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第5話 「ロリメイドのサルビア」




 俺が生まれてから一年が経つ。

 ぶっちゃけ何もできない。

 というのも一日の間のほとんどを寝て過ごし、起きている時間も苦痛に呻き終わるからだ。


 限られた時間でこの貧弱な体を必死に鍛えている。

 そして痛んだ体で気絶するように眠る。

 ほんと痛すぎて考えも纏まらないし、余力がない。




 あとさぁ一年くらいあれば、普通どんだけ成長するもんなの?

 俺まだ立てないんだけど?


 直立できないのに言葉を喋るってのもおかしいし。

 どこも行けねーしよ。暇なんだが?






「奥様の所に行きましょうね。坊ちゃま」



 まだ声変わりのしていない、少女が持つ高い声が聞こえたかと思うと俺の体が抱き上げられる。

 年齢不相応に落ち着いた様子で、テキパキと仕事に励むこのロリメイドの名前はサルビアだ。


 この銀髪の少女は俺の世話を乳母と共に任されるほど仕事ができるようで、なおかつ信頼もされているようだ。

 俺の世話や家事もなかなかどうして手際が良い。


 彼女は無口という程ではないが、やや表情と抑揚が乏しい。

 性格はクールだが穏やかだし、真面目で丁寧だけど。




 普通このくらいの年じゃ行儀見習いだよなぁ。

 他のメイドは若いの全然見かけないし。


 乳母なんておばさんだしな。

 俺の周りで一番年が近いのは、この子だろう。




「今日は調子がよさそうで何よりです。血も吐かれないし、安心しました」



 俺を抱きかかえた銀髪ロリメイドの膨らみかけのちっぱいを堪能し。

 そこかしこに如何にも高そうな調度品が並べられた、広く長い廊下をゆく。


 そう俺はスーパーボンボンとして生を受けました。やったぜ。

 美少女メイドに世話されて俺は育つんだぞ?

 羨ましかろう?

 あ~いいにおいする~最高なんじゃあ~~~!






 至福の時間はあっという間で、いつの間やらサルビアはある部屋に入り。

 俺は母親の目の前に座らされた。

 ようやく首が座ってこの体勢を行えるようになり、我が事ながら成長が感慨深い。




「いらっしゃいサルビア。アルタイルを運んできてくれてありがとう」


「はい奥様」


 俺は金髪碧眼の女性を見つめる。

 この清楚な美女は、俺ことアルタイルの母親だ。

 俺を見て嬉しそうに微笑んでいる。


 父親もイケメンだから、将来俺も確定イケメンだろ。

 今でさえお顔がお人形さんのように、めちゃくちゃ整ってるもん。

 今は母上似の清楚系ロリにしか見えないけど、父上みたいに超高身長の伊達男になっちゃうんだなぁ!




「ようやく1歳になってくれた。おめでとうアルタイル。プレゼントがあるよ」


「まぁ。よかったですね坊ちゃま」


 母は俺の頭を優しく撫でる。

 少し声が震え、目尻には涙が溜まっている。

 ご心配をおかけしました。


 俺が風邪をひくたび、半狂乱だったもんね。

 調子が悪くなるたびに、俺は死にかけているのだ。




 あ……プレゼント歩行器……

 丁度歩ける練習になるしえぇか……


 後ろを見ると控えているサルビアは、薄く口角が釣りあがっている。

 あぁ~かわいいね~~~




「あなたもこの子の世話をしてくれてありがとね。よくやってくれていると聞いてるわ」


「いえ。坊ちゃまは手のかからない子でいらっしゃいますから」


 母の言葉に見事なカーテシーで答えるサルビア。

 こいつマジで優秀なんだよな。

 お? 転生者か?




「母親になっても問題なしね!」


「そうでしょうか……? ありがとうございます」


 サルビアはいつもの冷静な表情を崩し、どこか自信のなさそうな怪訝な表情をつくる。

 母はそれを見て声のトーンを落とし、優しく声をかける。




「あなたのお母様は早くに亡くなったと聞いているわ……あなたの御父様には、私もとてもお世話になっているの。私のことは母だと思ってくれていいのよ」


「もったいなきお言葉です。奥様」


 母はサルビアの頭を抱き寄せて撫でる。

 サルビアは恥ずかしそうに頬を赤らめる。


 あ~可愛すぎるよ。

 俺のお嫁さん決定ですわ。

 サルビアが可愛すぎるのがいけないよ。






「……………!」



 二人が話し込むと俺は所在なく、歩行器を見やる。

 暇だしやってみるか。

 掴まって歩けばいいんだな?


 余裕だと思うんだろうけど赤ちゃんボディって、マジでバランス悪いから。

 頭重いし、それを支える筋力がないんだわ。

 俺の場合は体も痛いし。


 そうして俺は歩行器に掴まり立ちして歩行する。

 前世でやったとこだし、こんくらいはね。




 ……これもしかしてこの勢いで歩けんじゃね?

 数歩ならワンチャンいけるだろ。

 ヨシ! 行くぞ!






