第48話 「息抜きの娼館 ストレス発散性欲発散尊厳発散」
俺は情報屋から帰った次の日から、ずっと貴族たちへ挨拶回りをしていた。
貴族付き合いとは、とにかくあまりにも精神に負担がかかる。
あいつらは王国の新しい英雄である俺に見た目ではごますりしてくるが、陰では絶対利用しようとしているぞ。
てか受勲式で俺に拍手しなかった奴を、覚えているからな?
アイツら絶対許さねぇ。
それに俺は害意には敏感なんだ。
前世では家でも学校でも社会に出ても、俺をどう奴隷のようにこき使えばいいか考えているような奴ばかりだったからな。
1人も味方がいなかったあの頃は、殺伐としている浮世をどうスイスイ泳いでいくかが最重要だった。
俺はその頃のような、人間の悪意への嗅覚を取り戻し始めていた。
最近は温室でヌクヌクとしていたから忘れていた。
それでも四六時中気を張っていると、ストレスが溜まる。
慣れない王都での屋敷だから尚更だ。
俺は荒んだ心に潤いを求めていた。
家に居てもどこか落ち着かない。
ならば外にリフレッシュするものを求めるしかないじゃないか。
となると答えは一つだ。
古来より男はこうしてストレスを解消するのだ。
ここまで言えば察しのいい奴はわかるだろう。
「――――――ヤン!!! 風俗行きてぇ!!!!!!?!!!!」
「ハハハ。坊ちゃんにはまだはえーよ。サルビアの乳吸って我慢しろ」
俺が天井に向かって叫ぶと、ヤンが瞬時に姿を現す。
俺の隣でぼやけていた輪郭が一瞬でくっきりとすると、それがヤンの姿へと変わっていた。
何らかの魔法だろうか?
まぁ今はそんなことはいい。
俺は風俗に行って、性欲を解消したいのだ。
夜は口寂しく、母性に飢えている。
だから恥を忍んでこうしてお願いしているのだ。
わかんねぇかなぁ?????
「サルビア最近厳しくて、おっぱい吸わせてくれないんだもん!?!?!?!?!?」
「なら諦めな。俺は坊ちゃんのシモの事情までは業務外だ」
ヤンはどうでもよさそうに大欠伸をする。
心底怠そうだ。
おいご主人様のメンタルケアも、従者の務めだからな?
「なら一人で探しに行く! 俺はやるぞ!?」
「だ~~~もううるせぇな。アルフェッカの仕事もある。俺はあんま時間とれねぇからな?」
「連れてってくれるの!?」
「俺が指定したところならな。さっさと済ませろよ」
「いぃぃぃぃぃ…………やっっったぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
「あ~ダリぃ~~~」
俺は喜びに打ち震える。
とうとう童貞卒業かもしれない。
口元が緩み、わくわくが止まらない。
「まぁ命令なら行くけどよ。アルフェッカから命令されれば大体のことは聞けって言われているし」
「そうか! 命令だ!」
「はぁ~~~りょ―かい。ならさっさと準備して。できたら呼んでくれ」
超速で準備完了し、玄関へと駆け出した。
そうして俺はウキウキと色街へと繰り出すのだった。
「んじゃ俺は近くで見張っとくから。なんかあれば叫べよ」
「おう! …………へへへへ」
ついに俺は色街へとたどり着いた。
ヤンは視界から消えていき、俺一人となる。
色っぽい女たちが練り歩く、混沌とした雰囲気の雑踏に降り立つ。
まだ昼間なので男の姿はあまり見えない。
女たちも派手な者たちばかりだが、所々生活感がある。
娼婦がその真の姿を見せるのは、夜からなのだろう。
俺は意気揚々と進撃する。
俺くらいの年の頃の男は一人としていない。
つまりこの女たちは俺が支配する。
旅の恥は掻き捨てという、俺はどんなハードプレイをしようかと妄想を深める。
お菓子にくらいしか使ってこなかった小遣いは、財布とアイテムボックスの中に山のようにある。
準備完了。
アルタイル、出撃する。
「――――――あらぁ……? 女の子? いやボクちゃん? ここは大人にならないと来ちゃダメよ?」
「いいじゃない。興味が出てくる年頃よ」
