第36話 「ロリ巨乳とマナーのお勉強(意味深)」
「さて! 午後は修辞学となります」
「げぇぇぇぇぇっっっ!?」
「…………お兄ちゃん?」
俺は露骨に嫌な顔をする。
この姿にエーデルワイスは戸惑いの表情を見せた。
だって一番俺と相性が悪い科目なんだもん。
修辞学とは弁論術の事だ。
話し方のマナーの勉強だな。
明らかに俺と交わらない概念すぎるでしょう?
最初やった時は半泣きだった。
もう俺の話し方を全否定なんだもん。
昔あったパーティの時なんか、地獄を見たよ。
ギリギリで最低限の礼儀作法は、身に着けたらしいけどさ。
ようやく形になった頃は、この家庭教師の爺さんもげっそりやつれた顔してたわ。
もう明らかに才能ないってわかるよ。
大人は子どもの得意分野を伸ばそ? ね?
「そのように敬遠めされるな! 貴族たるものアルテス・リベラレスの習得は必須ですぞ!!!」
「幾何学とか文法学とかやりましょうよ……?」
俺は恐る恐る提案する。
これらは俺は得意なのだ。
というかどっちも前世知識やチートで余裕なんだもん。
「語学と魔法は完璧の一言です。私から教えることは何もありません。天賦の才とはアルタイル様のことをいうのでしょう……一度教えただけで大陸諸語を網羅するとは……私の人生でも一度もありませんでした」
「………お兄ちゃん……すっごぉい………!」
「いやぁ!!! まぁね~~~!!!」
「幾何学も素晴らしい。この調子で学べば、聖アルス・マグナ魔法学園でも非常に高い成績を残されることでしょう」
俺のチートは機能しているようだ。
頭の中に既に入っているように、語学は学習できた。
数学分野は前世でやったし多少はね? ガキには負けんわ。
「しかし!!! それだけに惜しい! これだけの語学の才がありながら修辞学を学ぼうとしないなど、黄金をドブに捨てるのと同じことです!!!」
「捨てていいよ!? 俺は魔法の世界で食ってくから!!!」
「お若い身で何をおっしゃいますか!? 人生の何たるかを語るには早すぎますぞ!!!」
いやわかるよ。確定だよ。
どこの世界にコミュ障に、弁舌求めるやつがいるんだ。
俺には魔法があるんだ……!
だからいいんだ……!
「語学を読み書きを完璧にできるということは、貴族社交において非常に有利な立場を得ることができるのですぞ!? 語学の才がなく、涙を呑んだ貴族が今まで何人いたことか……」
「………………やだーーーーーっっっ!!! やだやだやだやだやなのーーーーーっっっっっ!!!!!!!?!!!」
「…………っ……おにい……ちゃ……ん?」
俺が床に転がってジタバタと暴れまわり、拒否の意を全力で表す。
エーデルワイスは絶句している。
だが俺はそちらに気を遣う余裕はない。
恥を忍んでこうするのは、俺が本当に嫌だからだ。
わかってくれ。
「たとえ泣かれようと私には、アルタイル様を教え導く義務がありますっ!!! アルコル家から特に修辞学に力を入れることを、命じられておりますゆえっ!!!」
「やだーーーーーっっっ!!!」
「……………っ……」
俺は必死の抵抗を試みるが、家庭教師は梃子でも動かない。
エーデルワイスは呆然と事の推移を見守るばかりだ。
そうして結局修辞学の講義をする羽目になった。
いつもこうだよ。
「発声する時は胸を張り、腹の底から声を出すのです! そのような小さな声では誰もが耳を貸しませんぞ!」
「ア~~~~~~~~~~」
発声方法どころか身振り手振りに至るまで細かく指摘を受け、非常に肩がこる。
それどころか全身疲れるわ。
そこまで話している人の体ジロジロみんのかよ?
俺に演説する場面なんかあるか?
よしんばあったとしてアルデバランでいいじゃん……
「もっと堂々となさいませ!!! あなたはそれだけのお方なのです!!!」
「ひぃ~~~…………」
俺は辛い練習に悲鳴をあげ、泣きべそをかく。
時折エーデルワイスは練習の合間に俺をちらりと目をやるが、自分の課題に集中している。
「――――――――!」
彼女は鈴の転がるような可愛らしい声で、一生懸命に発声練習をしている。
それを観察している俺と目が合うと、恥ずかしそうにプイと目を背ける。
あぁ~~~かわいいでちゅね~~~
でも俺はもう無理だ……
エーデルワイスがいた手前ここまで我慢していたけど、もう限界だ……
俺は家庭教師がエーデルワイスに目を向けた途端、ある試みをする。
脱走だ。
「こんなところにいられるか!? 俺はもう出ていくぞ!!!!!」
「――――――アルタイル様―――!?!?!? またですか―――!?」
「―――――――――!?」
へへっ! 囮がいたから今日はチョロいぜ!
