第29話 「華麗なる貴族たちの絢爛なる集い」
着せ替え人形にされていた俺は、自室にて感情を失くしていた。
サルビアとステラは二人とも、服が好きで好きでたまらないようだ。
かれこれ何時間やってんだこれ。
女ってやつは布切れにどうしてそんなに執着するかね。
しかも自分たちのじゃなくて俺の服を。
「サルビアさんこっちはどうですか!?」
「似合うと思うわ。坊ちゃまには何でも似合いすぎて困ります。選びきれないわ」
ステラはいくつもの服に埋もれるように、服選びに夢中になっている。
それはサルビアも同様で、何着あるのかわからないくらい衣装箪笥から衣類を取り出していた。
「アル様には……こっちかなぁ? でも貴族様のパーティなら豪華で明るい色のほうが……」
「寒色系でも坊ちゃまの美しい金髪が映えるので、いいと思うわ。でも子どもらしさを前面に出していくのも、いいかもしれないわね」
「…………ウワ」
なんだそのファンタジーRPGの奴らが着て戦ってるような服は……
絶対動きづらいじゃん……
やたら装飾過多でカラフル過ぎるだろうが……
この年齢ならまだ許されるのか……?
それともこの世界の奴らは、ナチュラルにそんなド派手な服着てるのか……?
確かにこの世界、美男美女多いけどさぁ……
いつまでそんな服着るわけ?
急に辞めたらもう自分も年かぁ……ってなんないの?
少しは周りの目も気にしろよ。それとも伝統衣装かなんかなのか?
美的感覚が違いすぎるんだが。
相応の場では格式が必要なのはわかるよ?
でもそんな服着てるのに似合わないやつ居たら、とても俺は笑いを堪えきれる自信がない。
もうコスプレ大会に出ると思い込んでいくか……
そうでもなきゃ、やってらんねーよ。
「やっぱりサルビアさんも、これがいいですよねっ!!!」
「えぇ。せっかくの坊ちゃまの晴れ舞台ですもの。一番いいものでないと」
「…………ガチで? …………マジで?」
ステラが手にもって掲げる服はよりによって俺が一番着たくないやつだった。
デザインは察してくれ。
サルビアは満足げな顔で何回も頷き、決定ムードである。
「それではこれにしましょうか。もう時間になりますお着換えください」
「たっのしみ~~~!!!」
俺は全然楽しくない。
そうして為されるがままに、俺はいつものように着替えさせられるのであった。
「アルタイル可愛いねぇ!!! 今日の主役はアルタイルに決定だね!!!」
部屋に迎えに来た父上が俺に抱き着く。
俺は無表情のまま両脇を抱えられて、持ち上げられて振り回される。
「わぁ! 可愛い!」
「ご立派です坊ちゃま」
サルビアが特に満足げだ。
ステラもぴょんぴょんと跳ねている。
お前可愛いってのは誉め言葉じゃあないんだよ。
それに女の可愛いは信用できないって知ってるんだかんな?
「さて! 着替えたことだし出発しよう! 準備はできたかな?」
「はい。父上」
「うん。それじゃ二人とも行ってくる。留守を頼むよ」
父上は俺の手をつないで部屋から出ていく。
あぁ……ついにこの日が来てしまったか……
早く終わってくれよ……
「「お二人ともいってらっしゃいませ!」」
アルコル侯爵家一行はシファー公爵主催のパーティに出席するため、パーティ会場に到着した。
豪華絢爛な屋敷を借り受けての、盛大な催し。
煌びやかすぎて、いくら陽キャでも二の足を踏むのでは?
「圧がすごい」
巨大な門に貴族と思われる、ド派手な集団が次々と入っていくのが見える。
うわあの服ヤバくね?
痴女かよ……おっぱいの形まるわかりじゃん。
思わぬ役得にも俺のチンコはピクリともしない。
ガン萎えなんですけど。
いやまだ勃たないんだけどさ。
「ははは! 大丈夫大丈夫! 絶対大丈夫だよ!!!」
「絶対に絶対じゃないぞ」
父上がいつものようにお気楽そうな朗らかな声で話す。
俺を励ましているつもりか?
