第65話 「義母の見舞い」
夜が明けて、朝が来た。
疲労も残っていたからか、太陽が昇るまで熟睡することができた。
俺の起床をアルコル家の家中の者達が総じて祝いの言葉を述べる。
病み上がりという事で、療養のためずっと部屋でゆっくりとくつろいでいる。
別にもう異常はないんだけどな。
でも稽古をサボれるから、余計なことは口に出さない。
暇を持て余していたところに、ノックの音が聞こえてくる。
ギーゼラ御義母上やお婆様、叔父上、アルデバラン、カレンデュラが一族連れだって見舞いに来る。
「入るよアルタイル」
「叔父上!お久しぶりです!」
「ああ久しぶりだね。身体の具合は大丈夫なのかい?」
「ええ。俺の回復魔法で治しました」
「よかった。流石はアルコル家の英雄といったところかな?」
「いやーーーーー!!!よしてくださいよ!!!あはははは!!!」
叔父上は揶揄い交じりに、だが本心から感心して俺の魔法の腕を話に上らせた。
敬愛する叔父上に褒められると、俺もつい浮かれてしまいますよ!
俺は口では謙遜するが、得意になっちまうぜ。
謙遜も過ぎれば不快になっちまうから、多少は押さえないで自慢しておくべきだがな!
王国魔導院長オーフェルヴェーク侯爵の処遇や、ヤン達兵士の現況が気になるが、この見舞いの席で聴くことでもないだろう。
折を見て誰かわかる人に聞くか。
「よくやりましたねアルタイルさん。アルファルド様もよくお喜びですよ」
「ありがとうございます。お婆様」
「今はよくお休みなさい。病み上がりなのですから無理はいけません」
「はい。そのようにいたします」
この細身の品のある老婦人は俺の祖母である、父上と叔父上の生母だ。
簡潔に人物評をするならば、控えめで落ち着いた貴族の妻が適当だろう。
お爺様の妻は、他はみなすでに故人だ。
老齢という事もあったのだろうが、みんな立て続けに死んでいるようだ。
俺は闇を感じ、深くは調べていない。
世の中知らなくてもいいことがあるんだって。
お婆様とはアルデバランが生まれるまで、つまり母上が死ぬまで疎遠だったのだ。
理由については、母上とお婆様は少なくともいい関係ではなかったからだと思う。
あの頃お爺様は母上を全く認めてなかったからな……
今では俺のことを普通に可愛がってくれるけど、なんか無機質なんだよなぁ……
感動が薄いというか、とってつけたような態度のような……
でもお爺様と一緒に入れる人なんて、そんな人ぐらいか。
お爺様と一緒に暮らしていたから人間性が失われたかもしれないという可能性について、俺は頭から排除する。
「アルタイルさん。お役目ご苦労様にございます。どうぞ、ご無理をなさらないでね。十分ご加養なさってください」
「御義母上。お忙しいところ見舞っていただき感謝します」
ギーゼラ御義母上の労いの言葉に、ぎこちなく答える。
義理の親子とは大抵、至極微妙な関係なのだ。
親子って生まれた時から刷り込まれてないと、そう認めるのに難しいものがあるだろ。
俺は異世界転生したが母上の時は血がつながってたけど、ギーゼラさんはもろ他人やん?
他の家とかどうしてんだ?
ドロドロのヌメヌメな昼ドラ顔負けのリアルが待ち受けてそう。
御義母上はナイスバディなエロい体つきをしているが、義理の母に鼻を伸ばすほど俺も暢気な色情狂ではない。
いややっぱり嘘だ。性的な目で見ている。
こんな色っぽい危険な香りがする義母なんて、スケベすぎるだろ。
そのドレスでは隠し切れないエロ肉に飛び込まない息子は、いないとは思いませんか御義母上。
「まぁ。そんな他人行儀になさらないで……私の事は本当の母だと思ってくださいね」
「お気持ちありがたく。もちろん母として尊敬しております」
「まだ距離感が遠いわ……そうよ。私の胸に飛び込んできてくださいな。アルタイルさんはメイドによく甘えておられるようですから」
そんな関係じゃないでしょ。
尋常でなくそそられるが、リップサービスに本気になるほど馬鹿じゃあない。
俺は前世で散々甘言に惑わされて、ひどい目にあってきた。舐めないでもらおうか。
「いえそんな。もう子供ではないのです」
「母君が早くに亡くなって寂しかったでしょうね……ほら……」
「うおっ…………!?うへへへへへへ!!!!!」
「…………ふふ」
俺の顔は御義母上の豊かな双丘へと誘われる。
抵抗なくされるがままにその間に潜り込んだ俺に、御義母上は妖しく笑う。
おほっ!熟した体やっべ!!!
