第51話 「王都の散策初デート」
ツア・ミューレン伯爵への挨拶も終わり、帰郷の用意をする。
彼は真面目そうなサラリーマンのような風貌で、貴族というより官僚に近い雰囲気の人物だった。
外国の銀行にいそうな感じだ。
エーデルワイスとクラウス殿の生母である伯爵婦人は、エーデルワイスにそっくりだ。
婚約者をそのまま大きくしたような感じで、派手な見た目とは裏腹に大人しい清楚な方だった。
体はずいぶん大人しくなかったけどな!
あれと同じものが将来的に俺のものになるのかと、思わず生唾を呑む。
そしてめでたいことにエーデルワイスの妹が、やや早産ではあったが無事に誕生したとのことだ。
伯爵夫人が腕に小さな赤子を抱えていた。
このことが婚約者の帰郷を早めた理由の一つだろう。
黒髪ツーサイドアップの女の子は、初めて彼女の妹と対面したとき目を丸くしていた。
そして嬉しそうに慣れた手つきで、赤子をあやしていた。
母性尊い。俺もバブバブしたい。
ツア・ミューレン伯爵にも当然多くの妻がいる。
エーデルワイスの弟と妹たちはまだ乳幼児ばかりなので、そこで赤子のあやしかたを覚えたのだろう。
ツア・ミューレン伯爵と父上とは話が合うようで、親しく言を交わしていた。
クラウス殿も交え、軍事予算がどうちゃらこうちゃらと難しい話をしていて。
俺も同席していたがよくわからなかった。
ツア・ミューレン伯爵は俺に向けても腰が低く、べた褒めである。
俺のことも詳しくエーデルワイスから聞いているようで。
娘の友達を作ってくれたことへの感謝や、高い魔法技術や語学などの学問についての成績についても知っているようだった。
持ち上げられた俺はいい気分のまま。
王都での最後の思い出にエーデルワイスとの逢瀬を、と勧められ王都の散策デートという事となった。
婚約者との初デート。王都の散策。
二重の意味で楽しみである。
俺は王都で使用人たちがセレクトしたおニューの服を下ろし、意気揚々と王都に繰り出す。
「エーデルは王都でのおすすめの店とか知ってるか?」
「うぅん……お外は危ないから、まだダメってお父様が……ごめんねぇ……?」
「いいって。俺らで何か楽しいこと見つけようぜ!」
「…………ぅん!」
しょげるエーデルワイスを励まし、俺はその手をつなぐ。
彼女の温かく小さな手の感触を確かめる。
おててちっちぇえ……ふにふにだぁ……
俺たちは行く当ても特に決めずに、散策する。
二人ともなんもわからん状態だからな。
この世界の年をじっくり見たことないし、何に目を引かれるかもわからないので好奇心に任せていこう。
ノープラデートっても乙なもんだ。
カルトッフェルン王国の王都ソラーヌム・トゥベローズムというのは、壮大なる石造りの由緒ある都である。
摩天楼とも言って差し支えない高層建築が軒を連ね、その中でも一際荘厳な王城が圧巻の一言だ。
これらすべて建国史以前の伝説的発明家が設計し、今でもそれが維持され続けているという。
俺はその時からほとんど変わらない景色を見ているという事だ。歴史ロマンだな。
これだけの建築物はもちろん魔法あってのものだ。
強化魔法や付与魔法を何重にも施し、建築材料からしても優れた素材が魔法技術によって生み出され、都市インフラを整備している。
もちろん建築技術も長年の創意工夫を凝らしているからだろう。
上下水道をはじめ、道路、馬車軌道、橋梁、公園、病院、すべてが揃っている。
マジで住みやすいと思う。
ゴミなんかもきちんと収集されて、魔法技術でうまく処理されているらしい。
空には郵便局所属の使い魔のフクロウが飛び交い、魔導具によって管理されて配達を行っている。
これがマジカルスマートシティや……
公園では子供たちが園芸を楽しんでいるし、緑も豊かだ。
衛兵は魔法ゴーレムを伴い、犯罪率も抑えられている。
父上の代になって益々経済力を増した巨大経済圏の中心であるアルコル領すら、霞むほどの巨大先進都市だ。
「それにしても凄い都市だぜ」
「わたしもそう思う……!」
この都市は建国以前の神代から歴史があり、その変遷も気が遠くなるほどの年月を経ている。
故事成語にもいろいろ引用されているとか。
そんな王都だからこそ人が集まり。
王都で開業することがステータスだと考える商人たちが、こぞって進出しようと鎬を削る。
だからこそ様々な人種が王都には存在する。
ファンタジックな獣人も多く見られるがそれだけではない。
芸能者や若い奴らが、夢を見て都会に出てくる。
そいつらは劇団や屋台を設立し、呼び込みの声がひっきりなしに聞こえてくる。
華やかで重厚な、なおかつ革新と俗な空気の同居するなんとも不思議な魔法の街だ。
俺たちはキョロキョロと首をあちこちに向け。
その中でも興味をひかれた、楽劇に吸い寄せられていた。
「はわぁ…………すっごぃね……!」
「あぁ。見ていこうか」
舞台の上ではドレスを着た貴婦人を守るナイトが、ローブを着た悪の魔法使いを相手にしている。
舞台の下では楽団が演奏する、ミュージカル形式の劇だ。
音響効果と共に火花や氷、爆発が吹き荒れ、視覚と感覚も楽しませてくれる。
悪の魔法使いの魔法と共に、俺たちの方向にも熱風と爆発の効果音が放たれると。
俺たちも本当に戦闘しているような錯覚に陥る。
よく考えられているな。
臨場感がある。
「さて、観覧料を払うから少し待っていてくれ」
「ぅん!」
俺はエーデルワイスの汗ばむおててを名残惜しくも一旦手放し、財布を片手にする。
すると空間が歪み、そこに仮面の男が突然現れた。
周りの人間たちは全く気付かない。
劇に熱中してるだけではないだろう。
魔法によるものだ。
「――――――坊ちゃん。歌劇は予約しないとだめだ。一般席だと何かあれば守り切れん」
「そっか。了解。エーデル悪いな。また今度来た時、一緒に見ようぜ?」
「ぅん。仕方ないね……約束だよ……?」
「あぁ。約束だ」
ヤンの淡々とした上申を聞くと、俺はエーデルワイスに残念な報告をする。無念だ。
彼女は気を落とすが、気を取り直し消極的にだが俺との再デートの提案をする。
断っては男が廃るというもの。
俺はキメ顔で承諾すると、婚約者の女の子は嬉しそうにする。
なでなで♡ こうやるとスリスリしてきて、可愛いでちゅね♡
ナデポってやつかな?
