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第155話 「執念の凶刃」




「――――――――!?」



「――――――――!!!」



 血で血を洗うような、凄まじい激闘だ。

 しかし形勢は圧倒的に、シファー家勢力が不利であろう。


 懸命に立ち向かってはいる。

 必死ではあるのだが、気持ちだけで勝てるほど戦場は甘くない。




 そもそも戦っているのも、戦士であるか疑うような者たちばかりだ。

 女子供を守るように馬車周辺で円陣を組んでいるが、それすら守り切れては……


 俺はその考えに至った無残なる証拠から目を逸らし、この惨劇をもたらした透明の敵へと怒りの視線を向ける。

 そこに腹の底が震えるかのような大声で、助けに来たことを叔父上が周知させた。

 アルコル家の印章が刻まれた鎧を身に纏う、完全武装の騎士たちがそれを証明する。






「―――――――アルコル家からの援軍である!!! シファー公爵家に助太刀いたす!!! 私はアルビレオ・アルコル!!! そして隣には救国の英雄アルタイル・アルコル男爵!!!!! アルコル家当主から派遣され、ご助力いたす!!!!!」



「――――――助かった!?!?!? 助勢痛み入る!!!」



「おのれぇぇぇぇぇ!!!!! 総員決死の覚悟をもって、邪悪なる迫害者達の首級をあげよ!!!!!」



 地獄から響くかのような怨嗟の声が、血を流した半透明の人影から放たれる。

 シファー家の死にもの狂いの反攻により、攻めあぐねていたのだろう。


 対して襲撃を受けていた者たちは、士気高揚の歓声を上げた。

 不敗を冠する武威を誇るアルコル家。そして英雄である俺。




 それが来たことにより、勝利を確信したのであろう。

 涙を浮かべて、へたりこんでいる者もいる。

 早いところ事態を打開して、本当の安心を与えてあげなければ。




「アルタイル! ヤンと共にシファー宰相たちを救出しろ! ここは私たちで食い止める!」


「『arena』!『Redi ad originale』! わかりました!」


「いくぞ坊ちゃん。正念場だ!」


 叔父上の指示で、俺たちは馬車へと突入する。

 行きがけの駄賃とばかりに魔法支援を行い、ついに中心地へと至った。


 馬車の入り口にかけて、夥しい血が散乱している。

 悲惨な遺体がそこかしこに転がっている。


 絶対に生きていないと一目瞭然であった。

 なるべく意識を向けないようにする。




 生存者……生存者を探さないと……!






「――――――あれは!」



「目標に到着。戦闘準備だ」



 馬車の最奥にエルナトが見えた……!

 怯えているのか表情が引き攣り、体勢が強張っている。

 こいつにとっては初めての鉄火場なのかもしれない。


 年齢体格は様々で精鋭とはとても呼べない見た目だが、護衛も数人いる様子だ。

 だが気配察知スキルが、ある懸念を感知した。

 俺たちと彼らの間には、透明なる襲撃者が複数存在する。




 そこでは血だらけの者たちが、熾烈な争いを繰り広げていた。

 戦場は巨大な馬車の内部。

 といっても、戦闘を行うには空間は狭すぎる。


 狂気的なまでの形相で応戦しているが、著しい劣勢であることが間違いない。

 何しろ相手は目視出来ないし、さらに見えづらい閉鎖空間にいるのだ。

 それなら――――――






「――――――『arena』!!!」




 砂を閃光のように噴出させる。

 一条の茶色の閃光が煌めき、魔法陣から噴出する。


 発動速度などに難のある土魔法。

 それも俺の魔力操作スキルレベルであれば、全く別の魔法のように精密に操ることができる。




 俺は英雄だ。

 国内で俺に勝てる人間など、条件を限定しない限りほとんど存在しない。

 それだけの修練とステータスアップ、戦闘経験を積んできた。




「対策は……もう俺たちはできてるっっっ!!!」



「こんなところでぇぇぇぇぇ!?!?!? 人間どもがぁぁぁぁぁ!!!!!」




 砂魔法は襲撃者達の足を吹き飛ばし、壁に押し付けた。

 けたたましい騒音が鳴り響く。


 俺はそれを鞭のように高速で幾度もしならせ、次々と足元めがけて低位置に振るう。

 肉が断ち切られる異音がした。

 その途端に何もないところから血飛沫が噴出し、絶叫が巻き起こる。




 ゴォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!