女のにおいと香水の入り混じった、オスを欲情に駆り立てるフェロモンがムンムンなんだが!?
「本当に可愛らしいわ……食べてしまいたいくらい……」
「うひょっ♪おふっ♪ふへへっ♪ぐひっ♪」
奥さん……性欲を持て余しているんですかぁ……?
父上に夜は相手をされてないんでしょう?
こんなエロいセクシュアルな体をしているのに嘆かわしい……
だから息子として欲求不満を解消して、エクスタシーに導いて差し上げないと……いけませんねぇ……ニチャア……
「「「…………」」」
叔父上たちが冷めた目で俺を見つめている。
俺は硬直し、咳払いをする。
「んん゛っ゛!!!…………御義母上。名残惜しいですが親子の触れ合いはここで……」
「ええ。そうですね」
御義母上は俺に熱い吐息をはきかけながら、ゆっくりと退いた。
流し目を送りながら片腕にその豊かな胸を乗せ、扇で口を覆い隠す。
エッッッッッ!!!!!!!?!!!
ムラムラムラムラムラムラするんですけど!?!?!?
御義母上との触れ合いが終わると、待ちきれないといった様子でガキどもが飛び込んでくる。
「兄様!!!」
「お兄様!!!」
「おうガキ共。留守中ご苦労だったな」
二人は俺の腕にしがみついてくる。
その両目を燦燦と煌めかせて、俺へと曇りなき表情で迫ってきた。
「はい!兄様こそよくご無事で!素晴らしい武勲をたてられたようで、弟として誇らしく思います!!!」
「お兄様は流石です!すごいですわ!本当に……すごい……なんてすごいのでしょうか……」
「俺くらいになると結果から先に着いてきちまうからな……お前らも俺の背中を見て学ぶといい」
アルデバランは興奮しながら、俺を慕う言葉を繰り出す。
俺のありがたい言葉に感激して、俺の貴さを熱弁しまくっている。
うむ。そのまま俺を見習って励むのだぞ。
カレンデュラは俺を恍惚とした表情と共に、ハイライトの消えた無機質な瞳で俺を食い入るように見つめる。
こわい。この母娘こわい。
「こら二人とも。アルタイルはまだ病み上がりなんだ。いけないよ」
「あっ!?申し訳ありませんでした!!!」
「すみませんでした……」
叔父上への静かな説教で、二人はしゅんとする。
仕方ない奴等だ。
「また後で遊んでやるよ」
「はい!楽しみにしてます!お大事になさってください!」
「またお見舞いに来ます。今はゆっくりお休みくださいね」
約束をすると、嬉しそうにぴょんぴょんととび跳ねる。
大人たちはそれを微笑ましそうに見つめる。
叔母上の目は半月に弧を描き、満足そうに頷いていた。
昔は俺たち兄弟が、カレンデュラと御義母上に近づくとすげなく躱していたのに……
心境の変化でもあったのか?
まぁ仲良くなれるなら、なるに越したことはないが。
「さて、そろそろお暇しよう。アルタイル。よく休んでくれ。戦後処理は私がやっておくから、気にしなくていいからね」
「はい。お気遣い痛み入ります。見舞って頂きありがとうございました」
俺はベッドの上から彼らを見送る。
去り際に御義母上が俺を振り返り、じっと俺をねめるように見つめていたことが印象的だった。
一瞬だがひどく粘着質な微笑みが、閉まり行くドアの隙間から覗いた。
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