第73話 「教会の見解」
転生してもいまだ慣れない馬車の振動に揺らり揺られて、王都に到着する。
恙なくここまで来ることができた。
それにしても花の王都も男の割合少ないよな。特に成人した男がいない。
俺の目には優しいけど♡ブヒヒ
王国魔導院長オーフェルヴェーク侯爵の乗った馬車が、王宮へと向かっていく。
順調に事が済んで胸をなでおろす。
あまりにも王国全体が忙しく、褒美はまた後日でという事になっている。
特使の方々を見送り、俺たちはアルコル家王都別邸へとたどり着いた。
父上はこれからまた出かけるとのことで、準備に自室へと向かう。
慣れぬ居間だが、一人になるとほっと一息つく。
これから忙しくなる。
これがつかの間の休みだ。
と思ったその時、呼び鈴が鳴る。
来客だろうかと考えていると、サルビアが俺を呼びに来た。
「教会よりセギヌス様がいらっしゃっております。坊ちゃまに面会の希望とのことです」
「セギヌス殿が?わかった」
玄関に出ると、いつぞやのベラと呼ばれていたシスターに、車椅子を押されたセギヌス殿がいた。
俺を見つけると穏やかに挨拶をする。
「ご多忙の折、突然の訪問を失礼しました」
「そんなことはありませんよ!こんなところで話すのも何ですし、どうぞお上がりください」
「どうかお気遣いなく。アルタイル殿たちは王都に来て間もないと聞いておりますので……」
「そんなこと言わずにどうぞ!サルビア!来客だ!すぐに準備を」
父上からセギヌス殿は丁重にもてなすようにと厳命されているので、直ちにサルビアや使用人に命じて応接室に通す。
茶請けを用意させる。
こんな時にしか食えない高級菓子が食えるから、俺もセギヌス殿相手の接待ならまんざらではない。
持ってこさせたティーカップが、卓上に上がる。
しかし何の用件だろうかという俺の疑問を察したのか、すぐに謝られた。
「王国魔導院長との一件は私も耳にしました。誠ご苦労にございました。そして……狂気の魔導具に関する情報を提供すると言っておきながら、何の助力もできず申し訳ございませんでした……今回はその謝罪に参った次第です」
「そんな!頭をお上げください!私は何らセギヌス殿に含むところはございません!お手紙でも謝罪は受け取りましたし、これ以上は過分ですよ」
「いえ。誠意として当然です」
セギヌス殿は少しの間を置き、ゆっくりと神妙に頭を起こす。
ベラというシスターも、無言でそれに追従していた。
「此度の騒動は教会も深く関与していたようです。管轄外のことでしたので、私も詳細は存じ上げず蚊帳の外にいることになってしまいましたが……」
「ええ。そのように聞いております。しかしそれに関してセギヌス殿を責めるつもりは毛頭ありません」
「格別のご配慮をいただき、有難く……」
十分以上の誠実な謝罪に、俺の方が申し訳なってくる。
俺は彼が狂気の魔導具に関与しているとは、とても思えなかった。
教会も巨大な組織だ。
一枚岩のはずがないだろう。
しかしそうなるとセギヌス殿でも知らないほど、根が深い問題なのか?
セギヌス殿は司教だ。
若くして王都の教会を任される才人である。
詳しくはないが、教会でも相当に高い位階にあるはずだ。
「セギヌス殿。歓談といきたいところですが、一件伺っても?」
「ええ勿論です。何なりとお申し付けを」
「聞きづらいことなのですが……教会は今回の件について、どのような見解、対応をしているので?」
俺の予想通り、セギヌス殿は難しい顔をする。
ベラさんは指を組んで顔を伏せた。
「私としても今回の事件の中心に巻き込まれ、この後の対応のために少しでも情報が欲しいのです。よからぬ陰謀に巻き込まれてはかないません」
「アルタイル殿のおっしゃることは至極ごもっとも。話せる範囲ですがお話しさせていただきましょう」
セギヌス殿たちに茶を進め、それで喉を潤すと此度の騒動について語りだした。
彼はその表情を消し、何を考えているのかは窺い知れない。
「結論として、この騒動の責任はオーフェルヴェーク侯爵と、教会監視員が被ることに決定されました。どこまで粛清が及ぶかは、教会と王国の上層部の判断に委ねられますが……」
「………」
「王国の事情はわかりかねますが、教会としては狂気の魔導具は厳重封印し、関係者はすべて更迭。この事件を闇に葬るとしているようです」
「……それは事件そのものを、なかったことにするということで?」
「いえ語弊がありましたね。誰もがこれからも物理的に触れられないような処置をする、ということが既定路線であるようで。そうすればこのようなことは、二度と起こらない。どのようにするかは、詳細は不明なのですが……」
空間転移する狂気の魔導具を封印……?
テフヌト特製の魔導具を?
オーフェルヴェーク侯爵の持っていたものは、今までと同じ力を持っているかはわからない。
すでに力は俺の首に絡まる透明の呪縛と、トート神様へのダミーであろう俺のアイテムボックスの物に移り、ほかのものは残骸と化しているのかもしれないしな。
当然セギヌス殿は、そんなこと知らないだろう。
続けて経緯を述べる。
「狂気の魔導具については、教皇猊下直下の所轄であるようです。私は狂気の魔導具の来歴について、全く存じ上げませんでした。過去のいきさつを記した文献すら見当たらず……最高機密として言論統制が敷かれ、誰が何を知っているのかさえ分からない」
「教皇様が……?」
セギヌス殿は躊躇いがちに語る。
マジのビッグネームが飛び出てきた。
教皇とか教会の最高位じゃん。
しかも言論統制とか、うわうわアニメや漫画でよくある秘密主義の闇組織なのか?
狂気の魔導具が教皇直轄とかいかにもだよ。
最悪は教皇がすべての黒幕とか、ベタベタのベタ過ぎるだろ。
でもリアルであったら実際やばくね?
社会戦に持ち込まれたら、英雄の俺でもどうしようもないだろ。
謂れなき異端審問にかけられて、英雄は死ぬのか……?
やだやだ死にたくない。
俺はこの問題にかかわらないことに決めた。
国や世界がどうなろうが、俺には関係ないし。
そして聞くべきことは聞けた。
あとは父上たちと相談してどうするかだろう。
俺にはもう手に負えない。
大人の責任は、大人がとるんだよ?
まだ俺はかわいい年齢だからね?
考え込む俺をセギヌス殿がじっと黙って待っていてくれた。
いかんいかん。
それともう一つ教えてもらいたいことがある。
テフヌトに関する情報だ。
「あとは気になることがございまして……10大神という言葉についてお聞きしたいのですが」
「……………どこでそれを?一般には知られていない言葉ですが」
「えと……王国魔導院長と戦った際に、彼がそう口走り……」
「……オーフェルヴェーク侯爵が……そうですか……」
10大神という単語が出た瞬間、セギヌス殿の目が鋭くなる。
しかし隣に座るベラさんは、顔に疑問符が浮かんでいる。
なんだろう?
セギヌス殿はなんといって話すか選んでいるのか、少しの間を経てから言葉を紡ぎだした。
「10大神。それは人類の間で崇められている8大神に闇の神と、時間と空間の神を加えた言葉。古の平和だった時代に使われていたものです」
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