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第85話 「天使な小悪魔」



「――――――――?よぉ坊ちゃん。久しぶりじゃねぇか」



「………………お?シェダル?久しぶりだな」



「あぁ。話は聞いたぜ。大変だったみたいだな。だがデカい勲功を挙げたと聞いている。おめでとうさん」



「おうよ!大変だったんだぞ~?俺も悪戦苦闘の連続だったんだが、類稀なる機転を利かせてどうにかこうにか――――――――」



 久方ぶりの遭遇に、俺たちは積もる話に興じようとする。

 フリチラリアたんは話についていけず、目を白黒させていた。

 しかし自分の理解の及ぶ範囲で、俺たちの関係性を尋ねた。






「――――――――シェダル兄?もしかしてこの子と知り合いなの?」


「ん?なんだお前ら。兄妹なん?」


「いや?近所に住む妹分ってだけだ」


「へぇ。こんなところで会うなんて奇遇だな!!!」


「俺も驚いたぜ。それで何の話だ?」


 同じ髪の色だし美形だし、マジの兄妹かと思ったわ。

 まぁそんなに似てはいないな。早とちりか。


 話と言えば、そうだ。

 シェダルの口から、フリチラリアちゃんに言って聞かせてもらわねば。






「――――――――そうだ!シェダル!お前からも言ってやってくれ!」


「え?何の話?」


「俺が俺であるはーなーしーーー!フリチラリアちゃん全然信じてくれねーんだもん!俺が天下のアルタイル・アルコル様だって!?!?!?」







「え?だってそもそも女の子ですよね?迷子になってる…………それに英雄アルタイル様が……迷子……?」



「どこからどう見ても紛れもなく完全無欠空前絶後の大英雄アルタイル様だろうがぁぁぁぁぁ現実から目を逸らすなぁぁぁぁぁ」



「……………妹分が失礼したな。おい。このお方は正真正銘アルタイル様だ。失礼のないようにな」



 ったく嘆かわしい。思い違いもほどほどにしてくれ。

 一体その自信はどこから来るんだ?


 先入観が激しいやつは、知能が低い傾向にあるらしいぞ?

 愚鈍な人物だと思われたくなければ、臨機応変に的確な判断を心掛けるようにな。


 まぁ仕方あるまい。

 誰もが賢明ではいられないのだ。

 公明正大、博学多才な俺が民草を、正しく導いてやらねばな。

 そうやってこの人心暗黒の世に、智慧の光を啓蒙したい。






「そんな……貴族様とは露知らず…………あの……命だけはご勘弁を……」



「妹分が失礼を致しました……私からも謝罪を」




 フリチラリアちゃんが涙目で可哀そうなくらい動揺しながら、頭をこれ以上ないほど低く下げる。

 シェダルすらそれに倣い、俺に深々と礼をした。


 えっ!?何この空気!?

 気まずっっっ!!!!!

 慌てて彼らに、そんな意図はないことを説明する。




「いやいやいやいや何もしない。無礼打ちとかしない。そんな貴族みたいなことしない。……いや貴族か。貴族だけどしない。俺は英雄アルタイル。天より高く、海より深く慈悲深き男。無辜の民の守護者。誇り高き人格者アルタイル」



「身に余る慈悲を頂き、この上なき喜びにございます……」



「本当にすまなかった。無学な平民のガキだ。貴族様の事なんぞ全然詳しくないから、大目に見てやってほしい」



「もちろんだ。ガキの勘違いに、いちいち目くじら立てねーよ」



 俺が含むことがないと悟ると、シェダルは佇まいを直してフリチラリアちゃんの頭をそっと上げさせた。

 そして俺に先の情報を買い付けた取引の件についても、謝罪を表明する。




「ありがたい。それと前に話した魔道具の噂についても、大したことを話せず、すまなかった。詫びと言ってはなんだが、何か知りたいことがあるなら聞いてくれ」



「そうか?なら遠慮なく……」



 ここで断るのも無粋なので、何が知りたいか考える。

 こいつに聞けることか……


 しかし思い浮かばない。

 こいつに聞くことは、最早なくねぇ?

