表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/240

第36話 「ロリ巨乳とマナーのお勉強(意味深)」




「さて! 午後は修辞学となります」



「げぇぇぇぇぇっっっ!?」



「…………お兄ちゃん?」



 俺は露骨に嫌な顔をする。

 この姿にエーデルワイスは戸惑いの表情を見せた。

 だって一番俺と相性が悪い科目なんだもん。


 修辞学とは弁論術の事だ。

 話し方のマナーの勉強だな。

 明らかに俺と交わらない概念すぎるでしょう?


 最初やった時は半泣きだった。

 もう俺の話し方を全否定なんだもん。




 昔あったパーティの時なんか、地獄を見たよ。

 ギリギリで最低限の礼儀作法は、身に着けたらしいけどさ。


 ようやく形になった頃は、この家庭教師の爺さんもげっそりやつれた顔してたわ。

 もう明らかに才能ないってわかるよ。

 大人は子どもの得意分野を伸ばそ? ね?






「そのように敬遠めされるな! 貴族たるものアルテス・リベラレスの習得は必須ですぞ!!!」


「幾何学とか文法学とかやりましょうよ……?」


 俺は恐る恐る提案する。

 これらは俺は得意なのだ。

 というかどっちも前世知識やチートで余裕なんだもん。




「語学と魔法は完璧の一言です。私から教えることは何もありません。天賦の才とはアルタイル様のことをいうのでしょう……一度教えただけで大陸諸語を網羅するとは……私の人生でも一度もありませんでした」


「………お兄ちゃん……すっごぉい………!」


「いやぁ!!! まぁね~~~!!!」


「幾何学も素晴らしい。この調子で学べば、聖アルス・マグナ魔法学園でも非常に高い成績を残されることでしょう」


 俺のチートは機能しているようだ。

 頭の中に既に入っているように、語学は学習できた。

 数学分野は前世でやったし多少はね? ガキには負けんわ。






「しかし!!! それだけに惜しい! これだけの語学の才がありながら修辞学を学ぼうとしないなど、黄金をドブに捨てるのと同じことです!!!」


「捨てていいよ!? 俺は魔法の世界で食ってくから!!!」


「お若い身で何をおっしゃいますか!? 人生の何たるかを語るには早すぎますぞ!!!」


 いやわかるよ。確定だよ。

 どこの世界にコミュ障に、弁舌求めるやつがいるんだ。


 俺には魔法があるんだ……!

 だからいいんだ……!






「語学を読み書きを完璧にできるということは、貴族社交において非常に有利な立場を得ることができるのですぞ!? 語学の才がなく、涙を呑んだ貴族が今まで何人いたことか……」




「………………やだーーーーーっっっ!!! やだやだやだやだやなのーーーーーっっっっっ!!!!!!!?!!!」




「…………っ……おにい……ちゃ……ん?」



 俺が床に転がってジタバタと暴れまわり、拒否の意を全力で表す。

 エーデルワイスは絶句している。

 だが俺はそちらに気を遣う余裕はない。


 恥を忍んでこうするのは、俺が本当に嫌だからだ。

 わかってくれ。






「たとえ泣かれようと私には、アルタイル様を教え導く義務がありますっ!!! アルコル家から特に修辞学に力を入れることを、命じられておりますゆえっ!!!」


「やだーーーーーっっっ!!!」


「……………っ……」


 俺は必死の抵抗を試みるが、家庭教師は梃子でも動かない。

 エーデルワイスは呆然と事の推移を見守るばかりだ。


 そうして結局修辞学の講義をする羽目になった。

 いつもこうだよ。











「発声する時は胸を張り、腹の底から声を出すのです! そのような小さな声では誰もが耳を貸しませんぞ!」


「ア~~~~~~~~~~」


 発声方法どころか身振り手振りに至るまで細かく指摘を受け、非常に肩がこる。

 それどころか全身疲れるわ。

 そこまで話している人の体ジロジロみんのかよ?


 俺に演説する場面なんかあるか?

 よしんばあったとしてアルデバランでいいじゃん……




「もっと堂々となさいませ!!! あなたはそれだけのお方なのです!!!」


「ひぃ~~~…………」


 俺は辛い練習に悲鳴をあげ、泣きべそをかく。

 時折エーデルワイスは練習の合間に俺をちらりと目をやるが、自分の課題に集中している。




「――――――――!」




 彼女は鈴の転がるような可愛らしい声で、一生懸命に発声練習をしている。

 それを観察している俺と目が合うと、恥ずかしそうにプイと目を背ける。


 あぁ~~~かわいいでちゅね~~~






 でも俺はもう無理だ……

 エーデルワイスがいた手前ここまで我慢していたけど、もう限界だ……




 俺は家庭教師がエーデルワイスに目を向けた途端、ある試みをする。

 



 脱走だ。






「こんなところにいられるか!? 俺はもう出ていくぞ!!!!!」



「――――――アルタイル様―――!?!?!? またですか―――!?」



「―――――――――!?」



 へへっ! 囮がいたから今日はチョロいぜ!

 押し通る!!!










 俺は廊下を疾走する。

 道中使用人とすれ違うが、一顧だにしない。


 そのまま玄関へ向かい、庭先に出ればこっちのものだ。

 俺は成功への確信からほくそ笑む。





 ドンッッッ!!!



