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第58話 「王国魔導院長」




「『aqua』『aqua』『aqua』!!!!!」




 俺は悍ましい形相で走ってきたオークに、片っ端から攻撃していく。

 奴らの腹に風穴を開け、どす黒い血をまき散らして倒れ伏す。

 しかし後続の魔物たちは、それを無視して突撃してくる。


 こいつらには恐怖という感情がないのか……?

 どんな生き物も普通は同族が死んだら、自分が死にそうなら怖気づいて怯むだろうが……






 着々とオークたちは俺たちに接近する。

 兵士たちも弓矢で、その勢いを殺そうとしていたが。

 オークの固い表皮を掠めるだけで、有効弾がほとんどない。


 ついに魔法兵が魔法で応戦する。

 魔力の温存をしておきたかったが仕方ない。

 数匹倒れ伏したがだめだ。まだ半分以上残っている。


 この状況じゃ魔法を曲射する意味なんてないか。

 出力全振りで射出する。

 もう接敵する――――――




「『aqua』…………!!! 『aqua』…………!!!」



「坊ちゃんもういい。誤射の可能性がある。これ以上は俺たちに任せろ」



 よく狙っても仲間が射線に重なることでオークを狙いづらくなってきたところに、聞き慣れた声がかかる。

 ヤンが風を纏って、人間大の竜巻のように豪速で前衛へ向かった。


 俺の周りを騎士が固め、そしてオークたちを迎え撃つように鶴翼の陣に広がる。

 イザル殿たちも戸惑いがちだが、敵対生物たちを迎え撃とうと最前列で陣を固める。






「これは……本当に『aqua』なのか……?」



 イザル殿は信じられないものを見るように、目を見開いている。

 目の前のオークよりも、そこに打ち込まれる水魔法に気を取られている様子だ。



「……魔法の曲射!!! 僕もまだできていないのに……僕より年下であれだけの出力の水魔法を……なんという超絶技巧だ……」



 ――――――天才……!

 イザル殿は何かポツリと呟いて、悔しそうに固く拳を握る。




「『Ventus』!!! ……我らも続け!!! アルコル家に後れを取るなっっっ!!!」



「「「「「ハッッッ!!!!!」」」」」



 イザル殿は魔法を唱えると風が吹き荒れ、オークの足を切り刻む。

 転倒したオークを、供回りが的確に処理していく。

 こちらは心配ないようだな。




 それよりもオークたちだ。

 こいつらは敵である俺たちの姿が、本当に見えているのか?

 イザル殿たちの横をすり抜けて、俺たちの方向に向かってくる。


 何故だ……?

 イザル殿たちを囲んで攻撃した方がいいはずなのに……




 俺は疑問に思うが、すぐに吹き飛ぶ。

 もうオークが目前に近づいて来た。

 俺の周りの騎士たちが一部抜け、堰き止める。


 もどかしいが、これだけの至近距離では魔法なんて打てない。

 俺の技術なら可能かもしれないが、わざわざ賭けに出る場面じゃない。


 俺は部下たちに任せて、戦いを見守る。

 近接戦闘になると、俺は役立たずになってしまうようだ。

 魔法職全振りのスキルビルドの課題だな。





「――――――」



 手持無沙汰な俺は、戦場全体を観察する。

 それと気配察知のスキルを得たからか、あることに気が付いた。


 オークたちの後ろに、3つほどおかしな気配がある……?




 俺は目を凝らして、オークたちの最後尾の林の陰を凝視する。

 そこには3mほどの土くれでできた、不格好なヒトガタがいた。

 2体のゴーレムだ。


 オークたちを後ろから追い立てるように進んでいる。

 さながら督戦隊のようだ。

 督戦隊……?






 俺はこれらを見ると、頭の中でこれらの思考材料から、ある仮説が組み立てられていった。

 ゴーレムとは土魔法で発動する。

 オークたちはなぜ正気を失っても、こちらに向かっているのか?




