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第71話 「父の演説」


 演説が終わり熱狂の空気に酔った人々は、陽気に賛美歌を歌っている。

 最早お祭り騒ぎの様相である。




「「「「「「「「「「――――――――――――♪」」」」」」」」」」




 混ざるわけにもいかない俺は、それを遠目に観察する。

 このショーのような演出方法は、人心掌握に造詣が深いお爺様の発案だ。


 その意図はアルコル家が領民に奇跡の回復魔法という慈悲を与えるという筋書きで、巧妙に民衆を懐柔し支配するためのプロパガンダだ。

 大げさのように思えるが力を喧伝することはアルコル家への畏敬を高め、領の結束を促しイメージアップになる。


 そして聞いた話では聴衆の中には盛り上げるためのサクラが仕込まれ、耳に心地よい言葉をもって演説することで民衆をマインドコントロールしているとのことだ。

 ひえぇ…………




 再生魔法による治療は血の恩義として、アルコル家とその兵士や家族の強固な靭帯となる。

 俺たちが意思を吹き込んだ民衆は戦意を高め、戦争に一致団結していく。


 庶民には魔法を使えない者も多い。

 それでも御伽噺でも疑うような再生の回復魔法は、俺にしか使用できないものだと子供でも理解できる。

 だが慈悲深い俺はその奇跡を領民に惜しみなく与えてくれるのだ。

 高い金をつけてもいいのに、味方には無償で恵んでやるのだ。


 好意を感じないはずがない。

 彼らはアルコル領に生まれてよかったとすら思うだろう。

 他領から来た兵士ですら、俺を全面的に支持するだろう。




 俺への幻想は、俺を神格化させる。

 それはアルコル家の力の源泉となる。






「おねーちゃん。ありがと!」


「こっ……これ!?!?!?大変申し訳ございません!!!何卒ご寛恕のほどを……!」


「構わん。それより、お兄ちゃんな???」


「ははは!アルタイルはナターリエそっくりの美人だからねぇ!」


 治療した兵士の家族であろうか。

 頭を地に届きそうなほどに下げた男が、引き攣った焦った声で年端もいかない子供の非礼を詫びる。


 俺はガキの頭を弟たちにしてやるように撫でてやり、寛大に微笑んで許してやる。

 ガキはどこか夢見がちな上気した顔で、俺の顔を見つめる。


 アルビレオ叔父上とダーヴィトは苦笑いしながら見守っている。




 このガキの言う通りの眉目秀麗な二枚目キャラで嫉妬をかき集めてしまって、世の男たちに申し訳ない。

 女たちが俺に夢中になりすぎて、その彼氏や夫に殺されないように気をつけねば。


 ナイスガイ、甘いマスク、伊達男。すべて俺のためにあるような言葉だ。

 ハンサム・オブ・アルタイルって二つ名で後世に伝わらないかな。

 俺の銅像を建てられてしまっても不思議ではない。

 待てよ?銅像とは言わず、黄金像の方がよくないか?

 いや眩しいほどの美しさに失明する人がいたら、可哀そうだからやめておくか。




 俺ってどんな風に歴史書にかかれるんだろうか。

 知的な雰囲気が漂うクールビューティな俺、気になります。

 容姿端麗、頭脳明晰、完全無欠な時代の寵児とは書かれるに決まっているが、悪評もまた真偽を問わず巻き起こるのが偉人の定め。


 凡人はどんな聖人にも醜く嫉妬するもんだからな。

 世間の雑音なんてどうでもいいもんね!

 俺は途方もない異端の鬼才だから、寛大にも許してやろう。

 他者の未熟を許容してしまえるなんて、やっぱり俺って異端か???


 常識では測れない女殺しとか不名誉な綽名をつけられないよう、これからも日々品行方正に努めなければ。

 今まで通りに、清く正しく生きていきたい。






「兄上。演説お見事でした。流石はアルコル家の当主。何事も悠々とこなすものです」


「天晴れにござりまする!」


「ええ!誠に素晴らしかったです父上!!!」


「揶揄うなって……そういうのは苦手なんだ。あれは父上の発案に乗っかっただけだよ。私は仕事なら戦と金勘定だけしていたい」


 父上は引き攣った表情と消え入りそうな声で返答した。

 うんうんそうだよね。あんなのもし俺が頼まれたら一目散に逃げている。


 叔父上は父上を皮肉でやり込めて、満足したように笑みを濃くした。

 父上に馬車馬の如く使われてるもんな叔父上。

 マジで尊敬してるけど、ガチで同情する。


 父上はそれを見て心底嫌そうに早口で話を変える。

 そう。俺たちが今ここにいる原因についてだ。




「そうだそういえば!はやくオーフェルヴェーク侯爵の件について王国に報告に行かねば」


「そうですね。狂気の魔導具とやらも興味はあるが……我らの手に余る」


「そのようなものにかまっている暇もないですわい。儂らは魔物と戦争をしてるんです」


 大人たちは異口同音に対応を話し、これからの事を議論する。

 そして気になるオーフェルヴェーク侯爵の処遇を聞く。

 彼は今どうしているのか?






「父上。現在オーフェルヴェーク侯爵はどのようになっているので?」


「怪我は治っているよ。今は取り調べを粛々と受けさせているね。狂気の魔導具も厳重に管理保管している。今日あたりにでも王国の特使が来るはずだ。その方々と共に王都へ向かう。アルタイルも諮問されるだろうから、一緒に行かないといけない」


「そうなんですね…………そうだヤンは今?」


「今日も護衛に来ているよ。怪我はお前やうちの回復術師が治したからね」


「よかった……それとイザル殿は?」


「イザル殿は丁重にもてなしている。軟禁しているし、監視はつけているが」


「そうでしたか…………………彼もどうなってしまうんでしょうか……………」


 俺がそれを口にした瞬間、空気が凍る。

 ダーヴィトを見れば気まずそうに咳払いして、髭を忙しなく撫でている。


 やっべ……俺何かまた言っちゃっいました……?

