第226話 「魔王領域探索作戦、発令」
ブロンザルト子爵をはじめ、アルコル派閥とされる王国東部軍管区の貴族たちが勢揃いしていた。
人類圏側のキララウス山脈付近における要塞前広場にて、それぞれの貴族家の軍旗が靡いている。
王国屈指の武闘派とされる、軍事能力に長けた貴族たちばかり。
強靭な肉体を有した、鋭い眼光の者らが集っている。
誰もが戦場を経験し続けてきたからか独特の気配を発しており、抜身の刃のような佇まいである。
将来俺があの中心になるかもしれないと思うと、嫌すぎる。
コミュ障には絶対無理。
いいかね? 転生してもコミュ力は上がらないのだ。
コミュ力もチートの中に入れて貰えればよかった。
でもコミュ力だけで、あの中に入れるかと言われても疑問符が付く。
余程のコミュ力がない限り、頭アルコルじゃないと無理でしょ。
「久しいなアルタイル」
「お久しぶりです。ベルンハルトさん」
「壮健か」
「今はもう絶好調ですよ!」
「そうか。何よりだ」
彼はブロンザルト子爵家後嗣ベルンハルト、ノジシャの実の兄である。
彼女と同じ色の燃えるような赤髪をきっちりとセンター分けした、引き締まった筋肉質な長身。
見ての通りの真面目一徹の、寡黙な人だ。
彼女の家は、俺と直接血が繋がらない弟妹も多くいる。
ノジシャが疎開してきた時は、それぞれの母親の実家に行っていたようだ。
やけに俺に懐いてくるが。会えば俺の髪と服を引っ張りまわし、勇者ごっこに付き合わされるばかりだ。
最近は英雄アルタイルごっこを、何故か俺がトロル役でやらされている。
激しくおかしくねぇ?????
「毒を盛られ、魔将と戦ったのだ。今こうして話せることは喜ばしいが、心を痛める者も多くいる。妹と共に、お前の安否を案じていた」
「ご心配をおかけしました」
この人にしては、珍しいほどの長話。
余程に心配をさせてしまったのだ。
ノジシャに似た整った顔立ちの彼は頷いて、僅かに口角を持ち上げた。
余談はさておいて。
彼はまだ学園生の身だが、すでに戦場に幾度も赴いている。
そうするのもブロンザルト子爵家に、男児が少ないからである。
勿論、戦死も含めての要因だ。
俺らと似たようなもんだな。
それでもまだマシな方だ。
最悪女子供だけが残り、男子であるというだけの幼児の代わりに。
その母親が慣れない領地経営に携わり、財政基盤が傾いて結果的に戦争に負ける。
あるいは完全に財政崩壊して、お家御取り潰しなんてことも珍しくはないのだから。
「ベルンハルトさんは最近どうですか? ノジシャも」
「俺は変わりない。ノジシャはお前たち兄弟に会いたがっていた。お前のことをひどく心配していた」
「そうですかえへへ……帰ったら未来の夫として、愛を確かめに行かなければ!」
「ああ。喜ぶだろう」
この通り、兄公認の仲である。
家族全員が認めているのだから、もう完璧にバージンロード確定だな。
だがこんな世界だ。俺たちを遮る障害は、確かにある。
でも俺は負けないよハニー♡
どんなに辛くとも、必ず君に勝利を捧げて見せる♡
この戦争が終わったら、彼女の元に赴き、愛を確かめ合うんだ……
彼女を抱きしめ、夕焼けを背にキスをする。
日が落ちるまで愛の言葉を囁き、俺に惚れているノジシャは俺を濡れた瞳で見つめ。
二人の影は重なり合い…………
……そして! ……ヌフッ♪……フヒッ♪……おひょひょ♪
妄想を深めていると、軍勢の進退を指示するための爆音が、地面から腹の底に響いてきた。
この場にいた貴族と兵士の集団は、その方向へと振り返る。
陣太鼓と共に、戦列を組んだ全身武装の集団が姿を見せた。
「王国騎士団!!! 聖騎士!!! 到着!!!!!」
王国騎士団、そして教皇から派遣された騎士団がアルコル侯爵領に到着。
そのニュースは東部軍管区の者たちにも伝わり、来たるべき戦乱の予兆に各々で思いを馳せた。
この度、合同作戦がカルトッフェルン王国と教皇の名のもとに発令された。
