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第62話 「最悪の女神 王国に潜む闇」




 気が付くと見慣れた色づいた世界に、俺は戻っていた。

 先ほどまでの出来事が嘘のようだ。




 ヤン達を見ると、二人とも血まみれで倒れている。

 地面を見ると、何かが爆発したような衝撃痕がある。

 俺はそれを見ると、自分も体中怪我をしていることに気づいた。


 痛い……

 自分の状態を認識すると、ズキズキと鈍痛がする。

 先ほどの事は幻覚だったのか…………?






 いや俺の隣に黒い布があった。

 俺は心臓が飛び上がるほど驚く。




「ひっっっ……………!?」



 俺はおずおずとそれを土魔法で覆い、アイテムボックスへと入れる。

 これで目標は達成できた。

 緊張の糸が切れそうになるが、何とか気合で意識を保つ。






 俺は首元に手を添える。


 ある……




 何か手触りのいい、滑らかな布が俺の首筋に纏わりついている。

 継ぎ目はなく、外すことはできないようだ。


 だが服で触ると首まで届く。

 自分自身の肌では触ることができない様子。


 そしてこの布は何か力を発しているようだ。

 魔力とは違う。

 しかし何らかの底知れぬオーラを感じる。


 先ほどの出来事は夢などではない。






 いやとにかくこの状態で気絶すれば、どうなるかわからない。

 先程出会った少女が都合よく事態を改竄すると称していたが、恐らくそれを行ったのだろう。

 回復魔法を使用しないとマズい。


 ヤンも身じろぎ一つできないところを見ると、相当なダメージを負っているのだろう。

 オーフェルヴェーク侯爵も事情聴収しなければならない。

 俺は口を開き、魔法陣を起動させる。






「――――――『Curatio vulneris』『terra』」




「――――――――――ガフッ…………! なんだ……? 今、何が起こった…………?意識の外から何かが……」




 神の降臨で瀕死状態だったオーフェルヴェーク侯爵が息を吹き返す。

 そのうえで土壁により、その胴と足を拘束する。


 かろうじて俺とヤンもイチかバチかで回復魔法を使い、一命をとりとめる。

 ヤンは痛々し気に呻き声をあげた。

 峠は越えたようだ。






「…………まさか……もう復活しかけているのか……?」




「え……?」




 朦朧としているオーフェルヴェーク侯爵が、突如として意味深な台詞を呟く。

 俺は思わず反射で聞き返した。


 先ほどの一件で今にも気絶しそうなほどダメージが残っている。

 聞き間違えか……?




 するとオーフェルヴェーク侯爵が体を横に傾け、ローブを開けてその内側を凝視する。

 そこには黒い布があった。

 しかしあれほどあった身の毛もよだつ雰囲気は霧散している。


 あれはさっき分裂した……

 先ほどの少女が改竄と言っていたが、それか?




 そして彼は血を吐くように、息も絶え絶えに絶叫する。

 それほどまでに俺に伝えたいことがあるのか……?






「……時間と空間の女神! 歴史から抹消された忌まわしき名! ティタノマキアの首謀者! すべての生物の祖である生命の女神ケレースを殺し、原初の時代に10大神から追放された最も罪深き存在――――――――――」




 オーフェルヴェーク侯爵は俺を必死の形相で見つめる。

 俺はその目から、目を逸らせない。










「――――――――――最悪の邪神テフヌトだ!!!!!」






 テフヌト。


 その名を聞いた瞬間、俺の心にすとんと何かが嵌った。

 その名は……ひょっとして……






「……私は建国史から伝わるその『黒い布』を研究する中で……ある重大な事実にたどり着いた……狂気の魔導具は『何か』と接続している……生物がその『黒い布』に触れて発狂するのは、その余波に過ぎない……」




 俺はその説明に生唾を飲んで、耳を傾ける。

 オーフェルヴェーク侯爵の話は俺が求めていたものだ。


 一体俺に、この国に何が起こっている?






「……私はその研究結果を王に報告した……そこで出てきたのが教会だ……今まで奴らは狂気の魔導具の研究を、監視するのみに留まっていたにもかかわらず……私の研究報告を知るとすぐにそれを握りつぶした……」




「なんだって…………?」




 教会?

 監視なんてするのは危険だからなのだろうが、王国魔導院長であるオーフェルヴェーク侯爵の報告を握りつぶすのはなぜだ?

 もし嘘だとして、教会に疑念を抱かせる理由はなんだ?


 何もまだわからないので、黙って話を聞く。






「……私は確信を得た……教会はこの謎の『黒い布』について何かを知っている……私に知られると都合の悪い何かを……そして私は研究を進めるため、教会の暗部へと手を伸ばした……」




「教会の暗部……」




 教会か……何を考えてそのようなことを……

 オーフェルヴェーク侯爵が本当のことを言っているとは限らないが……


 だが本当ならとんでもない陰謀だ。

 宗教ってやつは、策謀を巡らせてないと気が済まないものなのかね……

 そうなると教会の暗部とやらは、組織のどこまで根を張っているかが問題だ。


 そもそも狂気の魔導具について、情報統制する意図はなんだ?

