第2話 「異世界チート転生トラックっ! 発進ッッッ!!!!!」
「うわぁぁぁあぁぁあ!!!!! AIがハッカーに乗っ取られて無人運転10tトラックが暴走したぞっ!?」
「無人運転技術の負の側面に不幸にも遭遇してしまったぁっ! 間一髪逃げられたが暴走車を止める術がないっ!?」
「大変だ!!! ガードレールを超えて民家に突っ込んでいく!!! 誰か中にいたら危ないぞ!?!?!?」
くたびれた格好の少年が、ボロボロの台所で洗い物をしている。
手に持っている皿は欠け、スポンジすら長い間使っていたのかくしゃくしゃでひどく縮んでいる。
無心に手を動かし酷く陰気なオーラを放っているだろう俺は、外の喧騒に気づくと辺りを見回した。
ん……? 外が何か騒がしいな……?
ようやく新聞配達が終わって、これからバイトなんだ。
早く家事を完了させて出発しなくては。
あの糞親め……
自分はカップラーメンなんて高級品を食べて、俺だけパンの耳だけ食わせやがって……
昨日死ぬほどぶん殴られて、片眼も見えにくいし最悪だ。
……いや18歳になるまでの辛抱だ。
必ずこんな境遇なんて抜け出してやるんだ。
そう決めて家事を終わらせ、玄関で靴を履こうとした途端。
世界が破壊されるような破砕音が鼓膜を震わせ、俺の視界は崩壊した。
ドォォォォォォォォオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!
ドドドガガガバキキキイキキッッッグチャッッッッズドドドドドドドオオドオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!
いきなり玄関が吹き飛んでまずはドアが俺の足に直撃し、視界が真紅に染まった。
俺は衝撃で吹き飛ばされる。
そこに追い打ちをかけるように巨大な物体が豪速で飛来し、俺の体を引きちぎるような激痛を与え。
人体を紙屑のように消し飛ばした。
こんな痛みは高校時代、持杉の奴に爪の間にシャーペンの芯をどれだけ入れられるかという実験という名のいじめを受けた時にもなかったぞ。
そんなことを思うのは現実逃避からか。
走馬灯が走った途端、辺りの状況と自分の体について気づく。
襤褸小屋のような借家はほとんど瓦礫となり、周辺には臓物や人間の手足が転がっている。
大きなトラックが小さな木造の家屋である自宅に突っ込み、そのほとんどを破壊していたのだ。
あれ俺の肉じゃね?
そう思った瞬間、地獄のような痛みが体中を駆け抜ける。
「ア……が……っっ!? ぎぃっ!!! ずぁっ……!?!?!?」
なんだこれは。
なんで俺がこんな目にあっている?
こんなことになって生きているのが不思議なくらいだ。
いっそ何もわからないまま死ねれば楽だったのに。
なんでいつも俺ばかりこんな目に合うんだ。
何も悪いことなどしていないのに……
世界は俺ばかりを虐げる。
思えば生きていて一つもいいことなどなかった。
そして最後がこんな地獄か。
意識が遠のいていくが、一向に痛みは消えては行かない。
最後くらい安らかに眠らせてもくれないのか。
なんでかわいそうな俺はこんな目にばかりあって、恵まれたやつはいつも幸せそうにしているんだ。
なんでこんな世界に生まれてきてしまったんだ。
神がいるなら、なんでこんな苦しい世界をつくったんだ。
なんで……
「…………」
視界が暗転し、何も聞こえなくなった。
まとまった思考もできなくなったが痛みだけはある。
これが死か。痛みしかない世界に俺はいくのか。
絶望が俺を満たしていく。
こんなことなら俺を虐げてきた奴らをぶち殺しておくんだった。
それが最後に思ったことだろうか。
ついに自分の意識が霧散していく。
俺は死んだ。スピーディ(笑)
「弱ったのぉ」
いつのまにか俺は真っ白な空間にいる。
前を見ると立派な白髭……
いや頭頂部と側頭部で髪を真四角に固くまとめ、髭もまた同様に真四角に固めている爺さんがいた。
その形状はさながら人間十字架である。
いやどんなセンスだよ。
口を開こうとするが声が出ない。
自分の体を見つめようとすると何もなかった。
体がない。
意識だけ宙に浮いている。
「やぁ~~~弱杉粕弥くん。ハレルヤハレルヤ」
そんな状況に混乱していると爺さんが口を開いた。
胡坐をかいていたが立ち上がると、体に巻き付けた白い布に入ったスリットから生足が覗く。
いや際どいんだけど?
いやそんな事よりなんなんだこいつは?
本当になんなんだよ???
「お主の言いたいことはすべて伝わっておる。儂のいう事をそのまま聞いて欲しい」
そうなのか?
なら思念を送るように爺さんに言いたいことを伝えようとする。
俺はどうなっている?
死んだんじゃないのか?
「そうじゃ。お主は死んだ。すまんのぉ儂のミスじゃ。お主はあの時死ぬはずじゃなかった」
何っ!? ふざけるな!
あんな痛い思いをして、人様を殺しておきながらミスだと!
どうしてくれるんだ!
つーかお前誰だ!
どう責任取るんだ!
