第217話 「このエロにゃんこ♡ 絶対許さないからなっ♡」
驚愕のあまり、口内から涎が絶え間なく漏れ出す。
体温が上昇し、脈動が激しくなる。
「仕方ないからルッコラは一人で……こぉやって♡せーよく♡かいしょーするにゃ♡ フリフリ~♡ 大好きなオスをゆーわくして、ルッコラだけでキモチよくなるにゃぁっ♡」
ふいにルッコラは淫靡に舌なめずりをしながら、ある行動を始める。
ゆらゆらと腰を前後左右に振り、両手を頭の後ろで組み。
そして股下から伸ばした尻尾にて、自らの臍をしきりに撫でまわしていた。
エッチすぎる形状のおヘソが動きと共に、くぱ♡くぱ♡と開いている。
おヘソの下の部分もトン♡トン♡とノックしており、その度に足先を震わせ恍惚としている。
セクシーポーズで男の理性のタガを消し飛ばす、魔性の女の技。
「みゃおんっ♪ ごろにゃんっ♪ ご主人様とエッチなことすることしか考えられない、エロ猫なのにゃあ♡」
「このエロにゃんこ……! お仕置きしてやるからな……!」
襲い掛かるように熱い抱擁を交わし、欲望のままに貪り続ける。
身を委ねてきた彼女は、耳元にて自制心イチコロメロディを奏でた。
「エロ猫でごめんなぁいにゃぁ~♡ オスの本能を目の前の淫乱猫娘にぶつけるにゃ♡ 絶対キモチイイにゃ……♡ ご主人様はきっと早くしたいはずニャ♡ ルッコラのおっぱいもお尻も、いっつもジィーっと見てるの、知ってるのにゃ♡」
器用に俺の服を脱がせるため、黒い尻尾で弄繰り回す。
しかしめくれ上がった半透明のスカートは片足に引っかかったままで、その内部は当然露呈されていた。
そしてトドメの一撃。
「ルッコラのエッチな所、もっと近くで見てもいいにゃ……? ご主人様にだけなら特別にゃあ♡」
「んっっっほ♡ すぅぅぅっほ♡ むっほっほーーーっっっ♡♡♡」
俺はルッコラの腰を鷲掴みし、血走った眼球を至近距離にて寄せた。
顔中に雌の匂いが充満する。
一瞬無言になったが、たちまち嬌声をあげる。
盛った猫のように息を荒げ、欲望に濡れた高い声で誘惑する。
「…………………にゃあんっ♡ そんなところダメにゃあ♡ 女の子の一番恥ずかしいところなのにゃあ~♡ ルッコラ変な気分になっちゃうにゃあ♡」
「フガフガフガ♡ ボクたんはお医者さんでしゅからね♡ 診察を開始しゅる♡」
これは医療行為。
健康診断だから、何も疚しいことはない。
お医者さんごっこがエッチなわけないだろ。
心のどこかに後ろめたい部分があるから、そう思うんだ。
誰にも憚らない偉大な英雄である俺は、それすら楽しんじゃうけどね☆
診断料はズバリ、君の心さ……
俺だけが独占だ☆
「ご主人様ぁ~♡ もっと近くで嗅いでもいいのにゃ♡ ルッコラももっと近くで嗅いでみたいニャ♡ すっごくいい匂いにゃ♡ ご主人様はルッコラの匂いどうなのにゃ……?」
「いい匂いを嗅ぐだけでなくぅっ!!! ベロベロベロベロ~~~ン♡♡♡」
「ご主人様のベロすっごくアッツいにゃあ♡ 女の子の身体はすっごく柔らかいのにゃ♡ どれくらい柔らかいか、もっと知りたいニャ? ご主人様なら何回でも何時でも確かめていいのニャ♡」
「このエロにゃんこ♡ 自分が触ってほしいんだろうがっ♡」
「エロにゃんこだってバレちゃったにゃ~ん♡ だからルッコラの身体を触って触ってにゃぁ~♡」
このエロ猫♡
弾ける肌が溜まらんのぉ♡
俺の首にルッコラは両腕を絡めて、自らの首元に導く。
かれこれ数分ほどラブラブしていただろうか。
俺は猫吸いのため、彼女の腹部に顔を埋めていた。
他の部分も味を確かめようかと、彼女の口元に向かうと。
トドメの自制心破壊台詞で、理性を粉砕される。
「……ちゅっ♡ チューは……大好きな人だけに……するものニャ……だって……ご主人様のことが世界で一番ダイスキ♡ダイスキ♡な雌猫にゃあ♪」
ぷっくりと柔らかい唇、そして少し粘つくアツいざらついた舌の感触が体内に侵入した。
人差し指を口元に添え、潤んだ目で彼女は訴えかける。
砂糖のような甘ったるい言葉を、激アマ猫撫でボイスで。
糖尿病になっちゃうよぉ……
その前に高血圧で、脳ミソと心臓が爆裂しちゃうよぉ……
英雄殺害計画が、何者かの手で下されようとしているのか?