 何者かが俺たちを邪魔しようと目論んでいる――――――


 俺は結論にたどり着くと、俺の最強魔法を発動した。






「――――――『Torrent cataracta』!!!!!」




 暴虐的な水の奔流が、一瞬でゴーレムを飲み込む。

 そしてもう片方のゴーレムも続けて消滅させた。


 最後の気配が一つ。

 不気味に足を止め、沈黙を見せた。




 俺はそこに向けて視線を送るが何も見えない。

 魔法だ。


 あるいは魔道具か何かで、視界から消えているのだ。

 警戒度を最大限にあげる。






「――――――アルタイル様……!? 何を……? …………あれは! ゴーレム!?」



 騎士の一人が俺の行動に気づくと、驚愕の表情でゴーレムの破片を見る。

 オークを処理し終わった部隊も、多部隊の応援に向かおうとするが。

 それを見ておし留まる。




「あれは……どういうことだ!?」



「何者かがゴーレムを作った……? 我らに向けて……?」



「聞けっっっ!!!!! 何者かがゴーレムの後ろにいるっっっ!!! 見えていないがゴーレムを作り上げたのだろう何者かがいるっっっ!!!!!」



 俺が限界一杯まで声を張り上げて叫ぶ。

 兵士たちは困惑していたが、俺の一声を聞くや否や俺の周りを再度固め。

 ゴーレムの後方へ警戒する。











「――――――――――『figura』」




 無機質で抑揚が皆無と言って過言ではない、平坦極まりない声が聞こえる。

 その声と共に5mほどのゴーレムが出現し、一番オークたちを相手にしていたヤン達を強襲した。


 しかしヤンはそれを読んでいたのか。

 ゴーレムが出現する瞬間にオークへ背を向け、ゴーレムに荒れ狂う嵐を纏った拳で対応した。




「『ventus procellosus』 危ない危ない。坊ちゃんの声が聞こえなかったら、気づかなかったぜ。見事な隠形だ」



 ヤンはゴーレムの周りの木々を足場に、縦横無尽に駆け回る。

 その体には風を纏い、急加速と方向転換を繰り返す。

 難なくして単独で、ゴーレムの関節部を破壊する。

 

 ヤンを信頼しているのか兵士たちはすべて任せて、オークたちに対応している。

 そしてゴーレムの片足が軋みを上げると、ヤンはゴーレムの関節部をすべて破壊した。




 その瞬間、何もない場所から空気の揺らぎが生まれた。

 隙を見つけようと観察していた俺はそれに備えていたから、咄嗟に土魔法を展開した。






「『terra』!」




 俺の土魔法でできた壁が、ヤンの背中に聳え立つ。

 土壁は不可視の斬撃に削り取られた。


 ニヒルに口角を上げ、俺に向けて片腕を上げたヤン。

 ゴーレムの後方へと向き直り、彼は笑う。






「やれやれ……まさかのまさか……か?」




「完璧なタイミングと自負していたのだがね。ここまで完璧に対応されては、仕方あるまい」




 その声はまるで痛くも痒くも感じていないかのように、淡白に話す。

 ついに存在を現した。




「『figura』『figura』 オークたちも意のままに操ることは難しいものがある」




 その超然とした声色と共に、2体のゴーレムが姿を現す。

 どちらもヤンと戦っていたゴーレムと同様の物だ。


 そしてその声の主も、ついに正体を見せた。






「――――――父上!?!?!?!?!?」




「当主様!?!?!?」




 同行していたピンク髪の美少年貴族が裏返った声で絶叫し、目を剝いて視線の先の男を見つめる。

 供回りも同様だ。


 するとこのイザルに似た、装飾の施されたローブを纏うピンク髪の中性的な青年は――――――






「久しいなイザル。魔法の腕を上げたか」



「父上っっっ!!!!! なぜっ…………なぜぇっっっっっ!?!?!?!?!?」



 姿を現して尚、泰然としたオーフェルヴェーク侯爵の態度に。

 イザル殿は様々な感情の入り混じった、悲痛な声で対する。


 苦し気に泣き声のような、怒りと驚きと悲しみ。

 それらがごちゃ混ぜになった、嗚咽とも言葉ともとれない声で叫んだ。




 オーフェルヴェーク侯爵はそっけなく、至極あっさりと返答する。

 さほど大きい声ではないのに、林のざわめきを遮って不思議と声が響く。






「必要だからだ。そこを退けイザル。私には使命がある」



「父上ぇ……! 何を言って……!」



 きわめて事務的にオーフェルヴェーク侯爵は、イザル殿に冷徹に告げた。

 そしてゴーレムを操り、イザル殿やヤン達前衛へと突っ込ませる。






「壁用意!!!」



「「「「「『『『『『terra』』』』』!!!!!」」」」」



 ヤンの指令により、アルコル軍が土壁を用意する。

 イザル殿たちも動揺しているが、周りにつられて発動したようだ。


 数は力だ。

 ゴーレムの巨体を防ぎ、動きを拘束する。

 俺はそれでできた時間で、何をすればいいことかぐらいわかる。

 



