第32話 「畑にうんこ撒く糞バカ」
他のガキどもも気になったのか、皆を伴い畑へと。
馬車に揺られての旅をしながら、親睦を深めていた。
「お兄様は凄いですね。農業まで深い知識を持っていらっしゃるなんて尊敬しますわ」
「ははは!!! たまたまさ!!!」
「私もお兄様のようになれるよう努力いたします!」
「いやーーーそれほどでもないけどねーーー!!! 照れるなーーー!!!!!」
カレンデュラは俺を尊敬の眼差しで見つめ、俺を称賛する。
こいつは俺を実に気分よく持ち上げてくれる。
お前のそういうところは大好きだぞ。
俺をこれからも讃えるのだ。
「ところで……どこでそのような知識を得てこられるのか……私……気になります」
「ハハ。マァ、ウン。ソウダネ」
うわでたよ。
カレンデュラの人間であるために必要な感情がないような、無機質な背筋の凍る目。
俺が何か特別なことしようとすると、いつも来てこの目するんだもん……
俺は途端に目をそらし、雑談に盛り上がるアルデバランとマックスを見る。
実にくだらない話であるが。
「アルデバラン様っ! うんこどっさりありますからねっ!」
「本当!? どれくらい?」
「俺の背丈よりずっと高く積み上げましたよ! うんこタワーです!!!」
「すっごーーーい!!! あははははは!!!」
執事見習のマックスは御者を務めながら、アルデバランとバカみたいな話をしている。
まぁあのくらいのガキは、うんこ大好きだからな。
あ……ゆらりと立ち上がったサルビアが、マックスに近づいて耳打ちしてる……
いつもうるさいマックスが、鳥を絞めるような声出して黙りこくっちゃった……
「アルデバラン様。お下品な話題です。いけませんよ」
「そうなの? はーーーい!!!」
「はい。いい子ですね」
「えへへ!」
サルビアはアルデバランの頭を撫でる。
俺は彼女の話に乗っかって下ネタではない話をしようと、こいつらに近づき会話に興じる。
ステラはかなり揺れる馬車に酔ったのか、死にかけで寝ている。
こいつマジでダメメイドだな。
暫し俺たちはマックスの動かす馬車に揺られ、目的地へと向かった。
「こちらが今日使用を許可された畑になるっす!」
「そうか……ここが……」
俺たちは少し先にに森がある、見るからに耕作放棄地に到着した。
耕地であった面影はあるが、所々雑草に侵食されつつある。
足場も凸凹して歩きにくい。
だが中々に広いので、実験農地にはこのまま使えるだろう。
「アルタイル様! ぜひ俺たちにそのお知恵を見せて欲しいっす!」
「任せろ! ガハハ!!!」
「いよっ! アルタイル様大天才っ! いーーーーーよっっっ!!!」
「頑張ってください兄様―――!!!」
「楽しみに見ておりますわお兄様」
俺の背中には声援が降り注ぐ。
見ておけお前たち。俺の伝説の始まるところをよ。
サルビアの紹介でダーヴィトの領有する村の農夫が、俺たちに近づき。
被っている麦わら帽子を取って、挨拶をする。
「おらはダーヴィト様の村の農民ですだ。アルタイル様にお会いできてうれしいですだ」
「ああ! 今日はよろしくな」
「よろしくお願いしますだ。田舎もんなもんで、失礼があったら申し訳ないですだ」
「今の感じなら全然かまわない。それじゃあ俺の新農法を見てくれよな!」
早々に挨拶をすると、畑の横に山ほど積まれたうんこの山を見て渋い顔をする。くっせ!
周りを見ると皆慣れない匂いに、顔を大きく顰めている。
普段は無表情なサルビアも、眉間に皺を寄せている。
ステラとか陸に上がった魚みたいな顔してて面白い。
農夫は流石に慣れているのか、涼しい顔をしている。
俺にどのように、これらのうんこを使うのかを尋ねる。
「アルタイル様はうんこを撒けば、収穫量が増えるって思ってるみたいだべが……本当だべか?」
「信じてくれ!!! 人が人を信じられなかったら、それじゃ何を信じればいいっていうんだよ!?!?!?」
俺の熱い思いが通じたのか農民は表情を一変させ、熱意の籠った口調で意欲を露わにした。
心からの説得は人を変える。そういう事だ。
「アルタイル様……おらに教えてくださいだっ!」
「あぁっ! 任せろ!!!」
俺は農民と固く握手した。
雲に隠れていた太陽が顔を出し、俺たちに暖かな光が降り注ぐ。
まるで天が俺たちを祝福しているかのようだった。
「よし! うんこを撒け!」
「え?」
「………? どうかしたのか?」
俺の顔を見て固まった農夫に、俺はどうかしたか聞いた。
農夫はうんこの撒き方がわからなかったようだ。
「どのように撒くんだべか?」
「うーん土掘って埋める……のか? どれくらいの量がいいかはわからないから検証だな」
そうして俺はマックスたち使用人勢を、うんこの山から畑に埋めさせるように命じる。
ステラは臭いからか、また死にそうになっている。
「うんこをそのまま撒くと、虫が湧くし、野菜が根腐れするだよ。だから肥溜めに入れて少なくとも数か月は発酵させてからじゃねぇと、うんこは肥料にならないんだべ。おらたちの村だけじゃなく、ほとんどの村ではみんなそうして肥料にしてるんだべ」
「…………???」
発……酵……?
