第79話 「褐色肌にぃ……白いの……あげたいのぉ……」(イラストあり)
現時点で人類最高峰の奇跡に位置する、至上の魔法。
再生魔法を使うと獣人奴隷の少女に淡い光が収束し、患部が超速再生してゆく。
時間が巻き戻っているかのようだ。
ものの数十秒で治癒完了する。
「……ざっとこんなもんかな」
「………………」
意図せずして奴隷商の度肝を抜いてしまったようだ。
口をあんぐりと明け、間抜け面をさらす。
あのとても直視できないほどの怪我が、たちまち治っちまったもんな!
俺がナチュラルすごすぎて、特に何をしたつもりではなかったけど驚かせちまったか?
それにしたってお得な買い物をしたもんだ。
知らなかったといえ勉強代、高くついたな☆
これが駆け引きだ。覚えておくといい……
くぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっっ!!!!!
俺、かっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!
「………………へっ………?」
「他にも奴隷くれるんだろ?ありがとさんってな」
「ヒュー――――ッッッ!!!!!さすが坊ちゃん!!!イケメン!!!天才!!!よっ!!!天下一!!!!!世の女性は全員腰砕け!!!!!一世を風靡する伝説的ヒーロー!!!!!その名はその名はアルタイル様!!!!!!!!!!」
「ガーーーーーハッハッハッハッハッ!!!!!苦しゅうないぞ!!!!!」
やっと意識が再起動した奴隷商は、空気が抜けるような音を口から吐く。
俺はスタイリッシュに決め台詞。
周囲で経緯を見守っていた紳士たちから、感嘆の声が聞こえてくる。
他の檻にいる女奴隷たちも騒然としている。
すかさず出てくるマックスのおだてに、仁王立ちで背を反らして鼻高々になる。
こいつの持ち上げスキルは大したもんだ。
お調子者だが盛り上げ上手で気に入っている。
これからも俺の伝説の証言者となる、栄誉を与えてやろう。
「お腹…………破けてたのに……」
獣人の少女は半身を起き上がらせ、ペタペタと体を触る。
素早く体の異常があるかを確かめつつ、動けるのかを確認している。
その健康的で引き締まっているが、女性の柔らかさを感じさせる腹部を撫でまわして確かめる。
おへそがエッチだ。
小麦色の肌には白いのが似合うと思わないか♡
そのコントラストはよく映える♡
つまり褐色肌ロリ獣人奴隷にホワイトエキスあげることは、オスの明白なる天命だ。
彼女の黄金の眼には困惑と驚き、喜びと疑念。
突然の変化からくる、様々な感情が渦巻いていた。
少しの間をおいて俺を見ると、警戒心深く言い放つ。
なぜ自分を治したのか、何を企んでいるのか、これから自分をどう扱うつもりなのか。
まだこの少女の中では俺の人物像は定かでなく、信用ならないのだろう。
「礼は言うけど……人間に媚びるつもりはない」
「このっ!大恩人の貴族様に向かって何たる無礼だ!!!」
「何。かまわないさ。俺といれば俺の凄さは嫌でもわかる」
「へへへ。ごもっともで…………おい!!!このお方のお慈悲に感謝しろよこのケダモノが!!!」
「…………」
獣人の少女は顔を背けた。
奴隷商は歯ぎしりして苛立ちを募らせる。
そんな空気を払拭しようと、努めて朗らかに歓迎の言葉を投げかける。
今後の友好関係のために。
「それじゃこれからよろしくな!仲良くしようね♡」
「くだらない……人間と慣れ合うつもりもない…………奴隷と主人の関係にあるだけ……」
「この畜生が!?!?!?言わせておけばどこまで愚弄するか!!!申し訳ございません貴族様!!!何分怪我から躾が足りず!!!この奴隷はきつく調教をして忠誠心を植え付けますので、なにとぞご容赦を……!」
「いいっていいって。このままでいいよ」
「ははーーーーーっっっ!!!慈悲深きお言葉に感謝の言葉もございません!!!」
平伏さんばかりに俺の機嫌を損ねまいと頭を下げられる。
顔には汗が夥しいほど伝い、焦燥が色濃く浮かんでいる。
大魔法使いの大貴族の機嫌を損ねたら、何をされるかわからないとでも考えているのだろうな。
そんなことしないが。
「獣人ちゃんは俺に従ってくれるって。なぁ?」
「獣人の誇りにかけて受けた恩義は返すだけ。お前に従う筋合いはない」
「こっっっの生意気がぁぁぁぁぁ!!!!!俺に恥をかかせやがって!!!このお方はいつでもお前なんぞ殺せるんだからな!?首輪がついてるんだ!!!!!」
俺の言葉をすげなく拒絶した奴隷ちゃんに、奴隷商は堪忍袋の緒が切れて唾を飛ばし怒鳴りつける。
その怒りを向けられた瞬間、獣人の少女はどこ吹く風とあらぬ方向へ向く。
「首輪?」
「爆弾っすよ。首元に輪っかがあるでしょう?」
「………………」
すました顔を装っているが、俺の疑問から首輪の話になった途端、獣人の少女はぴたりと体の動きが止まる。
不安げに目を泳がせ、耳が垂れさがっている。
先ほどまでの気丈な態度は嘘のようだ。
「確かに見えるが……そうなのか?」
「へへーーーっ!国王陛下が管理されておられる物です!これをつければ奴隷どもは言うことを聞かざるを得ませんよ!いざとなれば起爆すると脅せばいいんですからね!」
奴隷商は威圧するように大声で話し、獣人の少女にわざと脅威を与える。
彼女を見ると尻尾が丸まり、目線が下を向き続けている。
「安心しろ。そんなことはしない。いたいけな少女に非道なことをしないと誓う」
「え…………?」
俺はそんな獣人の少女を安心させるように、柔らかく笑いかける。
獣人の少女はしおらしく、だが期待が灯った表情で俺を見つめ返す。
俺の鷹揚な態度に心を開いたようだ。
器の広さを示してやるのも、上に立つ者の務めだな。
「悪いことしたらお仕置きとして、可愛い尻尾ちゃん弄繰り回してあげるからね♡猫かわいがりの刑だ♡ンギュフ♡」
「――――――――ッ」
奴隷少女は小さく身を震わせて、犬歯をむき出しにして威嚇してくる。
なんで?
まだ出会ったばかりだし、ちょっと人見知りしてるのかな?
この子の視点からは、まだ怖い人間に囲まれてるからね。可哀そうに。
ここは小粋なトークでリラックスさせてあげなければ。
「そうだ!お前の名前はなんていうんだ?俺はアルタイル。お前のご主人様だ」
「…………ルッコラ」
「そうか。いい名前だね♡よろしくね♡いっぱい仲・良・く!!!してくれると嬉しいな♡」
「…………」
奴隷の少女ルッコラは何を思ったのか、嫌悪感が滲む青ざめた顔を背ける。
あれあれ?
まだ人間への警戒が抜け切れていないのかな?
でも時間をかけて親交を深めて、体を重ねればそんな感情なんて一発だよ♡
待っててね♡ルッコラちゃん♡
すぐ……よくなるよぉ……♡
「…………グヒッ………イヒヒ…………」
「――――――――っっっ!!!」
俺が妄想に耽っているとルッコラは髪の毛と耳を逆立てて、尻尾をぴんと真っすぐ天に向けて伸ばした。
戦慄してしまったようだ。俺の寛大さに。
そんなに嬉しかったのかぁ!




