第64話 「アルフェッカの心境」
「アルタイル……………?」
「父上。ご心配をおかけしたようで……わぁっっっ!?」
父上が帰ってきていたようだ。
遠い旅路だったはずだ。
向こうまで連絡が届いた時間から考えると、相当な強行軍であっただろう。
目元には隈が深く刻まれ、深い心労があったことが伺える。
強面と相まって、悪魔のような風体だ。
もしかしなくても、それは俺のために……
気を遣わせたようで心苦しい。
「心配…………心配したんだ…………! 本当に……! 目を覚まさないお前と共に、千切れたお前の腕が運ばれてきたときは本当に心配して……! 体調は!? 大丈夫なのかい? 痛いところはないかい?」
「大丈夫です。さっき回復魔法で治しました…………その……抱きしめられると痛くて……」
「ああ!? ごめんよ!」
父上は俺の調子について、矢継ぎ早に問いただす。
ひどく心配をかけたようだ。
躊躇いがちに万力のように絞められる体に言及すると、慌てて父上は俺を離した。
そして少し俺を見つめると、俺の両肩に手を置いて震える声で呟いた。
「危ないことをしないでくれ…………お前に頼らなくてはいけない無力な私が情けないのだと……あの時はお前以外に対処できた者はいないのだと……わかってるんだ……でも……」
「父上…………」
「お前の蒼白な顔を見た時。お前が幼い頃に、生死の境を何度も彷徨ったことを思い出して…………ナターリエが死んだ時そっくりで……」
「…………」
涙ぐんだ父上の悲痛な声が突き刺さる。
俺の姿が亡き母上を想起させてしまった。
それは同じ悲しみを共有する、俺の心も責め立てる。
死んだ人は生き返らない。
亡者は何もできなくなる。
転生なんて奇跡が、そう何度もあるわけないんだ。
「お前は小さいんだ……まだこんなに…………私よりも先に死ぬようなことはしないでくれ…………家族に死なれるのは…………辛いんだ…………!」
「はい…………はい…………!」
反射で放った最初の返事は、消え入りそうな声で。
父上の手に、力が籠っていることに気が付くと。
二回目は絶対に聞き逃すことのないように、力強く返答した。
彼のくぐもった嗚咽が、静まり返った部屋に鳴り響く。
泣くだけで済んだのは、まだ死んでなかったからだ。
生きてさえいれば、なんとでも取り返せるのだ。
そうか。俺は生きている。
まだ生きてるんだ。
それからしばらくぶりに、父上と近況を話した。
取り留めもない話だったが、親子の会話をできたのかもしれない。
俺の体を気遣ったのか少しの間だったが、話せてよかった。
就寝へと床に就こうとしたその時、小さくノックの音が聞こえた。
来客が多いな。
「―――――――アルタイル。私よ。入ってもいい?」
「ノジシャ? 今開けるよ」
俺は弾んだ声で、ドアを開ける。
寝間着を着たノジシャが、俺の目の前に立つ。
少し眠たげな眼だが俺が確かに立っていることがわかったからか、安心した様に頬を緩める。
「夜分遅くに悪いわね。あなたが起きたと聞いて、すぐ顔が見たかったから」
「構わないよ。ほら入って」
「失礼するわ」
彼女の手を引き、ベッドに座らせる。
そのすぐ隣、肩が触れ合う距離に俺は座った。
夜遅くに……男と女が密室で……二人っきり……だねぇ………
「目覚めてくれて本当によかった。丸二日意識を失うなんて、本当に大変だったのね……」
「心配かけてごめん。帰ったよ」
「帰ってきてくれて嬉しい……あなたがいない時ずっと私はあなたの事を考えて……」
赤髪の従姉は慈母のような微笑みで、俺の頬に触れる。
ノジシャたんのぷに♡ぷに♡した手を掴んで俺の頬へ摺り寄せると、やや困った表情でされるがままにその手を委ねる。
困り顔かわいいね♡ キュンキュンだね♡
「ノジシャ~~~頑張ったから褒めて褒めてぇ~~~!」
「えらい! すごくえらい!」
「怖かったの~♡」
ピンチはチャンスってこれの事か?
すかさず俺は、ノジシャの母性の象徴に飛び込んで甘える。
「…………!? ちょっと! ろくな大人になれないわよ!」
「そぉ? そぉ~~~おぉ~~~?????」
顔を掴まれた俺はわざとらしく小首をかしげ、キョトンとした表情でしらばっくれる。
ノジシャは呆れかえり、頭を振る。
「情けないったらありゃしない……」
「ノジシャぁ……俺のこと嫌いなの……?」
潤んだ目で悲しそうに、ノジシャを上目遣いで見つめる。
そして顔を伏せて、瞼と唇を震わせた。
気が咎めたのか彼女は、体を強張らせ声が詰まる。
よし。追い打ちだ。
必殺、不謹慎台詞。
「母上―――! 痛かったよーーーーー!!!」
「うるさいっての! 何時だと思ってんのよ!」
ノジシャもうるさいよ、という言葉は飲み込む。
彼女とずっと暮らして学んだのだ。
反論すると怒る。
まったく。声を出す正しい人間が報われない世の中だぜ。
「あぁもう好きにしなさい……」
「ふへへ! ノジシャお姉ちゃんしゅきしゅきぃ~~~♡♡♡」
はいチョロ~~~っ(笑)
ノジシャの胸元に顔を擦り付け、むに♡むに♡と感触を確かめる。
彼女は居心地悪そうに恥じらいながら、俺から顔を背け。
美しい赤髪を胸元から後ろへと払いのける。
受け入れ態勢万全か?
女の言外の誘いの合図か?
そして俺は深く深呼吸。
美少女から薄い布一枚を隔てて漂う甘ぁい香りが、口から喉、肺から脳に昇ってきたぁ♡
おほっ! 少女の丸く柔らかくなりつつある、可能性を秘めた肉体♡
硬さの中にも柔らかさが確かに存在し、その中にも小さな硬さを見つけてしまいました……!
体の成長が早いんだね♡ 女になろうとしているんだね♡ フヒヒ!!!
俺がこの世の桃源郷を堪能していると、ノジシャは優しく俺の髪を梳く。
母上と同じ撫で方だ。
二人とも会ったことなんてないはずで、そんなことは聞いたこともないに決まってるのに。
暖かい。
久しく感じていなかった、あの温もりを思い出す。
無性に寂寥感と、安心感がないまぜになってこみ上げる。
涙が零れる。
「がんばったわね」
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