第42話 「水泳の定義を求めよ」
「……あ……ぷっ…………あぷっ…………た……たしゅけてぇ……サルビアぁ……たしゅ……け…………」
「………………」
最初のうちは藻掻いていたが、すぐに力を失った。
俺の体は水に沈んでいく。
人魚姫のラストシーンみたいに。
当たり前じゃん。
エラないもん。
サルビアが無言で俺を両手に抱え、陸地に戻す。
俺はぐったりとして、荒い呼吸を繰り返す。
その場にいる誰もが、深刻な表情をする。
固まった空気に何も言えない。
「………………プっ……くく……」
その場にいる誰もがギョッとして。
信じられないものを見る目で、噴き出した人物に振り向く。
視線が突き刺さるにもかかわらず、鈍感にもステラは腹を抱えて爆笑する。
「あーーーーーははははは!!!!! ほんと笑える!!!!! 無様だねぇ!!!!!!!!!!」
「…………ころ……すぞ……」
俺はこのクソガキの煽りに、這う這うの体で言い返す。
だが追い打ちをかけるこのガキは、根っからの鬼畜外道なのだろう。
「陸に打ち上げられたアザラシみたい……!!! ふふふふふ……!!!」
「…………人魚姫だろう……が……ボケが……」
「…………ヒィーーーーーッッッ!!!!!」
ステラは過呼吸になり、地面に転げまわって爆笑する。
メスガキが……あんまり舐めてると、ぶち犯すぞ……
「おやめなさいステラ。失礼ですよ」
「……くく。ごめんなさいサルビアさん」
ステラはサルビアからの注意で、プルプル震えながらもなんとか平静を取り戻す。
どうして彼女はこんな人間に育ってしまったのだろうか?
聖人君子で有名な俺は訝しんだ。
「はぁ……どうしたものかしら……泳ぎ方なんてどう教わったのだったかしら…………だってこれ……ここまで……こんなのどうすれば……」
サルビアは口を噤む。
そして渋い顔をして考え込む。
誰もいたたまれない雰囲気に声を出せない。
「案ずるな。策はある」
俺は立ち上がり、確固たる口調で断言する。
だがみんな白けた表情だ。
あれれぇーーー?
「何も根拠なく言っているのではない。認めよう。確かに俺は泳げない。だが――――――」
俺はそこで言葉を切り、水の中に使っていく。
そこにて手を掲げ、集中する。
「――――――そこで魔法ですよ『aqua』」
そう。この世界には超常現象を操る、魔法という摩訶不思議パワーが存在する。
その万能の力をもってすれば、大抵のことは解決できるのだ。
そしてそれは現代科学を時には凌駕する。
このようにな。
水魔法発動! 脚部よりジェットスクリュー噴射!
「っっっくぜぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
俺の雄叫びと共に、俺の足裏から勢いよく水が噴射する。
水中における適切行動に関して俺が導き出した、これが一つの「解」だ。
「あ…………あれは………!!!」
「わかるのカレンデュラ!?」
カレンデュラは俺の魔法を見て、一瞬で何が起こったのか理解したようだ。
こいつは頭がいい。
俺の魔法技術を理解できる知識も学んでいるようだ。
だがまだ魔法に疎いアルデバランたちは、わかっていない様子である。
実の妹は手に汗握り、やけに物々しく解説する。
「水魔法『aqua』で自分の後方に水流を生み出し、前進しています。さらに同時に浮力も自分の体にかけれるように、微弱な水流を腹部にあてて頭部を水上に出せるように調整しています。精密な魔力操作ができなければ、あそこまでの安定進行はできません……あっ……!?!?!? ……それに方向転換まで……! お見事ですお兄様!!!」
「さっすが兄様だ!!!!!」
「いやあれ泳いでないですからね?」
先ほど行使した魔法の用途は、まさにカレンデュラ彼の分析した通りのものである。
ステラが差し出口を挟むが、こいつはバカだから論ずるに値しない。
「――――――兄様!!! 今の僕もやりたいです!!!」
「よっしゃあ!!! 今いくぜ!!! 『aqua』!!!!!」
「わーーーーーい!!!!!!!!!!」
川を一周して戻ってきた俺。
アルデバランが興奮しながら、拍手喝采を上げて魔法をせがむ。
よって弟を川に放り投げて、水魔法を起動させてやった。
「いいなぁ……お兄様! 私もやりたいです!」
「ははは! 順番に並びなさい!」
「ありがとうございますお兄様!」
カレンデュラも続いて吹き飛ばしてやると、歓声を上げてすっ飛んでいった。
水上を滑走するように突き進んでゆく。
「まーた始まりましたね……天然兄弟の暴走」
「頭が痛いわ……こうなると長いのよ……」
先程の光景を見ても、哀れなことにステラとサルビアはなんにもわかってないようだ。
無知蒙昧な下々の民に、俺は慈悲深くも水泳の意義について教授してやる。
「人間が泳ぐのは水中で安全を確保し、陸地にたどり着くためだろ? つまり魔法で俺はもうできるから泳げるも同然」
「……!!!!?!!!!?!」
「凄い自信と想定外の解決法に説得力を感じるが、どこか釈然とせず、しこりのようなものが残る」
腑に落ちないとしか形容できない表情で、ノジシャは言葉を漏らす。。
エーデルワイスは口を覆い、当惑を隠せない。
無理もない。
子どもの理解力では荷が重いだろう。
だが俺のすごさくらいは理解したんじゃないのか?
惚れ直しただろうな。
「エーデルどうだ? 俺の魔法は? 驚いただろう」
「…………すごいけど……頭心配する……」
「その感想おかしくない??? 絶対絶対おかしくない?????????」
お前たちも俺についてこれないか……
今この瞬間、魔法史を変えるほどの新技術が誕生したというのに。
天才とは孤独なものだな……因果なことだ……
だがこれも世の定め。
俺はこのやるせなさを抱えて生きていくよ。
そんな光景を見ていたサルビアは困惑から自問自答するが、理解と感情が追いつかない。
一際冷めた目でステラはツッコミを入れた。
「天才の考えというのは、凡人の私には理解できないのでしょうか……? これは旦那様にどう報告すればいいのか……」
「そうなのかな……? これを心の底から真顔で報告するのは、かなり無茶だと思うよ……?」
面白い、または続きが読みたいと思った方は、
広告下↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓の☆☆☆☆☆から評価、またはレビューしていただけると、執筆の励みになります!!!!!!!!!!