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第225話 「次の時代へ」




 革命軍の一員は納得するが、実現可能性に関して疑問を呈した。

 そう都合よくいくのか、という単純な命題について。




「なるほど。その隙を狙って……しかし人間同士での戦争を誘発といっても……方法は? そんなことできるのか?」


「もちろん対策をしているはずだ。だからこそ長年にわたり準備してきた、奴らの紋章が刻まれた甲冑や武器などは、横流しされた物を利用し。それを着用した俺たちが軍事衝突を誘き出し、激発させる……」


 その疑問は至極妥当なものである。

 だがゲレスはどこからか調達をしていた。


 完成品で諸侯の印章が刻印されたものでさえ、どこかからのルートより確保していたのだ。

 それは経済的困窮であったり、スパイの仕業であったり、怨恨から利用したものでもあった。




 人間の欲望というものは果てしない。

 それが異種族に漬け入られる原因にもなる。






「そして俺は…………挑発する時間、そして予定されている布陣までの情報も手に入れている。アルコルと王国騎士団たちが、魔王領域の調査に向かっている最中に戦争を誘発するのが得策だろう。それをもって奴らの領土侵犯を促し、偶発的戦闘を誘引する。無論これは確実ではない。しかしそこで生まれた隙こそがこの計画の要。この時間的余裕をもって諸国に囚われた獣人奴隷を解放し、戦力確保を達成するのだ」


「愚かな人間ども。我らを食い荒らすだけでは飽き足らず、同胞まで裏切るとは」


「救いようのない下衆どもだ」


「屑同士殺し合っていればいい。我らに騙されたと知らずにな。いい作戦じゃないか」


 各国の哨戒スケジュールが、漏洩していた原因だが。

 これについては相次ぐ内乱などで、官僚や各領地の文官の人手不足が祟った故の事情があり。


 脱獄した政治犯の消息不明により、どの領地の兵士も対応に追われていた。

 とても反乱分子のすべてを監視するとは、いかなかったのだ。

 その隙を掻い潜って、内通者が機密漏洩を図ったのだろう。


 ゲレスの政治犯収容所襲撃事件は、単なる同胞の救出による人員確保や、革命開始の政治的アナウンスメントだけでなく。

 これすら意図したものだったのかもしれない。




 また戦争の誘発はあくまでブラフで、方法論に過ぎない。

 彼らの主目的は人類の混乱と、戦力増強であるのだ。


 暗く澱んだ笑みを浮かべて、人類の不幸を喜ぶ獣人たち。

 そこに欺瞞があることには、ほとんどの者が気づいていない。

 気づいていても憎しみは目を曇らせ、正義の名のもとに正当化させる。






「お前たちの気づいている通り、人間は醜い。だからこそ人間は俺たちを支配した。その飽くなき欲望こそが、世界に冠する力を手に入れたのだ。俺たちは間違いなく人間たちより弱い。圧倒的に数が少ない。」



 ゲレスの厳かな注意喚起によって、耳を傾けていた者たちは押し黙る。

 発言は悲観的だが、現実に即したものであったから。


 誰もが決定的なまでの戦力差がわかるほど、獣人は劣勢である。

 本心から確実に革命が達成できるなど、現時点ではほとんどの者が信じていない。






「今回の最大目標として、世界中で同時多発的に奴隷解放を行う。我らは数に劣る。同志を募ることが、革命への近道となるであろう。お前たち闘志に満ち溢れた革命家となら、必ずできると俺は信じている」


「革命……!」


「俺たちがやるんだ……みんなで世界を変えるんだ……!」


 ゲレスの言葉に熱気を膨張させる革命戦士たち。

 彼が策定した計画は、部下たちの願望と熱意を大いに満足させるものであったらしい。


 ゲインロス効果。期待を落としてから上げるという心理効果。

 この男は他者の心を操る術に長けている。

 学を身に着ける余裕のない獣人はそれすらわからず、この男の意のままに焚き付けられた。




「獣人奴隷を迫害する領主を、重点的に狙う。奴らは獣人奴隷を手放すか、さらに迫害するだろう。俺もそのようなことは悲しく思う」



 弾圧が続く同胞たちの救助となれば、行動意欲も高いものとなるだろう。

 犠牲となった者たちを思い出しているのか、寂寞の念が染み入った面持ちで獣人たちはたたずむ。

 そして戦意を確かに自覚し、滾らせた。






「しかし迫害されるからこそ立ち上がり、我らに賛同する者は多くなる! そうなれば経済的に不利益となった人間たちは、奴隷を手放すであろう! 革命を波及させることが主目的の一つであり、間違いなく諸外国までに影響することだろう。この作戦は旧体制を尽く抹消させるための端緒となる、偉大なる一歩であると予言しよう!!!!」



 革命理論を強調し、残忍を促し。

 目標が明確に示され、大義の遂行への同調を呼びかける。


 ゲレスは世界を舞台にして采配を振るう。

 彼らの楽園への想像は掻き立てられ、種族意識の醸成に大きな役割を果たす。






「同胞の心に火を灯せ! 奴隷の首輪からの解放をシンボルとし、獣人たちの誇りを取り戻せ! 豊かで文化的な生活を、種族の確固たる自決と、真の平等と平和を打ち立てよ!!! 専制権力を打倒したその時に、諸君らは真の自由の解放者となるのだ!!! 最も早くその尊き志を翳したお前たちは、永遠の栄光を手にすることだろう!!!!!」




