第46話 「お仕置きのエビ抜き」
「アルタイル!!! 王都にいる間はエビフライ抜きだと思いなさい!!!!!」
「ごべん゛な゛ざい゛父上ぇ゛!!!!! ぞれだげば許じでぐだざい゛ぃ゛!!!!!」
「めっっっっっ!!!!!!!!!」
「う゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん゛っっっっっ!!!!!!!!!!!」
俺は父上に受勲式での失敗をこっぴどく叱られていた。
でも俺だって頑張ったんだ。
向いていないことを一生懸命に頑張ったけど、結果的にだめだったんだ。
それについて小言と罰を受けることは仕方ないと思う。
でもエビフライ抜きはひどすぎるじゃないか。
俺の人生の10分の1は、エビフライでできている。
いやもう少し多いだろう。
俺の5分の1はエビだ。
父上だって知っているはずだ。
それを取り上げるなんて、あまりにもあんまりすぎる。
父上に人の心はわからないのかと疑うばかりだ。
俺の涙は滝のように流れ、自分が溺れてしまいそうだよ。
いやその前に干からびてしまうよ。
「私もお前を甘やかしすぎたね。だから王都にいる間、お前にはいくつか仕事を頼む。それ次第でエビフライ抜きを撤回させてもいい」
「なんでもやりますっ!!! だからエビフライぃぃぃ!?!?!?」
「ちゃんとやるんだね?」
「絶対っ!!!!!」
「よし…………ヤン? お前の仕事に着いていかせてくれ」
父上が天井に顔を向けて話しかけると、突然父上の横に仮面の男が着地した。
こいつはヤン。うちの密偵だ。
非常に胡散臭いが、めちゃくちゃ優秀だ。
いつも俺のことを揶揄って遊んでいる節があり。
めっちゃ無礼だしムカつくところもある。
だがマジで有能だ。
こいつ魔法もかなりの使い手だし、諜報能力に関しては他の追随を許さないし、頭も抜群に切れる。
だからか父上どころか、お爺様にまでため口を聞いていても処罰されない。
父上に関しては古い腐れ縁と言っていたが、お爺様相手にとんでもない胆力だと俺はある意味尊敬する。
「あーん? まぁ俺はいいけどよ。坊ちゃんにはまだ早いんじゃね?」
「アルタイルには対人経験を積ませたい。裏の人間相手なら多少の無礼くらいはかまわないだろう……それにアルタイルの魔法が必要となる場面もあるかもしれない」
「今まで散々甘やかしてたおめーから、そんな言葉が出るとはな。ビシバシコースでいいなら構わんぞ」
「あぁ。アルタイル? ヤンのいう事をよく聞いて学んできなさい。いい経験になるだろう」
「は……はぃぃ…………」
なんだよなんだよ……
どんだけヤバそうなところに、ぶち込まれるんだ俺は?
裏の人間って言ってたよな?
え? 父上そんなヤバそうな奴らに、俺を会わせようとしてんの?
もし闘争になって捕まったら、臓器売られたりとかしないよね?
もちろんヤンが守ってくれるんだよね?