「ここはお金持ってないとだめだよ~? お母さんの所に帰りなさいね?」
色気むんむんのお姉様たちが俺を見るや否や、笑いながら揶揄ってくる。
すげぇ格好だ。
コスプレイヤーでもここまでやるかという露出度だ。
胸元から臍まで空いた、臀部丸出しのドレス。
上半身の露出は少ないが、むっちりとした下半身を強調するハイレグのレオタード。
スク水に、紐ビキニに、メイド服に、警官に、ボンテージに、バニーに、和服に、巫女服に様々な衣装をしている。
あらゆる性癖を網羅している、男の欲望を凝縮したような場所だ。
もうガン見だ。
「お姉さんたちお綺麗ですねぇ♡ デュフフフ♡」
「あらありがとう。クスクス……ねぇお姉さんのおっぱい触ってみる……?」
「やだぁ~♡ この子ハマっちゃうかもしれないわよ?」
俺に褒められて気を良くしたのか。
娼婦であろう女は胸元を広げ、その谷間を見せつけながら流し目を送ってくる。
視線は当然、彼女の胸部に釘付けだ。
俺は目をカっと見開いて、それを顔が触れあいそうになるまで近づいて覗き込む。
隣にいる女はどぎまぎする俺が面白いのか、笑いを堪えきれないようだ。
俺は性欲を堪えきれないよぉ♡
「えへへへへ♡♡♡ それじゃ遠慮なく!!! …………むっほぉ~~~♡♡♡♡♡」
「…………んっ……」
「昼間っから何喘いでんのよ~ウケる!」
「坊や? 私はもっとすごいことしてあげるわよ~? 一晩買ってみない?」
「ショタコンとかマジ~? ヤッバ~~~」
「かわいい男の子なんて最高じゃない! 女の子みたいなお顔なのにスケベなんだ……?」
娼婦たちが賑わいに釣られてきたのか、続々とどこからか集まってくる。
選びきれないなぁ。
なら全員買っちゃうか!
俺は女たちの顔と乳を品定めと称して確かめるが、どうにも選びきれない。
金はあるから大人買いして、大人になっちゃいますかぁ!!!
「童貞食べれるなんて最高でしょぉ…………それにこの子きっとお貴族様か、いいところのお坊ちゃんよ? そんな子の初めて貰えるなんて滅多にないわよ」
黒髪を肩下でまとめた娼婦が舌なめずりして、俺の体を撫でてくる。
もう俺はビンビンだ。
娼婦はそれに気づくと艶やかに、かつ嗜虐的な表情をする。
女の本能むき出しの熱の入った上ずった声で、俺を誘惑する。
「……ねぇ坊や? 女の人の裸見るの初めて……? とっても柔らかくて気持ちいいのよ……?」
「だめよ。お姉さんとあっちにいこ? とっても気持ちいいこと教えてあげるから。私のココで♡」
「坊やよかったわね~たくさん気持ちよくなっていってね」
熱の籠った湿った吐息が俺にかかる。
興奮した様に俺に体を摺り寄せ、自分の匂いを擦り付けるように体をくねらせてくる。
俺は強くなってきた女の独特の匂いに、興奮を強くする。
他の女たちも、がに股気味に俺に紐みたいなパンツを見せつけたり。
下半身を振る姿を見せつけて、卑猥な格好を取ったりする。
どいつもこいつも男を惑わす術を心得てやがる。
自分が発情する姿を隠さないところも、男の劣情を擽ると知っているのだろう。
金髪のいい体をした女に下品なポーズをさせて、スカートの中に潜り込んでいた俺は笑みを深める。
もう辛抱たまらん。
わざとらしく喘ぐ女たちの豊満な体をまさぐり、俺は宣言する。
「――――――決めた!!!!! この場にいる女!!! 全員買う!!!!!」
「やった♪ ねぇ私が一番最初だからね? この子のココこんなにさせたのは私なのよ」
「あ~ムラムラしてきた。はやくアタシを犯しなさいよ? 若いから全員とできるわよね」
「昼間からこんなに女の子買うなんてエッチ~♡ 安くしてあげるから私も入れてよ~」
女たちから歓声が上がる。
俺は口から涎が溢れ出る。
性欲と支配欲が、ぐつぐつと煮えたぎる。
俺は獣のような欲望を燃え上がらせ、娼館へ女たちを引っ張っていく。
今夜は長くなるな……全員寝かさないぜ!!!
