第223話 「エルフ様と魔道具作りとお料理!」
「体だけは極上だからなコイツは。エルフの面汚しどもを加工処分するより、余程質のいい魔道具が作れそうだ。しばらくは試行錯誤していくか。時間だけは有り余っていることだし、ガキ肉便器の切れ端で何を作ろうか♪」
銀色の目をしたエルフは自室へと戻ると、アルタイルは床に投げ捨てられた。
医療メスのように発動した風魔法で、チューベローズは赤黒い塊を捌いていく。
この部屋には何かを素材にした物体が、所狭しと並べられている。
それらすべてが魔力を込められた、上質な魔道具。
それも現存する最高品質どころか、神話の時代にあったような代物ばかり。
もちろんそれ程でもない物の方が多いが、明らかに異常なことである。
エルフであっても尋常の方法で、ここまで大量生産できるものだろうかは疑問なところだ。
材料が気になるところだが、この場では断定できない。
「復讐がてらあいつらの死体で魔道具をつくってやろうかとも思ったら、とんだ幸運だった。世界で最も正しい存在には、正しい結果が自ずとついて回るんだな。ねっアルタイルくん♪」
絶対違う。
普段ならこの少年は、ヒューマニズム全否定の良心が痛むことなき悪魔の権化であると。
そのように誤解して、この天使のように清らかなる絶対正義存在様の正気を疑い、口汚く罵っていただろう。
薄い若草色の髪をした、クレイジーサディストショタコンエルフバリアントウィルス。
もとい女神を造形したかのような美貌の女性が、生気の消えうせた美しい女児。
いやアルタイル・アルコルに語り掛ける。
絹糸のような金の長髪は顔面に垂れ下がり、虚空を見つめる瞳は光が宿っていない。
度重なる痛覚刺激により限界を迎えたのだろう。
苦痛耐性が尋常でないこの少年すら、精神が壊れそうになるほどに苛烈なる責め苦が与えれられているのだ。
鮮やかな色の液体が滴り落ちる床をエルフが踏みしめ、水音が木霊する。
「ったくご主人様の問いかけに、キリキリ死力を尽くして答えろや!!!!! ……とにかく非文明的生命体ヒトカスは、肉体構成差が少ないから用途別に使いづらい。ここはやはり魔物どもを狩って、魔道具も多様な種類を作らざるを得ないか。ったくエルフ様を手間取らせるなんて、能無しな軟弱者奴隷ちゃんだよ。コイツで死になぁっ!!!!!」
多様な色合いの液体を垂れ流しながら、横たわる人間。
理不尽にも足を大きく振りかぶって、鳩尾へと渾身の殺人蹴りをキメる。
唾液とも消化液ともつかない粘液が、アルタイルの口からは漏れ出た。
謎めいた感性をした女性は、只人には想像もつかないレベルの拷問にて尊厳を凌辱することに勤しむ。
一通り満喫したのかも知れないが、不満を漏らしている。
「ったく反応薄いと面白くねぇなぁ……いつもなら見上げた芸人魂でピーピー泣き喚いてるところから、さらに色濃い絶望を引きずり出してやるのに。今日はちょっと加減ミスったわ。うっかり殺したら役立たず生物どもがダルいから、少しくらいは気を付けないとね! 反省反省♪」
反応がないとは言うが、英雄の身体は危険な兆候である痙攣を始め。
まるで死にかけの虫のような様相であった。
にもかかわらず何故かこのエルフを名乗る女性は、恐ろしい錯覚をしているようである。
しかし彼女の意には沿わない展開だったらしい。
微塵も反省していなさそうに、弾んだ声で意識のない小さな体へと話しかける。
「優良種様の役に立ててよかったね回復魔法は立派なクズ肉ちゃん! 私に永遠に素材提供できる誉れはそうないよ! 文字通りこれからも身を削って、この世に生まれた意味を果たすんだよ♡」
彼女は謎の目的を遂げようと、意識のないアルタイルをどんな方法を使ってか利用しているようだ。
回復魔法と素材提供というのが、キーワードらしい。
この女の目論見を、放置してよいのかは不明。
だが止めきれる者が存在するかといえば、不可能か疑うレベルで難しいところである。
「っといつの間にかこんな時間か。喉が渇いて血に飢えるのも当たり前だ。ベロベロベロベロゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュ……ぷっはぁ~~~!!! いい具合に生き返るぅ~~~!!! これに合うツマミ欲しいわぁ~~~!!!!!」
アルタイルの身体に顔を埋めると、喉を鳴らす音が空間に響き渡る。
赤で着色された口周りを、美しい造形の舌が淫靡に舐めとる。
そして歯を剥き出しにして、表情を醜悪に歪めたモザイク不可避スタイルに。
事件性しかない猟奇的シーンが繰り広げられてしまっていた。
「本当はハツを食いたいところだが、腿肉で我慢しとくか。なんて私は慈悲深いんだろう! 人間愛護団体の会長に君臨してしまうよ。グルメな私は素材を生かした味付けで頂こう。アルタイル虐待はもうちょっとだけ続くのだ♡ 今日はシンプルにリョナ風味焼き肉にしよっかなぁ♪ 火加減は消し炭ウェルダンで火刑執行だぁルンルン!!!!!!!!!!」
チューベローズは風の刃を手に纏い、悍ましく浮かれた声でスキップする。
美しい少年の身体は、バウンドしながら引きずられ。
廊下の曲がり角にしきりに衝突しながら、厨房に持ち帰られた。
彼女は料理長らを脅して追い出し、いつものように占拠する。
エルフ主催の地獄のようなホームパーティーが、開催を告げたのだ。
肉を断つ生々しい音が、屋敷に鳴り渡った。
これがアルコル家に解き放たれてしまったエルフの、何の変哲もなき一日である。
新作投下しました。
タイトルは 「間が悪いオッサン、追放されまくる。外れ職業自宅警備員とバカにされたが、魔法で自宅を建てて最強に。僕を信じて着いてきてくれた彼女たちのおかげで成功者へ。僕を追放したやつらは皆ヒドイ目に遭いました。」
追放物の弱点を完全補完した、連続主人公追放系です。
完結保証&毎日投稿の約30万字200話。
2023年10月24日、第2章終了40話まで連続投稿します。
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