第70話 「戦場の天使たる俺こと英雄アルタイルを崇拝する領民たちの一幕」
「復っっっ活だぁっっっっっ!!!!!」
「ご快癒おめでとうございます坊ちゃま」
「よかったねアル様!ステラも嬉しい!」
5日ほどはゴロゴロ惰眠を貪っていたが、医者にも快癒であると太鼓判を押された。
当たり前だけどね。最初からほとんど健康体だったし。
今までよりも調子がいいくらいだ。
遺伝子治療魔法、凄すぎる。
流石は俺の群を抜いた魔法技術だ。
魔法チートは異世界転生の専売特許だぜ。
人としてこれ以上の高みに至ってしまったらどうしよう?
あらゆる英雄を凌駕した大英雄の俺は、このまま天へと昇ってしまうのではないかと危惧するばかりだ。
普段表情筋が全く動かないサルビアも、今は唇が綻んでいる。
ステラもツインテールを揺らしながら、全身で喜びを表している。
「病み上がりの所恐れ入りますが、傷痍兵の治療が控えております。当主様よりアルコアに明日までに向かうとのご命令です」
「大変だぁ……ステラもお手伝いするからがんばろうねっ?」
「おっけおっけ!この俺にまっかせなさーーーーーい!!!」
「うんうん偉い!」
「ご立派です。早速準備に取り掛かりましょう――――――」
ここはアルコル領における最大の都アルコア。
カルトッフェルン王国東部にて最大の都市である。
父上の手腕により、近年経済力が爆発的に増大し益々景気が活性化している。
いつ見ても人口密度凄いなぁ。
農村部から人口流入するならここだ。
すべての産業が揃っており、娯楽なんかも需要があるからな。
そもそも兵士として徴兵されるときはここに必ず来るので、その流れで他領からもずっとここに居座る人も多い。
その辺繊細な問題らしいけど、王国からは黙認されているとか。
でも治安はあんまよくないみたいなので、俺はあんまり来ちゃダメって言われる。
都市の存在意義からして、荒くれが多いからな。
軍事都市としても様々な軍需物資を搬出する補給基地でもあるし、武器や魔導具などを産出する生産拠点でもある。
兵員もここを拠点とするし、援軍が本国からあるいは教会などが来る場合は諸活動の維持はここにて行われる。
要はここが落ちると王国東部は壊滅だ。
補給と連絡線が破壊されると戦略が崩壊するって、父上がゆってた。
よくわかんないけど、とりあえずヤバいのはわかった。
それで今やっているのは、病院に運び込まれた兵士たちをすべて屋外の行政庁舎前広場へと運び出し、領民たちの目の前で行う回復魔法の準備だ。
まるでデモンストレーションのようで不謹慎だが、これが効率的だしな。
病室にいちいち入るのもだるいし、治ったら健康体だし。
領民が大勢衆人環視の上で、俺を囲んでいる。
何千の人々が俺たちの周りを取り囲み、好奇心や猜疑心などの籠った視線を俺一人へと集める。
兵士たちの厳重な警備のもと、俺は伝説の再生魔法を世界へ明らかにする。
都市の喧騒が消えゆく中で、俺は呪文を唱えた。
魔法陣から眩い光が溢れ出し、目の前の兵士を包んだ。
この場にいる者は幸運だ。
俺の手で神話が再興される瞬間の、目撃者となったのだから。
「――――――『Redi ad originale』」
「――――――奇跡、だ」
涙腺が決壊し山河の流れゆくが如く落涙する男は、信じられないような面持ちで自らの足を動かす。
自由自在に再び操ることができるようになった再生した脚部に、嬉しくて仕方ないようで泣き笑いする。
その妻であるのだろう女は感情の手綱を放して咽び泣き、男の胸に崩れ落ちるように愛おしそうに縋り付いた。
夫婦は固く抱きしめ合い、幸福を嚙みしめた。
淡く光り輝く幾何学紋様の魔法陣を両手にかざす、煌びやかな法衣のような装束を纏った俺は宗教画の一枚のように美しいことだろう。
映画のワンシーンを切り取ったような、幻想的な場面だろう。
民衆は俺たちを、俺を仰ぎ見る。
宗教的にすら感じるほどの、熱狂的な眼差しをもって。
「………………ぁぁ………なんという………」
「…………美しい」
「これがアルタイル様のお力……再生の奇跡………!」
「なんて素晴らしい……!あの方がルキナ様の加護篤い英雄アルタイル様……!」
「…………………馬鹿な。直ちに報告を………」
民は絶句し、己の目を疑う者ばかりだ。
どよめきが大きくなっていく。
その間にも俺は何人、何十人と傷病兵を治していく。
魔力に余裕があることがわかると、あらかじめ用意させていた手足や目を失った者たちにもその恩恵を施していく。
手足や眼球すらたちまちに再生させる俺を有難がり、平伏す老人もいる。
法衣を纏った者たちも同様だ。
シスターのカワイ子ちゃんが跪いて俺へと祈りを捧げている。
もっと!もってはやせぇ~~~!!!モテモテモテモテの俺をもてはやせ~~~!!!!!
媚びろ媚びろ媚びろ媚びろ媚びろ~~~~~!!!!!!!!!!
「何という絶技だ……!ただただ…………惚れ惚れするよ……」
「古の聖女を彷彿とさせる凄さと可愛さ!!!アルタイルは……!私が育てたんだ!!!!!」
「えへ!!!!!!!!!!」
父親と叔父上から手放しに褒めちぎられる。
俺の稀代の回復魔法のお披露目に、意図せずして畏怖すら感じさせてしまったか。
小気味いい気分だぜ。
称讃が多すぎんだろーーー!