つーかヤン。
お前なに饅頭食ってんだ。
「私は今日から王都の貴族たちに挨拶に向かう。暫くは王都で挨拶回りにお前もついてきてもらうよ? あとは教会にも顔を出そう。王都から帰るときに、ツア・ミューレン家に挨拶をする。以上が王都での予定となる。わかったね?」
「わかりました……」
「わたしはこれから面会に予定がある。下がりなさい」
「はい……」
父上の命により俺は退室する。
はぁ。先が思いやられるぜ……
「――――――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!?!?!? アルタイルに嫌われるぅぅぅぅぅっっっ!!!!!」
「あぁ。お労しや……」
アルタイルが退出すると、アルフェッカは頭を掻きむしり絶望の絶叫をする。
部屋に控えていたサルビアは、沈痛な面持ちであった。
「なんで私が!!! かわいいかわいいアルタイルに!!! 厳しくお説教しなければいけないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
「大変申し訳ございません……私というものが力及ばず、坊ちゃまの躾が足りなかったばかりに……」
「……………お前のせいじゃないさ……きっと私が家にいないから悪いんだ……母親がいないあの子を叱ってやれる者がいないからだ……それなのにアルデバランもよくいい子に育ってくれたものだ……」
「…………」
サルビアの顔が曇り、無言で頭を下げるも、。
アルフェッカはそれを手で制して帽子を取って被り、部屋を出ようとする。
「はぁ…………サルビア。アルタイルが帰ってきたら、お前から慰めてやってくれ。私は今日は帰るのが遅くなる」
「承りましてございます」
「うん。はぁ…………私も行ってくる……はぁ…………」
アルフェッカはとぼとぼと哀愁漂いながら、部屋を出ていく。
その背中は出張中のサラリーマンの父親に、よく似ていた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………………」
「でかい溜息だな坊ちゃん。お叱りが堪えたか?」
「あんな話聞いて、テンション上がる方がどうかしてんだろうが? なんだよ裏の人間って……」
「カッカッカ !そうビビんなよ。今回会いに行くやつは情報屋だ。危ないことはねーよ」
俺は父上の部屋を出ていき、廊下をしばらく歩くとため息が漏れた。
ヤンはそんな俺を揶揄うように説明する。
情報屋? よくわからんが鉄火場じゃないなら大丈夫なのか?
いや俺は期待に何度も裏切られてきた男だ。
簡単に信用しない。
でもこいつクッソムカつく~~~!!!
「お前の危険じゃないは信用できねーんだよ!?」
「でも行かなきゃエビフライは食えないぞ~? それでもいいのかな~?」
「っきぃぃぃぃぃーーー!?!?!? ムカつくムカつくムカつくぅぅぅぅぅ!!!!!」
「ハハッ笑える。それじゃ行くか」
「は?」
ヤンが散歩に行くように、気軽に俺を抱えたかと思うと。
凄まじい跳躍力で窓から屋根の上に飛び上がり、そのまま屋根を伝って駆けてゆく。
「ふ…………フギャ―――――!?!?!?!?!?」
「舌噛むぞ。目立つから黙ってな」
突然の凶行に俺は絶叫を上げる。
こんなん誘拐だろ!?
どう見ても不審者に貴族子女が攫われてる光景じゃん!
ヤンは俺の口に懐から饅頭を出して、無理やり放り込む。
俺はそれを噛む余裕もなく、その意図通りに黙らせられる。
見て。下を見るとあんなに遠くに地面がある。
あ。あれは人みたいな豆粒だ。
いっぱいあるなぁ。
……………トイレ行っていけばよかった。
命懸けの絶叫マシーンじゃないか。
頭そらそうにも固定されてて身動き取れないし。
これだからヤンは嫌なんだ。
非常識極まりない。
段々街道から外れて寂れた、いかにも治安の悪そうな区画に行ってるし。
こんなところに俺様を連れていくとか何様だよ。
美少年騎士アルタイル。くっ……薄汚いギャングに、高貴な俺が凌辱されるなんて……
みたいなタイトルで、1000円くらいで売られそうになるだろ。
あまり俺を怒らせると、わざと失禁してお前に小便ぶっかけるからな?
誘拐犯に俺は決して屈しない。
たとえ便所に連れていかれようと、貴様は確実に小便器にする。絶対にだ。
「おい着いたぞ。饅頭食うなら食え」
「ふご………ふご……」
俺は地べたに張り付くようにして、地面があることを確かめる。
おお。母なる大地よ。
いつも俺に足をつかせて下さり、ありがとうございます……
俺は今日も地面に足をつけられたことを、深く感謝する。
失いかけて初めて気づく、当たり前の幸せを俺は噛みしめる。
ヤンはそんな俺を意にも介さず、ずかずかとボロ小屋に向かう。
星へ何の感謝もしない背教者が……
俺は泣きながら饅頭を食いつつ、ヤンに恨みがましい視線を向ける。
でも抗議はしない。
臍を曲げられて置いていかれたら、末路はエロ同人だ。
「シェダルーーーいるかーーー?」
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