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第19話 「人類の敵」




「アルタイル坊ちゃん!」



「ダーヴィト! お前も無事だったか!」



 続いてシルエットを見るだけで、何者かを判別できる巨漢を発見する。

 俺の安堵の籠った言葉に、ダーヴィトは不敵な笑いを浮かべる。




「へへへ……これぐらいで死んでりゃ、儂はアルコル家武官長になってませんよ。怪我ぁ治したらすぐ魔物は皆殺しでさぁ」


「そうだな。私も借りは返さないと気が済まない性質だ」


 ダーヴィトは獰猛な笑いを浮かべ、腰に帯びた剣を撫でる。

 叔父上も眼鏡をくいと押し上げると、ゾッとするような冷笑を浮かべた。

 インテリヤクザかよ。


 俺は冷や汗をかいてしまう。

 だがこの状況で彼らほど頼れる奴はいないな。






「二人がいてくれて安心しました! それで…………父上たちの姿が見えませんが今どこに……?」



「ただいまアルフェッカ様はトロルをはじめとした魔物たちと会敵し、応戦しております」



 ダーヴィトが笑みを消すと、いやに落ち着いた声で報告をする。

 何か嫌な予感がする。

 だが報告を聞かなければ。




「とろる? なんか聞いたことはあるけど、どんな魔物だ?」


「トロル。古の戦いに記される巨大醜怪な悪鬼だ」


 叔父上が答えてくれた。

 かけている眼鏡が反射して目元がよく見えない。




「通常武器が通じない堅牢な皮膚を持つ。過去の戦乱で魔王により前線突破や城壁破壊などに投入され、猛威を振るった」


「知能は低いとされていますが……間違いなく知性があった。最初に接触した際に明確に撤退行為を行ってやした……………おそらく上位種かと」


 叔父であるアルビレオが端的に特徴をまとめてくれ、それにダーヴィトが補足してくれる。

 しかし気になる単語がまた一つ出てきた。




「上位種って?」



 何となくニュアンスはわかるが、何が具体的に違うのだろうか。




「儂らも専門的なことはわかりませんがね……ざっくり同じ魔物ですが通常より強いって感じです。それは運動能力だったり、知能、使用魔法だったりの違いがありますがね」


「体格も文献より二回りは大きかった。それだけでも大きな脅威だ」


 叔父上が酷薄な目を細め、天を睨みつけるように考え込んでいる。

 直情的なダーヴィトも、珍しく黙考している。

 それほどの相手なのだろう。






「ありゃ……噂に聞く『魔将』じゃあないですかい?」



「…………強大だった。今まで見てきた魔物の中で一番……可能性は高い」



「すみません。魔将とは何でしょうか?」



 魔将。

 その単語が聞こえた時、怪我が治ったからか周りを陽気に飛び交っていた言葉が、さっと消え失せた。

 誰もが恐怖の顔で俺たちを見つめ、一言も喋らずに固まっている。




「その全容は知れないが……魔王直属の最高幹部だ」


「魔王の……」


 魔王。

 聞いたことはある。

 人類の天敵。


 俺たちが戦争をしている相手だ。

 有史より人類は、魔王勢力と凄絶な戦争を行っている。

  



 この世界の人類は、平和を知らない。











「歴史上未だ人類は、魔将のうちの半数の情報すら、掴めているかも不明だ」




「え?」




「魔王領域は謎だらけだ。私たちが掴んでいる情報は、ほんの一部にしか過ぎないというのが通説だ…………子供にはとても聞かせられない話だ……」




 叔父上の言葉に俺は言葉を失う。

 余りにも残酷な現実。

 そして更なる絶望と共に、疑念は押し寄せる。







「歴史上討伐できた魔将は、ほんの数匹に過ぎやせん。それが人類の現状です」






 ダーヴィトのあまりに無慈悲な宣告に、俺は固唾を飲みこむ。




 それは……そんなのまるで……






「…………俺たち…………勝てる……のか……?」




「勝つんです。勝つことでしか儂たちは生き残れない」




「………………あぁ……その通りだ……私たちは勝つ」




 俺が思わず漏らした言葉に、絶望的な空気が漂う。

 それを振り払うように、ダーヴィトが力強く断言する。


 叔父上も俺や周りの兵たちに言い聞かせるように、毅然とした態度で勝利の誓いを示した。

 …………もしかすると自分自身にも……






「話を戻しましょうか。儂らはアルフェッカ様の命で偵察を行った結果、敵包囲陣を発見。それにより命令を受け傷病兵を引き連れて包囲を抜け、その最後尾で遅滞戦闘を行いつつ後退しておりました」



