第197話 「援軍到着 状況変化」
戦況を一瞥するや否や、素早い状況判断。
武官長ダーヴィトは単身高速移動し、俺たちとバジリスクの間という位置取りに。
遅れて彼の部隊もやって来てくれた。
同時に橋の残骸も粉砕され、向こう側から光が差し込んだ。
そして大きな影も目撃する。
バジリスクは怪物的にもこの短時間で、俺の作った橋を打ち壊した。
だがこれで挟み撃ちの構図となった。
そしてバジリスクは深い谷間にいるので、今までのような縦横無尽の高速移動は不可能。
俺たちにとっての好機。バジリスクにとっての危機。
『フシュルルルルルー――――!!!!! 人間どもがぁぁぁぁぁー――――!!!!!』
ドォォォォォォォォォォンッッッッッ!!!!!!!!!!
俺たちを追いつめようとしたはずが一転直下、窮地へと至ってしまった。
怒りの鳴き声をあげ、敵対種族への怨嗟を叫ぶ。
凄まじい迫力に、空間が震える。
そして誰もいない方向へと、胴体を打ち付けて掘削しながら突き進んでいった。
一心不乱に崖を破壊している。
このままその凄まじい破壊力で山を削って、階段のようにして上りつめようとしているのだろう。
「一旦退却しようとしているのか!!!」
もちろん父上もそれを看破する。
蛇らしい狡猾で汚い手口。
卑怯な手段と糾弾する者もいるだろうが合理的だ。
勝てない相手ならば、逃げても生き残ることが先決。
あんなにも強い魔物であるのに、プライドよりも実利を優先できるのだ。
それこそが計り知れない脅威。
父上もそれを考えたのか、檄を飛ばす。
「総員傾注!!! この場がバジリスク打倒の、最後の絶好のチャンスとなるだろう! ここで狩らねば、他の魔物たちと連合を組んでくるかもしれない! 何が何でもここで殺す!!!!!」
「「「「「ハッッッッッ!!!!!」」」」」
父上の号令により、兵たちの意志は一つになる。
ピンチがチャンスへと変わり、士気は最高潮に達する。
そしてバジリスクの危険性を、嫌というほど痛感していた彼ら。
確固たる意識をもって、その打倒へと臨む。
今も一切の油断なくバジリスクの毒の霧を風魔法で吹き飛ばしつつ、その動静を監視している。
それを見て父上は、温めていたのであろう作戦案を提示した。
その指示に従い、俺は直ちに再生の奇跡を発動する。
「今のうちにアルタイルは、自らの石化した腕を治せ。トドメはお前が行うのだから、少しでも集中力を取り戻すんだ。これよりの作戦はタイミングが肝となる」
「わかりました。『Redi ad originale』」
「ダーヴィトたちの部隊にも、石化している兵士がいるだろう。腐ったところを切除して、それを回復魔法で塞げ。時間がないので延命措置のみを図る。私も血を止めるだけでいい」
石化している自身の腕を切断するが、興奮のせいかそこまでの痛みはない。
もちろん激痛に苛まれるが、痛みよりも目前に迫りつつある死と危険性の方が恐ろしい。
点滅する視界のままに、再生魔法を唱えた。
父上の機転から、応急処置を取り兵の保全を執り行う。
時間との勝負だ。
負傷している兵士たちを一人一人、命の危機を脱するまで回復させる。
「お気遣いかたじけのう御座います。儂はバジリスクの足止めに参ります故、何かあれば風魔法でご連絡ください」
「よろしく頼む。お前の部隊は私が預かり、指揮を執り行う。バジリスクの眼球はある程度は私たちの魔道具攻撃で覆い隠したが、まだ石化の魔眼は健在であるから近接戦闘は慎め。余力を残しながら、遠距離より魔法で嫌がらせ程度に留めよ」
「子細承知。それでは行って参ります!」
強化魔法を使わない老体で、地面が爆裂する程に踏みしめてバジリスクの下へと向かう武官長。
去り際に俺に向かってか、報告を伝えた。
「こちらに向かう道中において発見した、ステラたち負傷兵は回収させて治療させておりますぞ! かなり吹き飛ばされていたようですが強化魔法を使っていたようで、初期発見も早く命は無事でした。早く戦いに片を付けて、治療してやって下され」
「―――――――――!」
よかった。
ステラは生きていたんだ。
あの状況でも強化された身体能力で、うまく着地できたのだろう。
それでも絶大なるダメージを負っているはずだ。
早くこの戦いを終わらせないと、生命維持が危うい……!
そう告げた彼の背中を数瞬見送り、アルフェッカ・アルコルは腹案を示した。
叔父上にもその作戦を共有するべく、風魔法通信で声を送らせる。
風魔法使いたちが斉唱すると、父上は話し始めた。
「「「「「『『『『『sonus』』』』』!!!!!」」」」」
『これより作戦案を布告する』