 知りたいことはあるけど、こいつに聞いてもなぁ。


 情報交換については、ヤンにでも頼むかな?

 こいつと話すことは、色々あるだろう。




 と、なるとだが。当たり障りのない話でも聞くか?

 あんまし変なこと聞いてもな。

 別にデカい貸し作ったわけじゃないし、過大な要求するのも気が咎める。


 ここは冗句を交えて、お茶を濁すかな?

 まじめなこと聞いても、フリチラリアちゃん置いてけぼりだろうし。


 俺は会話に混ざれない苦痛を、よく理解している。

 前世で常に除け者だったことには慣れているが、普通の人はそうじゃないだろう。

 それにフリチラリアちゃんに嫌われたら、口説けなくなるじゃないか……♡






「じゃあ、フリチラリアちゃんのこと。もっと……知りたいな(精一杯のイケボ)」




 俺はキラリと光る歯で、イケメンスマイルをする。

 世界中の女は俺に惚れ、股を開く。完璧だ。


 しかしフリチラリアちゃんは微妙な表情だ。

 どうしてぇ~~~???




 沈黙が降りる。

 仕方ないので、シェダルに話を振る。

 俺たち両方を知るこいつに共通の話題を提供してもらって、間を取り持ってもらうことが目的だ。


 お前イケメンなんだから、場を盛り上げろ。

 イケメンの義務だ。顔面市場原理に基づくイケメン税だ。

 恵まれたものはその恩恵を分け与えることが、世界秩序なんだよ?

 わかってね?約束してね?






「シェダルお前情報ゃ――――ムゴゴッッッ!?」


「(情報屋だという事は言わないでくれ。秘密にしてあるんだ。堅気の連中には、俺は運び屋で通してる。それで情報をもう一つサービスしてやるからさ。それとフリチラリアのことについては、申し訳ないが俺の口からは言えない)」


 シェダルは焦りながら俺の口を押えて、耳元で早口で囁く。

 しかし聞き捨てならない。

 フリチラリアちゃんが話してくれないのだから、シェダルに話を振ったというのに。




「そんな!?物知りなんだから、固いこと言わないで教えてくれよ!」


「いや妹分の個人情報だし、目の前にいるフリチラリアに聞いてくれよ」


 俺はフリチラリアちゃんに向いて、哀願の意図をもって見つめる。

 フリチラリアちゃんはそわそわして言い淀んでいるが、なるべく遠回しに拒否をした。

 



「えと……初対面なので……ごめんなさい」




「えぇっ!?つれないなぁ。仲良し!!!したいのになぁ……」



 極めて言いづらそうに断る意思を見せたフリチラリアちゃんは、俺の機嫌を窺うように上目遣いで恐る恐る見上げてくる。

 そして不安そうに唇を震わせながら、小さく独り言ちた。






「…………やっぱり……私の事……」




 フリチラリアちゃんはこの世の終わりのような深刻な表情で、しおらしくスカートを握り締めて深く俯く。

 その表情は髪に隠れて見えない。

 透き通った美声も、涙声に震わせている。


 え?俺が権力にものを言わせて、手籠めにしてるみたいな口振りじゃないか?

 これじゃ俺が悪者みたいだろ?