悪いが全然響かねぇんだわ。
てかなんか周りの人たちから、俺たち孤立してない?
半径10mくらいの空間があるんですけど……
明らかに誰も俺たちと目を合わせようとしてないし。
こんなんで社交界デビューとかできんのかよ?
父上の日頃の行いはどうなってるんですか……?
もうすでに嫌な予感がひしひしとしている。
「……どうやら俺はとんでもないところに来ちまったようだ」
「よゆーよゆー慣れる慣れる」
「見るからに地獄。明らかに地獄」
父上は飄々とずんずん進んでいく。
待って!? 待ってよ!!!
心の準備くらいさせてくれよ!!!
どうやら俺たちが最後の方に入室したようだ。
父上が気を利かせてくれたのだろうか?
扉が閉まっていくのが見える。
閉まっちゃったよぉ!!!
「もう引き返せない感じすごい」
「もう諦めなよアルタイル~現実から逃げたっていいことないんだよ~?」
父上がニヤつきながら、小馬鹿にするような残酷な表情で笑っている。
人をおちょくりやがる……
だが最後には父親らしく、俺にアドバイスをした。
「うーん……緊張すれば緊張するほど調子悪くなるよ? 緊張感を持つなとは言わないけれど、今のアルタイルじゃいい結果は出せないと思うなぁ」
「緊張抜くには帰るしかないです」
「ここまで来たらもう遅いね~ま、私が対応するからお前は挨拶くらいでいいさ。前から言っている通り顔と名前だけは憶えてね?」
父上は歩きながら話しているだけで、周囲にいる人が割れていく。
いや何これ……バリクソ悪目立ちしてねぇ?
もはや俺が何を失敗するまでもなく、初めからすべてが悪い方向に向うことが決まりきってねぇ?
「シファー公爵。本日はお招きくださり感謝します」
「おおアルコル侯爵。お久しぶりですな。よくぞいらっしゃいました」
シファー公爵を名乗る、このパーティの主催者か。
父上よりほんの少し高めのかなりの長身。
貴族の当主と呼ぶにはいくらか年若いが、威厳のある顔立ちだ。
父上と同い年くらいか?
彼は若いしもっと若く見えるからな。
それにしても大貴族はみんな悪人面なのか?
まぁ汚いこと考えまくってれば人相に出るのかな?
俺は天使のようにプリティーな顔立ちでよかったぜ。
母上には感謝しないとな。
「弟君には先日挨拶いたしました。アルコル侯爵もご壮健そうで何より」
「アルビレオ共々世話になっております。シファー公爵にお会いできたことを大変喜ばしく思います。魔物どもへの対応に追われて中々足を運ぶことができませんで」
「ふむ。魔物どもも最近また動きが活発化しているようですな……」
「えぇ。王国だけでなく、各国でも確認されていると聞きます」
「私も聞き及んでいます。陛下より対策を練ることを命ぜられており、現在情報収集に努めているところで」
「陛下が……して対策とはどのような――――――」
父上たちが俺をほっといて何やら話し込んでいる。
話に熱中し、俺を置いてきぼりにしている。
なんか俺たちの周りでぽっかり空間で来てるし、めっちゃ聞き耳立ててるんですけど?
父上たちは話しているから気にならないかもしれないけど、これめっちゃきついんですけど!?
俺どうすればいいんだよ?
話に口出せるわけないし、無言で突っ立てると周囲がめっちゃ気になるんですけど!?
あぁぁぁ……ゴリゴリ精神が削られていく……
何もしないことも、こんなに辛いの……?