あまりのご都合主義的モテモテぶりに俺は訝しんだが、自らのこれまでの行いを振り返ると当然かと一人納得した。
「このっ♡ 誘惑しやがって♡ エロ猫♡ その体が! 褐色肌が! 表情が! 柔らかそうな唇が俺を惑わすんだっっっ!!! お前が悪いんだからなっ♡」
「きゃうっ! ……やっとルッコラをご主人様のモノにしてくれるにゃ……? ルッコラずっと待ってたにゃ♡ はやくご主人様ののものにしてニャ♡♡♡」
「むっひょひょひょのひょ~~~~~ん!!!!! パックンチョしちゃうのだ~~~~~♡♡♡♡♡」
「やっぱり両想いにゃ! 嬉しいにゃあ♡ …………フフ……」
歓喜に弾んだ声でルッコラを抱え、二人で俺のベッドに突入した。
俺を捕食するように目を輝かせ、喜悦に歪んでいた。
俺は彼女をベッド中央に引っ張り、逃げられないように組み敷いてのしかかる。
そして二人は本能のままに乱れ合うのだ。
原始に帰り、魂を震わせて、生命の神秘を体験しようではないか♡
「―――――――――何をしているのです」
恐ろしく無機質な問いかけが響き渡り、体の熱は真から霧散していった。
水を打ったように、静まり返る部屋。
恐々と首を傾けると、そこには普段の無表情を通り越した俺の専属メイド。
銀髪デカパイちゃんのサルビアが世にも恐ろしい表情で、ドアを開いて佇んでいたのだった。
「チッ……いいところに……」
低い声で舌打ちしながら、はだけた胸元を腕で隠す猫耳少女。
あれあれ? 冗談きついよルッコラたん?
「仕事もしないで、どこで油を売ってるのかと思いきや……坊ちゃまを誑かすのに勤しんでいるとは。淫売に暇を与えてはいけないようですね?」
「さ、サルビア! 俺が引き留めてたから」
「みゃうぅ……」
ルッコラは怯えた声で、俺の背中に顔を埋める。
そうだよね。好きな子のことは信じて、男として守ってあげないと!
ルッコラたんは恥ずかしがり屋で、怖がりの子猫ちゃんなんだ!
男の理想を体現したような女の子なんだよ!
「…………そうでしたか。ルッコラの教育は私が勤めておりますので、彼女の躾は私が務めさせていただきます」
「…………」
「いいですね?」
「わ、わかったよぉ……」
「……」
圧力に屈し、敗北。
仕方居ないのさ。幼き頃より躾という形で上下関係をたたき込まれた、頭の上がらない女性のプレッシャーには恐ろしくて逆らえない。
未だにサルビアは片手の腕力で俺を制圧できるのだし、尚更だ。
爛々と輝く愛で、無表情にサルビアを見つめるルッコラ。
底冷えする声が、静まり返った自室に響き渡る。
緊迫感が再燃し、更に情勢不安が巻き起こったのだった。
「お前の思い通りに等、いかせるものですか」
「……!」
「お前の本性は、既に家人一同が知っております。今更籠絡しようと媚を売っても、遅いのですからね」
「ギリィッ……!」
冷えきった口調で獣人奴隷の横を通り過ぎた、銀髪の女。
ルッコラは額に青筋を立てて、歯軋りした。
あれれ? どうしてそんなに恐ろしい表情をしているのかな?
敵にだってそんな憎しみの籠ったお顔は、しなかったよね?
普段の可愛い女の子に戻ってね?
いやこれは夢か。色々あったからな。
後遺症が残っていてもおかしくはない。
後で自己診察が必要だ。
医者の不養生と言うし、そんな感じのアレだろう。
「あざとい小娘」
「邪魔なのよオバサン」
憎しみすら籠った捨て台詞を吐きあって、擦れ違った二人。
音を立ててドアが締められ、その奥にルッコラは消えた。
「まぁ。卑しい育ちのふしだらな女はこれだから……坊ちゃまは人様にあのような暴言を行ってはなりません」
俺が何も言わないでいると、苛立ちの籠った言葉で念押しする。
張り詰めた空気は未だに霧散せず、俺を包み込んだ。
衝撃から俺が無言でいると、怒気の籠った念押しを受ける。
俺はか細く震えた返答しかできなかった。
「サルビアとの約束ですよ。いいですね」
「…………ふぁい」
部屋を沈黙が満たす。
俺の返事に満足したのか、勝ち誇ったように口角を曲げるサルビア。
無性に歯が震えている。
カチカチと音が鳴る口内から、恐怖の震えが脳髄に伝わるかのようだった。
「坊ちゃまの身辺は、これまで以上に私が監視しなければ。坊ちゃまのために。ナターリエ様が残された、私が育てた可愛い坊やのために」
そして再度ドアへと冷たい視線を送りながら、俺を抱きしめた。
俺はサルビアがドアを睨みつけるのが終わるまで、長い長い時間を恐怖に怯えながら過ごすのであった。