「――――――『Torrent cataracta』!!!!!」




「『impetus venti』」




 空間を一閃する水流が。もう片方のゴーレムを貫こうとする。

 しかしオーフェルヴェーク侯爵の放った一陣の風が、激烈な速度と威力をもって俺の水魔法と激突する。


 俺の水魔法が押し勝つが、軌道は逸れてゴーレムへと当たらない。

 想定していなかった展開に、俺は驚愕する。


 そんな防ぎ方あるのかよ……

 あんだけの速度と威力を持った魔法だぞ……






「ゴーレム2体の操作に加えて、高位魔法の発動だと……?」


「あ……あれは三重発動……」


「アルタイル様の魔法を逸らすなど、なんて技巧だ……」


 アルコル軍の兵士たちが、オーフェルヴェーク侯爵の想定を超えた実力に恐れ慄いている。

 魔法の三重発動。

 異次元の領域と表現するに相応しい、至高の絶技が目の前にあった。




「その魔法は既に一度見た。詠唱したタイミングで、予測した場所に適切な魔法を打ち込めば、対処は容易い」



 王国魔導院長はこともなげに抑揚にかけた声で、己の高度な魔法技術を評価する。

 俺ですら自分に打たれたら、対応不可能な魔法だぞ……?

 人間離れしてるじゃねぇか……



 しかも兵士たちが言っているように、魔法の三重発動をしてでだ。

 以前、俺も魔法の二重発動を試したことはあった。




 しかし魔法の並列処理何て技術は、余りにも難しかった。

 例えるならば両手で文字を書きながら、魔力を練って魔法を発動するのだ。

 これはあまりうまい例えではないが、とにかくとても常人の処理能力では追いつかない。


 習得するならばマルチタスクのスキルなどを取らないとだめだと断念した、超高難易度スキルだ。






 魔法の単純な威力やスピードは、俺が勝っている。

 しかし魔法技術や戦闘スキルでは、オーフェルヴェーク侯爵が圧倒的に勝っている。


 何も一対一の戦闘ではないから、単純な戦力比較はできない。

 しかし俺が勝つならば、魔法を当てられないと話にならない。




 ヤン達も俺の支援なしで、ゴーレム2体を相手にできるか未知数だ。

 俺は王国魔導院長に封殺される可能性がある。


 どうする……?




「――――――だが」




 不意にオーフェルヴェーク侯爵は不愛想に、俺を冷めた表情で観察して話す。

 俺はそのドライな表情を見つめ返し、対抗手段を必死に考える。


 嫌な冷や汗が、額から顎へと一筋。






「その齢でそこまで高い魔力と、習得した魔法は驚嘆に値する。いい機会だ。学問の徒の端くれとして、若き才能へ一つ講義をしよう」







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 『間が悪いオッサン、追放されまくる。外れ職業自宅警備員とバカにされたが、魔法で自宅を建てて最強に。僕を信じて着いてきてくれた彼女たちのおかげで成功者へ。僕を追放したやつらは皆ヒドイ目に遭いました。』

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[良い点] ヤン!凄い! アルコル家に忠実なだけあるわ! アルも負けず劣らずで期待が膨らみます。 追記 ご訪問遅れて申し訳ありません。 当方の都合で、なろうをあまり開いてなかったので 申し訳あ…
[良い点] 頭のおかしい魔物が押し寄せる中、アル様の才能を見せつけられ、お父さんの裏切りを見せつけられ(>_<) 美人の男の娘イザル君が心配になってきました! それでなくても、幼いのにここまでの判断…
[良い点] <イザル殿は何かポツリと呟いて、悔しそうに固く拳を握る。 貴重なイケメンの敗北シーンだぁ!!!!! オーフェルヴェーク侯爵、何か逃げてきたから切羽詰まっていると思ったけど、講義する…
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