第82話 「奴隷商からの帰りに」
「えっっっ!?エルフを貰ったぁっっっっっ!?!?!?」
帰った後すぐに俺は奴隷を譲渡されたことについて、詳細を報告した。
契約を終えて満足そうにしていた父上にとっては、青天の霹靂だったのだろう。
誰もが想定しなかった、想定すること自体間違いであろうショッキングな一件だった。
俺も断腸の思いで事実を述べる。
本当にどう対処すればいいのかわからない。
「えっ………?…………ええっ!?…………そんなんある!?!?!?!?!?」
父上は大混乱しすぎて普段の口調が乱れる。
横にいる俺が引っ張って連れてきたエルフの耳を、目を白黒させて見つめている。
それでもまだ信じられないようで、食い入るようにチューベローズを観察している。
情報隠蔽のため馬車に同乗させていたチューベローズは現在厚かましくも、父上の書斎の椅子に勝手に座り込んでいる。
図太く今も横でぐーすか微睡んでいる。
治療終わりたてで病み上がりではあるが、どこまでも癪に障る女だ。
でも怖いから起こさない。
なんだか本能から恐怖の呪縛が俺を蝕むんだ。
記憶を蘇らせようとすると頭が痛くなるし、なんでだろうか?
「まず、このエルフですが……チューベローズといいます。当初は怪我により頭部から判断がつかず、耳がボロボロで人間だと思われていました。助かる見込みすら危うかったから、件の奴隷商に譲られたのです。それを可哀そうだと思った私が、再生魔法によって治しました。その結果がエルフであったと判明した訳でして……」
「そりゃそうだ。エルフなんて普通どんなにお金積んでも買えないからね?私なんて会ったことすらなかった」
「どっかの権力者は捕まえて飼っているとか聞いたことあるけどな。根も葉もない噂だがよぉ」
ヤンが楽し気に合いの手を入れてくる。
父上は眉をひそめながら、無言でこのアルコル家諜報員の言葉を聞くが押し黙っている。
馬鹿ヤンがよ……父上怒ると怖いんだぞ……?
お爺様の息子なだけあるよ。
お前、よくその性格で今まで生きてこられたもんだな。
この封建社会で、とんだアナーキストだよ。
お前なかなか面白いやつだったから、葬式パーティは盛大に催してやるからな。
最高の日になるさ。 祝典と葬式が同時にくるなんて。
「さすが坊ちゃん。俺でも読めないことをしてくれる。楽しいな」
「俺は全然楽しくない」
合いの手を入れてくると思えば、茶々を入れてきた。
ふざけやがって。
お前は、父上に殺してもらいます。
「お前他人事だと思ってさぁ!?!?!?」
マジギレする父上。
恐ろしすぎる。鬼が宿っておる。
病人なら心臓止まりそうだ。
ヤンはニヤついて饅頭……じゃなくて煎餅を取り出す。
好み変わったな。お前。
いろいろ突っ込みどころはあるけど、とりあえずお前諜報員なのにバリボリ音立てておやつ食うんじゃない。
父上は目を剝いて怒気を放っているが、なんとか気を静める。
ホントよくできた大人だ。
貴族の中ではもはや聖人と言っていいと思う。
彼は咳払いをして、話の軌道を戻す。
「んん゛っ!……この件が公知のものとなるのは非常に不味い。外交問題になるぞ……王家にも諸侯にも、我々の痛くない腹を探られかねない……」
父上は頭を抱える。
そうだ。もし表沙汰になれば、あらゆる勢力から嬉々として厳しく追及されるだろう。
バレたら責任誰がとるんだよ?もしかして俺か?
また死亡フラグ積み増しか?
もうそういう展開飽きましたから、やめてほしいです。
……エルフに俺の身柄を要求されるとかあるのか?
チューベローズが俺の体欲しさに、あることないことエルフに吹き込まれたら終わるんじゃね?
このマジキチのご機嫌とらなくちゃなんねーの?
……………………おぉ…………神よ………
「エルフは同族意識が強く、同胞が人間の奴隷になるなど決して許容しないだろう……」
「ならどうする?ここで殺すか?」
父上は悩みを秘めた首を、緩慢と横に振る。
ヤンもその口振りからすると、殺しも乗り気でない模様だ。
同族意識が強いね……聞けば聞くほど状況は悪いように思える。
これ俺のせいなの?
完全に意図しなかった事故なのに。
当初は夢見心地だったが、今となっては悔恨の思いだ。
このクソエルフなんて居ても、百害あって一利なしだし。
「エルフの製造する魔道具は、人間の理解できる範疇を大幅に超えている。音に聞く神代の物と遜色ないほどに優れている。安易な決断はしかねる」
「そうか。俺はお前に従うが…………」
ヤンは珍しく言葉を言い淀む。
抜群の知性を誇るこの両者が思い悩むほど、それだけ物議をかもす事柄なのだ。
もうダメ。降参。
俺に音を上げさせるんだから、解決しようがないよ。
諦めも人生で肝心だ。
前世でこれを学べたのは、一番の収穫かもしれない。
「――――――――このチューベローズ殿に何か情報を聞ければいいのだが……そうだ先代様が確か、エルフ語を喋れたはずだが……」
「あ、なら俺がこいつに直接聞いてみますよ。何を聞きたいので?」
俺の言葉に妙な表情をする二人。
形容し難い雰囲気で、俺の顔をじっと見つめている。
俺、変なこと言ったか…………?
「アルタイル……?……彼女が何を話しているのか……エルフ語がわかるのかい?……」
「え?はい」
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