第47話 「情報屋」
俺は泣きながら饅頭を食いつつヤンに着いて行き、寂れた裏路地の小屋に入っていく。
荒くれが屯しているのが、外には遠くに見え。
土地勘のない治安の悪い場所に一人でいては、危険に過ぎる。
小屋の中に入ると煙草の煙のような、紫煙が充満している。
人影があるが、煙に覆われて顔がよく見えない。
目を凝らすと、段々その容貌が明瞭になっていく。
そこにいた人物は、俺を見るとドン引きしていた。
「えぇ…………? どんな状況……?」
「…………グスッ……もぐもぐ…………ヒック……モグモグ…………トイレ……貸してください…………モグモグ……」
「……お……おう……そっちにある」
どんな見当もつかないところから殺意が飛び出てくるか、警戒しながら。
トイレから戻ると、粗末な椅子に着席する。
ヤンの知り合いなんぞ、さぞやぶっ飛んだ輩に違いない。
情報屋とはこの男だろうか?
イケメンの多いこの世界でも、格別のイケメンだ。
無造作に肩まで癖のある髪を伸ばした、座って居てもわかるほどのかなり身長の高い青年だ。
センス良くまとめられたお兄系の服と、シルバーアクセサリーをアクセントにつけており。
セクシーだがどこか危険な野性味を放っている。
俺の嫌いなイケメンだ。
俺は相手がイケメンというだけで好感度が下がる。
男なら全員下がるが、イケメンは特別下がる。
思うんだが情報屋ってもっと特徴がなさすぎる奴とか、死ぬほど胡散臭い奴がなるもんじゃないの?
超イケメンの情報屋とか、現実感のない乙女ゲーくらいにしかいないぞ?
リアルがフィクションを凌駕しているよ?
フィクションの住人は俺の精神の安定のために、あるべき二次元の世界へと帰って?
世の摂理に反するほどの輝かしく涼やかなイケメンは、煙草を薫らせながら俺に視線を送る。
「あ~~~……俺はシェダル。情報屋だ。あんた大丈夫か?」
「大丈夫……です。いや大丈夫じゃないです」
「この坊ちゃんの事は気にすんな。どうせ明日にはけろっと忘れてる」
「ざけんなカス。俺は一生恨むからな」
「えぇ…………?」
シェダルとかいう優男は、俺たちのやり取りにひいている。
まぁ当たり前だろう。
このヤンという男は破天荒に過ぎる。
人に迷惑をかけても、良心の呵責などおくびにも出さない男だ。
人間こうはなりたくないな。
ヤンはニヤつきながら饅頭を頬張っている。
クソっいつか吠え面をかかせてやる……
「で…………どんな情報が欲しい?」
「こいつを消す方法」
「ダハハハハ!!!!!」
シェダルが空気を換えようと、本題に入る。
俺がヤンを親指で指さすと、この仮面男は爆笑する。
それを見たシェダルは、端正な顔を引き攣らせる。
「ククク……今日来た用件は、王都の情勢についての情報収集だ」
「王都の情勢ね。詳細は?」
「アルコル家が魔将を倒したことについての変化、貴族の傾向」
そういってヤンは気負いなく、でかい袋をテーブルの上に載せる。
金属音がその中で大量に鳴る。
シェダルが内容物を確認すると、口笛を吹いた。
「御大尽様には阿らねぇとな。さて、話していこうか」
「おう」
ヤンとシェダルは様々な情報のやり取りをする。
その中ではシェダルが金を払うこともあった。
俺は話を聞いているだけで、口を挟むことはない。
聞いているだけでも、ためにはなるな。
結構アルコル家って影響力ある感じなんだな。
下級貴族にはなんかビビられてるみたいだし。
俺が魔将を倒したってのも尊敬されてるのと同時に、恐怖すら感じているようだ。
派閥にもよるみたいだが。
軍部や魔法院からの評判は、すごいものらしい。
侯爵家嫡男でなければ、是非ともスカウトしたいと手ぐすね引いているとか。
逆に法衣貴族からは扱いあぐねているそうだ。
ガキのくせにバケモン倒すとか、どんなバケモンだよって感じ?