 ズバッッッズバッッッズバッッッズバッッッ!!!!!




「がぁぁぁぁぁっっっっっ!?!?!?」



「私の足がぁぁぁぁぁ!?!?!?」



「す……………すごい……!」



「なんという魔法技術だ……!?」



 おそらく獣人である者たちは狂乱しながら、激痛に泣きわめく。

 その中には女のものであろう金切り声が混じっているが、此処は殺し合いの場。

 俺は様々な感情を押し込んで、攻撃行動を止めない。


 シファー公爵家の郎党たちは感嘆の声をあげ、俺の魔法に見入っている。

 対象的に俺たちは、微塵も油断を崩さない。

 戦場では何が起こるかわからないと、度重なる後悔から理解しているから。




 ヤンは格闘戦にて、次々と敵の息の根を刈り取る。

 鮮やか過ぎるほどの流麗なる体術は、武闘派ぞろいのアルコル家でも随一だろう。

 見える範囲ではすべて片を付け、彼は次なる目標を提示した。






「敵は掃討したはずだ! 坊ちゃん! あいつらをここから出して、アルフェッカたちと合流するぞ!!!」



「ああ! ………………っっっ!?!?!?!?!?」



 そう言った瞬間、間の悪いことに俺はあることに気づいた。

 まずい。

 ルッコラで見慣れていたはずだったのに。


 俺は天井に首を向けた。

 釣られてヤンも俺の突然揺れた視線に顔を向けて、身構えた。

 しかしその時には、すでに遅かったのだ。




 気配察知スキルで捉えたのは、一瞬で天井に張り付いていた敵ながら優れた戦士。

 獣人の、身体能力――――――!?






「――――――――死ねぇぇぇぇぇっっっっっ!!!!! 我が娘の、仇の一族どもぉぉぉぉぉ!!!!!」






 手負いなのか血を撒き散らしながらも、執念からか凄まじい勢いでエルナトの方向へ。

 その復讐という本懐を遂げようとする、命を燃やした特攻はいよいよ達成されかねなかった。

 邪魔者はおらず、誰もが仰天する地点からの攻撃だったから。


 エルナトは意表を突かれたのか、気迫に気圧されて立ち竦んだのか。

 それを呆けたまま棒立ちでいる。






「え、エルナト様―――――!?!?!?」




「避けろー――――!!!!!」




「――――――――!!!」






 俺と異常に気が付いたシファー家の郎党たちは、反射的に叫んだ。

 ヤンだけは最速の反応をもって、エルナトの元へと向かった。


 エルナトは緩慢と、首を頭上に向ける。

 その顔はすでに、絶望に染まっていた。

 俺の目はそれを把握した瞬間、諦観が胸中を支配した。




 獣人の襲撃者との距離は、ついに阻止不可能なまでに差し迫った。

 その血濡れの刃は、恨み相手へと届かんとする。




 間に合わない―――――――






 ―――――――そこに幼い声と共に、小さな影が割り入った。






「エルナト様…………兄上――――――!!!!!!!!!!」






「――――――え?」







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― 新着の感想 ―
[良い点] アル様たちが救援に来てくれてシファーの人たちは嬉しかったことでしょう。 アル様もここまでの戦いで覚悟が決まったようで、敵を倒すのも迷いがなくなっていますね。たくさん戦闘を経験して、感情を…
[良い点]  なっ……! まさか…………
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