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第68話 「カルトッフェルン王国第一王子レグルス」


 百獣の王の如き、気品のある豪奢な金の髪。

 カルトッフェルン国王カール譲りの、非常に恵まれた体躯。

 俗輩とは一線を隔している、覇気を宿す金の凛とした両眼。

 他を超絶した端麗な容姿のそれが上座の椅子から軽やかに立ち上がり、支配者の風格で見下ろす。




「殿下!この戦乱の世において、火種を数多残すことになりかねませぬ!!!」



「典礼大臣よ。その火種に困る有様なのだ。現状、人類に余裕はない。権力闘争に明け暮れ生じた不和から、人類を導く火種を絶やしかねない」



 レグルス王子はまだ半歩大人へと踏み出した年の頃の顔立ちだが、海千山千の修羅場を潜り抜けてきた老練な典礼大臣に譲らず対している。

 彼は威風堂々と持論を述べ、貴族たちのプレッシャーに一歩も退かない。


 王国宰相シファー公爵、王国内務大臣ヴォーヴェライト公爵も興味深そうに傾聴している。

 レグルスは一瞬彼らに視線を送り、一拍置いてから弁舌を続ける。






「そも適切な賞罰を下さねば誰が従うというのか?アルコルとの関係に不和を生じさせる対応は、この非常時においては適当ではない!諸君らの危惧するところは理解するが、それはアルコル家を今すぐ戦時中に排除するという短絡的な発想には帰結しない」



 彼は身振り手振りを交え、抑揚をつけて卓越したスピーチを聴衆へと繰り広げる。

 話すスピード、声の強弱、美しいその面貌を遍く自覚し利用した、天性のアジテーターだ。




「アルコルに何の褒賞も与えないことで、諸侯や軍部の不審を煽るようなことは避けるべきだ。加えて現実的にこれに勝る手柄を、一体だれが立てられるのか?国内のパワーバランスに拘泥し、爵位や領地、勲章を一つ渡すだけで身動きが取れなくなっていては本末転倒だ!利害関係に雁字搦めになる前に、アルコルをいかに取り込むかを考えた方が建設的だろう。信賞必罰こそが!貴族諸氏を含めた国家全体の安定を保証するのだと、私は考える!!!」




 この論調に頷いて反応する者も、少なからずいる。

 勿論、不満気な者たちもいる。


 レグルスは周囲の反応を窺い、一言で演説を締めくくった。

 それが決定打となる。

 誰もが反論できない、国体に基づいた論理であるがゆえに。






「――――――これが王国の秩序である」



「畏れながら私もそう考えます」



「宰相閣下」



 貴族たちの反応を聞く前に、すかさずシファー宰相が発言する。

 瞬時にレグルスへの好意的な感触を見極め、会議の趨勢が完全に傾く前に、イニシアチブを取ろうとしたのだろう。

 

 レグルスは一瞬無表情となるが、シファー宰相に首を向けると満足そうに微笑する。

 大物であるはずのヴォーヴェライト公爵は、不気味に沈黙を保っている。

 典礼大臣は何度も首肯し彼のプリンスを支持するが、その目はヴォーヴェライト公爵らの派閥を常に警戒している。






「貴族位は平民ですら有能であるならば、王国は決して門を閉ざすことはない。度重なる戦乱で、慢性的に人材不足だ。そもそも賞罰の有無を懸念すること自体が間違いであり、陛下への不遜である」



「うむ。宰相の申す通りだ。何か異論があるならば申し出よ」



「いいえ全く。よろしいかと存じます」



「「「「「…………」」」」」



 強かにヴォーヴェライト公爵が、凪いだ顔で同調する。

 形勢を見極めると、抜け目なくレグルスに追従した。


 眉一つ動かさず、茫洋としていて本心が見切れない。

 実に貴族向きな貴族だ。




 諸貴族たちはというと憮然としているが、落としどころだと判断したのだろう。

 一瞬で清々しい笑顔を張り付けて、次々と賛意を表明する。


 あれだけ議論を引っ搔き回しながら白々しく賛同の意を表明した、ヴォーヴェライト公爵の形だけの態度に反感を露わにする者など皆無に等しい。

 彼ら権臣はお互いに虎視眈々と粗を探し、出し抜く隙を伺っている。

 無論、政敵を蹴落とすためだ。






 別段ヴォーヴェライト公爵は、レグルス派閥というわけではない。

 かといってレグルス個人を慕っているわけでもないし、王家への忠誠など必要最低限しか示すことはない見かけだけの蝙蝠に過ぎない。


 ヴォーヴェライト公爵が傲慢に振る舞うのも、存在感を示すため。

 宮中勢力の一角を占める、押しも押されぬ内務閥の一党をまとめる貴顕の雄であるがゆえにだ。


 これが貴族社会の真実。

 優雅に会議で踊り、上品に王冠に転がす。

 最も貴き青い血が流れた人々である。






「それでは議論の詰めと行こうか」




 結論から言えば、この場における真理はレグルスが定めることとなった。

 王から与えられた権威ではなく、個人の持つ圧倒的な気迫。

 傑出したカリスマと才覚が、周りの雑多な意思を濁流の如く飲み込んでしまった。


 有象無象の者たちから抜きんでた、抗し難い存在感を放つオーラが場を支配する。

 それらの要因で白熱した討論は、一旦火を収め終結した。

 そして会議は次の議案へと移る。






「以上の議題の結論は、後日陛下にご報告します。さて、次の議題は獣人奴隷の反乱組織についてです」







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[良い点] レグルス王子はまともな意見を言っているように感じますね⊂((・x・))⊃ カリスマ性とは大したものです。 貴族のみなさんも、真意はともかく賛同された様子。 青い血も時には大事だとは思います…
[良い点] 最後に新たにきな臭い話題を入れてくるのが上手!!! 某もこんな風な貴族っぽい用語が飛び交う貴族会議の風景を書いてみてぇよぉ(血涙) ナイフさんの才能が羨ましいよぉ(嗚咽)
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