何を餌にコントロールしようって思ってるみたいなのが、法衣貴族の考えの要約だ。
「――――――坊ちゃんはなんかないか? 金は十分払ってるから何でも聞いていいぞ」
「そうだな……」
聞きたいことね……
知りたいことはまぁヤンがほとんど聞いてくれたし、俺個人からは特にはないな。
この情報屋に聞いてもわからないことぐらいしか、知りたいことないし。
神様関係の事とか。ステータスの事とか。
あと俺はそもそも常識を知らないので、何を聞けばいいかもわからない。
そんなのわざわざこいつに聞くより、使用人にでも聞けばいいことだしな。
あぁでもあれがあったか。
「王都にある魔道具に関する情報を聞きたい」
「魔道具? いいぜ。金目のものは大抵のことは知ってる」
「つけるだけで人間の心を支配し、狂人にする魔導具が一旦はこの王都に来る……はず。いやすでにあるかもしれない。それについて知っているか?」
「…………狂気の魔道具か……そんな魔導具は俺も聞いたこともないな。存在するのなら相当な代物だぞ。あるとするなら王国魔導院や教会、あるいは大貴族あたりが厳重に管理しているんじゃないか?」
シェダルは全く知らないみたいだ。
まぁ嘘をついているという可能性もあるが。
でもその行方について凡そ見当がついた。
教会なら挨拶に行く予定だ。
話次第だがその時聞いてみてもいいかもな。
「そうか。王都の教会は顔を出す予定だから、出来たらそっちで聞いてみる」
「なら知り合いのセギヌスってやつが教会にいるから、俺から一筆書いとくぜ。あとは有名な魔導具店なんかもまとめておく」
「マジ? サンキュー」
「なので今後ともご贔屓にってな」
シェダルがウィンクして俺に紹介状を渡す。
こんなに違和感なくウィンクするとか。
くぅ~~~このイケメン力よ。
嫉妬が俺の心に湧いてきやがる。
そうしたら俺たちの話にヤンが口を出してくる。
その時俺は自分がやらかしたことに気づいた。
「坊ちゃんは何でそんなの聞いたわけ? なんでそんな情報知ってんの?」
「……えーと……へへへ……」
俺は可愛らしく愛想笑いをして誤魔化す。
ヤンは俺をじっと見つめる。無表情だが納得していないのだろう。
「…………ピュー……ピュー…………プピー……」
「…………」
俺が明後日の方角を見つめて口笛を吹いているが、ヤンは俺の見つめたまま動かない。
ヤバい。こいつを誤魔化しきれる自信がない。
「…………まぁいいか。このことは一応覚えとく。そんじゃ世話になったなシェダル」
「おう。毎度あり。また来てくれ」
ヤンは俺から目を離すと、テーブルの上の金が入った袋を懐に入れ。
情報屋のイケメンに別れの挨拶をする。
意外とシェダルってやつ常識的な奴だったな……初対面の印象だが。
仮面男は俺を抱えて、シェダルに背を向ける。
そして玄関の戸口を開けた瞬間飛び上がり、行きがけの時のように屋根上を伝っていく。
辺りはもう夕暮れだ。
太陽が地平線すれすれに落ちゆく中で。
屋根の上に長い影をつくりながら、忍者の如くヤンは疾走する。
「――――――坊ちゃん」
「むごご?」
「何を秘密にしているのか知らんが、相談した方が早く解決することもあるからな?」
「……………」
ヤンは珍しく真剣に一言だけ告げると、それきり黙りこくる。
頻繁に揺れる中で、抱えられた俺に返事は期待してはいないのだろう。
それは俺にアルコル家を頼るか、頼らないか。
考えをまとめろと言いたいのだ。
俺は饅頭を咥えながら、答えを出した。
答えなど考えるまでもない。
言えるはずがない。
神様に言われたという荒唐無稽な話ということもある。
だが何よりも家族だからこそ言えないんだろう。
俺が抱えている問題を話すことは、俺の出生にまつわる秘密を明かすことにつながりかねない。
俺が神様の手で転生して、赤ん坊の体を乗っ取って生まれた。
そんなこと親には言えるはずなんてないじゃないか。
言える奴はまともな神経をしていない。
あれだけ俺を愛してくれる家族へ。
あなたの家族はどこの誰とも知らない何者かが赤ん坊のころに、肉体を奪い被っていたのだ、とでも言うのか?
そんなことを告げるのは、あまりにも残酷すぎる。
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