貴族付き合いできる自信ないんだけど……
「――――――なるほど。陛下の存念よくわかりました。感謝申し上げます」
「こちらも有意義な時間でありました。感謝を――――――話が長くなりましたな。してそちらの方は?」
「紹介が遅れました。私の息子のアルタイルです」
「はじめてお目にかかります。アルコル侯爵家が長子。アルタイルにございます。本日はお招きいただき、大変光栄にございます。お見知りおきいただけると幸いです」
「うむ。シファー公爵である。畏れ多くもこの国の宰相を仰せつかっている。今日は是非楽しんでゆかれるとよい。」
「ありがとうございます」
……ハァ……ハァ……
とんでもない重圧だった……
噛まなかったのが奇跡だ。
必死こいて練習した甲斐があった。
あれがなければ死んでいた……
なんだこのおっさん……プレッシャーが半端ねぇ……
これが……宰相……視線が重い……
父上はこんなの相手にしてるのかよ……
「シファー公爵。何分この通り若輩者故、ご無礼容赦頂きたく」
「なかなか堂に入った立ち振る舞いでありました。魔法の腕は私まで音に聞くまでの、卓越した技量であるとのこと。よき跡継ぎに恵まれているようで」
「お褒め頂き感謝申し上げる」
「……恐悦至極に存じます」
あぶねぇ……! 息するのを忘れていた……!
一拍返事が遅れたけど大丈夫だよな?
そんな事より早くこの場を去らないと、酸欠で死んでしまうぞ!!!
父上―――!!!
「こちらが家内です。お前たち挨拶を」
まだ続くんかーい!!!
もう終わらせてくれよ!
てか何人妻紹介する気だ!?
今妻って言ったよな?
なんで4人も並んでるんだよ!
俺らは今日は二人で来てるってのに!?
これ全部覚えろってか!?
「ラッヘルと申します。よろしくお願いいたします」
「アデリナと申します。よろしくお願いいたします」
「カトリンと申します。よろしくお願いいたします」
「パウリーネと申します。よろしくお願いいたします」
いやぁ皆さん美人ですねぇ!
一発で覚えちゃいましたよ!
へへへっ宰相閣下もなかなかどうして好き物ですなぁ!!!
ちょっと親近感湧きますわ!
俺はそんなことを思いながら返礼をする。
少し緊張が解けてきた。
っぱシモの話になると緊張も薄れるな。
これからは毎回エロイこと考えながらパーティしよう。
少しばかりシファー公爵の妻たちと歓談した後、俺より少し年上の少年が近づいてくる。
びっくりするくらいのイケメンだ。
切れ長の目つきが印象的な、青髪クール系イケメンである。
この年でこんなイケメンってわかる顔だよ。
将来引くくらいモテそう。
気に食わねぇなこいつ。
俺は俺以外のイケメンが嫌いなんだ。
「息子のエルナトです」
「シファー公爵家が長子。エルナトにございます。お見知りおき頂けると幸甚に存じます」
うぉ~貴族みたいだ。
貴族か。
エルナトは優雅に挨拶をすると、父上と少しばかりだが話した。
こいつ頭よさそうだな。
何言ってるか全然わからんもん。
父上もべた褒めしてるよ。
シファー公爵も機嫌よさそう。
チッ……ご自慢の息子さんでよかったすっね~
舌噛め舌噛め舌噛め舌噛め!!!
そんなことを思っているうちに会話が締めくくられ、和やかに挨拶が終わった。
もっと殺伐としろよ貴族は好きだろそういうのよぉ?
「それでは楽しんで頂きたい」
「はい。それでは失礼」
「失礼いたします」
シファー公爵の元から場を辞すと、疲労を自覚し始める。
そんなタイミングで父上は少しばかり口角を吊り上げながら、満足そうな声色で話しかけてくる。
「よりあえずよくやったね。練習通り挨拶できていてよかったよ」
「俺もう壁の花になってます」
「あはは!今回のメインイベントが終わっただけだよ。挨拶回りはまだこれからさ」
「ふぇぇ……惨いよぉ……」
そんなこったろうと思ったけどよ……
萎えるわ~~~うまそうな飯がそこら中にあるのに、一つも食う気しねーよ。
貴族も楽じゃないぜ……
友達なんてできる気がしねぇ……
そもそもあんま同年代いなくね?
俺が完全に最年少だろ。
そんなこんなで俺はひたすら挨拶回りをした。
女性の名前は覚えたよ?
特に俺好みの美女。
いやパーティも捨てたもんじゃないね。
完全にエロ目で楽しめるわ。
だから挨拶してない美女の名前まで覚えたぜ。
ファンタジー特有のエロ衣装たまらんの~~~
男は怪しいところだがな。
興味ねんだわ。
今世で一番長い夜はこうして幕を閉じた。
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