 誤解だ。誤解だよ。

 きっと俺を悪徳貴族だと勘違いしているんだ。

 そんなつもりは……あんまりないよぉ…………




「え!?違う違う違う違う違う!?!?!?やましいことじゃない!単純に仲良くなりたいんだって!!!!!」




 フリチラリアちゃんはとうとう、人形のように整った顔を両手で覆い隠す。

 俺は憂苦に肩を震わす女の子を見て、あたふたしてしまう。

 どう誤解を解こうかと苦慮するが、証明する手立てが見つからない。


 シェダルは無言で様子を窺っている。

 フォローしてくれればいいものを、傍観者を気取りやがって。

 旨い汁ばかり吸うイケメンはやっぱり嫌いだ。

 ここぞという時に冷酷に利益を吸い取りに来やがる。


 イケメン許すまじ。

 俺は再び胸に固く誓った。






 俺の狼狽が頂点に達したころ、フリチラリアちゃんは顔を覆う指から目を覗かせる。




 あれ………?……泣いていない………?






「………………えへへ。な~~~んて!!!冗談です♪」



「…………!?びっくりしたぁ!この小悪魔~~~♡♡♡」



「ハハハハハハ!!!坊ちゃんも騙されたか!こいつは本当に冗談が上手くてよぉ!俺も偶にやられるんだわ!」



「まーだドキドキしてる……俺どころかシェダル騙すとか、将来が怖ぇよ!悪女まっしぐらかよ」



「全くだぜ!常々思ってるが、とんでもない猫被りだ」



「もぉ~~~!!!二人してひどいですよ!!!……フフッ♪」



 フリチラリアちゃんは悪戯っぽく舌を出して笑う。

 思わず本気で動揺してしまった。

 大した役者だ。


 ガキのくせに大人を手玉に取りやがって♡

 生意気なメスガキ面して、オスを挑発しやがって♡


 このっ♡このぉっ♡絶対許さないぞ♡

 ちょっと悪戯成功したくらいで増長するメスガキは、ひんひん言うまでお仕置きだ♡

 大人の凄さを教え込んで、その余裕を吹き飛ばしてやる♡

 念入りに心をへし折って、屈服させてやるからな♡フリチラリアぁ……♡




 穏やかな談笑が収まったころ、フリチラリアちゃんはある提案をする。

 冗談に巻き込んだ対価ということをだ。


 揶揄った相手に反感を感じさせない、大したバランス感覚だ。

 この年にしてこいつ人の転がし方が上手いな。






「私にできることがあれば何でも言ってください!……そういえばアルタイル様はいったい何をしにここへ?」



「あぁそうだった。俺はここにきた理由は……」



 俺は何と返事をするか思案する。

 お願い事かぁ。


 その時、脳裏に電流が走る。

 思い浮かんだのだ。

 この少女をヤリチン屑ムーブでラブコールおねだりさせられる、会心の一手を。




 俺は勝利を確信し、自信に胸弾みながら告げた。

 この勝負、貰ったぜ――――――――


 フリチラリアちゃん♡お前はもう敗北確定だよ♡

 俺にラブラブお嫁さん宣言決定だね♡

 今後の人生、俺しか見えなくなっちゃうけど許してね♡


 処世術に長けているとはいえ、世間の厳しさを知らないガキが、悪い男へ不用意に口を滑らせちゃうのが悪いんだよ♡

 その達者なお口の中のよく回るベロ………俺の口で……モグモグ……しちゃうからぁ……………






「――――――――じゃあデートするみたいに案内して♡」









 喜ばしいことに、2022.04.29 日間異世界転生/転移ランキング ファンタジー部門で263位を獲得しました。


 活動報告に画像載せました。


 応援してくださった読者の皆様、誠にありがとうございます。



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 『間が悪いオッサン、追放されまくる。外れ職業自宅警備員とバカにされたが、魔法で自宅を建てて最強に。僕を信じて着いてきてくれた彼女たちのおかげで成功者へ。僕を追放したやつらは皆ヒドイ目に遭いました。』

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― 新着の感想 ―
[良い点] フリチラリアちゃん、情報屋のシェダルさんの知り合いだったんですね。英雄だということを信じてもらえてよかったです。迷子の女の子だと思われていたんですね(*´∇`*)カワー だけどフリチラリ…
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