第44話 「受勲式」
外から眺めた時も陽ざしが城壁に美しく反射した、王城の荘厳なる佇まいに感動を深める。
だが入城して内装を目にした時も、思わず感嘆の声が漏れた。
豪華絢爛なアートやインテリアが並ぶが、美術館の華やかさとはまた趣が違う。
重厚かつ華やかな壁が天高くそびえ、繊細な意匠を凝らした巨大なシャンデリアが頭上を何度も横切る。
品と威容を誇る赤薔薇の刺繍が施された、真紅の絨毯が長々と続く。
エレガントすぎて息が詰まる。
心臓が早鐘を打ち、体が汗ばむ。
整列した質実剛健な重厚な鎧姿の衛兵たちが、一糸違わぬ動きで足並みを揃え黙礼をしてくるからだ。
この城のすべてが俺にプレッシャーを与えている。
父上は高く靴音を鳴らし、マントを翻して堂々たる姿で進む。
対して俺は父上の歩幅に合わせて、かなり早歩きでちょこちょこと進んでいる。
自分でも思うが、場違い感が半端ない。
「アルフェッカ・アルコル侯爵並びにアルタイル・アルコル殿。ご入来!」
羽飾りのついた礼装を纏った衛兵が、俺たちの到着を告げる。
喇叭の音が響き渡り、謁見の間を反響する。
進みゆくにつれ、玉座がその全容を現す。
謁見の間には巨大な黄金の女神像があり、思わず目を奪われる。
女神の腕は玉座を包み込み、王権を神が授けていると暗に示しているのだろう。
その周囲に侍る者の姿も見えてくる。
俺が彼らを見るように、彼らも俺に視線を送る。
その多くが立派な髭を蓄え、威厳と品のあるいかにも貴族といったものたちだ。
年若い貴公子、妙齢の淑女も散見されるが。
胸には数多くの勲章をつけており、杖を携えている者もいる。
これらがこの王国首脳部。重臣たちなのであろう。
誰もが鷹の目のような視線で俺を突き刺す。
本当に居心地が悪く、早く帰りたい。
「これより功労勲章授与を執り行う。先の戦による功を祝すものである。呼ばれた者は陛下の御前へ」
偉そうなおっさんの声を皮切りに、その場すべての者がある一点へと目を向ける。
そこにはこの場を象徴する人物がいた。
「面をあげよ」
謁見の間で片膝を着き、国王に敬意を表す。
その場にいる全員が膝をつき首を垂れ、臣下の礼を取った。
玉座に座する、神聖不可侵たるカルトッフェルン王国国王。
その上背2mにも届かんとする、金髪を短く刈り込んだ逞しい巌のような男である。
ひゃぁ……威厳がすごい……
絶対怖い人だよ。人は見かけによるもん。
「アルコル候、多大なる王室への貢献、誠に大義である。」
「もったいなきお言葉。光栄の至りにございます」
強健な肉体から放たれる声は、深みのある落ちついた低音だ。
父上が鮮やかなる弁舌をもって応対する、
その姿は国王陛下と比べても、引けを取らない佇まいだ。
国王は薄く笑みを浮かべて、深く頷く。
そしてゆっくりと視線を隣に向け、優し気に声をかける。
「して、そちらの者がアルコル候の令息ということだね」
「拝謁の栄誉を賜り、恐悦至極に存じ上げます。アルコル侯爵家が嫡男。アルタイルにございます」
「うむ。カルトッフェルン王国国王カール=ハインツ・ケーニッヒライヒである」
国王カールは厳かに名乗りを上げる。
そして近くに侍っていた老貴族から書状を受け取ると、明朗たる通りのいい声で高吟する。
「アルフェッカ・アルコル侯爵並びにアルタイル・アルコルの両名。此度の武功、大儀である。卿らの奮闘により、我が王国と王国の民草は守られた。本日はこの戦で一際大きな功績を残した者たちを、勲一等に叙することとする」
魔将討伐という事績について、褒章を授与するための演説を執り行う。
国王は老貴族から輝きを放つ。大ぶりの輝かしい光沢を放つ装飾物を手に取る。
「アルフェッカ・アルコル侯爵。前へ」
「はっ」
父上が檀上手前の位置まで進む。
国王はそこで父上の胸元に、手づから勲章を装着する。