魔王領域への調査作戦の決行が、連名で発表されたのだ。
以前より故シファー宰相が発案していた政策が、ここまで遅くなったのは訳があった。
新宰相ヴォーヴェライト公爵はよくやっていたが、業務引継ぎや諸事件の調査などに忙殺され。
王国騎士団たちとの合同出兵の準備が遅くなってしまったからだ。
教皇が派遣した聖騎士たち、そして王国騎士団の面々とは、初めての正式な顔合わせとなる。
話すのは初めて。それほどに俺たちは戦争に窮している。
特に聖騎士は世界各地を転戦し、そのままに我らがアルコル領にたどり着いたようだ。
いくら人類の存続に命を捧げているといっても、その苦労は尋常ではない。
俺はベルンハルトさんと別れ、それぞれで出迎える。
顔合わせのために、それぞれの格に応じて対面して言葉を交わさなければならない。
一応俺は爵位持ちで、尚且つ英雄だからこういう社交もこなさなければならないわけだ。
「久方ぶりにお目にかかります。私はカルトッフェルン王国騎士団副団長スハイル・ゼーフェリンクです。数年ほどお会いしておりませんでしたが、お変わりなさそうで何よりです」
そんな折に副団長を名乗る男が、挨拶をしにやってきた。
銀髪紫眼のつんつんヘアー。
はぁ~~~ん? なんだこいつチャラつきやがって。
何時間かけてセットしてるんだその重力に逆らった髪は。
何スカしとんねんコラ?
一見細マッチョに見えるが、それは非常な長身であるためである。
爽やかマンな面して、普通に腕の太さ丸太みたいでエグイ。
なんか人気漫画とかの主人公みたいな容姿でムカつく。
こいつゼーフェリンクのお坊ちゃんだったか? 伯爵家じゃん。
「この度は魔将バジリスクを討伐されたこと、心よりお祝い申し上げます。武者として尊敬するばかりです」
「ご無沙汰しております。ありがとうございます。音に聞こえる強者である副団長殿にそのように言って頂き、光栄の至りです」
俺を持ち上げてくる、若きイケメン副騎士団長。
いや滅茶若い。
確か学園を卒業したばかりだったか?
顔もスタイルも強さも家柄もいい?
同じ男なのになんだこの差は? 殺してぇ~
でも頭は俺の方が上だろうな。こいつ脳筋そうだし
あと魔法もだな。立場もか。俺は男爵様だし。それに金は圧倒的に勝利。
なんだ。俺の勝ちじゃん……!
ステータスオープンもできないやつが、イキってんじゃねぇよ。
そうやって怒りを腹の底に収める。
何て俺は器がでかいんだろうか。
「聖騎士団長イリスと申します。アルコル男爵にお会いできて光栄です。今回の作戦ではよろしくお願いいたします」
事務的に身分を告げた、軍人然とした女性。
教皇より派遣された大陸最強集団である、聖騎士の最高位に位置する女傑。
噂には聞いていたが、マジで女だったんだな。
お顔もキャワイイね♡
とんでもない鉄仮面女。
顔立ちは美人だが、マジで視線がキツイ。
でも……俺は好き。
…………マゾだからぁ……♡
とっつきづらいが、是非ともお近づきになりたい。
こういう女を屈服させてやるのも、タマラナイ……♡
「お二方。救援恩に着ます。皆様の力をお借りし、この作戦を成功させたく思います!」
「アルコル男爵には及ぶべくもありませんが、精一杯を尽くす所存です」
「聖騎士の務めとして、人類守護を成しとげましょう」
目標と信念を確かめ合う俺たち。
彼らの武名は俺にも届くほどだが、何せ俺は世界最高の英雄。
俺の推測だが、こいつは絶対噛ませ犬だな。
間違いない。踏み台キャラというやつだ。
主人公にいつも負ける哀れなやつ。
世界が更に俺を知る前に、お前に俺の凄さを教えてやろう。
こいつも俺には及ばずとも活躍しているらしい。
武勇伝を偶に社交界で聞く。
だが転生チートという主人公確定の神に選ばれし英雄たる俺の才能の前には、無力だろう。
そう思うと気が楽になった。
「は~~~ん。お前がアルタイルか。近くで見ると、小娘みてぇな面してやがる。本当にお前が2体も魔将を倒したっていう、英雄って奴か?」