 自己肯定感が折れた時に垂らされた、英雄願望を煽る。

 使命感を中心とした革命演説が、この集団に理想的共通利益を提示した。


 自らを正義であるとみなし、悪と判断した者に対してどれほど残酷になれるか。

 被害者として虐げられた後、加害者をどれほど恨めるか。

 その答えが弾圧に対する、断固とした手法を用いた抵抗である。






「自身を誇れ!!!!! 種族の英雄はお前たちなのだ!!!!!!!!!!」



 迫力ある美声が煽動の言葉を告げる。

 ゲレスは奮い立たせた。

 優越感を煽り、かつ団結を促して。


 疑問に思ったとしても、たちまちかき消される。

 甘美な大義は、たちまち謂れなき迫害を受ける者たちを酔いしれさせた。


 熱狂する周囲の礼賛。

 迫害の犠牲者をなくすためという、一見すると正しい道理が。

 そして擽られた己が先駆者たる自負が。

 ゲレスはそれを的確かつ頻繁に用いて、因果を含ませる。





「誓った。その日奪われた時。誓った。何より大切なものを壊された時。誓った。奴らが我らの不幸を嘲笑っているのを見た時。我らは誓ったのだ! このような悪徳を世界から根絶すると!!!!!」



 狂おしいほどに求めていた理想。

 それを提供できる人物が現れたと思った時の歓喜とは、如何程のものか。


 正しさに狂わされた夢想者達。

 彼らは夢を現実のものにしようとしている。


 この時代は理想的世界へ至るまでの過渡期なのだろうか。

 それとも混乱を助長する罪科でしかないのかは、神のみぞ知る。






「許してはならない。許すべきではない!!! 全ての悲劇を洗い流すため、革命は断行される!!! 我らは二度と欺かれない!!! 暴虐を受け入れ、隷従に甘んじていた方が幸せなのだという欺瞞を!!! 世界には数多の不正に苦しんでいる者たちが、今もいる!!! 正義に怯えることなく、偉大なる行動を常に遂行し続けるのである!!! 自らを、家族を、仲間を、散っていった罪なき命を、永遠に救い出すために!!!!!!!!!!」



 熱狂した獣人たちは大声で、この模範的先導者を称える。

 津波のような賛辞を、盲目なる願いと共に告げた。


 ゲレスの指導者としての共通認識は、益々確固たるものとなってゆく。

 彼らは恐らく自分たちがすべての悪、抑圧、暴力を根絶できるという狂気に憑りつかれ、魅了されていた。






「全権力を革命軍へ。革命を遂行せよ―――――――――」






「「「「「「「「「全権力を革命軍へ!!!!! 革命を遂行せよ!!!!!」」」」」」」」」」






 爆発するような歓声が上がり、熱狂的信念が迸る。

 後に革命軍のスローガンとなったその言葉をもって、全権力を掌握するよう求めたのだ。


 武装蜂起による権力奪取。

 本格的に反旗を翻すのは、ここからである。

 強行すべく秘密裏に、構成員たちは地下に潜った。




 多くの者たちが退出したために、表面上の熱は冷め。

 この場には幹部だけが残る。











「――――――適切なタイミングが必要だ。この作戦だけではない。人間たちが魔王との戦いに勝利し、弱ったところを倒すか。それとも人間たちに革命の炎を、魔王との戦いの前に消されるか。俺たちはルキナとヘカテーの戦いの間隙を縫い、この難行を成し遂げねばならない」



 側近たちだけが残った中で。

 二柱の神に対する警戒心を、ゲレスは募らせた。

 人類と魔物は大陸を支配することを、神に選ばれた種族。


 不安げな獣人が、この白哲の青年である首領へと話しかける。

 世界の支配者を相手取り裏をかくなど、史書において誰も成し遂げた者はいない。

 存在の格差は絶対的で、神に反抗するなど考えないことが普通である。




「ゲレス。神々を出し抜くなど本当に叶うのでしょうか? 我らが迫害され、絶滅にすら追いやられることに……」


「その手段があるから、こうして行動を起こしたのだ。バジリスクという不確定要素は排除できてよかった。魔物たちは削れれば削れてくれるだけいい。英雄殿には感謝しなければな?」


「……」


 皮肉な物言いに、曖昧な表情で答える側近。

 ゲレスは満足げに微笑んだ。

 彼は神をも恐れぬ所業を行うべく、革命計画を策定していたらしい。


 気になる発言。神々に対抗できる方法とは。

 その真実は伺い知れないが、彼らにはそれを成し得ると思わせる能力がある。

 そして壁に立て掛けられた世界地図へと目を移す。




 そこには魔王領域すら描き込まれた、精巧な絵図。

 このようなものが二つとして存在するものだろうか。

 こんなものを作成できるなら、手に入れるならば、どれだけの労力と能力が要求されるものだろうか。


 ゲレスは一言漏らすと、マントを翻し。

 ドアを開けて外の世界へと発った。






「だがそれで魔王たちが終わるはずもなく。果たして次はどうなるかな? 英雄殿――――――――」









ここまでで章末となります。

長らく伏線開示タイミングに迷っておりましたが、第2部魔法学園入学前に2章70話分ほど挟みます。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 紋章付き装備で戦争を誘発ですか。こんなややこしいものが横流しされているとは困ったものです。これは国全体の統率が取れていないがゆえですね。 革命は獣人側から見たら一見いいことのように思いま…
[良い点]  うぉぉ!!! なんてこった!  ゲレスは一体何者!? ここで章末とは鬼引きですな!  次話も楽しみにしています!
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