイズ感合わないもの送られても困るよな。
のっけから選択肢が狭まってしまった。
これからは親しい奴にはそれとなく聞くべきか。反省点だな。
「ふむ……サイズ感がわからないなら、身に纏う品は選択肢から外しておくのが無難ですね。しかしご用命とあれば、採寸に伺います。どうぞお望みの品をお選び頂ければ」
「そうか。あとは――――」
俺は性格や趣味などを事細かに伝える。判断材料として役に立てばいいのだが。
アゲナは顎先に手をやりながら、思考に沈む。
程なくして一つ頷くと、その胸の内を明かした。
それにフリチラリアが合いの手をすかさず入れる。
「最近の流行りものを中心にご紹介しましょう。王都で話題性があるものなら、流行に敏感な方はすぐさま取り入れたいはずです」
「女性は流行に弱いですからね♪」
「フフ……そういうわけではないのだけれど…………最先端の物なら、考えてプレゼントを選んでくれたのでは。と思ってくれることを期待したまでさ」
「なるほど!流石アゲナさん!女心をよくわかってますね!」
「そんなんじゃないよ。よしてくれ…………さては……揶揄っているね?」
「わかっちゃいましたか♪」
「まったくこの子は……」
アゲナとフリチラリアは親し気に話し込んでいる。
フリチラリアは悪戯がばれると破顔し、アゲナは額に掌を添える。
全くもって絵になる二人だ。殺意湧くね。
会話に混ざれない俺は置いてきぼりになる。
疎外感を感じ肩を縮ませ、すぐ近くにいるのに気配を消して両者を眺める。
糞が糞が糞が糞が糞が!!!!!!!!!!
そんな男に騙されるなフリチラリア!?!?!?
こいつは顔と金と女の扱いが優れているだけの男だろうがっっっ!!!
どうせ女を食い散らかしてポイするだけなんだろうっ!?!?!?
「なーんでこんなカッコよくて仕事もできる人が、彼女さんいたことないんですかねぇ?」
「はは……僕なんか好きって言ってくれる人いないんじゃないかな……」
「そんなことないですよーーー!みんなアゲナさんカッコいいって言ってますもん!」
「うーん……過剰なお世辞はやめてほしいんだけど……」
アゲナは困ったように苦笑する。
フリチラリアは下からその顔を覗き込んで、チャーミングなしたり顔をしている。
所在なさそうなアゲナは頭を掻きながら、顔を赤らめて背けた。
それを見てフリチラリアは勝ち誇り、愛嬌のある得意顔でコロコロと笑う。
なーんだ♪女遊びどころか、女と付き合ったこともないのかよ♪
アゲナっていいやつじゃん!!!!!
自分の能力を笠に着る、気に食わない野郎かと誤解させやがって!
アゲナ…………信じてたからな…………!
「……そんなに見つめないでおくれよ。少し……恥ずかしいからさ……」
「いーーーやです♪照れてるアゲナさん……か~わいっ♪」
「……………参ったな……」
チッ!!!チィッ!!!チィッッッ!!!!!チィィィッッッ!!!!!
チィィィィィッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!
あ゛ぁ゛ーーーーー!!!!!
ウザいんだよ!?!?!?!?!?
…………はぁ?何こいつ……
誰にでも愛想を振りまいてくれるフリチラリアに、ちょっと人懐っこく話しかけられただけで、一人で勝手に舞い上がって鼻の下伸ばしてるんだけど。
うわ……キモ……ロリコンじゃん。
成熟した女を相手にするべき年頃なのに、わざわざ年端もいかない女の子狙うとか……
自分より劣った年下の少女相手に気色悪い助平根性出してるくせに、自尊心ばっかり高くて上から目線だし。
上っ面だけの優しさと流行りものアピールして、女受けする得意分野で俺様気どりしたいだけのミーハーのゴミじゃん……
しかもちょっとフリチラリアに煽てられただけで、何本気にしちゃってるわけ?
ありえないんだけど?カマセキャラだろお前なんてどう見ても。
最悪……フリチラリアが優しいから断れなくて、つけ上がっちゃうよ。
本当はフリチラリアだって迷惑がってるよ?気づかないんだそういうの。
鈍感だからわかってないんだろうなぁ。可哀そうだね。
性根の卑しいお前なんか、フリチラリアに相応しくないんだよ。
もしかしてフリチラリアを自分のモノみたいに思ってるんじゃないの?
調子に乗って、いい気になってるんじゃないよ。
そういうのホントうざいから。
やっぱりフリチラリアは俺が守ってあげないと…………
だって……………フリチラリアは………俺のモノだぞ…………?
「ハハハ………お待たせいたしました……改めましてご来店頂き、誠にありがとうございます。先ほどお話は伺いましたが、王都でご家族へ、王都流行の土産物を購入されたいということでよろしいですか?」
「ああ。気に入ったものがここにあればだが」
「僭越ながら、王都でも屈指の品揃えだと自負しております。選定に関しても、私が全霊をもって助力させていただきます。失礼ですが、ご予算のほどは……?」
予算なんぞ無尽蔵にあるわ。
貴様のちゃっちぃ商店の品すべて買い占められるほどにな。
屈指の品揃えね。
楽しみにしてやるよ。
その言葉に偽りがなければの話だがな?
重箱の隅を突きまくって、その綺麗なお顔を汚ねぇ泣き顔にしてやるからな。
「金に糸目はつけない。金は護衛に持たせている」
「それは喜ばしいことにございます。尚更身を引き締めて、ご協力させて頂きます」
「アゲナさんは本当に目利きがいいんです!女の子の服まで選んでくれるんですから!」
「こ……こら…………えぇと……自分はまだ若輩の身です。ですがこの店を任されるだけの鑑識眼は備えていると自負しております。ご安心頂ければ幸甚です」
「そうか。フリチラリアの言葉通りならいいのだがな」
「大丈夫です!アルタイル様にも絶対大満足していただけますから!」
アゲナは自己主張は低めだが、それでも確かな自信が鮮明と浮き出ている。
フリチラリアもそれに追従し、自らアゲナの能力を保障しようと言葉を紡ぐ。
その彼女が言った言葉に、アゲナは耳聡く聞き返した。
その目はどこか虚ろに見え、何かを押しとどめるような、感情を覆い隠そうとしたかのような。
人間味を感じさせない、能面のような表情をもって。
「アルタイル様……………?」
「あっ!わかっちゃいました!?この方こそ今を時めく英雄アルタイル・アルコル様です!!!」
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