第56話 「俺TUEEE回」
国境線に近づくにつれ、モンスターたちが多くなる。
接敵したのはオーク。
トロル戦以降、アルコル領に増えた魔物はオークやゴブリンが多い。
これらの魔物は積極的に村を襲い、女を攫って犯し増えていくらしい。
父上たちが最近国境地帯へ赴く頻度が増えたのは。
これらの魔物に隙を見せて、モンスターの拠点を増やさないようにするためだ。
オークたちは最悪村を乗っ取り、ハイブにする。
だからこそこの魔物は見つけ次第、根絶やしにする必要がある。
ダーヴィトが常日頃から、口を酸っぱくして言ってた。
「『aqua』『aqua』『aqua』!!!」
高圧水流が縦横無尽に弧を描き、木々を潜り抜けて魔物を打ち抜いてゆく。
遠距離からの奇襲によってオークたちは鮮血を撒き散らし、次々と血黙りに沈んでいく。
うわグロ。血みどろな日々を送ってると、グロ耐性も不本意ながらついてきたよ。
撃ち漏らしがいるが、歴戦の猛者揃いのアルコル兵にとって物の数ではない。
数人一組で魔物たちに相対し、確実に仕留めていく。
もとより数の利に有利がある。
俺たちは怪我一つなく怒涛の勢いで敵を殲滅していく。
ズバッズバッズバッズバッズバッッッッッ!!!!!!!!!!
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンッッッッッ!!!!!!!!!!!
グチャグチャグチャグチャグチャッッッッッ!!!!!!!!!
『………ブ………ブモォ………』
オークたちは抵抗虚しく、骸を増やすのみだ。
断末魔の声しか聞こえなくなってゆく。
「ヒュー――ッッッ!!! なんて水魔法だ!!! 魔物どもが穴だらけだぜ!!!」
「アルタイル様の魔法があるから、突破も容易い! 皆行くぞっ!!!」
「こんな簡単な戦があるのかよっ! これじゃほとんど片が付いたようなもんだなぁッ!」
「ハーーーッハッハッハッハ!!! 俺がいる限り!!! 人類に敗北はない!!!!!」
俺は気をよくして、ふんぞり返って高笑いする。
兵士たちは魔物を掃討すると、大歓声を上げて俺を褒め称える。
自分への賛美とは、なんと蜜の味なのだろうか。
「アルタイル様ばんざーーーいっっっ!!!」
「私はアルコル領の英雄に一生着いていきますっ!!! 騎士としてこれほどの誉れはないっっっ!!!」
「うぉぉぉぉぉっっっ!!! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!」
騎士や兵士たちの歓声に悦に入る。
脳が痺れるほどの充足感。
顕示欲が満たされ、多幸感に浸り笑顔になる。
これだよこれ。
なににも代えがたい無上の喜びだ。
異世界転生のこの上なき醍醐味ですよ。
脳みそトロけそうになるぜ。
ん? 指揮をしていないだって?
それは言わない約束だし、的外れだぜ。
戦争は物量だ。
つまり魔力無限で魔法撃ち放題の俺は、世界最高の指揮官となる。
簡単な論理だ。
俺は俺の才能が有りすぎて恐ろしい。
「か―――――っっっ!!! 勝利の栄光はいつも俺と共にあるんだなーーーっっっ!!! 見てるかヤン? 俺の雄姿ーーー???」
「うんうんすごいすごい」
「そうだろうそうだろう!!! 崇拝足りておるかーーー?????」
「実際坊ちゃんの魔法は凄いよ。魔法は…………おいお前ら先に進むぞ。目標にはまだ辿り着いていない。気を緩めるな」
「「「「「「「「「「ハッ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」
小生意気なヤンも俺の偉大さに、ようやく気が付いたようで大満足だ。
俺たちはそのまま国境線へと向かい、歩を進めていく。
兵士たちはその間にも俺の戦ぶりに興奮しており、敗北による士気低下とはまるで縁がない。
俺は素晴らしい戦果に有頂天だ。
蹂躙ですよ。
一方的な勝利ってのは大爽快だね。
これだけの魔物を倒してスキルポイントも大幅に増えた。
一挙両得じゃないか。いいことずくめで飛び立つような思いだよ。
スキルビルドも楽しみだな。
「――――――さっさと王都からの援軍が来ないもんですかねぇ。いつになったらこの事件も解決するのやら。魔物たちの危険が大きくなってるのに、いい迷惑ですよ」
「ずっと警戒するというのも辛いものだ。アルタイル様のおかげで重い水などの荷物を、そこまで背負わずに済んでいるが……しかし魔物どもが溢れかえる中で、人一人を捜索するなんて至難の業だぞ」
「英雄のアルタイル様がいるとはいえ、俺らじゃ王国魔導院長なんて敵うわけねぇしなぁ」
俺たちも国境線まで向かってこれで5日目だ。
チート転生者がいることで水は潤沢だし、怪我とも無縁だ。
兵士たちの身の危険は少なくなっているから、いつもの軍事行動よりは快適だろう。
だがそれで士気が保てる、という事にはならない。
彼らは魔物たちから人類を守るという、使命感で動いている。
人類の犯罪者を相手に戦うことは、騎士は誇りに思うことはないのだ。
許容限度で安定はしているが、今話している兵士たちもモチベーション低下がいつもよりも目立っている。
「心配することなんて何もないぞ! 俺がいれば敗北はない!!! お前たちは俺に黙ってついてくればいい!!!」
「確かにどんなに強くても、アルタイル様ほどじゃあないでしょうからねぇ!」
「違いない。私たちはアルタイル様のサポートを、全力で遂行すればよい」
「王国魔導院長は私たちが見つけ出して見せます!!!」
「おう!!! よきに計らえ!!! ガハハハハ!!!!!」
見かねた俺の鶴の一声により、不満に沈んでいた兵士たちに活気が戻る。
流石は俺だ。
カリスマがあるな。
王国魔導院長とはいえ、転生チーターには勝てんやろ!!!