 ダーヴィトは話を軌道修正し、父上たちといた時のことを話し出す。

 そんな戦況だったのか。

 よく彼らは帰ってきてくれた。




「我らは傷を癒すため、一時的にここで治療をしていました。ですがアルフェッカ様は今も死力を尽くして戦っております。一刻も早く救援に向かいましょう!!!」


「アルタイルには申し訳ないが、兄上たちも負傷しているだろう。魔力は残っているなら私たちについてきて欲しい」


 叔父上は俺を気遣っているのか、俺が行かないという逃げ道を残してくれた。

 でもそんなわけにはいかねぇ。

 アルコル家みんなのために俺も戦うぜ。






「お任せください! 全然余裕です!!!」



「凄まじいな……頼りにしているよ」



「カッカッカッッッ!!! いい漢ぶりですぞ!!! お前らも坊ちゃんに負けないように気張れよッッッ!!!!!」



「「「「「「「「「「ハッッッ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」



 ダーヴィトの発破により、威勢を取り戻した兵たちは地面を震わせて一斉に返答する。

 こいつらの掛け声は俺の体の芯から震わせ、なぜかやる気を漲らせる。


 兵たちも意気揚々と体を動かし、士気高揚している。

 反撃の時間だ。




 俺は残りの兵たちを治療し終えると、叔父上たちの戦争準備も終わったようだ。

 一段落したがここからが本番だ。






「アルタイルのおかげで、魔法兵も一足早く兄上の所に送ることができた。私たちも兵士たちが準備完了次第すぐ――――――」










 

 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッッッッッッ!!!!!!!!!!






 叔父上がそう言い、用意させていた馬に騎乗しかけた瞬間。

 とてつもない轟音が鼓膜を震わせた。

 突然の出来事から、兵士たちの混乱と血生臭い喧騒の声が聞こえてくる。






「――――馬鹿な!? なぜここに――――」



「トロルだーーーーー!!!!! トロルの襲げ……ぇ! ……が……ぼっ……」



「東方向より敵襲―――――ッッッ!!!!! 東方向より敵襲―――――ッッッ!!!!!」



 けたたましい銅鑼の音が鳴り響く。

 辺り一面騒然とするが、そこは歴戦の兵士。

 すぐに武器を手に取り、整然と並びながら外に出ていく。


 俺は一瞬何が起きたか理解できなかった。

 だが周りを見ると何か事件が起きていることがわかる。

 周囲に釣られて自分も動くことができた。




 だが悲鳴ばかりが聞こえ、それはだんだん大きくなる。

 何かがこちらに近づいている。






「総員傾注―――――ッッッッッ!!!!!!!!!! 敵襲ありッッッ!!!!! 戦闘配置につけッッッ!!!!!」



「「「「「「「「「「「ハッッッ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」



 ダーヴィトの耳をつんざくような大号令が響き渡る。

 俺たちはすぐに物資集積所を出る。


 辺りが砂塵が舞い。

 晴れてくると、ある異様に大きな影が段々と見えてきた。

 後ろには多数の小さな影が見える。


 大きな影が腕を振るうたび、俺たちに近いまばらに立つ小さな影が潰れ。

 あるいは空を舞う。






 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッッッッッッ!!!!!!!!!!




 バキバキバキバキバキバキバキバキッッッッッッッッ!!!!!!!!!!




 緑がかかった肌。

 山のような巨体。

 人間離れした隆々とした体躯。


 人の数倍ほどの全長のこん棒を手に持つ。

 そんなヒトガタ。






「―――――――」



「―――――――!?」




 その異形は棍棒を肩に担ぐと視線を泳がす。

 まるで何かを探すかのように。


 俺と目が合った。

 怪物は俺を指さし、口を開こうとする。




 俺は目を見開き、この化物と目を合わせる。

 嫌な汗が目に垂れるが、視線を離している場合ではない。






 トロルは死の宣告をした。






『人間の幼体。貴様は危険すぎる。ここで殺し、将来の脅威を潰す」







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[良い点] やはり、お母さん、奥さんである、ナターリエさんの存在はとても大きいですね…。。。お父さんが家を出るほど愛していて、あれだけアルタイルさんの先天性のものを、心を痛めてすごく愛していて、亡くな…
[良い点] ダンス、社交界と苦手なものが見えてきましたが、見切りをつけ戦闘で頑張ろうと訓練するアルタイルさまはえらいですね! あまり剣も得意ではないようですが、この世界では回復魔法がかなり重要なよう…
[良い点] 兄弟で喧嘩したくないの根っこは優しくていいな… <……父上のことを俺は父親としてとても尊敬している。 (´;ω;`)ブワッ
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