第16話 「かみのおつげ」
『久しぶりじゃのう。弱杉粕弥くん。いや……アルタイル・アルコル君よ』
目が焼けるほど眩く、魂を焼き尽くされるほど神聖な光が俺に墜ちてきた。
存在を根底から揺さぶるような全てを破砕するような重圧が、俺を押しつぶす。
思わず床にへばりつくように倒れてしまう。
聞こえてきた声を認識するのは、その後だった。
内部から肉体が張り裂け、外部から圧砕されそうだ。
『うーーーむ。その体でも長々とは話せるとはいかぬか……』
この声は……?
前世の名前を知っているのは……
俺を転生させた…………神?
『うむ。そうじゃよ。気合で数分意識を保たせるのじゃ。神が世界に言葉を届けるのは多大な力が必要なんじゃ。よく儂の話を聞くのじゃよ?』
俺は頷くことさえできない。
なんだこの苦しみは?
指一本動かすことすら辛くてできない。
回復魔法を使おうなんて、以ての外だ。
こんな集中力が乱されるほどの痛みがある中で、魔法なんぞ使ったら暴発しかねない。
『時間が惜しい。単刀直入に言うぞ?今回の事態を引き起こした魔物じゃが……お主が倒しに行かないとお主の家族や仲間……全員死ぬぞい?』
は?
『まず今回の魔物の襲撃で、ダーヴィトと言う武官長が死ぬぞい。領地の数割を喪失し、兵士の大部分を失ったアルコル家は、急速に力を失う。ここまでは理解できたかの?』
何言ってるんだよ……
笑えねぇぞ……
『そして王国各地、そして大陸すべてで魔物による侵攻が、続けざまに起こる。それに王国騎士団などの特記戦力は手を取られ、アルコル領への救援はほとんどない』
……………それで………どうなるんですか。
『多大な戦力を喪失した王国では、誰が戦力の供出を担うかについて、押し付け合いが起こる。誰も自分や味方の身を守ることに必死だからじゃの。王権も絶対ではない。大貴族たちの意見も纏まれば、覆すことはできぬ。そうして王国は戦力の逐次投入の愚を犯し、各個撃破されていく』
…………そんなことって……本当なら……!
『それらの時間が命取りとなり、アルコル領は度重なる魔物の襲撃で荒廃する。お前の父親などの家族もこの時に死ぬ』
俺は頭が真っ白になる。
『そんなことを止めるためにお主が、今回の騒動の元凶を討ち果たさねばならぬ』
…………俺が。
『そのための力はお主に既に渡してある。チートを上手く使えば勝てる相手じゃ……それにしてもお主、本当に才能無いのぉ~~~成長チートもあるし凡人でももう少し、必要スキルポイントも安くなるんじゃが……』
いやうるせーよ。
さっさと話の続きをしてください。
『うむ。まぁないものは仕方ない。それにもし今回の問題を治めれば、スキルポイントを褒美として与えるからの。あとお主、遺伝子異常の状態異常を治さないと、常人よりずっと早く死ぬからの』
はぁぁぁぁぁあああああああーーーーーーーーー!?!?!?!?!?
『いやそのくらい現時点でわかってしかるべきじゃろ…………だが安心するのじゃ猶予はまだ余裕がある。回復魔法を80レベル以上にするのじゃ。あと魔力制御の干渉、そして制御も80レベル程にすれば、遺伝子への干渉ができるようになるぞい』
ぐっ……なるほど。
それを聞けて良かったです。
『スキルポイントの取得方法は大体わかっておるようじゃな? スキルポイントは生物を殺すと上がる。今回襲撃してきた魔物を倒せば、それなりに上がるぞ。あと儂の宗教もちゃんと広めてくれよ? 儂は幾何学の神トートじゃ。儂への貢献度でスキルポイントは増やしておるからの』
あ……完全に宗教の件忘れてた。
トート様すみません。やっておきます。
……ってか頭痛ってぇ!?
『あとは様々な事件がお主の領地で起こる。順を追って話していこう……いや時間がないようじゃな……一番重大なものから話そうか』
うす。オナシャス。
体中痛すぎ。
『危険な魔導具が王都から流れてくる。できうるなら完全にそれを消滅させるのじゃ』
危険な魔導具?
それはどんなものでしょうか?
『その魔導具の詳細は……魔道具に触れた者の心への干渉じゃ。絶対に触れてはならぬぞ。人を狂人に変化させ、心は歪み、二度と本来の心には戻らぬ。とても危険な代物じゃ』
え……やば……。
『魔導具を消す方法は……だめじゃ。話が長くなりすぎて言い切れぬ。だが複数手段あるから探すのじゃ』
神は早口でまくし立てるように話す。
意識も危うくなってきた。
心して聞かなければ。
『それと儂は人間と魔物の戦いを、痛ましく思っておる。このような悲劇は止めなければならぬ。お主も思うところはあるじゃろうが……どうか魔物たちみんなが悪だと決めつけないでくれぬか?』
は……はぁ……
まぁ……俺は別に……
特に恨みはないので……。
『ありがとう……そもそも今のような事件が起きているのは……元凶たる黒幕がいるのじゃ。長きにわたるこのような恐ろしい戦争を起こした、狡猾な計画で裏から糸を引く何者かがな』
黒幕……?
ダメだ頭がひび割れそうだ……
苦痛耐性を貫通して全身が軋む。
『儂以外の神を信用するな』
とうとう俺は吐血する。
体中の穴から血が出ているようだ。
痛みと気持ち悪い液体が体中を覆う。
頭の中に直接響いてきていた神の声も、もはや朧気。
だが今聞いたことは強く念じて、忘れないように心がける。
『む……もう限界か……口惜しいが話は終わりじゃ。次話せるのはいつになるかわからん。どうか……生きてくれい』
そうしてトート神様の声は聞こえなくなった。
どこかから誰かの叫び声が聞こえてくる。
俺の姿はひどい有様なのだろう。
こちらに一瞬触れようとすると、悲鳴を上げて飛び退く。
もはや光と影しか見えていない。
意識はぷつりと途絶えた。




