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第184話 「いらいらエルフさま」




 あくる日の朝。

 意気揚々と、部屋から駆け出した俺。


 低劣なる策謀により毒物を投与されていたことから、絶対安静と自室どころかベッドに縛り付けられていた俺。

 当然、開放感がものすごい。

 よって俺の振る舞いを、エネルギッシュなものにしていた。




「よっしゃあ! 行くぞ!」



 体が治り、医者からも完治だと太鼓判を押された俺。

 今日が部屋の外に出ていいと、部屋からの外出許可を得た日である。






『――――――あ゛~~~ムカつくわ゛ぁ゛~~~この私が魔道具製造で梃子摺るなど、後進国原住生物の作った設備など、はじめから期待するべきではなかったな。これは私が直々に工房から作るしかないか。手間を掛けさせやがって愚図猿どもが。本来であれば即刻処刑して、肥料に加工してやるところを……』



「わぷっっっ!?」



 部屋を出て廊下を駆けだすと、何かにぶつかった。

 だが弾き飛ばされることはなかった。

 弾力がある、柔らかくも奥に固いものがある何かに、顔が沈み込んだからである。


 とてもいい匂いがする。

 爽やかな果実と自然のにおいが混じったような、清涼な香りだ。

 思わずそれを鼻と口で堪能してしまった。




「ふがふが……ふがふが♡」



 10秒ほどそれを嘗め回し、吸い上げ、存分に満喫する。

 これはまたサルビアやステラたち俺の専属メイドとは、違った味わいだ。

 数えきれない程にむしゃぶりつくした、女体博士の俺が言うのだから間違いない。


 ようやく満足し、顔を離す。

 目の前にあるのは、理想的な形の2つの脂肪の塊。

 下には、お、おへそーー-!?




「ペロペロ……♡ ちゅぱちゅぱ……♡ プルンプルン……♡」




 俺はそれに再度顔を埋め、堪能する。

 そして一体これは誰の物だろうと思い至ると、背筋が凍った。


 顔の上半分だけを天に向けると、そこには紐みたいな服によって局部だけ隠された魅惑の谷間が。

 普段なら、チンコこれにツッコみてぇなぁ。

 そう思っているが、そう思わないという理由はただ一つ。

 その更に上には、対照的に悍ましき物体が。






『何が「わぷっ」だ♡ 可愛い声出しやがって♡ 軽率にムラつかせやがって♡ 加虐欲求疼かせやがって♡ 満足したなら死ね♡ 性欲煽りやがって、褒美として死の制裁をくれてやろう♡ 生まれた時点で、貴様の運の尽きだったんだよ♡』



『うわ出たエルフの恥さらし』



 俺の唾液でビチャビチャになった、胸元から腹筋までを震わせながら。

 この女は可笑しそうに邪悪なる優雅なる笑みを、その美麗なる顔に張り付けていた。

 その瞬間に、俺の笑顔が絶えた。


 史上最悪の異常者を刺激しないように、細心の注意を払って生活していたのに。

 恐らく生涯において特級の危険人物だと確信できる、最底辺の人格。

 この家に解き放たれてしまった、最悪存在チューベローズが降臨していたのだった。




『生後間もないガキはマジたまんねぇなぁ! 最上級種族様の尊き嗜みってやつだぁ♡ ジュブルジュブニュプンジュルルル!!!!!!!!!』


『ふぎゅっ……♡♡♡ …………幼い頃の性体験が、性癖を歪めてしまうだろーーーー!?!?!? 新たな扉を開かせるな――――!?!?!?』


 気がふれているのだろう。

 そのご自慢の長い耳が、ご機嫌そうにヒクついている。

 哀れなるこのかつては自称エルフだった生ごみが、俺の頭に齧り付きながら寝言をほざいた。

 

 頭に不快感触が広がり、生理的嫌悪感を催す。

 こいつマジで終わってんな。






『なんだぁ? 新手のオネダリか? 身の程を知れ! 後進国のクソ土人が! 劣等種族の分際でナマ言ってんじゃねぇよ!!! 臓物引きずり出して、ちぎり捨てて遊んでやるよオラオラオラオラ!!!!!』