「アルタイル!? 歩いているじゃぁないか!?!?!?」



 部屋の入口で驚きの声を発する男がいる。

 この金髪の悪人面は俺の父親アルフェッカだ。

 いつもは仕事で忙しそうにしているが、俺の顔を見るために日に10回はやってくる。


 夜は俺を起こさないためか来ないが、休憩時間になると急いで俺に会いに来る。

 政務に軍務に財務に多忙の極みにある職務に就いておきながら、フッ軽ってレベルじゃねーぞ。


 息子の体調を心配しているのだろう。

 俺が痛みに呻いていると、いつも動揺しているのだ。




「ナターリエ!!! 御覧! アルタイル! 歩いてる!!!」



「本当!? ……アルタイル! 歩いてるわ!!!」




 すげー片言じゃん。

 まぁ子供が初めて歩いているところを見たら感動もひとしおか。

 サルビアも口を押えて目を丸くしている。

 あ、ナターリエってのは俺の母親の名前な?


 どれいっちょ家族サービスしてやりますか……

 よちよちよちっとな……



 俺は2歩、3歩とゆらゆらと揺れつつ歩みを進めていく。

 この上手なあんよは昔取った杵柄ってやつ。


 10歩くらいになったところで、壁に手をついて方向転換。

 父親の方へ向かって歩いていく。




「すごいすごい! おいでおいで!」


「きゃーーー! アルタイル! 歩いてる!!! きゃーーーーー!!!」


「…………!」


 全員が俺の記念すべき初歩行に注目し、黄色い歓声を上げている。

 仕方ねぇ奴らだ。

 俺は着実に歩を進める。


 これぐらい容易いぜ。

 教えてやるよ人生2回目の実力をな。






 だがその時俺は忘れていたんだ。

 俺が背負う宿業を。




「ケホケホ! ぺっ!」



 俺はいつものように咳き込むと、おしゃぶりをそのまま吐き捨てた。

 わかるだろ? おしゃぶりをしたまま咳はしづらい。


 俺は足元に転がるおしゃぶりに気づかないまま、踏み出してしまった。

 自分のバランス感覚を盲信するがままに。

 案の定というべきか俺は躓いた。






「(あ……れ……?)」




 気づいた時には世界は傾いた。

 足元に視線を送るとそこにはおしゃぶり。

 迫り来る床。

 赤子の身体から来る重心バランスの影響で、頭から落ちていく体。


 スローモーションで進む時間。

 尚更増す痛みへの恐怖。

 ついに訪れた接触と頭への衝撃。


 鈍い、痛み。






「――――――――痛っっっっった!?!?!? …………ずっ……ぁっ! ………ぐっ……うっ! …………イッッッッッタッッッッッッッッッッ!!!!!!!?!!!」




 頭からくる衝撃が全身に駆け巡り、俺は思わずあまりの痛みに絶叫してしまった。

 いやだって痛いから思わず……

 いい気分になりつつあった瞬間、不意打ちに転倒するとか嘘じゃん……


 突然こんな流暢に話し始めたら、悪魔の子とか言われて魔女狩りコースだって。

 なれば?小説を読んでいた俺は詳しいんだ。

 転生主人公たる俺に厳しい世界こそ、世の摂理なのだ。




「アルタイル……え……? ……今痛いって……?」



「『Sanatio』…………ぁ?」



 父たちはそれを聞いていた。

 俺の言葉に驚いて呆然としている。

 当然だ。

 俺は今まで話したことなど一度もなかったから。


 加えて魔法を唱えているところを見せてしまった。

 さすがに子供が教えられてもいない魔法を使うのは、どう考えてもまずいでしょ。




 完全にしくじった。地獄みてぇだ。

 一般的な子供の成長過程とは完全に乖離した行動を起こしてしまった。気味が悪いなんて思われたら最悪。

 また前世みたいに虐待されることになったら、俺は終わり。


 俺は痛みをこらえ、様子を窺うために涙を流しながらも父たちを見やる。

 皆信じられないといった表情で、俺のことを見ている。




 皆、氷のように固まっているが、母は倒れ込むように俺の方に来ると俺の体を拾い上げた。

……さて、どうなる?






「痛かったね……! ごめんね……!」




 母は涙を流しながら俺の体を抱きしめる。

 それに一泊遅れて父親が駆け寄り、俺の頭を撫で上げる。

 目尻には涙が溜まり、悔しそうに唇を噛みしめている。

 

 何が起こっている……?

 俺を殴ったり迫害するならわかるが……

 前世の親なら、確実にそうしていたはず。

 彼らは何を考えているんだ……?




「いつも痛くてごめんね……痛い痛いってあなたに聞いてばかりでごめんね……」



「…………ッ! ……なんで……この子がっ!!!」



 父親もとうとう涙を一つ二つと流してしまった。

 悪人面も相まって凄まじい形相である。

 後ろに控えていたサルビアも、さめざめと泣いてしまっている。






「初めての言葉が……! 『痛い』だなんてあるかよっ!!! そんな残酷なことが……!あっていいものかよっっっ!!!」



 父は怒号と共に床を殴りつける。

 その拳には血が滲んでいるにかかわらず、これでもかというほどに何度も何度も殴りつける。

 あんたも痛くないのかよ……


 ……そういうことか。

 あぁ俺は小さいころに夢見ていた、そんな温かい家庭に――――






 母は俺の体を痛いほど抱きしめる。

 そして震える声でポツリと呟いた。






「この子の命は、痛みと共にあるのね」










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