 そして曲がり角を曲がった瞬間。

 何か大きな壁にぶつかって俺は尻餅をついた。




 痛ってーな!

 何だ? ここに壁はないはずだが。


 何かにぶつかって……




 俺は見上げると、お爺様が俺を見下ろしていた。






「お……お爺様……申し訳ございませ――――――」



「――――――性懲りもなく、また逃げ出したのか?」




 お爺様は床に杖を一突きするなり、冷たく低い声で俺を問い詰める。

 俺は圧迫感から声も出ない。

 急いで立ち上がり、姿勢を正す。


 お爺様の奥にはザームエルが控えており、目を伏せて微動だにしない。

 俺はできる限り身を縮め、嵐が過ぎ去るのを震えて待つ。






「貴様……その卑屈な態度はなんだ?」



「………………は?」



 態度……?

 舐めた真似すんなってことか……?






「まるで弱者の如く震えあがりおって……アルコル家嫡男もあろう者が媚び諂うように……! 強者たる者の振る舞いに相応しくない」


「も……申し訳ございません……」


 なんだよ強者って……

 どうしろってんだ……


 でも聞いたら怒られそうなので、とりあえず謝っておく。






「勉学に戻れ……」



「…………ひぃ……」



「返事はどうした?」



「はい!!!!!」



 俺は返答するや否や、脱兎のごとく駆けだした。

 玄関へと続く長い長い廊下をひたすら戻っていき、曲がり角を通り過ぎゆく。

 そして少し走ると、後ろに小さな黒い影が見えた。











「お兄ちゃん……! 待ってぇ……!」



「エーデル?」



 エーデルは俺に何かを伝えようと口をもごもごさせて、何度も俺と視線を合わせたり話したりする。

 意を決したように豊かな胸の前に握り拳をつくると、目を瞑りながら叫ぶ。




「…………お兄ちゃん……! ……ちゃんとお勉強しないと……だめだよっ……!」



「ぐぅっっっ!?!?!?」



 マジなんも言えねぇ。

 ぐぅの音も出ないっす。


 言い訳のしようもなく恥ずかしい状況だ。

 エーデルワイスにこんな注意されるとか、情けなすぎて顔から火が出そう……






「今廊下で話してたのって、アルファルド様だったよね……?」


「…………うん……」


 見せたくないところを見せてしまった……

 くそっ!? なんで俺はいつも間が悪いんだ!?


 さすがに呆れられたか?

 婚約者に嫌われるなんて……はぁ……




「…………お兄ちゃん……!」


 エーデルワイスの意を決したような大きめの声に、俯いていた顔を少し上げる。

 目を合わせるのが恐ろしい。






「…………私も……苦手なこといっぱいあるよ……でもお兄ちゃんと会ってから頑張ろうって思えたょ……! ……だから……その……ぇと…………」




 彼女の言葉は尻すぼみになっていく。だが言いたいことは十分すぎるほど伝わっている。

 不安に揺れる瞳で俺を見る。


 そうか……こいつも怖かったんだな……






「だから……いっしょにがんばろ……?」




 黒髪の女の子は俺にやる気を出させるように、今も自分ができる限りの努力をしているのだろう。

 健気な激励が、心に突き刺さった。




 そんな顔されたら断れないだろ……!

 俺は黙って非常に緩慢に頷いた。


 苦渋の選択だ。

 だが年下の女に癇癪を起こすなんてことは、プライドが許さない。






「…………! ……よかったぁ……! ……じゃぁ……帰ろ……?」




 エーデルワイスは小さな手で俺の手を握り。

 緩慢な足取りの俺と歩調を合わせて、講義に戻ろうとする。


 複雑な気持ちで俺は歩く。

 見られたくないところを見られた惨めな気持ち。

 エーデルワイスが成長しているという喜び。




 自分が置いていかれるような、もどかしさ。






 俺はエーデルワイスの手をぎゅっと握りしめた。

 彼女は少し俯いて恥ずかしそうにするが、少しだけ握り返した。










面白い、または続きが読みたいと思った方は、

広告下↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓の☆☆☆☆☆から評価、またはレビューしていただけると、執筆の励みになります!!!!!!!!!!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑

面白い、または続きが読みたいと思ってくださる方は、上の☆☆☆☆☆から評価・感想していただけると執筆の励みになります!

新作も読んでくださると嬉しいです!

 『間が悪いオッサン、追放されまくる。外れ職業自宅警備員とバカにされたが、魔法で自宅を建てて最強に。僕を信じて着いてきてくれた彼女たちのおかげで成功者へ。僕を追放したやつらは皆ヒドイ目に遭いました。』

追放物の弱点を完全補完した、連続主人公追放テンプレ成り上がり系です。
 完結保証&毎日投稿の200話30万字。 2023年10月24日、第2章終了40話まで連続投稿します。



一日一回投票いただけると励みになります!(クリックだけでOK)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[良い点] 苦手なお勉強ってありますよね。ひっくり返ってだだこねて逃げ出すアル様は可愛いですが(*´∀`) おじいさまとエーデルちゃんに窘められて、恥ずかしいながらも、お勉強に戻るアル様とっても賢か…
[良い点] <俺魔法があるんだ……!だからいいんだ……! 悲しいけどそんなこと言ってるからコミュ障なんだよ…ッ! お爺様久々に出たけどやっぱし威圧感凄いなー(適当)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