第66話 「ステラの看病」(イラストあり)
しっかし暇だなー
やることがなさすぎる。
昼間は俺の好物であるエビフライとお菓子を、どっさりと食えることぐらいしかない。
サルビアとステラ、そして父上に甘えれば、食い物のおねだりなんて一発OKだ。
事件後はしばらくは俺の事を過保護なまでに、構いっきりだったからな。
最近厳しかったサルビアも昔の病弱ボーイだったころを思い出したのか、理解のあるサルビアたんに戻ってくれてよかった。
昨夜も一緒のベッドでお楽しみしながら寝たしなぁ……グへへへへへ
後の娯楽は……美少女メイドに看病してもらうことくらいか……
「アル様はいあーん」
「あ~~~ん♡」
ステラたんが可愛いお口を開けて、手づから俺に食べさせてくれているよ♡
真っ赤なベロちっちぇ♡早くそのベロでしゃぶって俺を楽しませろ♡
そんなに近くでキュートなお顔とお口の中を見せられると……俺…………ん゛お゛お゛っ゛っ゛っ゛!!!!!
ステラの紅葉のような手で差し出されたパンを食べる。
そしてその細くちっちゃな指を一舐め。ジュゾゾゾゾゾ!!!
ワーオ!デリシャス!!!
「おいちぃ~♡」
「こらっ!赤ちゃんじゃないんだから指を舐めないのっ!」
「ジュルリ♡サーセン♡」
ステラが甲斐甲斐しく俺を世話する。
俺の唾液でびちゃびちゃになった手を、エプロンで拭きながら呆れた声で一喝する。
珍しく手が飛んでこない。
バカなこいつもぶっ倒れてた俺の状態を、理解するくらいの知能はあったようだ。
つまりロリメイドのしゃぶり時ってわけよ。
「まったくもう……はい。おかずだよ」
「あ~~~ん♡モグモグ…………………これ苦っ!?ペッ!苦いのはいらない!!!!!」
「好き嫌いしないのっ!食べないとよくならないよ!アルデバラン様は何でも好き嫌いしないでしょっ!」
「兄弟と比べることは、子育てで一番やっちゃいけないことだってわからないのか!?わからないだろうねぇお前はバカだからねぇ!!!!!」
「いいからお姉ちゃんのいう事を聞きなさい!見下げ果てたやつだね!」
ステラはスプーンを振り回しながら喚き散らす。
その隣にはピーマンの肉詰めの乗った皿が、キッチンワゴンに乗っている。
出たよ。肉と調理時間を無駄にする、意味不明の一品。
か弱く無垢で愛らしい俺様の事を騙しやがって……!
これは高くつくぞバカメスが……!
「病人には優しくしろ!!!弱った俺がピーマン食ったショックで死んだらどうすんだよ!? 」
「笑う」
「ひどいじゃん???」
なんてやつだ。
やはりピーマンみたいな中身スカスカの欠陥植物なんぞを食らう、頭スカスカの低能……
メイドの風上にも置けない。
そのメイド服はすぐ返上させて、肉便器として雇いなおすぞ?
「文句言わないで食べなさい!!!ステラが頑張っておいしく作ったんだから!!!」
「む~~~~~!!!」
俺は口をすぼめて抵抗するが、ステラは俺の顔を鷲掴みする。
たちまち馬鹿力でスプーンをねじ込まれて、舌を噛んでしまう。
痛みから思わずステラの顔に、咀嚼物を吐き出してしまった。
そうしたらステラが癇癪を起こして、俺の頭を叩く。
「いったーーーーーーい!?!?!?」
「お姉ちゃんのいう事を聞かないからそうなるっ!!!!!!!!!!」
「サルビアぁぁぁぁぁステラがぶったぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「はぁ………………」
俺の号泣を聞いてもサルビアはため息をつくばかりで、俺を助けに来ない。
サルビアちゃん?
大好きな俺がいじめられているよ?
すぐでいいから助けてね?
「ステラ。何事も工夫です。坊ちゃまはご褒美を餌にすればコロッと落ちます」
「なるほど……ありがとうございますサルビアさんっ!」
「おい。ご主人様を前にして言う言葉か?????」
俺の言葉にもこいつらは聞く耳持たずだ。
こんな素晴らしい敬うべき主をぞんざいに扱うなど、摂理に反するぞ?
天地の理を解さない不届き物のメスは、ハメ潰しちゃうからね?
「ご褒美……ご褒美……?うーーーん……」
「ステラたんが口移ししてくれるなら我慢すりゅ♡」
「はぁ?そんなバカみたいなことするわけないでしょ。汚いねぇ」
「ふぇぇ……辛辣……」
口移しは愛し合う者たちの美しい愛情表現だよ。
綺麗だよ。
サルビアは無言で俺たちを見守っている。
昨夜はあんなに俺をかわいいかわいいしてくれたのは嘘だったの?
「褒めてあげるから!好きでしょ?アル様!」
「常に得ているものをご褒美とは言わない」
「もぉ~~~!!!わがままばかり言って!何がいいの!?」
「じゃあまず好きってゆって♡後はぁ……」
「好き。はい食べようね」
「ひもじいよぅ。人々の心が……」
ステラは俺の言葉に強引に被せて、俺の口にずいとスプーンをよこす。
絶対苦いやつじゃんという当然の予想に、俺は苦い顔をする。
ステラはまた小さな口を大きく開いて、俺に咀嚼を促す。
口移しがだめなら、ディープキスをおかずにしようとしたのに……
「はいあーん」
「あーん…………むぐむぐ……うっ……モグ………ごくん」
普通にまずい。
ピーマンってなんでこんなに苦いん?
神に呪われた植物だから?
俺は口をすぼめて苦さに耐える。
ステラは花が咲いたように笑い、俺の頭を撫でる。
「おぇ…………もうご馳走様でいい……」
「お粗末様でした!食べられて偉いよ!」
「本当にお粗末だよ。肉への冒涜」
ステラは拳を握り締め、目にも止まらぬ速さで俺の脳天をかち割った。
俺は目から火花が出たような錯覚を覚えながら、意識は地に沈んでいった。
走馬灯と共に疑念が、俺の脳裏を掠めた。
なんで?