食い物とかでたまに聴くことがあるが……?
うんこを発酵……?
「てっきりおらは発酵肥料にする手間もなく、うんこが肥料になる方法があると思ったんだべが……」
農民は言いにくそうに、言葉が尻すぼみになっていく。
俺は背中に突き刺さる視線に、冷や汗をかく。
「はぁ~~~やっぱりそんな事だったんですね。アル様」
ステラが意地悪くニヤつきながら、怒りに震える俺をせせら笑う。
先程のやり取りで空気が固まり、皆が居心地悪そうにしているが。
こいつはそんな周りを気にすることもないようだ。
「納得納得♪」
「納得してんじゃねーよバーーーーカ!!!!!」
俺の罵声も意に介さずステラはやれやれという風に両手を上げ、呆れた声で首を振る。
こいつ居心地の悪さとか感じないのか?
苛立ちと同時に、驚きの念も募るんだが。
「で、でも! 貴族様が農業に理解を示してくださるのはすげぇだ!!! アルタイル様はまだとてもお若いのに、広い見識を持ってるんだべな! うちの倅にも見習わせた…………」
「はぁ~~~あぁ。しょーもな。それじゃ帰りましょ~~~わたしこんなのやりたくないもーん」
農夫の必死のフォローに被せながら、ステラはぺらぺらと頼まれてもないことを喋りまくる。
こいつの言葉でただでさえ凍る空気が、更にぴしりと固まる。
ステラはクソ生意気な口調で、ひらひらと手を振りながら大欠伸をかます。
俺は必ず、かの邪知暴虐のメイドをわからせねばならぬと決意した。
「こっっっのメスガキがぁぁぁぁあああ!!!!!!!!!!」
俺はこのメスガキをわからせるために駆け出す。
大欠伸をして目を瞑っているステラは隙だらけだ。
馬鹿なガキだ。
ご主人様を舐めた罰だぞ。
一撃で決めてやる。
「(あっ)」
その時俺はある重大なことを失念していた。
ここは豊作放棄地、
つまり荒れ地だ。
足場が悪いせいでステラの元に、いよいよたどり着くかというところで俺は躓いた。
走り出した体は進路を大きく変えていく。
俺はステラには先ほど何を命じていたか?
うんこを運ばせようとしていた。
俺は当然走っていたから前傾姿勢だ。
つまり――――――
俺は顔からうんこの山に突っ込んだ。
ドチュ。と鈍い湿った音が木霊する。
「に……兄様――――――!?!?!?!?!?」
遠くでアルデバランの悲痛な声が聞こえる。
カレンデュラだろうか、呻き声のような声を出している者がいる。
そして俺の気持ちなど、気にも留めていないのだろう。
ステラは暢気な声で俺に近寄り、素っ頓狂な声で話し始めた。
「元気出して……? アル様?」
俺はステラにうんこを投げつけた。
この少女の顔にクリーンヒットし、彼女は硬直する。
うんこが重力に従い、ステラの顔から落ちると。
思考が追いついたのか体を震わせ絶叫した。
「…………ふ…………ふざけんなぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!!!!!」
「うるせぇぇぇぇぇえええええ!!!!!!!!!!!」
俺とステラはうんこを投げ合う。
てかこいつ遠慮しないし俺押し負けてるくらい、うんこぶん投げてくるんだけど。
マジでなんなん?
バシャァッッッ!!!
そんな時俺とステラに、大量の水が被さった。
俺たちは突然の事に虚を突かれ、思わず手を止める。
水が来た方向に振り向くと、魔法陣を起動したサルビアが立っていた。
「二 人 と も ?」
あ。ヤバいやつ。
「聞きかじりの知識で何かをしてはいけませんよ。大事な農地がだめになってしまうかもしれないのですから」
地べたに正座する俺の顔をハンカチで拭きながら、サルビアは説教をする。
チッうるせーな。わかってるっつーの。
ステラは嗚咽を漏らしながら、うんこまみれのまま正座を続けている。
へへざまぁみやがれ。
そんなことを思っていると。
サルビアは人の所業とは思えない、恐ろしいことを俺に告げた。
「ちゃんという事を聞かないと、坊ちゃまの大好きなエビフライはお預けですよ」
「エビフライは関係ないだろ!!!!!」
「アル様の食事は私に一任されております」
その通りだ。俺の食育はサルビアが管轄している。
もう乳母も俺を離れ、彼女が俺の生活を一手に差配しているのだ。
「…………ごめんなさい」
「ちゃんと謝れて偉いですね」
サルビアは俺の頭を撫でる。
なんか丸め込まれたみたいで腹立つ。でも……
俺は逆らえない。
胃袋を掴まれている。
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