 でも聞かなきゃいけないじゃんわからないし?

 子どもの素朴な疑問が、思わず飛び出してしまったわけじゃん?

 めでたい席で言う事ではない?黙れよ猿が。




「そういえばアルタイルの再生魔法が評判となったからか、貴族連中から依頼があるようで」


「そうか!それは使えるね。これで貸しをつくれる。王都に行くときについでに交渉してみようか。やることがいっぱいできたなぁ……奴隷も買いに行かなきゃいけないだろうし」


 眼鏡の位置を直しながら、叔父上が俺の言葉を流して貴族の噂を話題にした。

 父上も便乗して黒い笑みを浮かべる。


 そして気になることを一言。

 奴隷と言ったか?

 買いに行くのだろうか。それも何故だろう?






「……………奴隷」


「気になるかい?欲しいのがいたら買ってあげるよ。そういえばお前の護衛も、そろそろ考えないといけないな」


「いや可哀そうだと思って……」


「アルタイルは優しい子だねぇ!!!なんていい子に育ってくれたんだ!!!!!えらい!!!!!!!!!!」


「慈悲深くいらっしゃる。これぞ誠の英雄よ」


「フフ。大きくなったものだ」


 いじめられっ子だった俺は弱者に優しいんだ。

 自分より下がいるって気持ちいいからな。


 いやでもホントに可哀そうなんだよ?

 獣人とか俺の領地の金持ちがたまに引き連れて、筆舌に尽くしがたいほどの酷い目に合わせてるし。

 父上の恐ろしい顔が、さらに恐ろしくなるほどね。

 前世で壮絶ないじめにあっていた俺は胸が苦しい。


 父上はそれを俺たち子どもに見せると教育に悪いからって、極力獣人を俺の周りにいさせないようにしてるんだろうな。

 正解だよ。アルデバランとかがあの曇り無き笑顔でヒトモドキとに拷!とか言ってたら、俺はもう人への希望をなくして闇堕ちする。


 そんな優しい俺の奴隷になれるなんてこれ以上ないほどの幸せ者だから、保護のためにも買うけど

 これはガチ。




 叔父上は俺に頬擦りする父上を見て、和みながら微笑んでいる。

 そろそろ頬が痛い。摩擦で人体発火する。


 父上は満足したのか俺を放し、饒舌に説明を再開させた。

 仕事の話になった途端に冷静になり、切り替えが早い。






「今回の治療で兵士の補充もできたけど、全然足りない。今回の事件で対応しきれない部分が浮き彫りとなったから、奴隷で補うことを考えたんだ…………でも正直、奴隷は信用できない。首輪があるとはいえね」


「金銭に見合う働きはないでしょうな。それでもアルコル領の防衛には、より人工が必要ですわ」


「手が足りなすぎる。歩くだけの案山子でも欲しいくらいに」


 代わる代わる意見を交換していくが、申し合わせたように皆同じ気持ちであるみたいだ。

 父上はこめかみを抑えながら、先のオーフェルヴェーク侯爵の事件の顛末を嘆く。




「今回はたまたまうまくいったが、そもそもアルタイルとヤンを戦場に出してしまうこと自体が、あってはならないんだ。突発的事態に対応するために急遽部隊を編成したが……アルタイルたちは死ぬ可能性もあった。二人とも替えが聞かない、その本分は別にある。だからどうしても人数が必要だ」


「儂らの体も一つだけです。もしもの事を考えるといくらでも部下は欲しい」


「アルコル家には金はある。必要なら私がいくらでも稼ぐさ」


「諸侯の恨みはこれ以上買いたくない。ほどほどにお願いしますよ本当に……」


 叔父上が疲れ果てたように父上に自重を促すが、父上は邪悪に顔を歪めた。

 怖ぇ……何したんだよ父上……

 なんで父上は諸侯から距離を取られてるんのかって長年疑問だったんだけど、その理由って……


 そんな父上は声を弾ませ、これからの展望を嬉々として語った。

 叔父上とダーヴィトも同感であるようで、満足している。






「傷痍兵への見舞金もばかにならなかった。これで投資にも弾みがつく。今日はいいことづくめだ!」


「ええ。幸先良い見通しで何より」


「うむ!実にめでたい!!!……ささ!今日は飲みましょう!このような晴れの日は滅多にない!それ一献どうぞ!!!」


 ダーヴィトが豪快に大笑いしながら酌をする

 注がれた酒を機嫌よく傾けた父上は、アルビレオ叔父上とダーヴィトにも飲酒を勧めた。


 俺もジュースを手に取り、楽しそうなみんなを見つめる。

 次第に酔った父上がうるさく絡んでくる。

 叔父上も顔を赤らめて、いつもより多弁だ。




 騒がしい姿を民へ見られたら、領主としての威厳はどうするのだと呆れる。

 でも嫌な気はしなかった。






 喜ばしいことに、2022.04.06 日間異世界転生/転移ランキング ファンタジー部門で236位を獲得しました。

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[良い点] アルさま降臨! やはりだいぶんおじい様の戦略がめぐらされていたんですね(*´з`) まさか、サクラまでいたとは。マインドコントロールは魔法的なものでしょうか(^-^; 恐ろしいですが、怪…
[一言] こんなに面白いのに、236位だなんて信じられません。2.36位の間違いでしょう。
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