「王国からこの度の功績を遇し、ここに『神聖薔薇・黄金聖剣・ダイヤモンド付英雄勲章』を賜与する」
「謹んでお受けいたします」
父上は重々しくそれを受け取る。
彼は粛々と退く。
次は俺の番だ。
「アルタイル・アルコル。前へ」
「はっ」
「王国からこの度の功績を遇し、ここに『神聖薔薇・黄金聖剣・ダイヤモンド付英雄勲章』を賜与する。よってカルトッフェルン王国騎士爵に任ずる」
「謹んでお受けいたします」
俺はカチコチに固まりながら、勲章を取り付けられる。
国王陛下とかなり近い。少し身動きすれば触れ合える位置だ。
名誉なことなのだろう。
だが俺は緊張で失神しそうだ。
あまりのプレッシャーから、俺の体は小刻みに震えている。
国王陛下の勲章をつける手が、少しぎこちない。
これ絶対勲章つけづらいと思ってるじゃん……
申し訳ございません……………
「――――――アルタイル・アルコル殿。疾く戻られよ」
「――――――はっ………………失礼いたしました!?!?!?!?!?」
何か声がすると思って見上げると、国王陛下が困ったように笑っている。
俺は涙目になる。
きっと俺の顔は真っ青だろう。
何とか声を絞り出したが、時すでに遅し。
非常に気まずい時間が流れる。
父上を見ると諦めたように瞠目している。
彼には滅多に怒られないけど、これはとんでもない雷が落ちるかもしれん。
いやその前に王家に社会的に殺されるだろう。
俺は死を覚悟した。
パチパチ………パチ………
本来は盛大なる拍手が降り注ぐのであろうが、少しばかり前列の貴族たちが遠慮がちな拍手をする。
しかし周りから拍手が聞こえないことを悟ると、すぐに消えてしまった。
俺はもう泣いた。
しかし救いの手は降りる。
眉を顰めた陛下が、少し怒ったような口調で貴族たちを睥睨する。
「――――――諸君。大変めでたい式典で、それはないんじゃあないのかい? 彼はまだ子供なんだ。泣いてしまっているじゃないか。少しのマナー違反くらい許さないで、子どもを泣かせることは貴族のすることじゃあないよ」
「陛下!!! 子供といえども軽々しく無作法を許しては、鼎の軽重を問われますぞ!?王家の威信が揺らぎかねません!!!!!」
「やめなさい。私がいいといったんだ。それに国家の英雄に対してすることではないんじゃないのかい?」
陛下が窘めるような口調で、老貴族の金切り声を制する。
老貴族は喉からくぐもった音を出すが、飲み込むと断腸の思いといった様相で首をこちらに捻じらせる。
「………………格別の慈悲だ。陛下に深く感謝せよ」
老貴族はギョロリと血走った目で俺を睨み、ドスのきいた声で脅しつけてくる。
ひぃぃぃぃぃ!?!?!?
もうヤダーーーーー!?!?!?!?
「御意にございます…………大変……申し訳ございませんでした」
「愚息が甚だ失礼をいたしました。アルコル侯爵として非礼をお詫び申し上げます」
「ははは。気にすることはないさ。私はお礼を言いたいくらいだ」
父上の沈痛な謝罪に、陛下は朗らかな口調でそう告げる。
陛下は俺に優し気な、そして喜びや感謝の籠った視線を向けて、ゆっくりと話す。
「うん、アルタイル君。私たちの国を救ってくれて本当にありがとう。君がいなければ私たちの何人がこの場にいなかったことか――――――――国家を代表して感謝申し上げる。若き英雄よ」
「「「「「「「「「「「「――――――――――!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」
そういって陛下は大きな拍手をしてくれた。
それに釣られて貴族たちも、万雷の拍手を俺たちに贈る。
陛下の有難い心遣いに、ほろりと落涙する。
安堵と感謝の気持ちで、胸が一杯になる。
この人…………ええ人や…………!
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