押し通る!!!
俺は廊下を疾走する。
道中使用人とすれ違うが、一顧だにしない。
そのまま玄関へ向かい、庭先に出ればこっちのものだ。
俺は成功への確信からほくそ笑む。
ドンッッッ!!!
そして曲がり角を曲がった瞬間。
何か大きな壁にぶつかって俺は尻餅をついた。
痛ってーな!
何だ? ここに壁はないはずだが。
何かにぶつかって……
俺は見上げると、お爺様が俺を見下ろしていた。
「お……お爺様……申し訳ございませ――――――」
「――――――性懲りもなく、また逃げ出したのか?」
お爺様は床に杖を一突きするなり、冷たく低い声で俺を問い詰める。
俺は圧迫感から声も出ない。
急いで立ち上がり、姿勢を正す。
お爺様の奥にはザームエルが控えており、目を伏せて微動だにしない。
俺はできる限り身を縮め、嵐が過ぎ去るのを震えて待つ。
「貴様……その卑屈な態度はなんだ?」
「………………は?」
態度……?
舐めた真似すんなってことか……?
「まるで弱者の如く震えあがりおって……アルコル家嫡男もあろう者が媚び諂うように……! 強者たる者の振る舞いに相応しくない」
「も……申し訳ございません……」
なんだよ強者って……
どうしろってんだ……
でも聞いたら怒られそうなので、とりあえず謝っておく。
「勉学に戻れ……」
「…………ひぃ……」
「返事はどうした?」
「はい!!!!!」
俺は返答するや否や、脱兎のごとく駆けだした。
玄関へと続く長い長い廊下をひたすら戻っていき、曲がり角を通り過ぎゆく。
そして少し走ると、後ろに小さな黒い影が見えた。
「お兄ちゃん……! 待ってぇ……!」
「エーデル?」
エーデルは俺に何かを伝えようと口をもごもごさせて、何度も俺と視線を合わせたり話したりする。
意を決したように豊かな胸の前に握り拳をつくると、目を瞑りながら叫ぶ。
「…………お兄ちゃん……! ……ちゃんとお勉強しないと……だめだよっ……!」
「ぐぅっっっ!?!?!?」
マジなんも言えねぇ。
ぐぅの音も出ないっす。
言い訳のしようもなく恥ずかしい状況だ。
エーデルワイスにこんな注意されるとか、情けなすぎて顔から火が出そう……
「今廊下で話してたのって、アルファルド様だったよね……?」
「…………うん……」
見せたくないところを見せてしまった……
くそっ!? なんで俺はいつも間が悪いんだ!?
さすがに呆れられたか?
婚約者に嫌われるなんて……はぁ……
「…………お兄ちゃん……!」
エーデルワイスの意を決したような大きめの声に、俯いていた顔を少し上げる。
目を合わせるのが恐ろしい。
「…………私も……苦手なこといっぱいあるよ……でもお兄ちゃんと会ってから頑張ろうって思えたょ……! ……だから……その……ぇと…………」
彼女の言葉は尻すぼみになっていく。だが言いたいことは十分すぎるほど伝わっている。
不安に揺れる瞳で俺を見る。
そうか……こいつも怖かったんだな……
「だから……いっしょにがんばろ……?」
黒髪の女の子は俺にやる気を出させるように、今も自分ができる限りの努力をしているのだろう。
健気な激励が、心に突き刺さった。
そんな顔されたら断れないだろ……!
俺は黙って非常に緩慢に頷いた。
苦渋の選択だ。
だが年下の女に癇癪を起こすなんてことは、プライドが許さない。
「…………! ……よかったぁ……! ……じゃぁ……帰ろ……?」
エーデルワイスは小さな手で俺の手を握り。
緩慢な足取りの俺と歩調を合わせて、講義に戻ろうとする。
複雑な気持ちで俺は歩く。
見られたくないところを見られた惨めな気持ち。
エーデルワイスが成長しているという喜び。
自分が置いていかれるような、もどかしさ。
俺はエーデルワイスの手をぎゅっと握りしめた。
彼女は少し俯いて恥ずかしそうにするが、少しだけ握り返した。
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