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第201話 「新たな奇跡 拡大される思考領域」




 回復魔法は、肉体情報改竄魔法を持ってすら、脳への介入は及ばない。

 疲労からくる耳鳴りと頭痛が止まない。

 積み重なったストレスが、全身の隅々までを冒す。




「直ちに衛生を呼んでくれ!」



「こっちにもだ!? 早くしないとマズい!」



「緊縛止血法で、出血だけは何としてでも止めろ!!!」



「もうすぐお前に治療の番が来るからな! 死ぬんじゃないぞ!!!」



 周囲を見渡すと服などをちぎって木で固定し、簡易担架を作っている兵士たち。

 忙しなく行き交う回復術師。

 命の危機に瀕する重症者から運び込まれ、俺の診断と治療を受ける。


 先ほどまでは死を待つばかりだった兵たちも、怪我は消失する。

 荒い息は次第に安らかなものへ。

 しかし次々と運搬されてきた苦悶の顔が現れ、まるで終わりが見えないかのようだ。




 俺の他の回復術師は魔力が底をつき、倒れている者たちが殆ど。

 他の兵たちへの治療補助の指示や、命運を分ける初期治療に勤しんでいる。

 あとは回復ポーションで延命措置を講じるくらいだろう。


 時間との勝負だ。

 父やステラ、騎士たちを最優先に。

 ルッコラたちも治療してやらねばならない。






「(今のままでは無理だ)」




 これだけの軍の被害に、瞬時に思い至る。

 現状の回復スピードでは、兵たち全ての救命にはとても間に合わない。


 スキルポイントを限界までつぎ込み、回復魔法のスキルレベルを限界まで上げる。

 命は一つしかないんだ。

 転生者そして医療者として残酷なまでに、生命の儚さを見せつけられた俺は理解している。


 命を救うため、直ちにスキルポイントを極限値まで振り分ける。

 この期に及んで成長の効率などと、言ってはいられない。






「―――――――――『Medicus curat, natura sanat.』」






 前人未到の奇跡。

 すでに辺りは暗闇が覆いかけているというのに、新たな太陽が地上に顕現したかのような。

 されど溢れるような慈愛に満ちた、柔らかな淡く幻想的な、巨大な光。


 多くの者たちの傷を再生させる超常現象は、傷痍兵たちの傷を癒し続ける。

 数十人が横たわる地面を丸ごと覆い尽くすような、極大たる幾何学模様の陣に誰もが言葉を失くしていた。

 しかし神の御業ともとれる光は、途中で途絶えた。






「――――――ご……ぉ…………!?」






 頭が割れるように痛み、反射から両手でこめかみを抑える。

 脳の中に渦巻く情報量。

 俺という存在の根幹を破壊するように、知識の奔流が渦を成す。


 ただの回復魔法とはわけが違う、神話級の奇跡の多重発動。

 それは俺の肉体に多大なる負荷をかけた。

 意識を失わなかったのは、俺の苦痛耐性のおかげだろう。




 このままでは情報量に焼き殺されかねない。

 そこで俺はかねてから考えていた、あるスキルを取得する。






「……マルチタスク、取得」






 スキルレベルの詳細なんて、考えてもいないし考える余裕もない。

 余っていた残りのスキルポイントを、すべて投入した。


 俺という人間の思考に、意図しない形で介入しかねないスキル。

 それは俺という存在そのものを根幹から改変するようで、心の底から忌避していた。






「自分が変わっても…………それでも…………助けたいから―――――――――」



 このままじゃ自分が使った魔法で死にかねない、という危惧は確かにあった。

 それでも他に失いたくないものがあった。

 父上やステラだけじゃない。

 ここにいる皆を助けたかった。


 そうじゃなければ俺は、こいつらが死んだ後に遺族へと見舞う時、顔向けできないだろうから。

 友情。羞恥心。使命感。恐怖。勇気。罪悪感。感謝。焦燥。

 色々な想いと苦悩が絡み合い、複雑な心境だった。

 それが恐れを押し流した。






「『Medicus curat, natura sanat.』――――――『Medicus curat, natura sanat.』――――――『Medicus curat, natura sanat.』――――――」



「あと80人です! アルタイル様! なんとかお願いいたします!」



「……ああ。やってみせる」



「アルタイル様……なんというお力だ……」



「聖女……勇者…………いや神の如き、奇跡…………」



 まるで自分の意識が広がったような、思考領域の拡大という違和感に慣れながら。

 人間業とは思えない手術の並行処理という行為を、周囲の賞賛の声の中で進めていく。


 そして無限にいるかに思えた負傷兵たちも、ようやく底を尽いた。

 どれだけの時間が流れただろうか。

 日ももう落ちかけている。




 休む間もなく魔法を続けているが、変化は訪れる。

 重傷者はもうおらず、軽症者だけとなった。


 父上やステラたちも初期治療を優先したこともあって、なんとか一命をとりとめた。

 しかし彼らは昏睡状態が続いている。

 不安はあるが、体力の回復を待つばかりだ。




「アルタイル様。長い間本当にご苦労にございました。現在この場にいる、すべての負傷者が完治いたしました! まだ捜索中の兵士はおりますが、暫し我らに任せ、お休みください」


「…………あぁ」


 ようやく一段落。

 いったい何人治療したのか。

 覚えていないくらい、全身が鉛のように思い。


 極限まで集中力を使い果たし、倒れ込みそうだ。

 眠気が気絶しそうなくらいに、忍び寄っている。

 このまま倒れて寝てしまおうか。




 そんな時だ。

 俺の目がガツンと覚まされたニュースがあったのは。






「―――――報告!!! あれだけダメージを受けて時間が経ったというのに……バジリスクはまだ生命活動を止めていない模様!」



「何……!? 今すぐ行く!!!」







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― 新着の感想 ―
[良い点] 終わりの見えない急を要する治療、考えるだけで気が遠くなりそうです。 大変な状況の中、躊躇なくスキルポイントを割り振るアル様かっこよかったです。 命はひとつですもんね。超常現象みたいな回…
[良い点]  バジリスクがまだ!?  蛇だけにしつこい……
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