 それにセギヌス殿はこのことに関与しているのだろうか?

 疑問は尽きない。






「そして私はこの『黒い布』が、テフヌト所縁の存在であることを掴んだ。建国史以前よりこの狂気の魔導具は、災厄をまき散らしていたようだ。それを王国と教会は利用されることを嫌い、ともに歴史の闇へと葬ったようだが……狂気の魔導具を破壊できるのか、そしてできうるなら利用できるのか研究は続いた。王国がそれを主導し、教会が監視するという構造でだ…………だがある変化が訪れた」




「変化?」




 オーフェルヴェーク侯爵は口火を切って、呼吸を整える。

 苦しそうに胸を押さえ声は掠れているが、それでも伝えるようだ。






「……『黒い布』の自律移動だ。昨年、一か所に置き続けていた『黒い布』が空間跳躍する事例が確認された……何が原因かは不明だ。だが死刑囚などを使った度重なる人体実験が、それを促したとも推測されている。だが私はこれをテフヌトの復活の予兆と捉えて、教会へと危険性を報告し、魔道具の調査をすることを進言した。魔道具に詳しいエルフなど…………ゴホッ……!」



「『Curatio vulneris』」



 咳き込んだオーフェルヴェーク侯爵に回復魔法を使う。

 彼はまだ辛そうで顔が蒼白だが、何とか言葉を絞り出す。


 まだ何があったのか聞きださねばならない。






「……感謝する………教会に邪神復活の危機が迫っていると相談したが、調査が却下された。そして『黒い布』の研究も中止された」



「なんだって……!? そんなことする理由なんてあるのかよ!?」



「教会の言い分では、可能性があるというだけで、危険な魔導具を表に出すことはできない。狂気の魔導具をめぐって、再び争いとなる危険は許容できない。研究が原因なら厳重管理と封印を徹底すべきという話だった…………よって私は自分で調査を行わねばと思い、『黒い布』を奪取して魔王領域へと赴き、研究の続行と魔王領域経由で他国やエルフたちへの接触を行おうした。それが発覚し、今に至る。それが事の顛末だ」



 俺は情報の洪水に思考が押し流されそうだった。

 テフヌト。トート神。教会。王国。エルフ。オーフェルヴェーク侯爵。

 いったい誰が黒幕で、嘘をついている?


 この陰謀の背後には巨大な何かが潜んでいることに、恐々とする。

 今までのダメージと相乗して、頭が痛い。

 血を流しすぎた。






「時空の神の封印が解けかけているかもしれない。そうなれば生きとし生けるすべての生物の敵が生まれる。世界の危機となるだろう。これに勝る災厄はない。多少のリスクは承知で『黒い布』の研究を進めるべきだ…………!永遠と続くかに思える魔物との戦争も今回の調査次第では停戦し、犠牲者を減らすことができるのではないか。私はそう考えている……!」



「『Curatio vulneris』……」



 俺は何とか回復魔法を唱え、オーフェルヴェーク侯爵の話を聞く。

 だが疲弊のあまり、思考がまとまらない。


 世界の危機。魔物との停戦。

 その言葉がぐるぐると頭の中で反芻する。

 そんなことが実現できるのか……?






「私を見逃せ……! 何者かが恐るべき陰謀を企んでいる……世界全てを揺るがす最悪の目論見を…………」






 オーフェルヴェーク侯爵を見逃す。

 とんでもない博打だろう。


 俺が判断できることではない。

 とりあえず彼を捕縛し、帰らなければ。



 そう思い、立ち上がろうとするが足がもつれて倒れる。

 だめだ。気絶しそうだ。

 俺の顔は苦痛と疲労に染まる。











「――――――――――おい!?!?!? いたぞ!!!!!」



「アルタイル様!?!?!? なんてことだ!?!?!?」



「う……腕が…………これはひどい………誰か!!! 回復術師を呼べ!!!」



「オーフェルヴェーク侯爵も何としてでも生かすのだ!!! 狂気の魔導具に気をつけろ!!!!!」



「ヤン!!! しっかりしろ!!! 死ぬんじゃないぞ!!!!!」




 そんな声が遠くから聞こえ、朦朧とする意識の片隅に響く。

 部下たちの声だ。

 鎧の鳴る金属音と、馬が地を踏みしめる振動が地を通して体に伝わってくる。


 来てくれたのか……

 俺は安堵と共に失神した。







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[良い点] なるほど、テフヌトはかなりやばい神様ですね! その息のかかったメチャクチャ危険な布が、アル様の首に……! でもアル様は狂気に堕ちてなくてとりあえずよかったです。 邪神復活の危機をもみ消そう…
[良い点] トート神の情報出尽くしたーと思ったら一気に次の道筋示されるぅー!!! 世界やべー神やべー(語彙力喪失) 侯爵様はさっきの激ヤバ少女にエンカウントしてないんですかね?そこがちょっと不安だァ…
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