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第157話 「現れた正しき思想 潜む見えざる革命家」 




「おのれ反動分子がぁぁぁぁ」



「汚らわしき獣風情が! 栄光あるシファー公爵家を襲撃した貴様らの末路は、死あるのみ!」



 魔法で飛んでいった先にあった光景。

 血を吐くような断末魔の声と共に、倒れ伏す獣人たち。

 アルコル軍の当然の勝利という妥当な結末へと、戦いの趨勢は決しつつあった。


 今までの鬱憤を晴らすようにシファー家の者たちは、残酷にそれらを仕留めていく。

 俺は先ほど絶命した獣人の言葉が想起され、目を背ける。


 ヤンは抱えていた俺を下ろし、無言でそれを見つめている。

 その時だった。またしても大きな変化が訪れたのは――――――






「――――――緊急の要件にて、報告申し上げます!!!」




 泡を食ったような形相の兵士が、転がるように目の前に跪いた。

 この場を統括しているアルビレオ叔父上が、それに対応する。


 兵士の表情は青ざめて、視線をあちこちに彷徨わせた。

 特にシファー家の者たち中心に、視線が注がれていることが俺でもわかった。




 そして叔父上に急き立てられて、ようやく重い口を開いた。

 いやな予感がする―――――――




「―――――――なんだ?」



「し、シファー宰相閣下の遺体が……! あちらで発見されたようです……!」



 空気が固まった。

 特にシファー家の郎党は、唖然として反応すらできないでいる。


 俺たちがあんなに苦しめられた、あの政治的怪物のシファー公爵。

 こんなに簡単に、死……?


 呆気ないほどの単純な報告が、俺の世界観を崩した。

 恐ろしい世の無常に、背筋に冷たいものが走った。




 アルコル家の兵士たちがひそやかに話始めると、ようやく沈黙が裂かれる。

 しかし動揺と混乱、悲嘆の声しか漏れ出ない。


 そこに異様な声が響き渡る――――――






「―――――――クク…………ハハハハハハハハハ!!!!! 我らを苦しめた元凶の命は、ここに潰えた!!!!! 我らの裁きによって!!!!!」






 捕虜となっていた獣人。

 執拗にいたぶられたのか、全身が見るに堪えない有様だ。


 だれが虚を突かれたからか、悍ましさに寒気がしたからか誰もが硬直している。

 そこに痛烈なる挑発を、彼は浴びせかけた。






「宰相暗殺はここに果たされた!!!!! 正しき思想の元に行動すれば、天誅が下ることは証明されたのだ!!!!! 我らが死すとも、革命の炎は消えぬ!!!!! 我ら死にゆく者たちの遺志は受け継がれ、いずれ正しき世界が到来する!!!!!」



「黙れッッッ!? 屑がッッッ!!!」



「楽に死ねると思うな畜生がぁぁぁ!?」



 それを聞いたシファー家の郎党が、ついに怒りに震える。

 演説するこの者を取り囲み、黙らせるどころか殺してしまうぐらいに足蹴にしている。


 それでもなお、血を吐きながらも獣人は狂ったように哄笑している。

 不気味に思ったのか、ついに誰もがこの襲撃者から後ずさりしていた。

 血走った眼を爛々と輝かせて、襤褸切れのような革命軍の男は続けざまに告げる。






「同胞は多く存在する!!! 王国中!!! いや世界中に!!! お前たちの背後にも!!! この襲撃が成功したことがその証!!! お前たちの影には、常に見えざる我らが潜んでいるのだ!!!!! いずれ貴様ら全ては、我らの同志が殺し尽くす!!!!!」




 不穏な一言を漏らすと、シファー家の者たちが何人か動揺しながら振り返る。

 何か思い当たることがあるようだ。


 それを見て溜飲が下がったのか、更に狂ったような笑いを大きくする獣人。

 自らの血に溺れながらも、掠れた声で叫び続けていた。

 凄まじい剣幕で理想を謳い続ける。




 見かねたアルコル家の兵たちが、それを黙らせようと進み出た。

 しかしその判断は、もう遅かったのだ。






「万歳!!! 万歳!!! 獣人万歳!!!!! 同志万歳!!!!! 革命万歳!!!!!!!!!! ガフッ…………」




 口封じとするまでもなく、無残に息絶えた。

 誰もが言葉を失う。


 長い沈黙。

 不気味な風に揺れる、残り火。

 天に昇って行った黒煙が、暗雲を形成していた。






「大体あらましが読めてきたな。ジジイ?」



「ふん。癇に障る」



 空気を読まない言葉が響き渡る。

 わざと、なのであろうか。

 

 それに対する反応は、それを言い放ったヤンに対してか、この状況に対してか、それともその両方か。

 いつの間にか近くにいた老人にしては、強く感情を滲ませた言葉だった。




 お爺様は忌々し気に、そう吐き捨てた。

 俺は、いや俺たちは。

 恐怖と共に、この革命軍の男の躯を見据えていたのであった―――――――――





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― 新着の感想 ―
[良い点] なんとシファー宰相死んでしまわれましたか。 あの御爺様すら圧倒していた宰相も裏切りや襲撃という不幸な事態には抵抗できなかったようですね。何ともあっけないです。 そして獣人たちの狙いはシ…
[良い点]  な、なにぃ!? まさかあの嫌味な宰相閣下が!   影武者とかじゃなくて?  あらまし読めてないんだけど(笑) 流石お祖父様!  
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