第43話 「王都への道」
ある吉報がアルコル家にたどり着いた。
今日はその話題で屋敷は持ちきりだ。
使用人たちはすれ違うたび口々に、俺に祝福の言葉を投げかける。
気分はいいが、心のどこかが常に落ち着かない。
正直俺も嬉しい。
だがどんな事にも、代償が伴うという事が気がかりだ。
俺の危惧していることは俺自身にある。
おそらく今回の件によって、お偉いさん方にお会いすることになるだろう。
社交能力に乏しい俺には、戦々恐々たる事件である。
「アル様よかったね~! ステラも嬉しい!」
「アルコル家従者一同誇らしく思います。坊ちゃま」
「おう」
どこか上の空で俺は返答する。
ステラとサルビアは二人で談笑しているが、俺は考え込むばかりだ。
早く父上たちが帰ってこないものか。相談しないといけない。
そんなことを考えながら午後になる。
サルビアから連絡があり、俺は急いで玄関へと向かう。
そこにはアルコル家当主アルフェッカ。俺の父上が普段通りの姿を見せて帰っていた。
「ち……父上ぇ……! お役目ご苦労様です! お待ちしておりました!」
「久しぶりだねぇアルタイル! 家のことをまかせっきりですまなかったね。よく弟たちの面倒を見ていてくれた。ありがとう」
父上は俺を片手で持ち上げ、腕の上に載せて抱える。
彼と俺の目線が合う。
父も変わりないようだ。
「しばらく見ないうちに重くなったねぇ! ちゃんと食べているみたいでよかったよかった!」
「はい! …………その……父上はもうご存じでしょうか? 王都からの知らせが……」
「うん。聞いているよ。父上……先代様と相談して、すぐにでもアルコル領を発つことになった。明日出るつもりだ。アルタイルも準備しなさい」
「ひぃ……本当ですか……?」
「急で悪いが私も予定がおしているんだ。国境地帯全域で魔物の被害が多くてね。それに色々王都で調整も必要なんだ。私も今回の件は想定外でね……予想はして然るべきだったんだが……」
父上は困った顔をする。
いつもヘラヘラしている父上が、眉尻を下げる姿に驚くが。
それ以上に明日出発するという事への驚愕と、嫌気が大きい。
「父上……私も行かなければなりませんか……?」
「あはは!!! 叙勲式に本人が出ないなんて、ありえないだろう?」
父上は一転大笑いする。
対して俺は、身も心も凍り付く。
最悪だ。
俺の大大大嫌いな社交界よも、もっと堅苦しい公務に出席しなければならないのだ。
それも主役で。
「今回貰い受ける勲章は、国王陛下直々に頂く取り決めになっているからねぇ。栄誉なことさ!」
「ひぇえ……国王陛下……」
マジかよ。
とんでもない大騒ぎ。
だが考えてみれば当然。
俺は魔将を倒したことになっている。
俺は国を挙げた英雄になったのだ。
それを王家がそれを評価しなければ、何を評価するのだという話になる。
もし何もしなければ王家が、アルコル家をないがしろにしているのと同義だ。
俺は現実逃避からそんなことを考える。
父上はそんな俺に苦笑する。
「私もまさかお前まで、この勲章をもらうとは思わなかったよ……あんまりお前には危ないことや政治には関わらせたくなかったんだけどね…………例外を除けば、お前が史上最年少で騎士爵を得ることになる。つまり王の直臣扱いとなる。王家がその札を切るとは思わなかった」
「はぁ……? 例外って何です?」
「まぁ……昔は戦乱がひどく余裕がない時代だったんだ。当時の王は困窮して、爵位や勲章を金銭で売却していたこともあった。このことは他の貴族には言ってはいけないよ?これで貴族に成ったものもいるし、今だよく思わない者も多い」
「そうなんですね……わかりました」
父上は言葉を濁す。
うわ~俺の知らないところで、そんな動きがあったのか。
騎士爵ねぇ……確か最下位の貴族位だったか?
しかし父上の話を聞いていても、貴族制度もよくわかんねぇな。
色々派閥とかあんだろうな~やだやだ。
父上もうんざりしているようだ。
「私もこういう政治的駆け引きは苦手なんだ。先代様はこれを見越して忙しく動いていたみたいだけど」
「よくわからないですね……めんどくさ……」
「わかるよ~私も若い頃は覚えたくなくて、逃げ回ってた。でももし爵位とか間違えたら、戦争ものだから覚えていかないとだめだよ?」
「貴族社会めんどくせぇ……」
俺は父上と口を揃えて辟易とする。
まるで鏡合わせのように、同時点で項垂れた。
そして悪いニュースは続く。
「今回の事情も踏まえて予定より少し早いが、エーデルワイス嬢も王都へお連れして帰郷いただくことになる」
「エーデルももう帰るんですか!?」
「うん。まぁ……向こうが乗り気だし。いずれ行儀見習いか何かとして、また来ることになるだろうとは思うけどね。私たちも暫くは王都に滞在する。案内してもらうといい」
「…………はい」
そうか。エーデルとの生活も終わりか。
馴染んできたとこだったのに、寂しくなるな。
そんなこんなで準備をしていたら、あっという間に出発の時は訪れた。
エーデルは名残惜しそうに、アルデバランたちと別れを告げ、馬車に乗る。
王都にもアルコルへの別邸がある。
使用人や兵たちがぞろぞろと馬車に乗るか、周りを固めていく。
父上と俺は家族たちにしばらくの別れを告げ、王都への道を行く。
意気消沈する俺を励ますように、彼は努めて元気よく出発を告げた。
「さぁ行こう! 我らがカルトッフェルン王国王都ソラーヌム・トゥベローズムへ!」
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