俺はなれば?チートを何時の間にか、自力で習得してしまっていたか……
リアルだとそんなものはないと思っていたが、本当にあるとは。
イケメンってすごい。転生してそう思った。
俺たちは人の往来のそこそこなところを、中心に回っていく。
茣蓙を敷いた露店を見物したり、出店を見る。
そして俺はあるものを発見する。
ケバブだ。俺、あれ好き。
俺は小腹がすいたので、ケバブをおっちゃんに頼んで二つ購入する。
エーデルワイスに手渡すと、物珍し気にそれを眺める。
「これ……何……? ……どぅやって食べるの………?」
「ケバブだ。旨いから食ってみろよ。こうやって」
俺はケバブに齧り付く。
あつっ。うめっ。
濃厚な肉汁とまろやかなヨーグルトソースが合わさって、スペシャルハーモニー(料理評論意味不明恒例表現)だ。
こんな野卑なジャンクフードは、お嬢様育ちには馴染みがないか。
でもドはまりしてジャンキーになっちまうだろうなぁ。
見様見真似でエーデルワイスは戸惑いがちに、小さな口でケバブを噛む。
「…………ぉ兄ひゃん……食べづらぃ……よぉ……」
「ふ…………ふっひょぉぉぉぉぉっっっ!?!?!?!?!?」
エーデルワイスが口元を白い液体で汚し、官能的な姿となっている。
口元に付着したヨーグルトソースを、真っ赤な舌で妖艶にチロチロと生き物が蠢くように忙しなく動かし。
熱っぽい煽情的な息をする。
髪を片手でかき分けて額に汗を滲ませ、俺を悩ましく流し目で見つめる。
その幼い姿がする淫靡な仕草はひどく倒錯的であり、俺の情欲をそそる。
「ほ…………ほわーーーーーーーーーーっっっっっっっ!?!?!?!?!? ダメダメどこで覚えたのッッッ!?!?!? そんなエッチな食べ方いけませんっっっ!?!?!? 精通しちゃいますよ!?!?!? そんなどスケベな子は攫われて、ヌチョヌチョでグチャグチャなイケない目にあっちゃう!?!?!? だから♡ 俺が口移しで食べさせてあげまちゅからね♡♡♡♡♡」
俺は息巻いて淫らなエーデルワイスを注意する。
婚約者として当然だ。
そんな刺激的な誘惑を受けた男たちは、たちまち野獣へと変貌してしまうだろう。
俺はもう悩殺されたから間違いない。
俺がダメなら、皆ダメだ。
統計学で明らかだ。
仕方ないので急いでケバブを食らい、準備を進める。
仕方ないね♡
「……ハフハフっ! ……モグモグっ…………む……ぐっ…………!? …………あ゛っっっっっつ゛っっっっっ!?!?!?!?!?」
「…………おバカなんだから……」
エーデルワイスは白けた目で俺を見つめる。
俺は悶絶し、悲鳴を上げる。
俺は猫舌なのである。
劣情に囚われ、失念しておったわ。
そして俺を眺めながら、エーデルワイスはケバブをまた一口頬張った。
夕焼けが摩天楼の間に差し込み、店仕舞いの準備をする店が増えてきた。
俺たちは公園のベンチに腰掛け、噴水を見ながら今日あったことについて話していた。
エーデルワイスはたどたどしくも、今日の新鮮な出来事について熱く語る。
「――――――ぁのねあのね……わたし今日はすっごいびっくりしたよ……! ……外ってこんなに色んなものがぁるんだね……!」
「うんうん。わかるよ」
「……とっても楽しかったね……! ……いっぱい行きたいところがぁるんだぁ……!」
うんうんそうだね可愛いね♡
エーデルたんが可愛くて俺もハッピーだよ♡
俺たちのラブラブな姿を見せつけて、この世界をハッピーにしてあげようね♡
オールハッピー☆ いぇい☆
話しが一段落すると、俺はアイテムボックスからある袋を取り出す。
この日のために用意したものだ。
「エーデル。これを受け取ってくれ」
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