爺さんは俺の抗議にも黙って聞き。
ふさふさと豊かな長い眉を下げながら、申し訳なさそうに謝った。
「本当にすまん。儂は神じゃ。怒るのもよくわかるがどうか儂の提案を聞いてくれんか?」
か……神っ……? 爺さんが?
本当にいたのか……
まずい俺の思考が……
いやまずは話を聞くか。
「対策は考えている。お主を地球に生き返らせたり、転生させたりすることはできんが2つ道があるので聞いて欲しい。勿論詫びもする」
くそっ……とりあえず聞くしかねぇか……
詫びというのも気になる。
だがひょっとするともしかして……?
「まず一つ目はこのまま記憶を消して、普通の人間のように天国や地獄に行くか、輪廻に戻るかじゃ。もちろん天国に行かせるようにするし、輪廻を選んでもよい環境で生きられるようにしよう」
いやに決まってるだろ!
俺はまだ死にたくねぇんだ!
それに記憶を消すなんて別人になるだけじゃねぇか!
そんなの詫びになるかよ!
「お主のいう事も至極もっともじゃ。だから二つ目の選択肢を用意した。異世界への転生じゃ」
異世界! もしかして魔法とかあるのか?
「うむ。よくわかったな。その世界に記憶を持ったまま転生するのじゃ。詫びとしてお主たちがチートスキルと呼ぶ能力もつけよう」
マジかよ! 詳しく聞かせてくれ!
「わかった。先程言った魔法のある異世界に存在する、大貴族の嫡男に転生させる。なかなかの美形じゃぞ? 家族環境などにも恵まれておる。それにチートスキルは『なれば?セット』じゃ」
なれば?セット……? なんだそれは?
「『お前作家になれば?』というネット小説投稿サイトでよく出てくる、チートの詰め合わせじゃ。このサイトはお主もよく見ていたようじゃな?」
ああ! 親に隠れて半年かけて溜めたへそくりで、ようやく買ったスマホでよく見てたぜ!
あれだけが人生の癒しだったからな!
いつかあの小説みたいにスカっと逆転できることを妄想して、辛い日々を生き抜いてたぜ!
それで……なれば?セットって具体的にどんなもんなんだ?
「うむ。魔力世界最高。全スキル・魔法取得可能。成長無限。成長率アップ。アイテムボックス。ステータスオープン。スキルポイント自由割り振り可能。後は全言語の読み書き翻訳スキルも授けよう」
よっしゃぁぁぁあああああ!!!!!
テンプレなれば?チートの大半が来たぜ!
……待てよ? 落とし穴があることも『お前作家になれば?』ではあったな……
その世界の種族がグロい生物ばかりとか。
生物が生きていくには過酷な環境に送られるとか。
周りの奴らがもっとチートとか。
地球の常識とは全く違う常識が、世界を支配しているとかあるんじゃないのか?
「ほっほっほ! そんな意地悪せんよ! お主の常識に一番合致した、幸せになれる世界に送るんじゃ。まぁモンスターと戦争はしょっちゅうあるがのう。危険はあるがお主なら余裕で生きていけるスペックで転生させるぞ。少し努力すればあっという間に英雄じゃの」
英雄……?
今までどんくさいいじめられっ子の虐待児童でブサイクチビデブハゲ眼鏡だった俺が、英雄になれる……?
……は……ははは! ……ははははははははは!!!!!
こんな痛快なことはないぜ!!! 神様! 礼を言う!
「こんなことは詫びにすぎぬよ。だが礼を言われると気分がいいのう。そうじゃ! 幸運スキルもおまけしてやろう」
マジか神様! ありがとうございます!
礼を言っても言い切れないぜ!
何か俺にできることがあれば転生後にやりますぜ!?
「ほっほっほ! 今時殊勝な子供じゃのう! 最近の人間は信仰のかけらもないからの……しかしそこまで言うならば……そうじゃ! 儂の信仰を異世界で広めてくれんか?」
信仰……?
神様のことを崇める宗教を、盛り上げればいいってことですかね?
「そうじゃ。儂の信仰が異世界では全然なくての。宗教を広めてくれぬか? 信仰を広げれば儂の力も強まるのじゃ。勿論対価も用意しよう。信仰を広げればスキルを上げることができるスキルポイントをその分送ろう」
なるほど! なら俺がやってやりますよ!
任せてください!
どれくらいできるかはわかりませんが、できる限り広めて見せましょう!
「おお! やってくれるか! ありがたいのぉ。手付としては少ないがスキルポイント100を送ろう。これでなんとか儂の信仰を広めてくれい」
ありがてぇ! 全力で神様の信仰を異世界中に広めて見せますぜ!
「うむ頼むぞ……っとそろそろ時間じゃ。それでは転生をさせる。儂が言えることではないが、辛いことがあっても生き抜くんじゃぞ?」
神様……俺……幸せになって見せます!
今まで不幸だった分、努力して……
誰よりも幸せになって見せます!!!
「その意気じゃ。儂はいつも見守っておるぞ」
はい! 頑張ります!
そう言った瞬間、俺の視界は揺れ動きはじめ、光が俺を包んでいく。
これが転生なのだろうか。
とても神聖な雰囲気を感じる。
俺は段々と意識が吸い込まれていった。
神はそれを見ながら好々爺といえる笑顔で見送る。
光が消えるまでじっと見守り、転生が終わると頷いた。
「がんばるんじゃよー」
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