神に選ばれし英雄の裁きを受けることだ。
「坊ちゃんの図太さは尊敬する……それも英雄の資質なんかね」
「ふん。英雄とは俺の事だからな。つまり俺のような奴が英雄になるんだ」
「敵わねぇな。いま心の底から坊ちゃんには参っちまった」
「ようやくわかったか。これからは心を入れ替えて俺に尽くすんだぞ?」
ヤンは曖昧な笑みを浮かべて俺を見つめる。
いつもなら猪口才な口をきいてくるくせに、どうしたんだ?
まぁこいつも俺の凄いところを見て、改心したんだろうな。
すこしでも真人間になれてよかったじゃないか。
これからも今までの己を悔い改め、捻じ曲がった性根を清く正しくするんだぞ。
「しかしこの状況だと、捜索の仕方も変えるべきか……できれば王国からの援軍に押し付けたいところだが、見つからなかったら最悪だ」
「うーーーん……でもこれ以上冴えた方法なんてあるか?」
「思い浮かばん。だからジジイも地道に探すように命じたんだろ。そもそも王国魔導院長の意図が全くわかんねぇんだからな。推測も立てようがない」
「だよなぁ……」
敵が眼前に立ち塞がるならやりようはあるが、まず見つけるところから探さないといけないからな。
相手が人間という事で勝手が違うから、軍による捜索もうまくいかない。
何人か使い魔のフクロウを持っている技能兵がいるけど、それでも数が足りなさすぎる。
めっちゃ役には立ってるけどさぁ。
でも相手も大魔法使いだ。使い魔如きの目を欺く術なんて、容易いだろうな。
となると、こちらも魔法で対抗するしかないのかな?
「ヤン? 人を見つけることに使える魔法ってあるのか?」
「俺が知っているものは火魔法と風魔法、土魔法であるな。あとは魔道具でそんなものがあるかもしれねぇ。しかし探索魔法は、それなりにその魔法に熟練していないと使えない。魔力操作も髙難度が要求される」
「そうか……どのくらい熟練が必要なんだ?」
「大体数年もあればできる。俺も風魔法は使えるが、匂いや音を集められるだけのものだ。火魔法の温度感知魔法と比べると精度が低い。雑音まで拾っちまうからな。坊ちゃんなら習得してから練習すれば、1か月もあればできるようになるんじゃないのか?」
「うーん……今から一か月はキツイな」
むむむ……魔法を使うのは名案だと思ったんだが……
今スキルポイントをまだレベル低い火魔法に突っ込むのは、ちょっとタイミングが間違ってるよな。
事前にわかってればさぁ!!! 対策もしようがあったのにさぁ!!!
まさかの味方のはずの王国魔導院長の犯行だよ。
誰が予想できると?
「むむむぅ……」
俺はやることもないので、ステータスを開いてスキル一覧を覗く。
探索に使えるスキルもあるにはあるが……
迷うよな……スキルポイントは俺の生命線だもん。
スキル習得しなくても案外見つかるかもしれないし、博打だよな。
でも迷ってるスキルが一つある。
気配察知スキルだ。
これあれば奇襲にも対応できるから、腐りづらいと思うんだよな。
一番大事な命を守るスキルでもある。
でも回復魔法とかと比べると、優先度は長期的に見れば落ちる。
ぶっちゃけ有用なスキルなんて腐るほどあるよ?
でもあんまりあれこれ手を出すと、スキルビルドがとっ散らかって器用貧乏一直線だ。
スキルポイントさえ有ればいいんだけどな。
今回の魔物狩りで結構手にいれたから、この調子で手に入ればいいけど。
それは希望的観測に過ぎるだろう。
でも1ポイントだけならありか?
いっちゃうか?
どうせ後で1ポイントだけなら振るつもりだし、今ここで振ってもいいんじゃないか?
……いっちゃえーーーーー!!!!!
………………おお。
俺の後方でヤンが何してるか大体わかる。
こいつまた菓子食ってやがるな。
効果範囲にいる相手の動作もなんとなくわかるようだ。
温度とか気流の動きも大体わかる。
大体半径2mないくらいは、わかるかも。
これ使えるわ!?