『もう出ちゃう! でるっ! ヤバいのでちゃうぅぅぅぅぅ!?!?!?』


『全部ぶっこぬけカスが!!! オラ死に晒せ!!! お前の人生はここで終わりだよ!!!!!』


『グロ死したくないよぉー――――!?!?!?!?!?』


 内臓が飛び出そうになるほど、腹パンを繰り返される俺。

 俺がギリギリ耐えきれるダメージを、既に見極めているのだろう。

 苦痛だけが感覚を支配する。




 ここまで虐待行為に精を出す生命体は、前世でも居なかったぞ。

 つまりこいつは三界一の悪魔なのだ。


 そんな低俗な奴と出会ってしまったことが、運の尽き。

 なぜ神々は、このような邪悪を野放しにしているのか。

 世界に救いがないわけである。




 腹に与えられた痛覚刺激は、背骨を伝って電撃のごとく登りゆく。

 それは脳にヤバヤバ刻印を刻みこんだ。


 そして痛みはやがて防衛機制から、頭のダメなところから快楽へと変換されていく。

 日頃からの度重なる苦痛より逃れるため、逃避行動として体が覚えてしまったのだろう。






『死ねクソ害虫が。奴隷の尊厳なんてものは、錯覚だ。ぶっ壊れる前に自分の冥福でも祈っておけ。そんな極限弱者の姿が、この私を興奮させるからねぇ♡』



『ぜぇ……はぁ……どこまでお前はおめでたい頭をしているんだ? 間抜けにも奴隷に成り下がった分際で、何故そう思えたのか、ひどく理解に苦しむ。都合のいい妄想を妄信し、論理の矛盾を直視しない姿は、誰よりも人間らしいよ』



 喘ぎ交じりの皮肉をお見舞いしてやると、このクソは不愉快にもアイアンクローで俺の美しい顔面を圧縮する。

 血走った目で、鬼のように怒り狂った表情、


 いたいけな子供を、好き放題虐め倒す。

 短い生涯の中でも、特級の厄災である。


 青少年保護育成条例があったら、間違いなく死刑だ。

 どんなマゾヒストもこいつの前では口を噤み、全速力で離れ去るだろう。




『ゴミクズが不快な雑音を鳴らしやがって、己の無力を呪えガキが。弱者は永遠に搾取されるんだよ! 優生学に基づいた、圧倒的真実だカスが。マシな音出して死ぬまで、スパート掛けるぞオラッ!!!!!』



『ぐえっ!? くはっ……! かふっ……! うあぁぁぁぁぁん!!!!! いじめないでよぉぉぉぉぉ!?!?!?!?!?』



 わんわん泣きわめく俺が大人しくなるまで、拳を見舞う最低存在。

 賢人に口で勝てないからと、暴力で黙らせに来たのであろう。


 とても知性ある存在との、対話とは思えない。

 禽獣でも、もう少し安らかに触れ合えるだろう。




 体力を使い果たした俺は、ぐったりと力を失う。

 今この時の我が身は、体も思考も心も何もかも握られているのだ。

 それを想起してしまった瞬間、心の中にあった最後の意地が折れた音がした。






『ハハハハハ!!!!! そうだそうだ♪ 苛ついてる時は、これがあったよなぁ! だが私も今回は、趣向をちょ―――――っと変えてみようと思うんだ♡ エルフ中のエルフ様の優越感を満たすための、面白オモチャ作ってやったからよぉ!!! 失敗作も奴隷に有効活用してやる、エルフ様の慈悲に感謝することだぞ♡』



「…………ぅ………ぁ……」



 美女でなければ許されない事を、怒涛のように繰り出す。

 でもないわ。

 外見だけじゃ許されない、


 マジで人知れず消滅しないかなコイツ。

 消えゆく意識の中で、そう願った。




『卑しい奴隷は塵になるまで使い潰してやるから、最高に気持ちよくしてくれよぉ……ギヒ♡ 今日はどうやって人肉ほじくってやろうかなぁ♪ ヒトガキ尊厳破壊憂さ晴らしは……やみつきだぁ!!!!!!!!!!』


「…………………」


 ぐったりとした俺を肩に担ぎ、じめっとした上ずった声で興奮を表す耳の長い珍獣。

 どこでこんな悍ましい生物は、生産されるのだろうか?


 エルフの住む森は、この世の地獄に違いない。

 イカれた種族の血は、根絶やしにしないといけないのかもしれない。




 俺の部屋の隣に存在するという衝撃的事実にお構いなしに、チューベローズの部屋のドアは閉まる。

 そして暗黒の時代は始まるのであった。

 俺の人生、どこで間違えてしまったんだろう。


 ハイライトの消えうせた英雄の瞳は、何も映さなくなった。

 また記憶が吹き飛ぶ前に、最も尊き存在であるはずの少年はそんなことを考えたのであった。









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― 新着の感想 ―
[良い点] はわー。満を持してエルフ様登場ですね(;・∀・) 相変わらずの変態っぷりが突き抜けていて素晴らしいです。 アル様も、ぶつかった瞬間によく確認せず舐めたりするので、最初はどの口で言ってるんだ…
[良い点] 待ってました! チューベローズ! 予想の100倍は酷いその言動……流石! 復活したてのアルタイルはどうなってしまうのか……
[良い点] ほんとにいい意味でおぞましいな笑
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