英雄の夜は…………終わらねぇ!!!!!!!?!!!
「――――――女。その手を離しなさい」
ひどく冷たい言葉が、背中から聞こえてくる。
それはいつもよく聞いていた声だ。
俺は首が錆びついたようになり、うまく振り向くことができない。
コツコツと靴音が俺に近づいてきて、俺の傍まで近づいて来た時。
その姿が判明した。
少し距離を置いて、アルコル家の兵士がいる。
気まずげにしており、俺と目が合うと、すぐに目をそらした。
お前トロルと一緒に戦った仲だろ?
戦友なのに助けてくれないのかよ?
俺は必死に目で合図を送るが、兵士は冷や汗を掻きながら娼婦たちを散らすばかりだ。
そしてついにサルビアが俺に近寄る。
恐怖に肌が粟立ち、カチカチと歯が鳴る。
「私に一言も告げないで、どこに行ったのかと衛兵を問い詰めてみれば……坊ちゃま? このようなところで何をなさっているのですか?」
「……こ……これは……その~……えへへへ……」
嫌悪感を露わにしたサルビアは俺を冷たく一瞥すると、娼婦たちへと袋を放り投げる。
娼婦の何人かは危険を予知したのか、すぐに散っていく者たちもいた。
「あなた。坊ちゃまが世話になったわね。これを持ってお行きなさい」
「は……はい……失礼します」
震える娼婦は手早く袋を回収すると、すぐに去っていく。
サルビアはそれを鋭い目で見送る。
娼婦やその他の者たちが通りから全員消え失せると、彼女は腰に手を置き深く息を吐く。
「――――――はぁ…………呆れました。このようなどこの誰とも知れない売女を、金で抱こうとするなど……危険なだけではなく、アルコル侯爵家の嫡男にあるまじき行為です。帰ったらご自覚なさるまで、もっと厳しく教育をしなければなりません」
「……ごっ……ごめんなさい~~~本当にごめんなさい~~~! 反省するから許してよ~~~~~!」
俺はサルビアの胸の下に顔を埋めて、ぐりぐりと頭を擦り付ける。
だが銀髪メイドからいつものような反応はない。
緩慢と彼女の顔を見上げる。
サルビアは目に光がない、本当に無の表情で俺を見つめていた。
身の毛もよだつその冷酷な表情に、怯えた声を出す。
「…………ひ……ぇ……」
「坊ちゃまがそのように大人としての責務を果たさないにも関わらず、大人としての行動をするというならば私にも考えがあります」
こんなに怒る姉同然の女性は、初めて見る、
危険信号がビンビン来ている。
絶対やべぇことになるぞという本能的な直感が、彼女の無表情に覆われた怒気のシグナルを捉える。
「あなたはもう騎士爵を任ぜられた、まごうことなき一人前の貴族です。年齢どうこうではなく、そのような立場にあります」
「そんなのわかんない! だってまだ……子供だから☆」
俺はサルビアに甘えた声を出して擦りつく。
俺はまだ子供だ。ここぞとばかりに子どもの特権を振りかざすぜ。
しかしそれがサルビアの癇に障ったようだ。
彼女は苛立った声で、俺に無情の発言をした。
兵士たちが小声だが騒然とする、
「その自覚が足りない御様子ですね。私の指導が至らないばかりに、こんなことになってしまい。自分自身への情けなさに顔から火が出ます…………お尻を出しなさい」
「ひぇ……やだやだやだやだーーーーー!?!?!?」
「速くしなさい。今日という今日は許しません」
サルビアは逃げようとする俺を鷲掴みにすると、俺のケツをその手で何度も何度も叩く。
悲痛な叫びが、王都全体に響き渡る。
こんな事なら予め、ヤンと衛兵に口止めをしておくんだった。
俺ってマジでバカ……
でもぉ……スパンキングに目覚めて、性欲発散できましたぁ♡
結果オーライ!!!!!!?!!!!
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