パーフェクトなヒューマンでごめんねーーー♪
46億年に一人のイケメン天才魔法使いのお通りだーーーー!
麻薬をぶち込まれるよりも何よりも、礼讃されることは絶頂を覚えるだろうなぁ!!!
ちやほやしていいんだぞーーー!!!
「すごいすごいすごいすごいすごーーーーーい!!!!!」
「坊ちゃま…………ご立派になられて誇らしゅうございます…………ナターリエ様も喜んでいることでしょう……うぅ…………」
傷痍兵の看護に駆り出されたステラは、物おじせず傷痍兵たちに話しかけて手伝いに奮起している。
俺の魔法を見ると目の色を変えて、賞賛している。
お前の曇り切った目でも、少しは俺のことを見直しただろうな。
サルビアは目からホロリと光るものを流し、目元を抑えた。
お前には苦労を掛けただろうな。
母上の代わり、姉代わりに俺のことを育ててくれたのだ。
本当に感謝している。彼女を見ると、俺も目頭が熱くなる。
「さっっすが兄様だ!!!!!僕もいつかは絶対に!!!兄様みたいな英雄になって見せる!!!!!頑張るんだ!!!!!」
「なんて素晴らしいのでしょう…………!なんて神聖な光景なのでしょう…………!あぁ………!神話の聖女の…………!なんて……美しい…………!お兄様……お兄様ぁ…………!」
アルデバランは爽やかに、俺の領域へと第一歩を踏み出す決意する。
弟よ……それは辛く厳しい道だが努力するのだぞ……
カレンデュラは俺に見惚れながら、言葉にならない言葉を独り言ちる。
両手を紅潮した頬に添えて、俺に心酔した様に光沢の失せた焦点が合わない目で凝視している。
目が合いそうだ。怖いので俺は一瞬で目をそらした。
遠くでお爺様が腕組みし、俺のことを猛禽類が獲物を狙うみたいに見つめ、威圧感を醸し出している。
お婆様は静かにお爺様に寄り添い、俺を見守っている。
アルビレオ叔父上も同様だ。
ノジシャとエルメントラウト叔母上も親族の一員として視察している。
俺の並外れた魔法に仰天し、感嘆しているな。
他の追随を許さない俺の実力が頼もしすぎるからか、碌にリアクションも取れないようだ。
仕方ないな。俺だし。
ギーゼラ御母上はその麗しい容貌に見合わぬ粘着質に口角を吊り上げて、俺を見ながら何度も何度も頷いている。
あんなに笑ってるの初めて見た……
目が合いそうだ。怖いので俺は一瞬で目をそらした。
「――――――――よく戦ってくれた。足を失うほどに……アルタイル様のお力で足を取り戻したことを、儂も嬉しく思う」
目をそらした先には警備の責任者であるダーヴィトが、俺が治した兵士と話し込んでいた。
兵士ってことはダーヴィトの部下だよな。何を話しているのだろうか?
武官長である彼はまた共に戦うことを、真摯に兵士に請う。
兵士は号泣しながら実直に答えた。
「また儂らと共に、アルコル家を盛り立ててくれるか」
「この命果てるまで、再び人類の守護に捧げたく思います……!」
それを見ていた聴衆から口を揃えた感動的な歓声が上がる。
ダーヴィトは今になって自分たちに注目が集まっていたことに気づいたのか、むず痒そうに豊かな髭を撫でる。
あれだけ遠いのにはっきりと声が聞こえるのは、うちの手の者が風魔法で細工したんだろうな。
それにしてもアドリブだったのか?
ダーヴィトも素面でよくやるぜ。
野次が鳴りやんだ頃、父上がその迫力ある顔で前に進み出て、辺りを見回すと群衆は静まり返る。
少しの沈黙が、より注目を集める。
一体今から何が起こるのか。
無音の中、父上は仰々しく口を開いた。
緊張と共に聴衆が父上の演説に聞き入る。
「――――――――兵士諸君!!!領民諸君!!!我らが待望する輝かしい未来は、まもなく訪れるだろう!!!長きにわたる辛酸を耐えた我らが敵に打ち勝ち、勝利者として君臨する時は近いだろう!!!思いを一つにした我らが報われる時は、目前に迫っているだろう!!!私は確信する!!!!!なぜならば――――――――」
父上が厳粛に拳を掲げ、堂々と吠える。
掲げられた理念は、勝利への希求。
領民の意思の統一。
俺は事前に打ち合わせたとおりに、呪文を唱えると巨大な魔法陣を出現させた。
溢れ出す膨大な魔力により、ふわりと神秘的に俺の服が持ち上がる。
俺と父上たちに、神々しい光が降り注ぐ。
「――――――――英雄アルタイル・アルコルが諸君と共にあるからである!!!!!!!!!!」
「「「「「「「「「「万歳!!!!!万歳!!!!!アルタイル様万歳!!!!!!!!!アルコルに栄光あれ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
俺は無言で手を掲げ、柔らかに微笑んで彼らの視線に答えると、ますます声援は勢いを強める。
鼓膜が張り裂けるくらいの音量が、彼らの熱烈な衝動が伝わってくる。
空気が震え、天地が鳴動しているのではないかと錯覚するほどの、轟に飛び込んでしまったのだろうか。
あ゛ぁ゛ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!
脳汁迸るーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!
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